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84:寝起き

 朝、セシリアの部屋。


 レインはいつもの習慣で早い時間に目が覚めた。

 そして目を開けた瞬間、心臓が飛び出るほど驚いた。


 目の前にオーファの寝顔があったのだ。


 どうやら寝ている間に、オーファを抱き枕にしていたらしい。

 対するオーファもレインへと抱き着いてきている。

 お互いに正面から抱き合うような寝姿だ。


 レインは息を飲んだ。

 大好きなオーファの寝顔。

 とても綺麗だ。

 柔らかそうな唇。

 キスしたい。


 吸い寄せられるように顔を寄せ、ハっと我に返るレイン。

 どうやら少し寝ぼけていたらしい。

 寝起きでぼんやりしていた意識が徐々に覚醒していく。

 そのとき、背中から伝わる温もりに気付いた。


 セシリアが背中側から抱き着いて眠っている、その感触と温もりだった。


 な、なんだこの最高に気持ちがいいサンドイッチは!?

 まさかここは天国!?

 混乱しかけたレインだったが、再びハっと我に返った。

 婚約者がいるのに、他の女性と抱き合って眠るなんてダメだ。

 添い寝は治療のために仕方がなかったかもしれない。

 でも、こんなにしっかりと抱きしめ合って眠る必要なんてないはずだ。

 これはやり過ぎだ。

 気持ちよ過ぎだ。

 早く離れなければ。


 そう思い、身じろぎするレイン。

 だが、前後から手脚を絡みつけられていて、抜け出せない。

 動けば動くほど気持ちが良い。

 これは不味い。

 非常に不味い。


 そうこうしている内に、背中側のセシリアがもぞもぞと動き出した。

 どうやら起こしてしまったらしい。


 「うぅん……、レイン君、もう起きたのぉ?」


 眠そうな声だ。

 レインは申し訳なく思いつつ、返事をした。


 「はい、せっかく王都に帰ってきたので、今日からまた、配達に出ようと思って」


 退学になったので他にすることもないし、稼ぐ手段もない。

 だから日課の配達くらいはしっかりこなしたい。


 そんなレインの言葉に、絡みつくセシリアの手脚の力が強まった。


 「レイン君は働いちゃダメって言ったでしょ? ずっとこの家にいて、こうやって寝ていればいいの。働こうなんて考えちゃダ~メ」


 ぎゅぅっと抱きしめられる。


 「で、でも、ちゃんと働かないと」


 エルトリアも困るだろうし、セシリアに恩も返せない。


 「ダ~メ。レイン君は働かなくていいの。3人でこうしていると、とっても気持ちがいいでしょ? 満たされるでしょ? だからレイン君は働かなくていいの。働いちゃダメなの。私とオーファちゃんがレイン君を養ってあげるんだから。レイン君はなにもしなくていいの。ずっとこのベッドで寝ていればいいの。そうすれば私がご飯を食べさせてあげるし、お風呂にも入れてあげるから。ね?」

