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第四話

「じゃあしゅっぱーつ」


 カテリーナは機嫌が良さそうに声を上げた。

 まだ夜明け前だ。ルイシュとヴァレリは不機嫌そうで、ソラは道中を思って頭が痛い。


「じゃあルイシュくんが先頭ねぇ」

「……あぁ」

「ヴァル、後ろにいて」

「おう」


 ルイシュ、カテリーナ、ソラ、ヴァレリの順に並んで森の中を進んでいいく。


「ルイシュくんはぁ、いくつなのぉ?」

「……18」

「そうなんだぁ。18でそんなに筋肉がついてるのねぇ。すごぉい。いつソーラちゃんと恋人になったのぉ?」

「……三日前」


 ルイシュは言葉少なにカテリーナに答えている。


「ソラ、今からでも考え直さないか? 一緒に逃げよう?」

「逃げるって言われても……ヴァルだって仕事あるでしょ」

「ソラのほうが大事だ」

「別に逃げる必要もないし。今の所困ってない」


 ヴァレリは不満そうであったが、ソラは適当にそれをいなす。


「ねぇねぇソーラちゃん」

「ん?」

「ソーラちゃんが恋人にしたってことはすっごくいいんでしょう? 私にも貸して?」


 ルイシュは弾かれたように振り返ると、その言葉に身を固くした。

 警戒を通り越して怪物を見るような目をしている。


「あのねキティ。淫魔相手ならいいけど、それ以外に恋人貸してとか言っちゃだめ」

「えぇっ。だってソラちゃんの恋人でしょ? 私もお揃いがいいなぁ。ダメぇ?」

「ダメ。竜人は基本的は番以外とはできない種族だから」

「じゃあ、ソーラちゃんはルイシュくん? の、番になったってことでいいのぉ?」

「うーん。違うんだけど」


 ルイシュはカテリーナから少し距離を取る。

 ソラの顔を見つめて、心なしか顔色が悪い。


「この女は娼婦かなにかか?」


 その言葉にカテリーナは唇を尖らせた。


「ソーラちゃん。この人すごーいしつれいー」

「あぁ、うん。あのね、竜人は番以外とは性交しないの。人間も恋人貸さないの。知ってるでしょ?」

「だってぇソーラちゃんの恋人なら試してみたかったんだもん」

「わかるけど。あーえっと」


 説得する言葉が見つからず、ソラは少し考えて、当たり障りのない会話に切り替える。


「今日姫たちはどうしたの?」

「ママに預けてきたのぉ」

「ひめ?」

「私の子なのぉ。女の子がふたぁり。とっても可愛いのよぉ」


 ルイシュが眉をしかめたまま首を傾げる。

 多分、子供まで作る相手がいて男を貸せとはどういう発想なんだ、とか考えているのだろう。

 そう言われたらなんと言おうか考えて、やめる。


「あんた、番がいるのか? まさかこいつか?」

「あぁ? まさかとはどういうことだ?」

「淫魔は番って作らないのよぉ?」

「そういや、ソラはこいつの恋人で、番じゃないんだろ? じゃあ別れようぜ」


 まるでいいことを聞いた、と言ったふうにヴァレリまで口を挟んでくる。


「そもそもぉ、番って、どぉいうことぉ?」

「どうって?」

「だぁってぇ、恋人と違うんでしょぉ? ニンゲンの夫婦とも違うんだよねぇ?」

「うーん。そうみたいだけど」


 ソラは小さく唸った。それが知りたくて竜人の村まで行ったのに、明確な答えは見い出せない。


「実際のところ、竜人とか、俗にいう番を作る種族にしかわかんないんだけど、一応一生番以外とは性交しないし、番が他のニンゲン、特に異性と接することは過剰なほど嫌がる。番が生涯で変わることはない、のが特徴、かな。あってる?」


