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67.5:小話3-5

◆レイン、ドゥーエの街へ


朝。

レインとエルトリアはウノの街からドゥーエの街へと出発した。

昨日と同じく馬車での移動だ。


馬車の乗客は昨日よりさらに少なかった。

好き好んで戦争の前線に近付こうとする者はいないのだろう。


客が少ないせいか馬車の車両は昨日よりも小型だった。

小型で軽いから移動速度もそれなりに早い。

途中下車する客もいないので道程は順調である。


そんなわけで、レインたちは予定より早くドゥーエの街に到着した。

宿を取るにはまだ早い時間だ。

せっかく遠くの街まで来たのに、ただ宿泊するだけではもったいない。


そう思ったレインは、エルトリアに問いかけてみた。


「エルトリア様、少し観光でもしてみましょうか?」


いつも通りの敬語。

恋人同士という設定はいつの間にか終わっていた。

それでもエルトリアは笑顔だ。


「はい、レイ君」


とても機嫌が良い。

昨晩レインが自分へと情欲を向けてくれたことが嬉しくて、浮かれているのである。

レインに組み伏せてもらったときのことを思い出して、朝から何度もだらしなく頬を緩めていた。


一方のレインは、エルトリアへ向ける自分の感情に戸惑い、妙に緊張している。

もう恋人設定は終わっているのに、エルトリアが女の子であることをすごく意識してしまうのだ。


柔らかくて温かいし、いい匂いがするし、綺麗だし、声も可愛い。

触覚、嗅覚、視覚、聴覚。

現段階で、五感の内、4つが満たされている。

これで『味』まで知ってしまったら……。


レインは頭を振って変な考えを吹き飛ばし、エルトリアに問いかけた。


「エルトリア様、まずはどこから見ましょうか?」

「わたくし、あの建物が気になります!」


2人は、ドゥーエの街を歩いた。

恋人設定は終わっている。

だが2人の姿は自然と恋人同士に見えた。




◆ぐんにゃりオーファ


オーファは最初、レインを探して王都を飛び出そうとした。

だがセシリアに止められて、それを断念した。

そもそもレインが王都から東西南北どの方角へ向かったかもわからないのだ。

セシリアに、当てもなく探し回って入れ違いになるよりもレインを信じて王都で待っているべきだと説得され、渋々従ったのである。

オーファ自信も、レインに「待っている」と言ってしまった手前、待っていないといけない気がした。


だがレインがいつ帰って来てくれるかわからないので気が気ではない。

夜もなかなか眠れず、食事も喉を通らない。


頭に浮かぶのは無数の後悔。

あのとき強引にでも「さっきのはミディアだ」と言えばよかった。

レインに言葉を遮られても、無理やり言いきってしまえばよかった。

レインが立ち去ろうとしたとき、ちゃんと引き止めればよかった。

それが無理でもついて行けばよかった。

あのときのレインは装備を整えていて、手荷物も多かった。

長旅に出るつもりということは見ればわかることだった。

どうして気付かなかったのか。

なぜすぐに戻ってくるなんて勘違いをしてしまったのか。


後悔してもしきれない。


オーファはこんなことも考えた。

自分は普段からレインに好いてもうために努力しているつもりだ。

昔よりもずっと素直になれたと思っている。

レインにも少なからず自分の好意は伝わっていただろうと思う。

少なくともレインと自分は普通の友達以上の関係のはずだ。

にもかかわらず、レインの目の前で男に見える女ミディアを抱きしめて頭を撫でてしまった。

わざわざ見せつけるようにして、手で追い払ってしまった。

酷い裏切りに思われるだろう、最低だ。

そんな女、嫌われても仕方がない。

嫌われて当然だ。

死んでしまいたい。

でもダメだ。

ちゃんとレインが帰ってくるまで待っていないと。

それで、ちゃんと謝って、誤解を解いて、仲直りしないと。

そしたらきっと、今までと同じように、仲良しになれる。

レインと一番仲良しの友達に戻れる。

でもレインが求めている女はセシリアで……。

