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81:だんらん

 ラインリバー宅。


 家に帰ってきたレインは、すぐセシリアに謝った。


 「セシリアさん、あのときは変な態度を取ってしまってごめんなさい」

 「ううん、レイン君は悪くないわ。私の方こそ、レイン君の気持ちも考えずに酷いことを言っちゃって……、ごめんね?」

 「いいえ、セシリアさんは悪くないです。全部、僕が悪いんです」

 「ううん、私が悪いの」


 いつの間にか罪の奪い合いになってしまう2人。

 でも、なんだかんだでちゃんと仲直りができた。

 そのことに、お互い胸をなで下ろした。


 その後は夕食の時間だった。

 夕食はすでにセシリアが支度をしてくれていた。


 「「「いただきます」」」


 3人で仲良く食べ始める。


 レインは久々に食べるセシリアの料理に舌鼓したつづみを打った。

 やはりどこの街のどんな料理よりも、セシリアの料理が一番美味しい。


 今日の食卓はご馳走ばかりだ。

 普段あまり見ない料理が多く並んでいる。

 スッポンなどの高級食材まである。

 とても美味しい。

 つい沢山食べてしまう。

 コップにはブドウ酒。

 たった1杯だけだが、ラインリバー家の食卓にお酒が出ることは珍しい。

 普段お酒が振る舞われる日は、誕生日や祝日などの特別な日だけだ。


 わざわざブドウ酒を出してくれた。

 そのことに、帰宅を歓迎してくれている気がして、レインは嬉しくなった。


 「どうかしら、レイン君?」

 「とっても美味しいです」

 「よかったぁ、今日の料理は精のつくものばかりだから、いっぱい食べてね?」

 「はい」


 料理を一口食べる度にセシリアの気持ちが伝わってくる気がして、レインは心と身体がホコホコと温かくなるのを感じた。



 レインは食事をしながら、これからのことを考えた。

 まず『スキル共有』のことだ。

 もう隠しておくことはできない。

 なにせ、すでに56ものスキルを所持しているのだ。

 ギルドで訓練していたら、普通にバレる。

 わざわざ大々的に公表する必要はないが、隠すことは無理だ。

 イヴセンティアにも『スキル共有』していることを伝え、説明しておく必要があるだろう。


 次にフネアたちのこと。

 王城に残してきてしまったが大丈夫だろうか。

 イヴセンティアに任せておけば問題ないとは思うが、心配だ。

 これからの生活のこともある。

 住む場所も用意しなければならない。

 明日の放課後にでも会いに行くべきだろう。

 さて明日の学院の授業は――、と考えて、はたと思い出した。


 「あ……」


 と、思わず声が漏れる。


 「どうしたの、レイン君?」

 「実は僕、王立学院を退学になってしまったらしくて……」


 エルトリアと婚約して以降、すっかり忘れていた。

 退学になったなんて大問題だ。

 今まで育ててくれたセシリアに申し訳ない。

 毎晩一緒に勉強してくれたオーファに面目ない。

 いろんなことを教えてくれたマフィオたち冒険者に合わせる顔が無い。

 恥ずかしい。

 穴があったら入りたい。

 ずぅぅんと落ち込むレイン。


 だが、なぜかセシリアは安心したような表情で言った。


 「そうなんだ、よかったぁ」

 「え、よかった、ですか?」


 思わず聞き返すレイン。


 するとセシリアはバツの悪そうな顔になった。


 「あ、ごめんね、つい……。だって、王立学院を退学になったってことは、レイン君が軍隊に入る理由が無くなったってことでしょ? だから安心しちゃったの」


 再び「ごめんね」と謝るセシリア。


 レインは自分の身を案じてくれるセシリアに、感謝の念が湧いた。

 そして、ちゃんと今までの恩を返せるように頑張ろうと思った。

 退学になってしまったが、まだまだ人生はこれからだ。

 婚約してくれたエルトリアのためにも、落ち込んでばかりいられない。


 「僕、明日からはギルドで依頼をこなしつつ、何か仕事を探そうと思います」


 気合を入れるレイン。

 このまま冒険者になるという人生も捨てがたい。

 だがそれだけに拘る必要もない。

 他にどんな仕事ができるだろうかと頭を捻る。