 ソラがルイシュに水を向けると、ルイシュは小さく頷いた。


「少し違うが、大体そうだ」

「え、違うの?」

「……別に、男同士でも番う」


 ソラはその答えに目を丸くした。そんな話は聞いていない。

 てっきり繁殖用にそういう生態なのだと考えていた。


「そうなんだ……」

「だから同性だろうと異性だろうと他のやつと話すのも見られるのも嫌だ」

「へぇ……そうなんだ」


 だから女同士ですら会えないように閉じ込めていたのか。多分、女同士で交流があればあそこまで壊れないだろうに。

 そう考えて、少し痛む胸を無視した。


「じゃぁ、ねぇねぇ、女の子同士だと番わないの?」

「……番を見つけるのは男だけだから、番わない。女同士だと、番とは呼ばない」

「そぉなんだぁ」

「知らなかった」


 ソラは懐からメモを取り出し、歩きながら器用に書き留める。

 そういえば、男同士で番う場合、双方が互いに番だと認識し合うのだろうか。

 そんな疑問もまとめて書き留めておく。


「じゃぁ、暫定的なのが恋人でぇ、永続的なのが番ってことかしらぁ?」

「うーん。他種族から見る理解としてはそういうことになるんだと思う。でもルラの話を聞くと番を匂いで探せるって話もあったから、実際問題番っていうのは精神的なものじゃなくてもっと本能に根ざした状態なのかも。そのへんは今後の研究課題の一つでもあるんだけど、確かに番を見つけた後の血液と見つける前の血液の差分を抽出すると1つ圧倒的に増えている成分があって、身体的にも明らかに変化してるんだよね。でてた成分は麻薬成分だったんだよね。だから多分番のそばにいるのって竜人にとっては薬物中毒にも近い状態なんじゃないかと思うんだけど。今強制的にその成分の受容体を閉じている状態にしてるから、私は番とはみなされていない状態なんだよね。だから」

「ソーラちゃん」


 どうも話し過ぎたらしい。


「あ、ごめん。まぁキティにもヴァルにももちろん私にも、本質的には番って概念は理解できないってこと」


 まとめるとそういう事なのだろう。当事者にしか理解できない問題。

 ソラがどれだけ死力を尽くしても、どんな真似事をしても最後の一線が理解できないもの。

 そう考えて、ソラにはルイシュの背中が少し遠く感じた。ソラとルイシュの隔たりは、この距離よりもよほど遠い。


「そぉねぇ。恋人だって、わたしたちにはあんまり理解できないものねぇ」

「……どういうことだ?」


 今度はルイシュが、カテリーナに向けて問う。

 ソラはわずかに違和感を覚えた。


「えー。だってぇ、恋人ってぇ、その人といると他の人と一緒にいるときより幸せでぇ、でもぉ、やきもちを妬いたりとかぁ、他の人といてほしくないぃって感情でしょお?」

「そう……なのか?」


 ルイシュは目線でソラに問う。ソラはうなずいてみせた。

 ニンゲンの、若い男女向けの書籍などではまとめるとそのような記載だったので、大枠間違いではないだろう。

 だが、ソラも恋をしたことがある訳ではない。


「多分? 好きな人と一緒にいたら幸せだけどぉ、家族といるときが一番幸せでしょぉ? 好きな人と家族と一緒にいたらもっと幸せだけどぉ、好きな人が他の人と一緒にて幸せならぁ、好きな人が幸せなら幸せじゃなぁい?」


 ルイシュは首をかしげて、首を振った。


「別に」

「えぇー!」


 ルイシュの言葉にカテリーナは驚きの声を上げた。

 だがソラが思うに、カテリーナとルイシュでは想定がずれている。多分ルイシュにとって家族といるときが最も幸せ、ではないし、まして好きな人が自分のそばにいないなら、好きな人が幸せでも幸せではないだろう。

