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第二話

「この辺が結界系。この辺が着火、水召喚、お湯召喚の三点組」

「何回使えるんだ?」

「この辺は5回、こっちは全部で30回。それぞれじゃないから、注意してね」

「へぇ、便利そうだな」

「ソラちゃん、これと、これくれ」

「はーい」


 ソラが手持ちの魔石を売るのを、ルイシュは隣の椅子から不機嫌そうに眺めている。

 その視線を感じるものの、これは出稼ぎで、つまりは仕事の一環だ。ソラにやめる気はない。


「ルイシュ、不機嫌そうだなぁおい」

「可愛い嫁さんが他の男に愛想振りまいてんのがやなんだろ?」

「戦場に可愛い嫁さんがついてきてくれるだけ感謝しろよなぁー」

「ま、かみさんに着いてこられちゃ女も抱けねぇ。俺はごめんだな」

「俺もだ」


 ひと仕事終えた傭兵たちは、隣のテーブルで酒を飲みながらルイシュに絡んでいる。

 ガハハハと、品のない、だが楽しそうな笑い声が響く。


「……俺がついてきたんだ。ソラが帰るなら、帰る」

「お前さん強いのになぁ」

「このまま傭兵続けたらどうだ?」

「俺のとこならずっといてくれてもいいぜ」

「断る。ソラと離れたくない」


 ルイシュがはっきりと断ると、また笑い声が上がる。


「かーっ。竜人てのは皆こうかね」

「つえぇのに皆嫁にベタボレだってぇ話は聞いてたけど、ここまでとはな」

「愛されてんなソラちゃん」

「そうなの。だからあんまりルラに無理させないでね?」

「お前さんも愛されてんなぁ」


 酔っぱらいに髪を撫で回されて、ルイシュは不服そうながらもおとなしくそれを受け入れる。

 多分、表情ほど不愉快なわけではないのだろう。


「あ、ソラちゃん。そうだ。これ、この三点組のやつ、定期的に売りに来てくんねぇか?」


 先程までルイシュ絡んでいた一人に声をかけられた。

 確か今暫定でルイシュが所属している傭兵部隊の、部隊長だったはずだ。一昨日くらいにお試しで1組買っていた。


「個数と間隔は?」

「そうだなぁ。1回500個、半年に1回くらいか?」


 その規模だと、ほとんど傭兵団全員が不足なく使える量だろう。それなりに気に入ってくれたようだ。それ自体は嬉しいものの、ソラ一人では難しい。

 そもそもこの石、原価はたいしたことないのだが量産化は技術面でも材料面でも難がある。


「うーん。お受けしたいのはやまやまなんだけど。売りに行くの厳しいかなぁ。今回突発でお金が欲しくてここまで来たけど、基本的には工房で作ってるし。それにこれ、一人で作ってるし材料もそんなに無いから。半年だと50個作るのが限度かなぁ」

「そんな貴重品なのか?」

「材料がねー。お値段は張るけど、再利用式にしてくれたら半年で250くらいまでならいけるよ」

「再利用式?」

「おんなじ魔法を込めた宝石に、魔力を込めてくの。これは使い捨てだけど、宝石だったら再利用可能だから。250個渡して、持って帰ってきてくれたら魔力込めて返す感じ。最初は宝石代もらうけど、それ以降は魔力を込めるだけだからお安くする。石自体はクズ石でいいけど、欠けると困るのと、性質からできれば藍柱石。材料も持ってくれるなら最初も加工費だけで」

「うへぇ。流石にそこまでは金かけれねぇな」


 ソラとしては結構なご奉仕価格だが、まぁなかなか条件が厳しいのは確かだ。


「そう? 残念」

「しかし、魔法ってぇのは便利だよなぁ。俺たちにも少しは使えりゃいいんだが」

「そしたら仕事にならないわー」


 その時、ちゃりちゃりと扉を開ける鈴の音がした。

 騒がしい中皆それとなく入ってきた客を見る。男性のようだ。

 ほとんど竜人特有の武器である大剣を背負っている。珍しいな、とこっそり見つめていると、その男と目が合った。

 男の目が幸せそうに細くなったのを見て、ソラは拳を握る。


「見つけた」


 これがどれだけの不運か。


「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」


 看板娘の声を無視して男はまっすぐこちらに向かってくる。

 ソラの警戒に気づいたのか、ルイシュは大剣に手をかけた。それを見てルイシュの様子がおかしいことに気づいたのか、傭兵団のニンゲンもそれとなく麦酒を置き、両手を空ける。


