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88:メイド

 王城を出て陸戦艇へと向かうレインたち4人。

 陸戦艇は東門の外に停泊している。


 街を歩くレインはそわそわと落ち着かない。

 ポケットにジェルハードに渡された200万マナが入っているからだ。

 100万マナ以上の大金を持つなんて生まれて初めてのこと。

 うっかり落としてしまわないかと気が気ではない。


 ちなみにレインは、オーファとエルトリアにお願いして、離れて歩いてもらっている。

 腕を抱かれていると、お金を落としてしまいそうで心配なのだ。


 辺りを警戒しながらポケットを押さえて歩くレイン。

 その姿はどう見ても怪しい。

 控えめに表現しても不審者だ。

 だが、


 「レイ……、かわいい」

 「おっかなびっくり歩くレイ君、かわいいです」


 ぽぅっと呟く2人。

 そわそわ歩くレインをうっとり眺めている。

 この2人にとって、レインの珍しい行動と言うのはそれだけで価値があるらしい。


 見かねたイヴセンティアがレインへと声をかけた。


 「レイン、私が代わりに持ってやろうか?」


 今いる4人の中ではイヴセンティアが一番大金の扱いに慣れている。

 イヴセンティアはそれなりに金持ちだ。

 その理由は、

 1つ、大貴族であること。

 2つ、実家に住んでいること。

 3つ、高給取りの近衛騎士隊長であること。

 4つ、独身であること。

 5つ、特に趣味がないこと。

 6つ、そもそも散財を好まないこと。

 などである。

 大きな支出が無いので貯金は溜まる一方だ。

 一応、無駄にお金を溜め込むことは、経済に悪いとは思っている。

 だが、特に使う機会が無いので仕方がない。

 そんなわけで、イヴセンティアはお金持ちなのだ。

 だから200万マナ程度なら、もし落としてしまってもどうとでもなる。


 そんなイヴセンティアの申し出だったが、レインは首を横に振って答えた。


 「い、いえ、大丈夫です」

 「そうか? ならいいが、代わってほしければすぐ言えよ? 遠慮しなくていいからな?」


 頼りがいのあるイヴセンティアの言葉に、レインは気が軽くなるのを感じた。


 「はい、ありがとうございます、イヴ先輩」

 「なに、気にするな」


 レインは、ふと気になったことをイヴセンティアへと尋ねてみた。


 「ところでイヴ先輩」

 「なんだ?」

 「前まで忙しそうでしたが、お仕事の方は大丈夫なんですか?」


 少し前までは戦争の影響で仕事が増え、徹夜も多くしていたらしい。


 「ああ、大丈夫だ。帝国からの要人受け入れが終わったからな。それに、開戦からずっと混乱していた指揮系統が統一されたのも大きい。今までは近衛騎士隊に関係ない仕事ばかり回ってきていたからな。それがなくなったら随分と楽になった。これからは本業の近衛騎士に専念できる」


