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ルーシャ村の攻防<前編>

アルネリスの街からサンフォードの道のりは休まず歩いて3日掛かる距離。そこで勇樹達は近くの村まで馬車を利用することにした。

ガタゴトと揺られて進むにつれて立ち寄る村が見えてくる。今日立ち寄る村はルーシャ村。アルベージュ曰く牛が放牧されていたり色々とのんびりとできるのどかな雰囲気の村らしい。


「本当にここでいいんだべか」


ルーシャ村に到着した直後、馬車を操っていた人が訊ねた。


「……マジかよ」


「困りましたね」


二人は苦笑する。


のどかだと言われていたルーシャ村は家々が焼かれ、壊され、すでに壊滅状態だったからだ。


「一体何があったんだ」


「どうやら2、3日前魔物の襲撃に遭ったみたいですね」


アルベージュはたまたま道を歩いていた人物に話を聞いていた。


「えっ、魔物の?」


「なんでも、勇者がこの村に立ち寄ってないか、だそうで」


勇樹の表情が一気にばつの悪いものと変化する


「嘘だろ」


「嘘じゃありませんよ。キミ、この村では名前は名乗らない方がいいみたいですね」


アルベージュはその他、歩いている村人から話を聞いた。自分達が宿を求めてやってきたと知ると村人達は快く小さな小屋に案内してくれた。

宿屋は襲撃により半壊してしまった。しかし、商売根性逞しい店主は小さな小屋を借りて経営してるらしい。


「泊まれるところがあって良かったですね」


「雑魚寝だけどな」


小さな小屋には3つの狭い部屋がある。そのうちの1つに450ペルで泊まらせてもらった。

そこにベットは存在しなかった。


「雨風しのげればそれでいいですよ。野宿は色々と危険ですからね」


明日の朝、早めに旅立ちましょう。とアルベージュが言う

それは勇樹も賛成だった。あくまで目的地はサンフォードの街なのだから。



どれぐらい寝ただろうか。勇樹は突然の轟音にアルベージュと共に目が覚めた。


「な、なんだ!?」


轟音は外からする。

部屋を出てみると店主が倒れている。

アルベージュが脈を確かめると既に店主は事切れていた。


「し、死んでるのか」


「ええ。残念ながら」


「どうしてそんな……」


「とりあえず宿屋を出ましょう」


アルベージュはドアに手を掛ける。

すると、豚鼻の下級魔物、ゴブリンが村人を追い立てている場面が目に飛び込んできた。


「襲撃ですか」


面倒な。と一言アルベージュは呟く



「襲撃ってなんでまた」


「推測ですが、キミを探しに来たのかと」


「探しにって、立ち寄るかどうかは運だろ?今は立ち寄ってるけど」


「おそらく魔王軍はキミの存在に気が付き、本格的に抹殺しようとしてるみたいです」


敵には相当頭のキレる者がいるみたいですね。とアルベージュ


「なあ、どうするんだ」


「どうするって村から逃げるしかないでしょう。死にたくありませんし」


「で、でも」


「相手の規模が分からない今、無理に戦いを起こしても無駄です」


勇樹の目には逃げ惑う人々が映る。それらをいちいち助けている暇はない。とアルベージュは言った。

確かに自ら正体を現すのは危険だと勇樹自身も考えている。けれど、なんだか複雑な気持ちだった。

勇樹はアルベージュに従い村から撤退することにする。途中、何度か魔物に襲われるも倒して進んだ。


あと少しで村を離れることが出来る……

しかし、道は鎧を着た白馬の騎士により突如として塞がれた。


「お前は風森勇樹か?」


騎士は言う


