いざ脱獄__最初の仲間
勇樹はマタドール風の衣装を着た男と共に脱獄をする。途中何度か兵士に見つかるも、男の導きにより無事に城下町へと出ることが出来た。
「太陽だ……」
勇樹は太陽を見上げ、そして眩しそうに眼を瞑った。
「そうですねぇ」
「いや、本当にありがとうな。助かったよ」
「いいえ、寧ろ僕の方がお礼を言いたいですよ」
くすりと男は笑う。やはりこの男、極悪人には見えない
「んで、アンタは一体何をやらかして捕まったんだ?」
極悪人ではないとはいえ何かやらかしたのだろうかと勇樹は興味本位で問いかける。すると男は愉悦を含んだ笑みを浮かべつつ答えた。
「そうですねぇ。この国の城に虹の雫があると聞いたので忍び込んだんです」
「虹の雫?」
「ええ、この世の全ての呪いを解いてしまうという幻の秘薬です。今回、この城の王のもとに贈呈されたと聞いたので忍び込んだのは良いのですが、ガセネタでした」
一応、地下牢の中も探ってみたんですけど、見張りの兵士同士の会話は勇者召還の儀式の話題で持ち切りで。と男は苦笑を浮かべる。
「ごめん」
「いいえ、キミが謝る事じゃありませんよ。それに、結果的には前進してますし」
「何か収穫あったのか?」
「ええ、とっても大きな収穫です。伝説の勇者様に会えたんですから」
男はフフと笑む。
「俺に?」
「ええ。僕、精霊の長、この世の始まりとされる大精霊ルーモスから預言を貰ったんですよ」
「は、はぁ」
汝が求めしものは緑色の瞳を宿した勇者の手により導かれるであろう__
男はそう言われたのだという。
その預言を聞いたのは、自らの運命に嘆いていた時だったという。信仰深く無いためか今まで半信半疑だったのだが、こうして預言に合った通りの人物が目の前に現れ、驚いているのだという。いや、全然驚いているようには見えないのではあるが。
「あの、喜んでるところ悪いんだけど俺は勇者には……」
「分かっています。ですが、キミが勇者として召喚された事には変わりありません」
「まぁ、そうなんだけどさ」
「良ければ、キミの旅に同行させてくれませんか?」
ポリポリと頬を掻いていた勇樹へ男が言った。
「キミは元の世界に帰る為の術を。僕は虹の雫の情報を……。それに僕はレガルセアの住人ですからなんでも知ってますし悪い話ではないと思いますが」
それは有り難い申し出だった。確かに勇樹は元の世界に戻ることを目的としたが、まずは何処から始めて行けばいいのか分からなかった。この世界の仕組みの知識もない。そんな自分が歩くのは無謀だった。
勇樹はすぐにでもYESのサインを送りたかったが踏みとどまり問いかけた。
「俺と一緒でいいのか?俺、多分この国の人に追われるぞ?それにこの世界の知識無いし凄く迷惑かけると思うんだけど」
本当に自分でいいのか……そう聞くと男は力強く頷いた。
「僕には命に代えても成さなければならない事がある。それぐらいなんでもありませんよ」
男は言った。
男の名はアルベージュ=フォン=ブラン。"オルフェウスの竪琴"という下級の魔物を眠りに堕とすという不思議な竪琴を手に旅をしている吟遊詩人であると名乗った。
吟遊詩人なんてゲームの世界でしか見た事が無い勇樹はまじまじとアルベージュを見やる。
「なんですか?」
「いや、吟遊詩人に会ったの初めて……」
「そうですか。別に珍しいものではありませんよ?この世界には剣士も魔術師も、エルフもドワーフも居ますし、人魚族も翼人族も居ますから」
「人間以外にも居るのか!?すげぇ、マジでゲームみたい」
「キミの世界には居ないのですか?」
「いない。国が違う奴は居るけど、みんな人間だ」
「そうなんですねぇ……ふふふ」
アルベージュは楽しそうに笑う
何が楽しいか分からないが、仲良くやれそうなことは確かだ。
「では、まずはこの城下町を出ましょうか。兵士に追われるのは目に見えてますから」
「りょーかい!」
勇樹達はこの城下を出て北を目指す。北を目指してすぐ、魔物に遭遇する。
豚の鼻のついた赤黒い小鬼と青いゲル状の生き物だ。
「マジで出てきた」
勇樹が驚いているとアルベージュが一歩前へと踏み出す。
「ここは僕がやりましょう。下がっていてください」
竪琴を出し眠らせるのだろうと思いきやアルベージュは懐から銀の銃を二丁取り出し魔物に向かって撃ち込んだ。
弾丸は見えないの小鬼は額に穴をあけ血を噴き出し、青いゲル状の生き物は内部から爆発した。
「まぁ、こんなところでしょうか。怪我はありませんか?」
アルベージュは強かった。それこそ、主人公の足りない部分を補うように仲間になるキャラクターのように。
「凄くありませんよ。こんなのただの自己防衛です」
にこっとアルベージュが微笑む
自己防衛にしても一発で仕留めるなんて
「つ、次からは俺も戦うよ。こう見えて俺、父さんから護身術で空手習ってるんだ」
「からて?」
「あ、えっと…俺の故郷の伝統的な武術?」
「なるほど。君は武闘家なんですね。では次の町でそれなりの装備を手に入れましょうか」
「えっ、いいのか?」
「勿論、お金稼ぎは手伝ってもらいますよ?まずは町に行って防具屋と武器屋を覗き、武器と防具の合計金額を覚えノルマを設定します。後はノルマに向けて稼ぐだけです」
「それって、魔物を倒すのか?レベルもあげなきゃな」
「レベル?なんです、それ」
「特技とか覚えるだろ?ほら、えっと経験値的な」
勇樹はおぼつかない様子で説明する。
「あぁ、熟練度の事ですか。熟練度は確かに魔物を倒すことで稼げますが、魔物を倒したところでお金は手に入りませんよ」
「えっ…マジで?」
「金品を盗んでいた魔物を退治するなら別ですが、普通の魔物はお金なんか持ってませんよ」
きっぱりと言われる
ゲームとは違うのか……確かに普通の魔物が金を持っているなんてことないよな。
それからというもの、勇樹達は魔物に襲われた。
きちんとした装備がないと危ないからと戦闘はすべてアルベージュが担ってくれて、自分は時々魔物が落とすやくそうを煎じてアルベージュの回復したりサポートに回った。
といってもアルベージュは滅多に傷を負わなかったけれど。
やがて勇樹たちはアルネリスという町に辿り着いた。