 レインはそんな話を聞いて、イヴセンティアのことだから本来やらなくてもいい仕事まで真面目にこなしていたのだろうと思った。

 それは疲れるはずだ。

 あんな遊びメイドごっこでストレスを解消したくなる気持ちも、わからなくはない。


 「そうだったんですね。先輩、お疲れさまです」

 「いや、たいしたことはない。それより、休暇もそれなりに溜まってきたから、また2人で遊ぼうな?」


 また遊ぶ。

 そう言われて思い出すのは、やはりメイド服を着たイヴセンティアの姿。

 超ミニの卑猥なメイド服。

 ほとんど紐だけの、大胆な下着。

 扇情的に尻をふり、媚びた声で甘えてくる。

 その姿はオスの情欲を激しくそそる。


 だが婚約者がいる今、あんな遊びをするのははばかられる。


 しかし、別にあんな遊びをすると決まっているわけではない。

 ただ先輩であり友達でもあるイヴセンティアと遊ぶだけ。

 友達と遊ぶのは普通のこと。

 なにも後ろめたく思う必要はない。


 でも、なんとなく躊躇ちゅうちょしてしまう。


 「ええっと」


 と言いよどむレイン。

 すると、


 「約束しただろ?」


 イヴセンティアがちょっといじけたような声を出した。

 唇を尖らせて少し拗ねたような表情。

 そこにいつもの凛々しさはない。

 でも、なんとなく可愛い。


 レインは年頃の男の子。

 年上の綺麗なお姉さんに弱い。

 イヴセンティアにそんな表情を見せられて、うぐっと怯む。


 男が女に弱い。

 それは生物として自然なこと。

 言わば大自然の摂理だ。


 ちっぽけなレインには大自然にあらがう術はない。

 約束を破るなんてできない。


 「あ、遊びます……」

 「そうか、楽しみにしておく」


 レインの答えに満足したイヴセンティアは楽しそうに笑ったのだった。



 東門から王都の外に出た。


 門のすぐ外には避難民キャンプが出来上がっている。

 多くの仮設住宅やテントが立ち並び、市場なども立っているようだ。


 キャンプには大勢の人々が生活している。

 活気があって賑やかだ。

 それでいて清潔感があり、秩序だっている。

 争いなども起きていない。

 戦時中ではあるが平和な光景だ。


 「大きなキャンプですね」

 「そうだな。ちなみに、王都以外でも避難民を受け入れている街はいくつかある。特にトロワの街は働き手の確保も兼ねて、避難民の受け入れに積極的だ」


 そんな会話をしながら歩くレインたち。


 ちなみにナカルドたち若手冒険者も、この付近にテントを張って生活している。

 田舎から出てきたばかりのナカルドたちには、宿で寝泊まりなんて贅沢はできないのだ。


 そのとき、


 「英雄様だ!」

 「本当だ」

 「おはようございます、英雄様!」


 レインに気付いた人たちが声をかけてきた。

 皆、好意的な挨拶をしてくれる。

 熱狂的な人も多い。


 「オイラ、英雄様の活躍で胸がすっとしました!」

 「英雄様、これからも頑張ってください! 応援してます!」

 「獣人は母ちゃんの仇です。ありがとうございます、英雄様」


 避難民たちは獣人に恨みを持っている。

 なので獣人を相手に大活躍をしたレインに、崇拝に近い感情を抱いているのだ。


 レインはなんともいえない微妙な気持ちになって、足早にキャンプを通り抜けた。



 避難民キャンプを通り抜け、少し街道を歩くレインたち。

 すると開けた野原に陸戦艇が停泊しているのが見えた。


 レインが陸戦艇に近付くと、それに気付いたフネアたちが出迎えてくれた。

 9人全員で陸戦艇の外に立ち、一列に並んでいる。

 そして一斉に一礼。


 「「「お帰りなさいませ、ご主人さま!」」」


 え? ご主人さま?

 混乱するレイン。


 よく見ると、フネアたちは全員がメイド服を着ている。

 イヴセンティアのような卑猥なメイド服ではなく、普通のメイド服だ。

 落ち着いたデザインで、皆によく似合っている。


 でも、なんでメイド服?

