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お金稼ぎと俺の装備

アルネリスの街、そこはあのゼラルマの城下町に負けないぐらい大きな街だった。

活気に溢れていて耳が長く背中に羽根の生えた人間や、剣士や魔導士などが普通に道を歩いている。


「あまりきょろきょろしない。不審者に思われますよ」


「あ。悪い」


あまりにも見慣れない光景だからつい人々に目を移していた勇樹は注意を受け一言詫びを入れる。

最初の計画通りまず向かったのは武器と防具の店である。


「おっ、いらっしゃい」


防具屋の店主が自分達を見て嬉しそうに手を叩いた。

普通の服を選ぶように試着でもするのだろうか……そう勇樹が考えて居ると


「彼、武闘家なんです。彼に合う装備を見繕っていただけますか?」


アルベージュは店主に言った。

アルベージュに言われた店主は改めて勇樹の身体を見る。


「ほぉ、武闘家かい。珍しいねぇ。えぇっと…《たびびとの胴着 上・下》《はじまりのはちまき》でどうだい?」


「それでお願いします。おいくらですか?」


「750ペルだよ」


「まぁ、胴着上下にはちまきの3点ですから…大体このぐらいの値段ですか。分かりました。では僕達は武器屋に行くのでキープしておいてください」


そうアルベージュは踵をかえす。勇樹はその後ろを黙ってついていった。


「へい、いらっしゃい」


「彼、武闘家なんです。彼に見合う武器を見繕ってください」


先程、防具屋で言ったとおりの言葉をアルベージュは繰り返した。


「ほぉ、武闘家かい。じゃあ……「木の棍」なんかどうだい?」


「そうですねぇ…勇樹君、キミ、棍は使えますか?」


「え?棍?棍ってあの長い棒みたいなやつだよな?使ったときない……」


勇樹が素直に言うと店主は今度はナイフのついた手甲を取り出した。

正直これも使った事が無い。そう言うと店主は「本当に武闘家かい?」と疑いを抱かれてしまった。


「武闘家って言うか、空手家っていうか……んー……素手で戦うっていうか……」


「素手……ですって!?」


勇樹がどう説明しようかと考えていると、途中で漏らした発言にアルベージュと店主が驚いた。


「えっ?」


「素手…なんですか?」


「おう素手だけど?」


素手や素足で戦うと言ったらアルベージュと店主が信じられないという表情をしてこっちを見ていた。

それならば、実際にやって見せようかと勇樹は店主に断り小さな正方形の石材を頂戴する。

その石材を設置し、俺は拳で瓦割りのように砕いた。


こんなの様々な職業があるこの世界の武闘を経験してる者ならできるだろうに……と思いながら店主の様子を伺うと店主はポカンと口を開けている。


「ぶ、ブラボー!!」


やがて拍手が聞こえた。


「アナタは素晴らしい武闘家だ!」


「えっ、どの辺が?」


「あんな石材を拳で砕くなんて実に素晴らしい!」


「いやいや他の武闘家でもできるだろ」


「できませんよ。いや、実際にはみた事が無いと言った方が正しいでしょうか。武闘家は棍棒や爪など何かしら武器を持って戦いますから、ただの素手で石材を砕く光景なんて見た事が無いんです」


「へぇ…変なの」


パフォーマンスとかでやりそうなもんなのになぁ。と勇樹は思う。


「まぁ…、そう言うことで、俺は武器使ったことないんだ」


「っっ…なんと素晴らしい!!己が体が武器とおっしゃるのですか貴方は」


店主が感動して勇樹の手を握る。


「ま、まぁ……そんなところかな」


その手を早く離せ……と勇樹は思う。

本当にどれほどに店主は感動したのだろうか、挙げ句武器を作らせてほしいとまで言いだした。


必ず良いものをおつくりしますから!と言ったので勇樹達は素直に受け入れることにした。

勿論、代金は無料だ。

本当にこの店主は大丈夫だろうか……とテンションの高さに軽く引いたが、無料は大きかった。

武器の仕上がりは3日後と言われた。


防具屋と武器屋を覗いた二人はやがて広場へとやってくる。

広場には大きな花壇があって花が咲き誇っている


「勇樹君、僕が演奏をしますので、キミはチップ…お金を集めて回ってください」


アルベージュは竪琴を用意しながら言った。

勇樹は言われた通りにアルベージュが竪琴を演奏している間、演奏を聞こうと立ち止まる人々からお金をもらった。

アルベージュの竪琴の演奏は清廉され暖かく、そしてどこか悲しげな音色だった。


「お金の単位、分かりますか?」


演奏終了後、稼ぎを確認しているアルベージュはふと聞いてきた。

そう勇樹は此処に来たばかり。言語ばかりはなんとか通じてはいるが、お金の単位まではまだ分からなかった。


アルベージュは硬貨を取り出し教えた。

硬貨は全部で3種類ある

金貨、銀貨、銅貨 そしてペル紙幣

金貨が10枚でペル紙幣1枚分の価値があり、銀貨が10枚。銅貨は銀が10枚分の価値があるということを教わる。


「分かりましたか?」


「ん。とりあえず札が高くて銅貨が低いんだな?」


「そうですね。ちなみに今日の稼ぎは4000ペルでしたよ。防具屋に行きましょうか」


アルベージュ先導の下、勇樹は再び防具屋へとやってくる


ここで勇樹は少し高めの胴着上・下と鉢金を購入する。

胴着は胴着というよりはどちらかと言えば拳法家が着るような中華な感じの服だった。この世界では当たり前の武闘家のスタイルらしいが、コスプレ感が否めない。少し恥ずかしいが、これはじきになれていくだろう。

