83:添い寝
セシリアの部屋。
今から3人で添い寝をするところだ。
「え? 僕が真ん中なの? セシリアさんが真ん中じゃなくて?」
首を傾げるレイン。
「当り前じゃない」
オーファは当然のように言うが、レインはどうにも釈然としない。
「でも、これってセシリアさんの治療だよね?」
「そうよ? ほら、お姉ちゃんを見て」
レインは言われた通りオーファの横に立っているセシリアに目を向けた。
オーファとお揃いで、シャツ1枚の扇情的な姿だ。
ギリギリ隠せているが、そこまで大きなシャツでもない。
脚線美に目を奪われそうになる。
だが、
「うーん、うーん、苦しいよー、切ないよー、レイン君に慰めてほしいよー」
とても苦しそうだ。
早く治してあげたい。
細かいことを気にしている場合ではない。
「ね、苦しそうでしょ? さあ、お姉ちゃんのために、早くベッドに上がって?」
「わ、わかった」
レインは頷き、ベッドの上に寝そべった。
タオル一枚の寝姿。
ベッドの両脇に立つ2人からの視線を感じて、少し恥ずかしい。
「レイン君、シーツをかけるわね」
「はい」
ふわりと柔らかいシーツが被せられるレイン。
セシリアのシーツ。
心が安らぐいいに匂いだ。
「レイ、明かりを消すわよ」
「う、うん」
レインは部屋が暗くなることに緊張した。
明るいままなのも恥ずかしいが、暗くなるのも緊張する。
オーファが魔術具を操作し、ふっと明かりが消えた。
薄暗くなる室内。
静かな夜。
ドキドキと緊張して、身体が熱い。
不意にオーファが言った。
「ねえ、お姉ちゃん。レイだけ裸じゃ不公平だから、あたしたちも脱ぐべきよね?」
「そうねオーファちゃん、その通りだわ」
同調するセシリア。
――ぱさっ、ぱさ。
と、布が落ちる音。
え? とレインが驚く間もなく、ベッドの両脇から2人が入ってきた。
右からはオーファ。
左からはセシリア。
2人はそれぞれレインへと抱き着くように身を寄せた。
身体が近い。
というか密着している。
吸い付くようなきめ細かな肌の感触。
大きな双丘がむにゅんと押しつぶされている。
暴力的に理性を破壊してくる圧倒的な乳圧。
気持ちよすぎる。
だって今の2人の姿は――。
考えかけたレインは、慌てて思考を止めた。
「レイ、大丈夫? あたしたちにこうされて嫌じゃない? 我慢してない?」
不安そうなオーファの声。
「だ、大丈夫だよ」
嫌じゃない。
嫌なわけがない。
むしろ好すぎる。
だからこそ我慢しているのだが、それは言えない。
「ごめんねレイ。わがまま言って、こんなことさせちゃって……。もし疲れちゃったら、すぐに言ってね?」
いつものように優しいオーファ。
レインはオーファに「大好き」と言ってもらえたことを思い出した。
胸の鼓動が早まる。
心と身体が熱くなる。
ちなみにレインは2人を腕枕しているような状態だが、スキル効果のおかげで腕の疲れは大丈夫だ。
だが、
――ふわむにゅん。
オーファとセシリアの感触に、違うところが大丈夫じゃない。
こんなの気持ちよすぎる。
2人の今の姿を意識してしまったらヤバい。
レインには目を閉じて、固まっていることしかできない。
固まって、硬くなって、すでにバッキバキだ。
変なことを考えるとか考えないとか、それ以前の問題だ。
強制的に与えられる極上の快楽に、身体が勝手に反応してしまう。
心でいろいろと思ってみても、身体は正直だ。
これ以上は不味い。
「ねえレイン君、私のこと抱きしめて?」
セシリアが囁きながらレインの身体をくすぐるように撫でてくる。
優しい手の動きなのに、理性の破壊力が凄まじい。
さらには下腹部の辺りを軽く押してくる。
くにくにと細い指先が心地よい。
「セシリアさん……」
レインの意識がセシリアに向いた。
するとオーファが慌て出す。
「レイ、あたしも! あたしも抱きしめて!」
むぎゅっとレインに抱き着く。
「レイン君」
「レイ」
迫ってくる2人。
柔らかくて温かくていい匂いがして最高だ。
ここは楽園か天国だ。
レインの理性は崩壊寸前。
しかしすんでのところで踏みとどまる。
「ぼ、僕にはエルトリア様が……」
だから絶対に欲望に流されるわけにはいかない。
情欲のままに、2人の極上の身体を抱きしめるわけにはいかない。
そんなこと絶対にできない。
でも、
「ふふ、レイン君ってば、婚約者の話なんて関係ないでしょ? だって今は治療行為の最中なのよ? だから、ね? 早く私のことを助けて? 強く抱きしめて?」
「レイ、あたしも! あたしも助けて! 強く抱きしめて! 治療して!」
これは治療。
浮気じゃない。
セシリアの命を救うことが目的。
だから抱きしめてもいい。
いや、抱きしめなければならない。
これは自分にしかできない。
やるしかない。
心と身体が燃えるように熱い。
レインは2人の身体に腕を回し、ぎゅぅっと強く抱き寄せた。