 不思議に思ったレインは、ふと、イヴセンティアに視線を向けてみた。

 だが、さっと視線を逸らされた。

 いかにも怪しい。

 そう思い、じぃっと見つめ続ける。


 すると、根負けしたイヴセンティアが自供を始めた。


 「わ、私はほんのちょっと助言アドバイスしただけだ! ほ、本当だぞ!?」


 「ほんのちょっと」がどの程度かはわからない。

 だが取りあえず、犯人はイヴセンティアで確定のようだ。


 レインは一応本人たちからも事情を聞いてみることにした。


 「あの、フネアさん?」

 「なんでしょうか、ご主人さま?」


 堂々と「ご主人さま」と言ってくるフネアに、少し気後れするレイン。


 「え、えっと、なぜメイド姿なんですか?」

 「ご主人さまにお仕えして、ご奉仕させていただくためです」

 「『ご主人さま』って僕のことですか?」

 「もちろんです、ご主人さま」


 なるほど。

 そういう事情か。

 全然意味がわからない。

 困ったレインは、ちらっとイヴセンティアに視線を向けてみた。

 しかしまた視線を逸らされてしまった。


 レインは仕方なく、事情聴取を続けることにした。


 「ところで、そのメイド服はどこで?」

 「これはキュリア様たちにいただきました」

 「キュリアさんたちが?」

 「はい。キュリア様たちとは昨日のパーティで知り合いました。パーティの最中も、その後も、キュリア様たちはずっと良くしてくださいました。この服もご実家に余っていたものを朝からわざわざ届けてくださったのです」


 話を聞き、ふむふむと頷くレイン。

 そして考えた。

 キュリアたちはいつも困った人たちのことを考えている。

 だからきっと、困っているフネアたちにメイド服を恵んでくれたに違いない。

 なんて優しい人たちなのだろうか。

 そんな優しさに溢れたメイド服を、「着るな!」なんて言えるわけがない。


 そんなわけで、レインはフネアたちがメイド姿であることに納得したのだった。


 ちなみに、レインは、


 『メイド服に納得したのだから、『ご主人さま』と呼ばれることにも納得しなければならない』


 と勝手に思い込んでいる。

 悲しいかな、思考パターンが詐欺に引っかかりやすい人の典型である。



 メイドなキュリアたちに納得したレインは、本題に入ることにした。


 「フネアさんたちが陸戦艇の管理をしてくれるそうで、ありがとうございます」

 「ご主人さまのお役に立てるなら本望です」

 「僕は陸戦艇に詳しくないので、とても助かります。でも、たった9人で大丈夫ですか?」


 陸戦艇はかなり大きい。

 大型帆船と同じくらいだ。

 流石に9人では無理がありそうな気がする。

 というか無理だろう。


 「確かに少し大変ですが、今の私たちなら問題ありません」


 『スキル共有』で55ものスキルを所有しているフネアたち。

 言うなれば超人である。

 管理だけならば問題ない。


 「そうですか。でも、あまり無理はしないでくださいね?」

 「はい、ご主人さま」

 「それから、お給金の話なのですが――」

 「私たちはここに住まわせていただければ、お給金は必要ありません。食料などは難民用の配給を受け取れますし、当面の間、お金が必要になることはありませんから」


 一応フネアたちは戦地からの避難民ということになっている。

 だから食料以外にも、王国からの様々な配給を受けることができる。


 しかし、それとこれとは話が別だ。

 レインとしては無賃労働をさせるわけにはいかない。


 「ですが働いてもらう以上、対価を支払わないわけには……。でも、僕にも9人分のお給金は払えませんし……。現物支給の代わり、と言っては変ですが、何か対価としての望みはありませんか?」


 レインが言うと、フネアたちは互いに顔を見合わせて頷いた。

 どうやら望みがあるようだ。


 フネアが代表して言う。


 「実はご主人さまにお願いがあります」

 「なんですか?」

 「実は……、是非、ご主人さまにも、私たちと一緒にこの陸戦艇に住んでほしいのです」


 予想外の言葉に、「え?」と驚くレイン。


 「理由を聞かせてもらえますか?」

 「はい。私たちは王都での暮らしに慣れておらず、知り合いもおりません。そんな中で、私たち9人だけで暮らしていくことが不安なのです。ですから、ご主人さまにもご一緒に暮らしていただきたいのです」