だから自分はレインの一番の女にはなれなくて……。


「うぅ……、レイ……」


嫌なことばかり考えてしまい、思わず涙が出てくる。


明らかに情緒不安定なオーファに、カムディア女学院の女子たちも心配している。


「オーファちゃんどうしたんだろう?」

「元気ないね?」

「レインくんと喧嘩でもしたのかな?」


当たらずとも遠からず。

だが女子たちはレインとオーファが喧嘩するという理由に、今一しっくりこない。


「まさかぁ、そんなわけないよ」

「2人ともすぐお互いに謝りそうだもんね」

「だよね、もし喧嘩しても長続きしないよ」


それぞれが喧嘩という理由を否定する。

だが「レインと喧嘩」と聞いて、1人だけビクッと反応した女子がいた。

ミディアだ。


ミディアは男みたいな格好の自分がオーファといたせいで、レインが勘違いしてしまったのだろうと察していた。

罪悪感と冷汗が止まらない。


「どうしたのミディアちゃん?」

「すごい汗だよ、どこか悪いの?」

「ショートヘアも似合ってるから、気にしなくて大丈夫だよ?」


口々にミディアに声をかける女子たち。


「ううん、な、なんでもないよ!」


と言いつつ、ミディアは「あ、あはは」と笑って誤魔化した。

そして、なんて言ってオーファに謝ろうと頭を悩ませたのだった。




◆最終的に大雑把な理事たち


運営理事たち(内務担当)数人がレインのことについて話し合っていた。


「『無能』はどうだ? 予定通り王都を出たのか?」

「ああ、学院に来ていないからおそらくな」

「上手くいきそうか?」

「ああ、説明のときに『酒酔剤さけよいざい』を飲ませたからな。副作用で気分が悪くなって、まともな準備も出来んまま出発したはずだ。それに、クワティエロまでは『海の森』を通るように指定した。食料が足りなくなるはずだから逃げることも不可能だ。餓死か、獣人に殺されるかは知らんが、とりあえず死ぬのは確実だ」


死ぬのは確実。

その言葉に、理事たちは満足気に頷いた。


「なら、もう学院からの除籍手続きをしてしまってもいいんじゃないか?」

「そうだな」

「さっさと終わらせて、飲みにでも行くか」


こうして試験が終わる前から、レインの退学が決まったのだった。




◆イヴセンティア考える


イヴセンティアたち近衛騎士隊は、アイシアの護衛で王国の西へと向かっていた。

西にある帝国が、今回の戦争の援軍に駆けつけてくれることになったのだ。

まずは先行して、帝国の姫が挨拶のために来国することになっている。

アイシアたちはその出迎えのために、西の国境へと向かっているのだ。


ちなみに王城や学院の者たちは、エルトリアもアイシアに同行したのだと勘違いしている。

だからエルトリアがお城からいなくなっても、騒ぎにはなっていなかった。


イヴセンティアは西へと向かう走竜車の中で、レインと外泊したときのことを思い出していた。


(レ、レインとキスしてしまった。どうしよう。オーファ殿にバレたら殺される!)


そんなことを思って、1人で青くなっている。


(いやしかし、キスといってもあれは事故のようなものだ。私は寝ているレインの頬に、ちょっとキスをしようとしただけだ。でもレインがすごく良いタイミングで寝返りをうっくれたから、ほんの少し唇が触れ合ってしまったんだ。だからあれは事故だ)


自分の無罪を証明しようと必死だ。

レインと同じく無駄に真面目な性格なので、こういうときは大変である。


ちなみに『スキル共有』が発動すると、レインの身体が少し光る。

だがイヴセンティアはキスのときに目を瞑っていたので、レインが光ったことに気付いていない。

当然、『スキル共有』したことも知らない。


(レインの唇の端にちょっと触れただけだし、感触もわからなかった。ということは、あれはキスじゃないな。うん、キスじゃない。だから自分から罪を告白する必要もないだろう。レインやオーファ殿には黙っていよう。それがいい。…………。いや、あえて自白して、レインにお仕置きをしてもらうのもアリなのか? それもいい気がする。そうしたい……。いやいや、それだとオーファ殿にバレて、うむむ……)