 そんなレインに、オーファが言った。


 「別にレイは働かなくていいわよ?」

 「え? いや、そういうわけにはいかないよ」


 だって、エルトリアを養ってあげなければならないのだ。

 嫁に来てくれるエルトリアのためにも、しっかり働かなければならない。

 そう考え、意気込むレイン。


 すると、またオーファが言った。


 「レイが働かなくても、レイのことはあたしとお姉ちゃんが養ってあげるわよ。ね? お姉ちゃん?」

 「そうね、オーファちゃん。レイン君は働いちゃダメよ? レイン君のことは、私とオーファちゃんが、ずぅっと養ってあげるからね」

 「え、いや、でも、そんな……」


 戸惑うレイン。

 まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。


 「とりあえず、レイは家でゴロゴロしてればいいわ」

 「うんうん、家事も私がやってあげるから、レイン君はなんにもしなくて大丈夫よ」

 「さ、流石にそんなわけにはいきませんよ。僕もちゃんと外に出て働きます!」


 家で家事もせずにゴロゴロしていたら、ダメな人になってしまいそうな気がする。

 もちろん家でゴロゴロしている人がみんなダメな人とは思っていない。

 人にはそれぞれ事情というものがある。

 でも、自分の場合はきっとダメな人になってしまう。

 そんな気がする。


 『無能』と蔑まれていた子供のころは、『無能でもダメじゃない』ことを証明しようと思い、頑張っていた。

 なのにスキルが56もある今になってダメ人間になってしまったのでは、なんとも情けない。


 しかしラインリバー姉妹の意見は変わらない。


 「もう、レイは真面目なんだから。レイが働かなくても、あたしとお姉ちゃんの稼ぎだけで十分よ。むしろ、お釣りがくるわ」

 「そうそう、レイン君は絶対に働いちゃダメよ。ずぅっとこの家にいればいいの。外に出ていこうなんて思っちゃダメ。ずっと3人で一緒に暮らすんだから」

 「で、でも……」


 弱気になるレイン。

 ただでさえ押しに弱いのに、大好きな2人にグイグイ押されてタジタジだ。


 ちなみに、オーファは純粋にレインが働く必要性を感じていないだけだ。

 レインが心の底から『働きたい』と思っているなら、オーファは喜んで協力する。

 だが、レインが『働かなければならない』と思い込んでいるから、オーファは別の可能性を示すために、「働く必要はない」と言っているのだ。

 オーファとしては、レインには無理せずに、本当にやりたいことをやってほしい。


 一方のセシリアは、レインが家から出ていってしまうのが嫌なので、働いてほしくないと思っている。


 「レイの欲しいものはあたしが買ってあげるし、食べたいものはお姉ちゃんが作ってくれるわ。お金だってあたしがあげるし。ほら、レイが働く必要なんてないじゃない」

 「オーファちゃんの言う通りよ、レイン君が働く必要なんてないわ。だから、ぜえええったいに、働いちゃダメ。レイン君はこの家にいればいいの。私とオーファちゃんが、レイン君のして欲しいことをなんでもしてあげるわ」

 「な、なんでも……?」


 聞き返し、生唾を飲み込むレイン。

 思わず、変なことを考えてしまう。


 「「うん、なんでも」」


 声を揃えるラインリバー姉妹。

 そして、


 「あたし、レイに喜んでもらえるように、本でいっぱい勉強したのよ?」

 「レイン君は何もしなくても、寝そべっているだけでいいの。そしたら、お姉ちゃんの私が全部やってあげるわ。経験はないけど……、ふふ、任せてね?」


 妖しく笑う2人。


 レインは確信した。

 このままでは絶対にダメな人間になってしまう! と。


 そしてふと頭の中に『自立』という言葉が浮かんだのだった。



 食後。

 美味しい食事に心も身体も満たされて大満足だ。

 ホコホコと温かい。


 食器を片付けながら、レインはセシリアに問いかけた。


 「あの、ところで2階の鍵は?」


 鍵は試験に出た日から預けたままになっている。

 返してもらわないと2階に入れない。


 「鍵ならここに」


 セシリアがエプロンのポケットから鍵を取り出した。

 だがオーファが、


 「あ、ごめん、手が滑っちゃった! えいっ!」


 ――ベキッ!