 「で、でも」


 それって介護なのでは? とレインは思った。


 そのとき、「うぅん……」とオーファも身じろぎした。

 目を覚ましたようだ。

 ぼんやりと瞳を開いた。

 眠そうだ。

 目が合う。

 近い。


 「むにゃ? ぁ、レイだぁ、ふふ、レイ大好きぃ♡」


 寝起きも可愛い。

 レインは平静を保つのに必死だ。


 「オ、オーファ、まだ寝ててもいい時間だけど、あんまり寝ぼけないでね?」

 「ゃん、あたし、レイとちゅーしたぃ。ちゅー」


 迫ってくるオーファ。

 ものすごく焦るレイン。

 平静を保つなんて不可能だった。


 「オーファ、ダメ! やっぱりもう起きて! お願い寝ぼけないで!?」


 レインはなんとかオーファを止めようとした。

 だが、前後からホールドされていて動けない。

 このままだとキスしてしまう。

 こんなふうにベッドで抱き合ってキスするなんて絶対に浮気だ。

 『スキル共有』のことも問題だけど、エルトリアを裏切るなんてできない。


 だがしかし、レインはキスがどんなに気持ちがいいことなのか、すでに知ってしまっている。


 口の感覚機能はかなり鋭い。

 触れた物の柔らかさや温度、味などを正確に識別できる。

 人間の感覚器の中でも、特に鋭敏な器官だ。


 人間は物を食べなければ生きていけない。

 だから生まれてからまず、口の筋肉や感覚が発達する。

 そうしなければ食事ができず、死んでしまうからだ。

 結果、指先や目などよりも先に、口での識別能力が高くなる。

 赤ちゃんがなんでも口に入れるのはそのせいだ。

 口に入れれば、それがどんな物なのか大体わかる。


 そんな鋭敏な感覚器である口で、オーファとキスしてしまったら……。


 そんなの絶対に気持ちがいいに決まっている。

 ふわふわ柔らかくて、しっとり温かくて、ぽかぽか心が満たされてしまうに決まっている。

 そんなのダメだ。

 エルトリアに対する裏切りだ。

 だからこのままキスするわけにはいかない。


 でも、2人に抱きしめられていて動けない。


 迫るオーファの唇。

 大好きなオーファ。

 ああ、このままオーファと――。


 レインは身体から力を抜き、目を閉じようとした。

 だが、そのとき、


 「むにゅ?」


 と、オーファの動きが止まった。

 否、止められていた。


 セシリアがレインの背後から手を伸ばし、オーファの唇に指先を当ててキスを止めたのだ。


 「ダメよ、オーファちゃん。キスはまず私からふにゃああああああっ!??」


 悲鳴を上げるセシリア。

 その指先にはオーファが吸い付いている。


 「ちゅううう、お姉ちゃんの指おいちい、ぺろぺろ、ちゅううううう」

 「や、やめてよ、オーファちゃん!」

 「んん、やだぁ、もっと吸わせてぇ」

 「ダ、ダメよ! 私の身体はレイン君のものなんだから、オーファちゃんにはあげないの!」

 「吸いたいよぅ!」

 「ダーメ!」


 レインを挟んで行われる攻防。

 2人が動けば動くほど、レインは気持ちがいい。

 これは困った。


 そのとき突如、オーファの矛先がレインへと変わった。


 「あたし、レイのも吸いたい」


 言いながら、シーツの中へと潜り込むオーファ。

 どこを吸うつもりなのか。

 それは本人にしかわからない。


 ちなみにレインは健全な男の子なので、朝から元気バキバキだ。

 そうでなくとも、朝からこんな極上の感触に挟まれてしまったらバッキバキになって当然だ。


 そんなわけで、レインは慌ててオーファを止めた。


 「そんなとこ絶対ダメだよっ!!」

 「やぁ、吸うのぉ、本で勉強したもん、ちゃんとできるもん」

 「いやいや、そういう問題じゃなふああああっ!?? セ、セシリアさん!?」

 「オーファちゃんの前に、私が」

 「ダ、ダメです、やめ、ああああ――」


 シーツの中でなにが行われているのか。

 それは本人たちにしかわからない。

 だが取りあえず、レインは未知の快感に包まれたのだった。



 ……。



 「ごめんねレイ。あたし寝ぼけてたみたい」

 「ごめんなさいレイン君。私も寝ぼけてたみたい」


 ベッドから起きて謝る2人。

 とてもご機嫌な表情だ。

 ぺろりと可愛く舌なめずり。

 反省しているように見えない。

 心なしか艶々している。

 よほど楽しかったのだろう。


 レインは赤い顔で呼吸を荒げつつ、シーツの中で服を整え、ジトっとした目で言った。


 「オーファ、途中から普通に起きてたよね? セシリアさんはそもそも寝ぼけてなかったですよね?」

 「そうだっけ? 夢中だったから忘れちゃった」

 「ふふ、私も寝ぼけてたから忘れちゃった」


 とぼける2人。

 全然反省してない。


 「はぁ、……もういいです」


 レインは短い溜息を吐き、部屋から出ていってしまった。


 「あ、レイ……」

 「レイン君……」


 2人にはレインが怒って出ていったように見えた。

 もしかしなくても、やり過ぎた?