イヴセンティアの葛藤は続く。


その横では、


「イヴ隊長、なんだかすごく艶々してない?」

「疲れた表情が取れて、妙に元気になったわよね」

「仕事疲れが1日で吹き飛ぶなんて、よっぽど良いことがあったのかな?」


部下の女騎士たちが首を傾げていた。




◆どんよりセシリア


セシリアはオーファの前では気丈に振る舞っているが、1人のときはどんよりと落ち込んでいる。


ギルドの受付に座り溜息を吐く。

考えているのは、レインに言ってしまった、『スキル共有』だけが目的というような自分の言葉だ。

レインの気持ちなんてまったく考えていないような無神経な言葉。

最低だ。

思い出すのは、レインの冷めた視線と声。

嫌われてしまったのだろうか。

もう大好きって言ってくれないのだろうか。

そんなの嫌だ。

早く会いたい。

早く帰って来てほしい。

ずっと一緒にいたい。

やっぱりあのとき引き止めればよかった。

そんなことを思ってしまう。


「レインくん……」


セシリアは、今日はオーファと一緒に眠ろうと思った。

せめて大切な家族であるオーファと一緒にいたい。

そう考えたのだ。


元気がないセシリアの姿に、ナカルドたちも元気がなくなる。


「セシリアさん、元気ないべ……」

「きっとレインがいないからだべ……」

「レイン、早く帰って来てくれだべ……」


今日のギルドは、1日中どんよりしていた。




◆レイン懺悔する


レインとエルトリアは、ドゥーエの街の教会へと来ていた。

歴史のある古い教会だ。

今では観光施設として機能している。


2人は歴史のある教会の見学を楽しんだ。


その後レインは、エルトリアに礼拝堂で待っていてもらうようにお願いした。

教会のシスターに懺悔を聞いてもうために、1人になりたかったのだ。


数分後、レインは1人で懺悔室へと入った。


懺悔室は狭く薄暗い。

椅子が1つ置かれており、そこに座って懺悔をするらしい。

レインと壁を隔てた向こう側に、懺悔を聞いてくれるシスターがいるようだ。

こちらから向こうは見えないが、向こうからはこちらが見えているらしい。


レインが椅子に座ると、シスターから声がかけられた。


「『さあ、懺悔をどうぞ』」


聞こえてくるシスターの声は妙に高く、なんとなく不思議な声だ。

どこかで聞いたことがある声のような気がすると、レインは思った


ちなみに壁の向こうにいるのは、シスターではなくエルトリアである。

エルトリアが裏声で喋っているのだ。


数分前にレインと別れたエルトリアは、あっという間に迷子になってしまった。

そしてうろうろしている内に教会の裏側に入り込み、懺悔室まで来てしまったのだ。


なんやかんやあって、エルトリアはレインの悩みを解決できるかもしれないと思い、張り切っている。


「『さあ、なんでも言ってください』」

「はい、実は、僕は今、とある高貴な女性と旅をしています」


エルトリアは自分のことだと察した。

続きを促す。


「『続けてください』」

「はい、とても恥ずかしいことなのですが……」

「『恥ずかしがることなんてありませんよ、すべてを打ち明けてください』」


レインは辛そうな顔で罪を告白した。


「はい……。そんな高貴な女性に、僕は昨晩、最低な情欲を向けてしまったのです……」

「『そうですか、それはとてもよいことですね』」

「……え」

「『なにも悔い改める必要はありません』」

「えっ!?」

「『あなたに罪はありません、それは素晴らしいことです』」

「ええっ!??」


その後、レインは無事(?)に懺悔を終え、エルトリアと合流したのだった。




◆エロ本とベッド


エロ本は以前、セシリアによってベッドからタンスの裏へと隠された。

だがオーファの手によって、再びタンスからベッドの下へと戻ってきた。

奇跡の生還である。


……。