 と、その鍵を奪い取り、素早く破壊してしまった。

 小さな鍵がオーファの手の中で綺麗に折れ曲がっている。


 「もう、オーファちゃん、急にびっくりするじゃない!」

 「ごめんなさいお姉ちゃん、つい手が滑っちゃって。でも、これでレイは1階に住むしかなくなったわね! ね? レイ?」


 満面の笑みを見せるオーファ。


 一方のレインは、そんな表情を向けられても困ってしまう。

 正直な気持ちとしては、オーファに好いてもらえてものすごく嬉しい。

 なにせ自分もオーファのことが大好きなのだ。

 好意を向けられると、つい顔が綻んでしまいそうになる。

 その気持ちに応えてしまいたくなってしまう。

 でも、そうはいかない。


 「オーファ、僕はもう婚約したんだから、同棲なんてダメだよ」


 婚約。

 その言葉に、首を傾げるセシリア。


 「あれ? 私とレイン君って、もう婚約したんだっけ?」

 「え? してませんけど?」

 「え? でも、レイン君は婚約したのよね?」

 「はい」

 「私は?」

 「え?」

 「え?」

 「「え?」」


 頭上に疑問符を並べる2人。

 お互い、不思議そうな顔で首を傾げる。


 そこにオーファが助け舟を出した。


 「お姉ちゃん、レイの婚約相手はエルよ」

 「エルトリア様と?」

 「そうよ」


 瞳の輝きを失うセシリア。


 「……ねえ、オーファちゃん?」

 「なーに、お姉ちゃん?」

 「婚約ってなんだっけ? コンニャクの仲間? レイン君はエルトリア様とコンニャクを作るの? コンニャクって家の中でもできるのかな? そっかぁ……、コンニャクかぁ……。レイン君のために精のつくコンニャク料理を覚えなくちゃ……」

 「婚約は、結婚の約束よ」


 ぶつぶつと現実逃避するセシリアに、容赦なく現実を叩きこむオーファ。


 セシリアの瞳が潤む。

 そして、ぼんやりとしと聞き返した。


 「やくそく?」

 「そう、約束」


 約束という言葉を聞き、しばし黙考するセシリア。

 そして、


 「なんだぁ、ただの約束かぁ。驚いちゃった」


 瞳に輝きが戻り、笑顔になった。

 ふぅ、やれやれ、と額を手で拭う。

 オーファを育てたセシリアだけあり、2人の思考パターンは変なところが似ている。


 ころころ変わるセシリアの様子に、レインが心配して声をかけた。


 「あの、セシリアさん?」

 「なぁに、レイン君? 今から私と結婚する?」

 「いや、しませんよ! その冗談、流行ってるんですか!?」

 「うふふ、レイン君ってば照れちゃって、可愛い。大丈夫、私はちゃんとわかってるからね!」


 どうしよう。

 また様子が変だ!

 レインは助けを求めるように、オーファへと視線を向けた。


 「あ、あたしと結婚して!」


 慌てた様子のオーファ。

 オーファはエロ本事件が切っ掛けで、レインが好きな女性はセシリアなのだと思っている。


 「オーファちゃん、レイン君は私と結婚するのよ?」

 「ま、まだ決まってないじゃない! あたしがするの!」


 いや、どっちともしないよ。

 と、言い出せる雰囲気ではない。

 黙って見守るレイン。


 2人の言い合いは続く。


 「大丈夫よ、オーファちゃん。私とレイン君が結婚しても、3人一緒だからね」

 「お姉ちゃんはレイの愛人になればいいでしょ! あたしが結婚したいの! あたしがするの! レイはあたしのなの!」

 「オーファちゃんはダ~メ。私がするのよ。だってレイン君は私のことを、ふふ、うふふ」

 「ぐぬぬぬぬっ!」


 「うふふ」と笑うセシリアと「ぐぬぬ」と悔しがるオーファ。


 レインはなんでこんな会話になったんだっけと考えつつ、天井を眺めたのだった。

 心と身体がホコホコと温かい。

◆あとがき

レイン君をダメ人間にしようとするセシリアさん(本人に悪気はない。




作者が勝手に予想していることなのですが、おそらく1990年前後に生まれた人は仕事に対するモチベーションがものすごく低いんじゃないかなぁと思います。

丁度そのときはバブルが崩壊した時期なので、連日連夜テレビニュースの報道は倒産、破産、リストラ、自殺みたいな話ばかりだったと思います。


物心ついたばかりの子供がそんなニュースばかり見ていたら、『仕事=死』という考えに至っても不思議ではありません。

死ぬことに対してモチベーションをあげろと言われても難しいでしょう。

3.11の津波映像はいろいろと子供に配慮されていましたけど、バブル崩壊当時は子供に配慮した報道なんてしてませんでしたからね。


逆に高度成長期なんかに育った人などは、それなりに仕事へのモチベが高そうな気がします。

(全部作者の勝手な予想で、統計などは取っていません)



で、レイン君は別にどっちにも当てはまらないので、仕事とは金をもらう手段の1つとして存在しているだけってイメージです。←最終的な説明が雑っていう、いつものパターン

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