 そんな自己犠牲的な愛情が竜人にあれば、淫魔と竜人の仲がこうも隔絶されることはないに違いない。


「竜人って、家族の概念希薄みたい。徹頭徹尾番以外には興味ないみたいだし」

「だってぇ、ルイシュくんにだってぇ、お母様もお父様もいたでしょぉ?」

「いたな」


 ルイシュはたどたどしく続けた。

 ようやくルイシュにも、目の前のニンゲンは自分とは違うものだと気付いたようだった。


「飯はもらったし、殴られもしなかったから、俺は比較的マシな方じゃないか」

「?? どぉいうこと?」

「別に、父親は母親が子供をかまうのを嫌がる」

「えぇっ!? どぉして?」

「?? 子供は番じゃない。当然だろう」


 今度はカテリーナが首を傾げている。これにはヴァレルも首を傾げた。


「兄妹はいないのか?」

「俺はいない」

「抱きしめられたりとか、褒められたりとか、無いのか?」


 ルイシュは何を聞かれているのかわからない、といったふうに首を振った。


「番が子供とはいえ別のニンゲンを抱くの、嫌じゃないか?」

「はぁ? 子供だぞ? 可愛い家族だろ?」

「別に。……番が可愛がれと言うなら可愛がれると思う。俺は、子供嫌いじゃない」


 ルイシュはアロルドを可愛がっていた。子供が嫌いではない、というのは事実だろう。

 だが淫魔の家族の概念と竜人の家族の概念はソラが思っていた以上にかけ離れていた。


 もしかしたら家族関係が希薄だからあそこまでの執着を番に向けるのだろうか。


 考えてみたものの、答えは出ない。疑問を紙に書き留める。


「意味わかんねぇ」

「ヴァル。そろそろやめといたら」

「ソラは?」


 急にそう聞かれて、ソラは紙から顔を上げた。


「え?」

「ソラは、子供欲しいのか?」


 再度問われて、少し考える。


 子供はいらないが、研究成果や機材は誰かに引き継ぐ必要があるだろう。子供のうちから始めたほうが理解も早ければ魔力を扱う、という感覚にもなれやすいとされているので、若ければ若いほどいい。


「んー。別にどうとも思ったことない。まぁ作ったほうがいいんだろうとは思うけど。私がほしいのは子供じゃなくて弟子だし」

「ソラの子供なら可愛くて将来は美人間違いなしだよな。聡明だろうし。キティの子供が生まれたときもほんと嬉しかったから、ソラも早く生んだらいいんじゃないか? 生んで、里で一緒に暮らそう?」