「ん、レイン君……」
「ぁん、レイ……」
セシリアとオーファの甘く熱い吐息。
直後2人の脚が、それぞれ左右からレインの脚へと絡みついてきた。
自分の太ももにレインの太ももをはさみ込み、切なさを擦り付けるように動く。
2人は思った。
気持ちよすぎる。
離れたくない。
このままずっと――。
「オーファ……、セシリアさん……」
堪らず、レインの口から声が漏れた。
自身の太ももから伝わる、すべすべとした2人の美脚の感触。
そして上半身に感じる、大きくて柔らかな胸の温もり。
息を吸い込むと、セシリアとオーファの匂いがする。
いつもは安心感を覚えて落ち着く匂い。
だが、今は無性にオスの本能を煽る。
柔らかい2人。
逆にレインは硬くバッキンバッキンだ。
男1人に女2人。
シーツを被って3人で仲良く寝ているだけ。
それだけなのに心が満たされる。
シーツの中で、セシリアの手がもぞもぞと動いた。
「ふふ、レイン君のここも苦しいの? 私が治してあげるわね?」
「ダ、ダメ! あたしがやる! あたしがやりたい!」
焦ったように小声で叫ぶオーファ。
2人の会話は続く。
「オーファちゃんはダ~メ。これは遊びじゃなくて治療なのよ?」
「あ、あたし、お姉ちゃんより上手にできるもん! ちゃんと本で勉強したもん!」
「でもダ~メ。レイン君は私にしてもらったほうが嬉しいんだから」
「あたしだって喜んでもらえるもん! レイの気持ちよさそうな顔を見ればわかるわ!」
「レイン君が蕩けた顔をしているのは、私と寝ているからよ?」
「ぐぬぬ。……きょ、今日は抜け駆けしないって約束でしょ。だ、だから、お姉ちゃんもレイに手を出しちゃダメ」
「そうだっけ? うふふ、覚えてないわ」
「ぐににににっ!」
「ふふ、残念だったわね、レイン君はわたしのよ」
挑発するようなセシリアの言葉に、オーファの雰囲気が変わった。
「………………。レイ、いいこと教えてあげる」
「オーファちゃん?」
「お姉ちゃんは、実は最近、詩を書くことにハマってるの」
オーファの必殺技。
秘密の暴露。
「オーファちゃんっ!?」
焦るセシリア。
余談だが、セシリアは1人のときもよく変なことをして遊んでいる。
長生きのせいか1人遊びが上手いのだ。
お風呂で下手な鼻歌を歌ってみたり、並べた食器をポコポコ打ち鳴らして奇妙な音楽を奏でてみたり、要らない紙の裏に奇怪な落書きをしてみたりなどなど。
詩を書くのもその一環だ。
一応は自分でも変なことをしているという自覚がある。
なので暴露されると恥ずかしい。
閑話休題。
オーファの暴露は続く。
「お姉ちゃんが書く詩は、妙に時代がかった古風なものばかりなの。何気にセンスが古いのよね」
「や、やめてよ、オーファちゃんっ!!?」
「例えば、『天露に、慕われること嬉しかり、我が――』」
「やめてええええっ! な、なんで知ってるのよ!??」
「『天露』というのはレイのことね。全体の意味は――」
「解説しないでええええっ! もう怒ったんだからね!」
「怒ってるのはあたしなの!」
シーツの中。
レインの上でじゃれ合う2人。
セシリアがオーファに手を伸ばすものの、簡単にあしらわれている。
口でも手でもオーファの圧勝だ。
レインは思った。
いろんな意味で眠れない! と。
◇
30分後。
身体の熱が収まってきた。
セシリアが小声で囁く。
「ねえ、オーファちゃん」
「なぁに、お姉ちゃん?」
「わ、私、夕食のときに飲み物を飲み過ぎちゃったかも……。そろそろ限界が近いわ」
そわそわと身体を揺するセシリア。
このままだと乙女の尊厳がピンチだ。
レインの前で……、というかレインに向かって粗相をするわけにはいかない。
「奇遇ね、お姉ちゃん。あたしも同じことを考えていたのよ。お手洗いに行きたいんだけど、部屋から出たらお姉ちゃんに締め出されそうだから困ってたの」
ちなみに魔術でなんとかする方法は、事前に魔術を使ってないと効果が無い。
そんなわけで、2人は頷き合うと、いそいそとベッドから這い出た。
そして服を着て部屋から出ていった。
レインもその隙に部屋から抜け出した。
そして自分の着替えを探して、服を着てからベッドへと戻った。
部屋に戻ってきた2人はレインが服を着ていることに気付き、少し残念に思った。
でも、すでに十分に心を満たしてもらったので、仕方がないと諦めることにした。
そして、自分たちも服を着たままベッドへと入った。
素肌で触れ合っていなくても、3人で寝ていればそれだけで幸せだ。
不安も恐れも消えていく気がする。
しばらくすると、3人の静かな寝息がたち始めた。
身体の熱が収まっても、心はずっとポカポカと温かかった。
◆あとがき
ただ添い寝して、ちょっと抱きしめるだけなのに大層な決心が必要なあたりがレイン君のいいところ(・ω・´)←