残すは武器だけとなった。

武器の引き取りは3日後。それまで互いの目的のための情報収集を始めるため酒場に立ち寄ることにした。


酒場に立ち寄れば、これまたロールプレイングゲームの要素がそのまま目の前にあった。

木でできた長いカウンター席に座りアルベージュがお酒を注文する。ちなみに勇樹はこの世界の果実「ベリーベリー」を絞ったベリージュースなるものを頼んだ。

この世界では18歳はもう立派な成人らしいのだが(アルベージュ談)自分は日本に居たので一応、お酒を飲むことは控えておく。


べリベリージュースは葡萄の皮を潰したような赤黒い色をしていて甘酸っぱい味をしていた。

ちなみにアルベージュはラム酒をコップで頼んでいる。周りが木でできた樽型のジョッキで飲んでいる感じからするとかなり上品な飲み方だ。


「最近、何か変わったことはありませんか?」


アルベージュがラム酒を飲みながら店主に問いかける


「変わったこと?そういやゼラルマ城で勇者の召還が行われるらしいぞ。このアルネリスは精霊様の不思議な力によって守られてるからいいが、他の所はそうもいかないからな。その勇者様には早く魔王をぶっ倒して欲しいよ」


「そうですねぇ……。その他はどんな?」


「ああ、西のトロスティアの村に魔物が現れたって話だ」


「トロスティアというと…大地の精霊が眠ると言われている村ですか?」


「おお。そうよそうよ。大地の精霊ノーム様が眠る村だよ」


「大地の精霊ノーム?」


「あん?あんちゃんノーム様を知らんのかい。このレガルセアの豊穣を司るすんごい精霊様さ。今、お前さんが飲んでるベリーベリーのジュースだってノーム様の加護によって実をつけてるんだぜ?」


「へぇ……」


「へぇって……あんちゃん。じゃあオンディーヌ様やサラマンドラ様も知らんのかい?」


「おんでぃーぬ?さらまんどら?」


確かに創作では名前は聞いたことがある

でも知らない。すると店主は饒舌に喋り出した。


オンディーヌは水を司る精霊の始祖。サラマンドラは炎を司る精霊の始祖。そして風の始祖シルフィード

彼らは古くよりこのレガルセアの大地を見守っているそうだ。

この世界には剣士や魔導士という職業の他にも召喚士という職業があるらしい。召喚士は精霊を従える素質があるのだが、召喚士となる人物は精霊自身が決めるという。

精霊には下級精霊、上級精霊と分かれており、精霊のレベルによって召喚士の強さが決まるという。

余談だが、始祖とも契約している召喚士が居るが、伝説と化している。


店主は聞きもしないことをたくさん教えてくれた。

お陰で頭がズキズキと痛む。これならアルベージュに聞いた方がよかったような気がする。


「アルベージュ、俺、頭痛い」


「でしょうね。では出ましょうか。今日は"収穫"無さそうですし」


にこりとアルベージュは金を払い退出する。



それから3日間、酒場や人の集まる広場など色々な場所に行ったが収穫は一つもなかった。

約束の3日後ということでアルベージュと勇樹は武器屋に立ち寄る。武器屋の店主が勇樹専用に作ったのは鉄のメリケンサックと皮の手筒、硬い皮の靴だった。皮の靴には先の方にスパイクが付いている。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」


勇樹は店主に礼を言って装備をする。

これで、勇樹は武闘家デビューとなるわけだが……


「アルベージュ」


「なんです?」


「武闘家でも召喚士にはなれるのか?」


3日前酒場の店主から聞いた精霊の話が忘れられなかった。

どうせならファンタジーよろしく精霊を使役してみたい。


「なれないことはないですが、キミ、元の世界に帰るのでしょう?」


「うん。で、でもそんな話聞いちゃうと、俺も精霊使役したいって言うか。行くぞ オウ!みたいな掛け合いがしたいというか……憧れるというか」


「キミは子供ですか。精霊は神聖なものです。会いたいからといって会えるものじゃありません」


「分かってるよ。運命的な出会いを果たすんだろ?俺も運命的な出会いを果たしたいな…って」


「無理ですね。そんな下心丸出しの人間には精霊は近づきません」


アルベージュはバッサリと切り捨てた。

でもやっぱり手から炎とか放ってみたい。アルベージュには子供、と言われたが男の子は何時だって心は少年だ。憧れるものは憧れる。


アルベージュは地図を広げる。

次なる町に行くためだ。


「次は何処に行くんだ?」


「そうですねぇ…サンフォードの街はどうです?芸術に溢れていて美しい街ですよ」


「芸術か…俺、絵とか見ても価値わかんないぞ?」


「分からなくてもいいんじゃないですか?僕達は絵を見に行くんじゃありません。情報を得るために向かうんですから」


「お、おう。そうだな。んじゃ、そこに行こうか」


次なる地サンフォードの街へと向かう事にした。

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