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第五話

 巨大な竜を解体し、本日食べる部分……尻尾の付け根の肉を切り分けて、四人は外に出た。

 空にはもうすっかり星が瞬いている。


「火、起こすぞ」

「お前が作んのか?」

「? あんた作るか?」


 そう問われて、ヴァレリは頭を掻いた。


「ヴァレリはぁ、料理ができないのよぉ」

「そうか」


 ルイシュはさっさと木を組んで焚き火を作っていく。


「もう、火つけちゃっていいのぉ?」

「火種があるのか?」

「あはは。面白いこと言うわねぇ、ルイシュくん」


 カテリーナは魔導書に指を這わせると、組んだ木を指さした。


『火召喚』


 焚き火が端の方から燃え上がっていく。


「……便利だな」

「そうよぉ。魔法使いと旅をするってぇ、便利なことなのぉ」

「ソラもできるのか?」


 問われて、ソラは目線をそらした。


「似たようなことはね」

「うふふ。ソーラちゃんはぁ、昔ぃ、同じことやろうとしてぇ、森ごともやしかけちゃったのよぉ」

「い、今は大丈夫! 出力量も魔法陣に切るようにしたから! ちょっと魔力の調整が苦手なだけで」


 ルイシュは片目を眇めた。

 火の粉が飛ばない位置に、布を引く。


「とりあえず、ソラはそこに座っていろ」

「え、あ、うん」


 ルイシュは自分の荷物を側に寄せると、持ってきた何かを肉に擦り込む。

 取り出した小刀を包丁代わりに、丁寧に肉の筋を切っていく。


「おい、水は出せるのか?」

「えぇ、もちろぉん」


 ルイシュが鍋を差し出すと、カテリーナは事もなげに水を召喚した。


「助かった」

「いいえぇ。他はだいじょぉぶ?」


 ルイシュは少し考えて、うなずく。


「じゃぁ、よろしくねぇ」


 カテリーナもルイシュの側を離れてヴァレリの方に向かった。

 ルイシュはどこから取り出したのか野菜を洗って皮を剥いていく。

 切った端から鍋に放り込んで、先程肉に刷り込んでいたものとは別の袋を鍋の中に放り込んだ。

 ソラはぼんやりとそれを眺めていて、光源が足りないことに気づく。

 自分の魔導書を取り出すと、ページを一枚捲って魔力を込める。


『光珠』


 ソラの隣に、光の珠が浮いた。

 火の向こうでは、ヴァレリとカテリーナが天幕を張っている。


「天幕張るの手伝ってきていい?」

「ソラがやるなら俺がやる」


 パチパチと薪の弾ける音がする。


「そういえば、ルイシュ。番が見つけられないって」

「? あぁ」

「どうやって私を探したの?」


 火の陰影がルイシュの頬に浮かぶ。


「あんた、淫魔の女を探しに村に来ただろう」

「え、あぁ」


 そう言われて、そういえばそんな体で村に向かったな、と思い出す。


「だから淫魔の里のそばの、人間の里で錬金術師を探して」

「なるほどね」

「あの女……どこの里の出身か口を割らなかったからな。無駄に時間がかかった」


 それはまぁ、教えないだろう。淫魔は仲間を売るようなことはしない。

 ルイシュは鍋を火にかけつつ、竜の肉を焼き出した。かなり手際がいい。


「料理するんだね」

「村の男なら誰でもする」

「そうなの?」


 そう言われて疑問に思う。

 竜人は番を外に出さない。稼ぐのは番を選んだ方の仕事のはずだ。


「竜人の番って何してるの?」


 少なくとも料理も仕事も番を選んだ方がするなら、家にいて番は何をしているのだろう。


「? 家にいるんじゃないか。何をしているか知らないが」

「だって、料理は相手がするんだよね?」

「あぁ」

「外に稼ぎに行くのも相手の仕事だよね?」

「そうだ」

「洗濯は外に出ないといけないから、しないでしょう?」

「? あぁ」

「子供の相手してるだけ?」

「……まぁ、昼間はそうじゃないか?」

「暇そうね」

「番はそばに侍っていてくれれば、それでいい」


 焚き火の熱気がソラの頬を撫でる。

 ぼんやりとそんな暮らしを夢想する。家にいて誰と会うわけでも仕事をするでもなく、閉じこもりひたすら相手の帰りを待つ生活。


「退屈で死にそう」

「そう、か? できたぞ」

 

 汁物を取り分け、肉を切り分ける。器にもられたそれを渡された。


「ごめん、量多い」

「そうか?」

「半分でいいから」


 ルイシュは躊躇いがちに量を減らす。

 受け取った汁物は、少し嗅ぎ慣れない香辛料の匂いがした。


「……意外にうまそうだな」

「ほんとぉ、おいしそぉ」


 ヴァレリとカテリーナは、しっかり盛られた分を受け取る。


「ありがとぉ、ルイシュ君」

「「「今日も家族と食べられる糧と、料理人ルイシュに感謝を」」」


 三人がそう言うと、ルイシュは怪訝そうに眉を顰めた。


「……なんだそれは」

「? あぁ。竜人はないの? 食前の挨拶」

「食前の挨拶……?」


 ルイシュは首をひねる。どうも相当する概念が無いようだ。

 ルイシュはなんとなく居心地が悪そうに食べ始める。ソラも匙で汁物を啜ると、目を見開いた。


「え、あ」

「口に合わないか?」

「ううん。美味しい。びっくりした」


 あまり慣れない味であったが、かなり美味しい。


「ん。良かった」


 ルイシュは柔らかく笑う。

 取り分けられた肉に齧り付く。こちらも何を入れたのか臭みもなく美味だ。竜の肉は筋肉質なのでそのまま食べるとだいぶ硬いはずだが、歯ごたえは残りつつも噛みちぎれないことはない。


「美味しい」

「ん」


 ルイシュも自分の分を食べ進めている。


「料理上手なのね」

「番に食べさせるからな」


 納得して、ソラは料理を食べ進める。

 ヴァレリとカテリーナに目を向けると、二人も気に入ったのか無言で食べ進めている。


「……なぁ」

「なんだ」

「……おかわりもらってもいいか」

「勝手に持っていけ」

「あー。わたしもぉ」


 ちゃっかりおかわりまでよそっている。


「ソラは、おかわりは?」


 ルイシュは、ソラの方に手をのばす。空いた汁椀をよこせ、ということだろう。


「あー、どうしよう」


 一瞬悩んで、汁椀を差し出す。


「もう一口だけ」

「わかった」


 注がれたおかわりをゆっくりと飲み込む。


「ごちそうさま」

「もういいのか?」

「お腹いっぱい。久しぶりにこんなに食べたかも」

「なら、いい」

「まだあるか?」


 ヴァレリは二杯目も食べ終わったらしく、鍋の残りを狙っている。

 よほど気に入ったらしい。


「……ソラはもういいらしい。ほしければあとは勝手にしろ」


 ソラは、ルイシュが食べ終わるのを静かに眺めていた。

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