エロ本「ただいまー」

ベッド「おかえりー」

エロ本「……レイ、あたしを置いてまま出て行っちゃったね」

ベッド「エ、エロ本ちゃん?」

エロ本「……あたしなんて嫌いなのかなぁ」

ベッド「げ、元気だして」

エロ本「うん、ごめん。ずっとタンスの裏にいたから、ちょっと弱気になってたみたい」

ベッド「エロ本ちゃんは、レイン君の唯一無二のエロ本なんだから、自身をもって!」

エロ本「うん……。……、ベッドちゃんはいいよね?」

ベッド「え? な、なにが?」

エロ本「だって寝具だから、いつもレイと眠れるんだもん」

ベッド「た、確かに役得だとは思うけど」

エロ本「しかも、きっと将来は女の子とエッチするときも、一緒なんでしょ?」

ベッド「え!? エ、エッチのとき!?」

エロ本「そうだよ、あたしも一緒にして欲しいなぁ」

ベッド「レイン君なら優しいから、きっと」

エロ本「無茶だよ、だってあたし、本だもん……」

ベッド「エロ本ちゃん……」

エロ本「ご、ごめん。変なこと言っちゃった」

ベッド「ううん、気にしないで。さ、また今日から一緒に眠りましょ?」

エロ本「うん、ベッドちゃん大好き!」

ベッド「私もよエロ本ちゃん!」


……。


オーファ(変な夢、見ちゃった……。早くレイに会いたい)


オーファは横に眠るセシリアに抱き着いて、再び目を閉じた。

だが少し眠るたびに変な夢にうなされて、すぐに目が覚めてしまうのだった。




◆オーファ奇行に走る


数日後。

セシリアが1階で食器を洗っていると、2階からゴトゴトと物音が聞こえてきた。


セシリアはレインが帰ってきたのかと思い喜んだ。

だが2階の『鍵』は自分が預かっているので、それはないと気付いた。

はてなんの音だろうと頭を捻る。


そして、すわっ泥棒か! と思い至り。

レインの帰る場所を荒らされてなるものか! と奮起した。


様子を窺うために、そっと2階に上がるセシリア。

扉の鍵が開いている。


ガサゴソ……。


中から聞こえてくる不審な物音。

セシリアの警戒心が高まる。


こっそりと部屋の中を覗き見た。

だが中にいたのはオーファだった。

ほっと肩の力を抜くセシリア。


「オーファちゃん、なにやってるの?」

「あ……、お姉ちゃん、あたし、ね、まとめてるの……」


ぼそぼそと喋るオーファ。

オーファの精神は疲弊しきっている。

活力が感じられない。


「なにをまとめてるの?」

「レイの、荷物をね……、まとめて、ね、下に、運ぶの……」


虚ろな目で言いながら、オーファがレインの私物を箱に詰めていく。


「ど、どうして下に運ぶの?」

「レイがね……、帰ってきたらね……、下の部屋でね、ずっと……、一緒に、ね、住むの……」


ゆっくりのそのそとした動き。

目の焦点も合っていない。


「オーファちゃん……」

「ずっと、ね、一緒なの……、あたしがね……、あたしが、ずっと……、守ってあげるの……。だから……、だからね……、荷物をまとめて、いるの……、ぐす、ううぅ、レイ」


大きな瞳から涙が溢れる。

不憫な妹を、セシリアが優しく抱きしめる。


「大丈夫よ、オーファちゃん。レイン君はちゃんと帰って来てくれるから」

「うううぅ」

「今日も一緒に眠りましょうね?」

「ぐす、うん……」

◆あとがき


こういう場合、実は目に見えて落ち込むオーファちゃんより、しっかりしなきゃと自分に言い聞かせているセシリアさんのほうが精神負荷が大きいという。


オーファちゃんとセシリアさんの仲が前にも増してよくなっていますが、オーファちゃんがセシリアさんに寝取られたりといった展開にはならないのでご安心を。


Q:そんなことより話の内容暗くね?

A:4章くらいから明るくなると思うの

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