アルベージュが勇樹に目線で訴えかけると、勇樹はフルフルと首を横に振った。


「……」


しかし、騎士は勇樹の喉元に剣を突きつけた


「嘘をつくな。貴様が風森勇樹だな?勇者は緑色の瞳をしていると聞く。貴様の目は緑色だ」


勇樹は否定する。


「緑色なんてそこら中に居るって、なぁ、アルベージュ」


「ええ、確かに翼人族よくじんぞくなどにはたくさんいますね」


「貴様は翼人族では無いだろう」


男は勇樹を見て言った。


「いや、俺、ハーフなんだ。翼人種との。は、母親がさ」


騎士の目は冷たい。そんな男にこれ以上の言い訳が通用するだろうかと思いつつも勇樹は続けようとした、瞬間


「逃げますよ」


アルベージュが言う


「えっ…」


今下手に逃げては正体がバレてしまうのでは?と思ったが、勇樹はアルベージュの言葉に従う。


「やはりヤツが風森勇樹だ。追え!!」


下級魔物たちが一斉に勇樹達を追いかける


「なんで逃げるんだよ!逃げたら余計にバレるだろうが」


「もうバレてるでしょう」


「えっ、でも……」


「もっと周囲に気を配りなさい。ヤツはああして君への質問をすることで包囲網を作ろうとしていたんです」


「嘘!?」


「嘘じゃありませんよ。証拠に凄い数の魔物が後ろから追いかけてくるでしょう?」


確かにそうだった。


「ごめん」


「謝るなら逃げる。あの男はローライン・イーフェルグ。魔王の忠実な部下で、黒炎こくえんの死神とも呼ばれています」


「黒炎の死神ってサムっ!?誰が考えたんだよそれ」


「彼の武器は大鎌ですからね。人にはそう見えたんでしょう。異名はその人物の特徴を現すとも言いますし」


「でも黒炎のって……」


「そんなこと言ってる暇があるなら、逃げることに集中してください」


そうアルベージュに注意される。

しかし、アルベージュは足を止めた。ローラインが先回りしていたからだ。


「逃げてください」


アルベージュは咄嗟に言った。


「えっ?」


「彼は魔王の右腕。キミが戦って勝てる人間じゃありません」


「魔王の右腕?!そんな奴だったらお前も危険だろ!」


声を張り上げるが「早くお行きなさい!」と怒鳴られる。

そんなアルベージュの気迫に押され、勇樹は逃げることにした。




「何故、俺の邪魔をする」


ローラインとアルベージュが対峙する。


「僕の目的には彼が必要だった。それだけですよ」


銃口を向けアルベージュは一言言い放つ。


「それが貴様の理由か?くだらないな」


「くだらなくても結構。止めさせていただきますよ


アルベージュは引き金を引いた。


アルベージュに逃げろと言われた勇樹は魔物を蹴散らしながら村を出るため走っていた。

アルベージュは何を考えて俺を助けたのか。魔王の右腕というからには相当な力の持ち主だろう。そんな相手に単身挑むなんて無謀すぎる。やはり此処は加勢した方が良いんじゃないか。と思い逃げる足を止め、再び来た道を戻ろうとする。しかし、その道中で一人のシスターとぶつかる。


「す、すみません」


シスターが尻もちをついたので助け起こそうと手を伸ばすとそのシスターは首を横に振る


「わたくしは構いません。ですからどうか子供達をお救いくださいませ!」


「子供達?」


話を聞くとこのシスターは教会に子供を匿っているらしい。

そしてその教会が魔物に襲われぬよう単身で魔物の気を惹いていたという。


「なんでそんな無茶を……」


「子供達には罪はありません。そんな子供たちの未来が魔物に奪われてしまうのが嫌なだけなのです。お願いです。どうか子供達をお救いください。報酬はいくらでもお出しします。ですから」