「君の名前は?」

「あなたは客じゃなさそうね」

「あぁ。僕は君の番だ」


 ルイシュは思い切りソラを抱き込んで大剣を抜いた。酒場の給仕の悲鳴が響く。


「お兄さん、ここじゃ迷惑だから外に行きましょうか」

「そいつは?」


 男はルイシュを睨みつけている。番に触れている男がいることは不快だろう。ルイシュも男から目線を離さない。そのせいでソラを抱きしめる腕が少しゆるんだ。


「私の恋人」


 ソラは椅子から降りて、ルイシュの腕を離れると男の腕に軽く触れて、外へ促す。


「ごめんなさい団長さん。代金……」

「そいつの給料から差っ引いといてやるよ」

「ありがとう」


 振り返りもせず出口に向かう。

 後ろから慌てたように足音がついてきたが、店の中で大剣を振り回されてはたまらない。出稼ぎに来たのか賠償金を払いに来たのかわからなくなる。


「僕の番。名前を教えてくれないか?」

「うーん。想定外だなぁ。まさか竜人が二人も釣れるとは」

「君を手に入れるためにはまずあれは邪魔だってことでいいよね?」

「魔力で番を判断してるみたいだし、やっぱり魔力量も惹かれる理由の一つにはなるのかも」

「かならずあれを殺してみせるよ。そうしたら、俺と一緒に里で暮らしてくれるかい?」

「一応言っておくけど、私竜人の番は嫌なの。仕事もしたいし、研究もしたい」

「エメラルドみたいなキレイな瞳だね。その瞳に合う宝石を買おうか。それともドレスがほしい? 君みたいな美しい子が僕の番なんて、なんて僕は幸せなんだろう」

「これだから竜人は」


 ソラが吐き捨てるように呟く。

 村を出て、少し開けた場所に出る。ここならいいだろう。


「ソラ、逃げろ」

「勝てる?」

「ソラって名前なんだね? 可愛らしい君に合う素晴らしい名前だ。僕の名前は」

「……多分、負ける」


 ちらりとルイシュを見ると、ひどく苦い顔をしていた。

 ルイシュは正気だ。あの男は多分、番の魅力に酔っている。こうなった竜人は骨が砕けても躊躇も諦めもしない。


「パトリツィオ。パッツィと呼んでほしい」

「正直で結構」


 不本意だろうに、認めたルイシュは正しい。

 ソラは男に向き直る。それならそれでソラが手をうつのみだ。


「ソラは俺の番だ。あんたには渡さない」


 にもかかわらず、ルイシュが切っ先をむけてそういったため、ソラはため息をついた。


「パトリツィオ。大人しくついてくからこの場は収めてくれない?」

「僕の番になってくれるんだね、ソラ」


 感極まったように肩を抱かれて、ソラは不愉快そうに眉を寄せた。

 だがとりあえず、ルイシュと引き離さねばルイシュが危ない。

 意識して笑顔を作ってみせる。意味があるかはわからないが、気持ちの問題だ。


「パッツィと」

「まだあなたのこと知らないのに、愛称で呼ぶのは早いと思うわ」

「ソラ、奥ゆかしいんだね」


 ソラは手でルイシュを追い払った。


「ソラっ!」

「行きましょう、パトリツィオ」

「あぁ。僕の村はこの山を越えた先で」

「すぐに向かいましょう? でも、歩くのは疲れるから嫌よ?」

「馬に乗ってきたんだ。つないである場所もすぐだから」


 ソラはおとなしくパトリツィオについていく。追いかけようとしたルイシュを睨みつけて小さく顎で居酒屋を指した。あそこには荷物がある。なんとかしてもらわないと困る。


 パトリツィオの馬は、本当にすぐの木のそばにつないであった。まだ宿も取っていなかったようだ。

 手を引かれて、馬上に引き上げられる。抱きつかれて不快感を感じながらも、ソラは手持ちの武器を確認する。

 拘束、水とお湯の召喚、光珠、着火の魔法を閉じ込めた宝石と、ソラの片手位の小刀が一つ。魔導書は置いてきてしまった。


「ソラ、欲しいものはある?」

「そうね」

「花なんてどうかな? 夜が明けたら抱えきれないほどの薔薇を贈るよ」

「薔薇は好きよ」


 噛み合わない会話を繰り返しながら、森の奥に進んでいく。もう十分離れただろう。

 ついでにこれ以上離れると戻るのが大変だ。ソラは一人では馬に乗れない。

 パトリツィオの服を引いて、上目遣いでパトリツィオをみつめる。およそ普段しない行動だ。うまくできているのか不安だが、どうせ番なら何でもいいのだろう。パトリツィオはとろけた笑みを浮かべる。


