60.8:小話3-4
◆キュリアちゃん、貢ぐ!
キュリアたちはレインの身の回りのものを全部、自分たちで貢いだものにしたいと考えている。
そんなわけで、今日もレインに貢ぎ物を贈っていた。
今日の貢ぎ物は高価な服である。
派手さはないが、動きやすく頑丈で、革装備の下に着るには丁度いい。
だが、レインがそう簡単に貢ぎ物を受け取ってくれないことくらい百も承知だ。
案の定、レインは高価な物はもらえないと断ろうとしてきた。
しかしキュリアたちはそう簡単に引き下がらない。
「レインさん、実は最近、衣服の値段がとても下がってきているのです」
「え、そうなのですか?」
「はい。最近は戦争が原因で、食料の値段が上がってきていますよね。それで、多くの避難民は食料を買うために、不要な衣服を売りに出しているのです。需要と供給のバランスは崩れるばかり。市場には衣服が溢れているのに、買い手がおらず、値段は下がる一方なのです。今は衣服1着よりも、野菜1つの方が高いこともあります」
「な、なるほど、そうだったのですね」
キュリアは一言も、『この貢ぎ物の服が安い』なんて言ってない。
だが、レインはまんまと『この服は控えめな値段なのだ』と勘違いした。
さらにキュリアの説明が続く。
「服を取り扱っている商人たちは、服の価値が下がったことで、利益が出せずに困っています。私の知り合いも困っています。だから、どうかその者たちを助けると思って、この服をもらってください、お願いします」
なぜ助かるのか説明をしていないが、レインはきっと複雑な事情があるのだろうと勝手に察した。
「そ、そんな事情があったのですね。僕は自分の浅慮が恥ずかしいです。先ほどは断ってしまって申し訳ありません、有難く頂戴いたします」
「ありがとうございます、レインさん」
真実に少しの嘘を交えたキュリアの交渉術は、非常に巧みである。
あっさりとレインに貢ぐことに成功した。
キュリアたちは早速、レインに着替えた姿を見せてもらった。
自分たちが貢いだものにレインが包まれている。
ただそれだけで心が満たされるのを感じた。
◇
別の日。
キュリアたちは高級なシーツや枕などを貢ごうとした。
「キュリアさん、こんな高価そうな寝具をいただくわけには……」
「レインさん、実は東の穀倉地から王都に逃げてきた商人たちが、持って逃げてきた商品を売りに出しているのです。ですがこんな時ですから、寝具などは捨て値同然でしか売れません。彼らも生活するお金を得るために必死なのです。レインさんがこの寝具をもらってくだされば、彼らも今日の食べ物に困らなくなるかもしれません。レインさんが今日、このシーツに包まって寝てくだされば、彼らも美味しいごはんが食べられる、かもしれないのです。受け取っていただけますか?」
「よ、よくわからないですけど、僕でお役に立てるのなら、有難く頂戴いたします」
いつも間にか、かなり雑な説得でも納得するようになってきたレイン。
素直に寝具を受け取る。
「ありがとうございます、レインさん」
キュリアたちは自分たちの貢いだシーツにレインが包まって眠るところを想像して、胸が高鳴った。
「キュリアさんたちは、いつも困っている人たちのことを考えていて、素晴らしいと思います。とても尊敬します」
「そ、そうでしょうか?」
ぶっちゃけレインのことしか考えていないキュリアたちだったので、そういうふうに褒められると心苦しい。
「はい、とても素敵です」
「……あ、ありがとうございます///」
キュリアたちは真っ赤になって照れたのだった。
◇
さらに別の日。
「レインさん、実は最近、ブーツの値段も下がっているのです」
「えっ、知らなかったです」
「受け取っていただけますか?」