「……は?」

「そうだねぇ。生まれたら一時的にでも里で暮らしたほうがいいかもねぇ」

「ソーラちゃん子供生まれたら里でくらしてくれるのぉ? うふふ。楽しみぃ。早く生みましょぉ? ね、ルイシュくん」

「…‥里で暮らすって、どういうことだ?」


 ルイシュの言葉にソラは首を傾げる。


「え、だって。二人で子供育てるのは大変でしょ?」

「里なら大変じゃないのか?」

「? 里なら人手がいっぱいあるし」


 その内容を考えて、竜人の常識とすり合わせる。


「あぁ。そっか」


 竜人には他人の子を育てる、なんて感覚はないはずだ。自分の子ですら興味がないのだから。

 気付いて、ソラは可能な限りわかりやすく淫魔の子供の話をまとめる。


「淫魔は子供は里全体で育てるの。誰の子でも家族だからね。寝るときはだいたい家に帰るけど、持ち回りでいろんな家でご飯食べたり皆で遊んだり。誰の子でも差別しないし」

「竜人はそうじゃないのぉ?」

「……他人に番を見られたくないからな」

「私が仕事してても、その間は誰かが子供見てくれるから、安心。錬金術は子供に触らせるとまずいものが多いからね」


 だがヴァレリはルイシュの言葉が気に入らなかったようだ。


「あぁ!? ソラが里にいて何が悪いんだ?」

「淫魔だぞ? 誰とでも寝るようなやつだぞ? ソラをそんなところに置いて置けるか」


 その言い草ではまるで淫魔が強姦魔だ。

 今まで淫魔が一方的に竜人を嫌っているのだと思っていたが、実のところ竜人も淫魔は嫌いなのかもしれない。

 考えてみれば生活様式も考え方も真逆なのは竜人から見ても同じだ。


「俺らがソラを強引に犯すとでも!? ふざけんなっ! お前ら竜人と違って淫魔は理性的な種族なんだよっ!」

「淫魔の里にソラを置いておけるわけ無いだろう!」

「何が理性的だ」


 これ以上続けるとろくなことにならないだろう。

 仕方なくソラは口を挟む。


「ルラ。一応言っておくと、淫魔の里は私の故郷だし、父親は淫魔なの。悪く言われるのは不愉快だよ」

「……わかった」


 ルイシュは不愉快そうに口を閉じた。


「はっ、ざまぁみろ」

「ヴァル。ルラは私が選んだ恋人だからね。私の選択を貶されるのも不愉快だから」

「わーったよ。ソラが言うことだからな」


 ヴァレリがガシガシとソラの頭を撫でる。ルイシュは弾かれたようにその手を払った。


「ソラに触るなっ!」

「はぁ!? 頭なでただけだぞ!?」

「巫山戯るな! 本当ならあんたの視界に入れとくのだって嫌で我慢してる!」

「俺とソラを引き離す気かよ! それこそふざけんなよ!!」

「あーもう。うるさい」


 ソラはカテリーナと場所を入れ替える。

 そもそも並び順が悪い。


「これでいいでしょう。相容れないなら喧嘩しない」

「でも、ソラ……」

「ルラ」


 ソラは手を伸ばしてルイシュの髪をなでた。

 ルイシュは伸ばされた手を不思議そうに眺めている。


「偉いね。剣抜かなくて。ありがとう」

「……ん」


 ルイシュはほのかに頬を染めて、無表情ながらも嬉しそうに髪を撫でられている。


「ヴァルは私が褒めてあげるぅ」


 カテリーナがヴァレルの髪を撫でるとヴァレルはカテリーナを抱き上げて、その頬に口づけた。


「ありがとう可愛いキティ。愛してる」

「私もよぉ。ヴァル」


 二人の様子を見て、ルイシュは得体のしれないものを見るような目をしている。


「こいつら、ほんとに番でも、その、恋人? でもないのか?」 

「違うよ」


 そう告げてから、カテリーナの大切な姫である娘たちを思い出した。

 一人はヴァレリと同じ、空色の髪をしている。


「あ、でもキティの子供の一人は父親がヴァルかも。髪の色とか一緒だし」

「……そうか」