シスターはお金を出してきた。

今、このシスターが持ちうる全財産なんだろう。

それほどまでに子供を救って欲しいのかと勇樹は居た堪れなくなり頷いた。

自分でも安請け合いしてしまったと思う。

けれどこのシスターを見捨てることはできなかった。まったく子供を出すのは卑怯だと思う。シスターに言われた通りの道を進むと教会があった。

扉を開くと幼児から中学生ぐらいの年齢の子供達が身を寄せ合っていた。


「お兄ちゃんだれ?」


「ん?俺?俺はえーっと……」


いきなり現れた勇樹に子供達は警戒する。

そりゃそうである。外では魔物の唸り声や悲鳴が聞こえ、近くでは建物が燃えている。そんな緊迫したところに見知らぬ人間が現れた。緊張を煽る以外の何物でもない。


勇樹はなんとか子供達の警戒心を解こうとしどろもどろになりつつも口を開いた。


「ぁ…えーっと…お兄ちゃんはな?その…君達を助けに来たんだ」



「えっ…お兄ちゃん助けに来てくれたの?」


「おう」


「お兄ちゃん勇者さまなの?」


「えっ?」


「あのね?ルーモス様が言ったんだって。もう少しでまおうをたおしてくれるゆーしゃさま現れるって」


「へ、へぇーそ、そうなんだ」


勇者様と言う単語に良心がチクリと痛む。


「お兄ちゃんがゆうしゃさま?」


「お、俺は勇者じゃないかなぁ?」


ハハハ…と苦笑いを浮かべる中

ルーモスって誰だよ。なんで子供達まで勇者を知ってるんだよ。と思う。


「えっ…お兄ちゃんゆうしゃ様じゃないの?」


「じゃあだれなの?」


子供たちの顔が不安に染まった。


「えと……俺は、そ、そう!旅人かな」


嘘は言っていない。

なんとか口実を見つけホッとする。


「どこからきたの?」


「んー遠いところかな」


なんとかこれで子供たちの警戒は薄れていきそうだった。人数は見たところ20人ぐらいいる。

自分はこれを助けなければいけない。本当に安請け合いした、と何度目かの後悔をする。建物から逃げようにも20人で一斉に駆けだせば魔物に見つかってしまうのは目に見えている。

どう助ければいいのだろうか。


頭に思い浮かぶのは学校の避難訓練だった。

う~ん…と俺が眉間に皺を寄せて考えて居ると


「お兄ちゃん、大丈夫?」


声を掛けられた。


「だ、だいじょうぶ」


正直、いっぱいいっぱいだ。

と、その時、1人の小学生低学年ぐらいの男の子が勇樹の手を握ってきた。


「お兄ちゃん、怖いの?」


「えっ?」


「怖いなら僕がお話ししてあげるー」


男の子はニコリと笑うと"おはなし"をしてくれた。


人間が大好きなのに力が強い所為で人間に嫌われてしまう精霊の話だった。

よくある童話的なものなのだろう。男の子は一生懸命、語ってくれた。


そして最後に


「ぼくね。大きくなったらその精霊さんのおともだちになるんだ」


と無邪気に笑った。


「そっか。優しいんだな」


「えへへー」


その笑顔につられて、俺も"おはなし"をした。

自身の故郷に伝わる誰もが知るお伽噺 桃太郎だ。


そういえば、自分が小さい頃怖い夢を見た時、母さんがお伽噺を聞かせてくれていたことを思い出す。

父さんは父さんでどうしても眠れない時に「勇樹を苦しめる悪い奴を退治する」と言って添い寝してくれたりしていた。


懐かしい

父さんと母さんは今頃どうしているのか……


「お兄ちゃん、どうしたの?」


「なんでもないよ。ごめんな」


安心させるようにニカッと笑って見せる。

でも、本当に安心させられる方法はこの町の魔物を倒して父さんと母さんに会わせてあげる事だろう。

結局、そこに行きついてしまった。

アルベージュが居ない今、この子供達が頼れるのは自分だ。


あのローラインという魔王の右腕たる人間がやってきた理由は勇者の抹殺である。

つまり、この襲撃は自分が招いたということになる。


自分の所為でこの子達は平和だった日々を奪われてしまった。

自分が魔王と戦う決断をしていたらこの村は襲われなかったのだろうか……

アルベージュも敵の右腕を食い止めるなんてことしなくても良かったんじゃないだろうか


悪い考えは頭をグルグルと駆けまわる。


そんな風に思うなら戦えばいいのだが、そんな勇気もない。

しかし、自分が招いた以上、この子達だけでも守らねば……


バンッ……!


大きくドアが開け放たれる。その瞬間、豚鼻の小鬼と人型の猪顔の魔物が教会に入ってきた。


「ケギャギャギャ…見つけたぞカザモリユウキィ……」


「見ツケタ。見ツケタ。アノシスターの言ッタトオリダ」


「は?」


耳を疑った。今、この魔物はなんて言ったのだろうか

すると、魔物の中から先程のシスターが現れた。


「ごめんなさい。ごめんなさい旅のお方。子供達を救うためにはこれしかなかったんです」


子供を助けたくばさっきの男の居場所を教えろ。魔物にそう言われてシスターは教えてしまったという。

魔物が本当に子供を見逃すかどうかなんて保証はないのに、と勇樹は憤りを覚えた。


「カザモリユウキ…ドウスル?」


魔物は挑戦的に言ってきた。

恐らく意味するものは、死ぬか、見捨てるか だろう。

そして、見捨てた場合、子供達は……


「どうするって……ひとつしかないだろ…こんな状況」


勇樹はステンドグラスを割って教会の外から飛び出した。

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