「はい、もちろんです。僕でお役に立てるのならば、有難く頂戴いたします」
「ありがとうございます、レインさん。あと、ついでにこの剣も受け取っていただけると、とても助かります」
「はい、大切にします」
最早説得らしい説得すらなく、レインはキュリアたちからの貢ぎ物を受け取るようになっていた。
キュリアたちは着実に自分たちの貢ぎ物がレインの周りに増えていくことに、とても興奮した。
◆マフィオ
依頼を終えて王都に戻ってきたマフィオは、早速とばかりにレインに稽古をつけていた。
まずはマフィオが相手になって、総合戦闘術の動きを確認する。
数分後。
「おし、魔術の制御は上手くできているな。脚さばきも良い。だが片手持ちだと、まだまだ剣速に不安が残るようだ。もう少し身体能力が上がるまでは、その戦闘術は実戦で使わない方がいいな」
「はぁはぁ……、す、すみません」
体力に自信のあるレインだが、すでに疲労困憊だ。
「いや、全体的には良い感じだ。その調子だぜ!」
「はい!」
マフィオはその後も、フェムタイ式剣術や帝国式格闘術などの確認を行った。
そして、レインの動きが良くなっていることを確認して、がはは、と笑ったのだった。
◇
稽古を終えて、食堂で休憩する2人。
軽く水分を取り、疲れを癒す。
レインが水を口に含んだとき、不意にマフィオがこんなことを言った。
「そういや最近、セシリアちゃんと仲が良いらしいな?」
「ぶふっ、ごほげほっ、だ、誰に!?」
咽るレインに、何気ない話題のつもりだったマフィオは驚いた。
「さ、さっきナカルドたちが騒いでたぞ。大丈夫か?」
ナカルドたちは声が大きいので、少し離れた所にいても会話が聞こえてくるのだ。
「は、はい、大丈夫です」
「そんなに驚く質問じゃねーだろ?」
「そ、そうですね。セシリアさんには、昔から親切にしてもらっていますし」
レインには別にやましいことなどない、……と思う。
だがなんとなく気恥ずかしい。
なので、この話題を誤魔化そうと思った。
しかし、そこにセシリアが受付から出て近付いてきた。
イタズラを思い付いたような表情。
「レインくーん!」
その弾んだ声と様子にレインは察した。
また変なことをする気だ! と。
「ど、どうかしましたか、セシリアさん?」
「レイン君、私、ちょっとだけ疲れちゃったなぁー(ちら)」
「は、はい」
「レイン君にマッサージしてもらいたいなぁー(ちら)」
「え、えーと」
「今日の夜、レイン君に揉んでもら――」
「わああああっ!? セシリアさん、あっちで話しましょう!!!」
「ひゃぁ、レイン君、今日は大胆ね///」
「あ、いえ、ごめんなさい」
「ううん、いいのよ、さあ、行きましょう」
マフィオは空気を読んで背景になっていた。
そして相変わらず仲が良いなぁと思いつつ、のん気に水を飲んだのだった。
◆忙しいイヴセンティア
戦争の影響で、王都にいる騎士は少ない。
そんなこんなで、隊長職のイヴセンティアには大量の仕事が回ってくる。
端的に言って忙しい。
中央区、女性騎士隊の詰所。
「イヴ隊長、この書類に目を通しておいて下さい」
「隊長、西区の警備に軍の人手を回してほしいと相談がありました」
「隊長、アイシア様の護衛計画書の催促がきています」
次々に降ってくる仕事。
「イヴセンティア様、避難民キャンプの治安維持計画を――」
「ボーディナ殿、東部への食料輸送の費用を――」
「近衛隊長殿、陸戦騎士隊に緊急の言伝を――」
王都には他の騎士隊が残っていないから、近衛騎士に関係のない仕事が大量に回ってくる。
いつまで経っても終わらない。
ここ数日、イヴセンティアの1日の睡眠時間は3時間を切っている。