 「なるほど」


 確かに9人の少女だけで見知らぬ土地で暮らすのは不安だろうと納得するレイン。


 そして思った。

 『スキル共有』に巻き込んでしまったのだから、可能な限り助けになるべきだろう、と。

 それにそもそも陸戦艇は自分の船なのだから、自分も住むのが道理だろう。

 フネアたちに全部任せてしまうなんて無責任だ。

 これはいい機会なのかもしれない。

 丁度、『自立』することを考えていたのだ。

 陸戦艇に住むというのは、自分にとっても都合がいい。

 主に家賃がかからないことがとても助かる。

 まさに渡りに船だ。

 フネアの望みを断る手はない。


 しかし問題もある。


 「僕は男ですが、大丈夫ですか?」


 普通に考えれば、未婚の男女が一緒に住むのは好ましくない。

 『男女4才にして同衾せず』、だ。


 とはいえ陸戦艇はかなり大きい。

 見方を変えれば、大型の集合住宅マンションのようなもの。

 男女が一緒に住んでも、特に問題なさそうだ。

 ラインリバー家でオーファやセシリアと同衾するより、余程、健全に思える。

 だが男性である自分がどう思うかより、女性であるフネアたちがどう思うかが重要である。

 フネアたちが、「やっぱり男性と暮らすのは嫌です」と言えば、自分は引き下がるべきだろう。


 そんなレインの問いに、9人全員が土下座に迫る勢いで頭を下げて懇願した。


 「ご主人さまと暮らしたいです!」

 「お願いします、ご主人さま!」

 「私、なんでもします。ですからどうか!」


 メイド美少女たちの平身低頭。


 当然焦るレイン。


 「く、暮らします、暮らしますから、頭を上げてください!」


 慌てて頭を上げさせる。


 目出度くレインの自立が決定した瞬間だ。

 ドタバタしすぎていて、然るべき感慨をいだく間もない。


 さらに困ったことに、


 「ありがとうございます、ご主人さま!」

 「私、嬉しいです!」

 「いっぱいご奉仕いたします!」


 メイド少女たちがなかなか頭を上げてくれない。


 困ったレインは助けを求めるべく背後を振り返った。

 するとオーファと目が合った。


 ――ああ、今日も可愛い。


 現実逃避気味にそんなことを考えるレイン。


 オーファが言った。


 「あたしも一緒に住む!」


 こうしてオーファの自立も決定したのだった。

◆あとがき


労働に対する対価の支払いは現金以外も契約として認められているっていう話は、9話『引っ越し』のあたりでふわっと説明しているので、まあそんな感じです(適当



今話でレイン君は『ご主人様と呼ばれることに納得しなければ』と勝手に思い込んでいます。

これは所謂『一貫性の原理』という心理が働いた結果です。

(一度ホンイツにいくと決めたら、最後まで手を変えずにホンイツを狙っちゃうような感じの心理です←)

この心理を用いたマーケティング手法にはローボールテクニックなどがあります。

詐欺などにも用いられる手法ですが、当然フネアちゃんたちにはレイン君を騙してやろうなんて気持ちはありませんのでご安心を。



そんなこんなで、ついにレイン君が女の子を囲う場所(陸戦艇)と、囲っている女の子フネアちゃんたちを手に入れました。

50万文字を超えてようやくハーレム(小)です。


(`・ω・)遅えよっ!


正直すまんかった(・ω・`)

作者的には削れるところは削りつつ、それなりに足早に進めたつもりでしたが、全然そんなことはなかったね!



そんで話は変わりますが、現在のレイン君はエルトリア様とオーファちゃんにしか意識がいってません。

そんな状態でモブヒロインに勝ち目があるのかってところで重要になるのが、以前チラッと出したランチェスターの第一法則です。


(軍の戦闘力)=(武器の性能)×(兵の数)


この法則は色々と応用され、経営戦略などにも用いられます。


(企業の力)=(商品の性能)×(社員の数)


みたいな感じですね。

中小企業が社員数で勝る大企業に抵抗するには、商品の性能を上げれば良いみたいな話です。


で、こういう話は男女間のなんやかんやにも応用が効きます。


(レイン君の理性を破壊する力)=(レイン君の好感度)×(女の子の人数)


みたいな感じです。

つまり多数の美少女で迫ればレイン君をコロッといかせられるかもしれないわけですね。


ちなみに作者は美少女に1人にニコッとされたら即コロッとなります←

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