 ひょっとして嫌われた?

 せっかく帰ってきてくれたのに、またいなくなってしまう。

 そう考えて、2人の顔から血の気が引いた。


 ちなみに、レインは別に怒っていたわけではない。


 レインはエルトリアという婚約者がいるのに、2人を振り払えなかった自分自身の意志薄弱さに、ややメランコリックになっているのだ。

 婚約した昨日の今日で、2人とベッドで眠り、抱き合って朝を迎えてしまった。

 しかもさっきはあんなことまで……。

 自分の不甲斐なさが情けない。

 エルトリアに合わせる顔がない。

 このままこの家に住み続けるのは不味い。

 いつか絶対に2人の魅力に堕ちてしまう。

 きっとオーファに「大好きだ」と伝えて、心と身体を求めてしまう。

 そんなの絶対にダメだ。

 エルトリアを裏切ることなんてできない。

 やはり『自立』すべきだ。

 幸か不幸か、荷物はすでにオーファの手で箱詰めされている。

 引っ越しは楽だ。

 やろうと思えば今日中にでも出ていける。


 レインはそんなことを考えつつ荷箱から服を引っ張り出し、外出の準備を整えた。


 そこにオーファとセシリアが慌てて駆けてきた。

 そのまま、ひしっとレインの足下にしがみつく。


 「ど、どこに行くのレイ!? ごめんなさい! いなくならないで! 嫌いにならないで!」

 「行かないで、レイン君。ごめんなさい。変なことばっかりしてごめんなさい。どこにも行かないで」


 取り乱す2人に、驚くレイン。


 「あ、あの、配達に行くだけですよ?」


 『自立』を考えていたレインだが、流石に今すぐ引っ越すなんて無理だ。

 そもそも行く当てがない。

 取りあえず資金稼ぎが先決だ。


 「へ? 配達? あたしたちのこと怒ってないの?」

 「……。怒ってないよ?」

 「そ、そうなんだ、よかったぁ。……あの、さっきはやり過ぎちゃってごめんね? やっぱり嫌だった?」


 不安気なオーファ。


 レインは微妙に返答に困った。

 もちろん嫌なわけないのだが、正直に答えるのははばかられる。


 「えっと、オーファ、無理やりあんなことするのはやめてね?」

 「……………………うん」


 たっぷり間をあけて、視線を逸らしながら頷くオーファ。

 はっきりいって信用できない。

 でもレインが一番信用できないのは自分の理性だ。

 なのでそれ以上追及しようとは思わなかった。


 「それじゃあ、僕は配達に行ってくるから離してね?」

 「はぁい」


 しぶしぶレインの脚から離れるオーファ。

 だがもう片脚にしがみついたセシリアが離れてくれない。


 「あの、セシリアさん?」


 レインが問いかけると、セシリアのしがみつく力がさらに強くなった。


 「ダメよ。レイン君は働いちゃダメ。もう配達なんてしなくてもいいの。お金が欲しいなら私があげるわ。いくら欲しいの? いくらでもあげるわ。だからレイン君は働いちゃダメ。家から出ちゃダメ。どこにも行っちゃダメ」


 頑ななセシリアに、レインは困った。


 「で、でも」


 そういうわけにもいかない。

 だが口で言って通じる雰囲気でもない。

 仕方なく、助けを求めるためにオーファへと視線を向けた。


 「あたしもあげる! いくら欲しいの? あるだけ全部?」


 あ、ダメな感じだ。

 レインは即座に悟り、今日の配達を諦めたのだった。

◆あとがき


オーファちゃんとセシリアさんがレイン君に何をしたのか……。

とても興味深いミステリーです(・ω・´)←


・シーツの中で指を吸った

・B地区を吸った

・○○○を○○○った。


お好きな選択肢でどうぞ(ぇ



(以下、ネタバレ含む


次回、レイン君がオーファちゃんとの関係に悩んでプチもやっと状態になりますが、次々回あたりには回復すると思います。

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