「あ、そこを左よぉ、ルイシュくん」


 ルイシュはおとなしくその指示に従った。




「とぉちゃーく」


 竜の巣穴に着いたと言うにはあまりに緊張感のない声でカテリーナはそういった。

 ルイシュは大剣を抜いて構える。

 ソラは目を細めて洞窟の中を見つめた。暗くて見えないが、確かに中になにかいるようだ。


「んー。作戦は?」

「どぉしよっかぁ」

「ルイシュ、どのくらい足止めできる?」

「……何年生きてるやつだ?」


 竜は生きている年数により大きさが変わる。


「一応ぉ、事前情報だとぉ、百年くらいみたいー」

「……一人なら5分位じゃないか」

「まぁそもそも竜人が一人で挑むようなものじゃないからねぇ」


 竜の皮膚は厚い。魔法もなしに手を出すような相手ではない。だが竜人に扱える魔法は自身にかける『筋力強化』だけなので、かなり相性が悪い。

 ソラは少し悩んで、うなずいた。


「まぁ普通に突っ込んでいこうか」

「は?」

「そぉねぇ。あんまり考えてもしょうがないしぃ」


 ためらうルイシュをよそにソラは鎖から一つの宝石を取り外す。


「ヴァルー」

「おぉ」


 そのまま宝石をヴァレルに手渡す。

 そしてソラはもう一つ別の宝石を取り出して、握り込んだ。


「じゃあまずヴァルが突っ込む、竜を拘束するから、そしたらルラが首を落としてね。私とキティは補助。いい?」

「はぁい」

「おう」

「……大丈夫なのか?」


 ルイシュ一人だけが不安そうだった。多分何が起こるか想像できていないのだろう。


「あぁ? ソラにこれもらってできないわけねぇだろ!?」

「そもそもそれなんなんだ?」


 そう問われて、ソラはヴァレリの手の中の宝石を見た。

 そう言えは説明していなかった気がする。ルイシュに使った覚えはあったが。


「あぁ。それ宝石の中に魔法陣が焼き付けてあるの。事前に宝石の中に魔力を貯めて、何らかの動作……今回は強い衝撃を契機に中の魔法陣の魔法が発動するの。魔法の内容は『拘束』」


 つまりはあの時、ルイシュに使ったものの類似品だ。

 普段はソラの魔力を起因に発動するものを使っているが、今回は竜退治なので発動起因が異なるものを準備しておいた。


「……便利だな」

「そうねぇ。高いけど」

「だろうな」

「じゃあそろそろいくよ」


 ソラは手の中の宝石を握り込む。


『気配遮断』


 ふわりと光が四人を包み込む。


「じゃあいきましょうかぁ」


 カテリーナの声に四人は洞窟の中に突入する。カテリーナとソラはそれぞれ革張りの本を手にした。

 そう遠くまで歩かないうちに、竜の巨体が見えてくる。


「じゃあ、よろしく」

「おうっ!!」


 ヴァレリは思い切り宝石を投げた。

 竜の体にあたった瞬間、発光して魔法が発動する。


『拘束』


「あらぁ。顔のあたりが拘束されてないわぁ」


『拘束』


 いつの間に準備していたのか、カテリーナも魔法を放つ。

 一瞬のうちに、竜は全身を拘束されていた。


「じゃあ、ルラ」

「……あぁ。一旦とどめさすぞ」 


『筋力強化』


 ルイシュは全力で頭を大剣で殴った。

 竜の体は、一瞬力が入り、すぐに弛緩する。


「死んだ?」

「……意識はなくなったと思う」


『筋力強化』


 重ねて、無防備に差し出された首に全身の体重を乗せるように大剣を振り下ろす。

 骨までぶつかったのか、硬質な音が鈍く響く。

 力を入れるものの、それ以上刃は進まない。


「硬いな」

「まぁねぇ」

「骨は無理だ」

「役立たねぇな」

「うるさい」

「のこぎり使うか?」

「ヴァル準備いいー」

「取ってくる」


 ルイシュは何度か押し引きするものの、骨が断ち切れない。

 諦めたのか大剣を引き抜く。

 