 これなら、何とかなりそうか。


「お花を摘みに行きたいの」

「あぁ、ごめんね。止めるから少し待って」


 パトリツィオは馬を止めて自分が先に降りると、ソラに手を差し出す。


「さ、手を」


 ソラはその手を握り、馬を降りるとそのまま逆の手で宝石を握りしめた。


『拘束』


「なっ、ソラ?」

「あんまり喚かないでね? うるさいのは好きじゃない」


 自分の手ごとパトリツィオの体を拘束する。


「どうしようかなぁ」


 貴重な生体の竜人。でも今のソラにとっては不快なだけだ。


「とは言っても薬も作れそうにないし、まとわりつかれるのも迷惑だし、殺すしかないんだけど」

「ソラ、早くこれを解いて」

「ごめんね、私、あなたはいらないの」


 宝石を離して、懐から小さなナイフを取り出す。


「ん」


 パトリツィオを抱き寄せて、ナイフを耳のうしろあたりに当てる。

 そして体重をかけて後ろに倒した。拘束されてバランスを保てないパトリツィオはなす術なく倒れ込む。

 地面へ倒れた衝撃で、小刀がそのまま奥へと入っていった。


「がっ……!」

「うまくいったかなぁ。これでいけると思うんだけど」


 ナイフを離して、腕を顎の下に入れるとそのまま体重を、かけて圧迫する。


「な、んで……」


 パトリツィオの抵抗は弱々しい。

 拘束されている上に、小刀が神経を切ったはずだ。仮に生き残っても、ろくに動くこともできないはずだ。


「だって竜人の番は嫌だし。竜人はしつこいじゃない? 私があなたの番と認識された場合、里についてから逃げられるとも限らないし。ここでお別れしておくほうが楽でしょ?」


 かすかな抵抗も少しずつ弱くなり、完全に力が抜ける。意識を失ったようだ。

 ソラはその後もしばらく首を圧迫し続けたあと、拘束を解いた。

 自発呼吸はない。死んだと思っていいだろう。


「できれば持って帰りたいけど重たいよなぁ……。血抜きしないと腐るし」

「ソラっ!!」

「あれ、ルラ。よく場所わかったね」


 ソラは宝石を握りしめる。


『光珠』


 光の玉が浮かび上がって、ソラの足元を見たルイシュはぴたりと足を止めた。


「それは……」

「あぁ。彼はいらなかったから。できれば持って帰りたいけど難しいよねえ」

「ソラ……」


 ルイシュの顔は蒼くなっている。かかえていた荷物が、軽い音を立てて地面に落ちた。

 ソラは自分の下の死体を見る。


「一歩間違えば自分もこうだったなぁ、って思って怖くなった?」


 ソラは汚れた手をルイシュに伸ばす。

 ルイシュは、一歩後ろに下がった。その仕草は怯えているようで、ソラは思わず唇を引き上げた。

 多分もう無理だろう。


「ちがっ……」

「いいの。荷物それ? 持ってきてくれてありがとう」 


 ソラは荷物を引き寄せると、汚れていない右手で荷物を漁ってガラスの容器を取り出す。

 小刀を引き抜いて、倒れていた死体から慎重に眼球をえぐった。


「な…にして」

「竜人は『筋力強化』を使うのに、普通の魔法は使えない。何故か、知っている?」


 ソラは別の宝石を握りしめる。


『水召喚』


 血まみれの眼球を、汚れた手を、溢れる水で流す。


「眼球の裏側に魔法陣が刻まれていて、それが発動してるから。魔力は必ず自分から最も近い魔法陣を通って発現する。だから竜人や、人魚は先天的に魔法が使えない。自分の中っていう最も身近な場所に魔法陣があって、そこを流れちゃうから、外に出せないの。淫魔とニンゲンが魔法を使えるのは、逆に言えばそういう理由」

「俺は……」


 水で満たした容器の中に、取り出した眼球を放り込む。

 厳重に封をして、荷物の中にしまい込む。


「別れましょうか」

「俺は!」


 そう声をあげたものの、ルイシュは何も言葉を続けなかった。


「俺は……」 

「俺が、番を守るんだって思ってたでしょう」


 ルイシュは目を見開いた。

 どこか冷めた気持ちでルイシュを見やる。

 ルイシュはこうなることを薄々でもわかっていたから、ソラの指示に従ったはずだ。だが、実際に相手の竜人を殺してみせたソラを見て、怖くなったのだろう。

 だがソラはきっと同じ場面なら何度でもこうするだろう。



 それが無理なら、もう駄目だ、と思った。



「里に暮らしている竜人を、この男を、番を見つけて、それしか見えていない竜人を、羨ましいと思ったことは?」


 最初からわかっていた。ソラではルイシュの理想とする生活は達成できない。

 無理にそばにいる必要もないだろう。ソラがルイシュに与えられる利益はそう多くない。ソラに恐怖を感じたなら、もうソラにこだわる意味もない。

 胸からなにか抜け落ちたような感覚がある。強いて言えば、それは失望に近かった。


 ソラは懐から薬を取り出すと、ルイシュに投げ渡す。

 ルイシュはそれに手を伸ばさなかった。ルイシュの体にぶつかって、軽い袋は音もなく地面に落ちる。


「それ、番じゃない人と性交できるようになる薬。その宝石は、番にしたい人にあげて。そうしたら性交できるはずだから。じゃあね」


 ルイシュは何か言おうとして、口を閉じる。

 

「短い間だったけど結構楽しかった。今度はルイシュの理想の女性を探すといい」

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