「あ、こっち側から剣入れてみる?」


 ソラは首の下、喉のあたりを指差すが、ルイシュは首を振る。


「無理だな。その方向だと引っかかる。力が入らない」

「のこぎり持ってきたぞ」

「じゃあルラよろしく」


 ルイシュは大剣をのこぎりに持ち変える。がりがりとのこぎりが骨を削る音。


「何持って帰る?」

「あー。わたしぃ、しっぽ食べたぁぃ」

「……後で頼んでみるね」

「俺はいつもどおり皮があればいい。つっても一旦干すか」

「とりあえず内臓がほしいけど私も血抜きして干さないとだから」

「じゃぁ、今日はしっぽ切り取って食べましょぉ。あとは、解体してぇ、残りは乾燥した頃に皆に手伝ってもらえばいいじゃなぁい」

「だな」


 ごとん、と音がして、竜の首が落ちる。


「落としたぞ」

「お疲れ様、ルラ」


 切り口から血が溢れている。


「血はいるのか?」

「ううん。血液はいい」

「じゃあ解体してくか」

「とりあえず冷やせ」

「はぁい。じゃあソーラちゃんお水よろしくぅ」

「んー」


 ソラは魔導書の80頁を開いて指先を這わせる。


「ソラ、気をつけてな。だしすぎるなよ?」

「ソーラちゃん、この量ならぁ、程々しちゃって大丈夫だよぉ」

「流石にこのぐらい大丈夫でしょう……多分」


『氷召喚』


 竜の体の上に滝のように氷の粒が落ちてくる。


「なっ……」

「ソーラちゃん、もっともっとー」

「ちょ、加減しろソラ」

「いや、でもこれじゃあ足りないでしょう?」


 氷が竜の体を埋め尽くしていく。


「ちょ、ソラ止めてくれそろそろいいから!」

「ソーラちゃん、もういいよぉ?」

「わかってる! ちょっとまって止めるから! というかもう魔力は注いでないの!」


 そこからもしばらくザラザラと氷が落ちてきていたが、ソラの膝を覆う辺りでとまった。

 洞窟の中は一気にひんやりとした空気に覆われる。


「……えっと、ごめん」

「まぁ、冷えるからいいんじゃないか?」

「さむぅい」

「大丈夫か? キティ、ソラ」

「解体、始めていいか?」

「ルラ、それじゃ寒いでしょう」

「別に」

「ちょっとまって」


 ソラは宝石を取り外してルラの服につける。


「はい、これ」

「温かいな」

「ん。ゴメンね、氷だしすぎて。毛布かなにかだしてこようか」

「いや、いい。……ソラが汚れるだろう? 離れててくれ」


 ルイシュは大剣を肛門から突っ込んで皮を剥いでいく。


「皮に無駄な傷つけんなよ」

「うるさい。お前は手伝え」


 ソラは邪魔にならない位置に移動した。皮を干すなら外に縄でも張ってこようか。


「ルラー。外で縄張ってきていい?」

「だめだ。そこにいてくれ」

「うっわ、こんなとこで一人になるのも駄目なのかよ」

「うるさい。……ソラが危ないだろう」


 ルイシュとヴァレリは手際よく解体していくが、竜が大きいのでまだしばらく時間がかかりそうだった。


「ソーラちゃんっ」

「キティ」


 カテリーナもいつの間にか隣に立っている。ハンカチを引いてカテリーナを座らせた。ソラもその隣に腰掛ける。


「ルイシュくんは働き者ねぇ」

「まぁ。竜人はそういうものらしいからね」


 番を養うために働くのが基本だ。


「まぁ、ソーラちゃん。そぉいう言い方はよくないわぁ。ルイシュくんがぁ、ソーラちゃんのためにしてくれてるんですものぉ」

「そうね」


 ソラはルイシュの手際を眺めている。

 元々猟師だったか。なるほど竜の解体など初めてだろうに手慣れている。

 だがどうにも大剣は、今のルイシュには軽そうに見えた。もう少し重い方が釣り合いが取れるのでは?


「……あの大剣、なんか釣り合いが取れてなくない?」

「そぉお?」

「あとでヴァルに頼んでみようかなぁ」


 カテリーナは楽しげに笑う。


「うふふ。きっとヴァルも喜んで作ってくれるわぁ。あぁんなに仲良くなったものぉ」

「あれ、仲いいの?」

「そぉよ。だって今までだったら後ろから殺してるわぁ。ソーラちゃんの恋人だからぁ、優しくしているのねぇ」

「そうなの?」


 ソラは首をかしげる。

 ヴァレリはそんなにひどいニンゲンではない。殆どろくにあったこともない他人を後ろから刺すだろうか。

 カテリーナは膝に顔を埋めた。


「ソーラちゃんが思ってる以上にぃ、私達は竜人が嫌いなのよぉ?」


 その声は小さく、ソラの耳にだけ微かに届く。きっとルイシュにもヴァレリにも、聞こえて居ないだろう。肩があまりにも小さく弱く見えて、ソラはそっとカテリーナの髪を撫でた。


「……キティも?」

「もちろん。ソーラちゃんがぁ、わたしたちからぁ、引き離されるようなことがあったらぁ、絶対に許さないわぁ」

「大丈夫だよ。私は意に反したことはしない主義だから」

「知ってるぅ。でもぉ、気をつけてねぇ?」

「もちろん」


 カテリーナの指先がソラのマントの裾を握る。

 ソラも、カテリーナの服の裾を握り返した。


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