息抜きの仕方が上手くなったイヴセンティアだが、根が真面目なので、仕事が増えるとつい無理をしてしまう。
「報告を上げてくる」
「イ、イヴ隊長、少し休んだ方が……」
「いや、これくらい大したことはない」
「で、でも」
「平気だ」
他の騎士隊よりも安全な場所で働いているので文句は言わない。
だが本音を言うと、少し息抜きがしたい
いい加減、疲れた。
たまにはレインと遊びたい。
ちょっと愚痴を聞いてもらうだけでもいい。
それだけで元気になれる気がする。
そんなことを考えながら、イヴセンティアは1人、報告を上げるために王城への道を歩いた。
道すがら、1つの商店が目に留まった。
服屋だ。
店の外の棚まで、大量の古着が溢れている。
明らかな供給過多。
これも戦争の影響だろう。
子供向けの古着も多い。
特にイヴセンティアの目を引いたのは、濃紺のシャツとスカート、白いエプロンだ。
手に取って見てみる。
組み合わせると、なんとなくメイド服っぽい。
生地の質はかなり良い。
汚れもなく新品同様だ。
だが小さな子供向けで、かなり小さい。
とてもではないが着ることはできないだろう。
イヴセンティアは服を戻そうとした。
そのとき、遠くから話し声が聞こえてきた。
「今日は、レインくんと『なにごっこ』で遊ぼう?」
「私はまた『執事とお嬢様ごっこ』がいいな」
「お嬢様役のレインくんは、なんかゾクゾクするよね」
カムディア女学院の女子たちだ。
イヴセンティアは服を持ったまま店に入って身を隠した。
知り合いである女子たちに、子供用のメイド服っぽいものを持っているところを見られたくなかったのだ。
「じゃあ第一候補は『執事とお嬢様ごっこ』ね。他には?」
「うーん、『英雄と民衆ごっこ』は?」
「ず、ずいぶんと渋いチョイスだね」
きゃあきゃあ騒ぐ女子たち。
楽しそうだ。
今からレインと遊ぶのだろう。
羨ましい。
自分も混ざりたい。
イヴセンティアはなんとなく惨めな気持ちになった。
大貴族だの騎士隊長だのと呼ばれても、本当に自分がしたいことは1つもできない。
戦争なのだから、忙しいことは仕方がない。
でも、たまには息抜きがしたい。
少しでいい。
レインと遊びたい。
ぎゅ――。
「あ」
うっかり、手に持った服をシワだらけにしてしまった。
「はぁ……」
イヴセンティアは溜息を吐き、手に持っていた服を購入した。
小さくて、とても着ることはできない。
無駄な買い物だ。
手直しすれば着られるだろうか。
袖は邪魔だ。
シャツは、このままだと胸が苦しい。
スカートは……。
そんなことを考えつつ、仕事に戻ったのだった。
◆おっぱいを揉むとか揉まないとか
ある日。
レインとエルトリアが会話を楽しんでいたら、遠くからオーファが歩いてきた。
だが、少し様子がおかしい。
いつもきらきらと輝くぱっちりと大きな綺麗で可愛い瞳から光が消えている。
明らかに元気がない。
しかも、「あたしもまだなのに、あたしもまだなのに、あたしもまだなのに、あたしもしてほしい、あたしもまだなのに、こうなったらむりやりにでも、いやだめだ、でも、あたしもまだなのに、あたしもまだなのに、あたしもしてほしい」とブツブツ言っている。
なにかあったに違いない。
レインはその異常事態を見て、慌てて駆け寄った。
「オーファなにがあったの!?」
「あ、レイ……。ねえ……、お姉ちゃんと裸で抱き合っておっぱいを揉みながらお口をぺろぺろして子供を作ったって本当?」
「本当なわけないでしょっ!!?」
レインは、またナカルドたちか! と察した。
「そうなの?」
「そうだよっ!?」
「でも、お姉ちゃんのおっぱい、揉みたいでしょ?」
「そ、そんなことは……」
ない、とは言い切れない。
「あたしのおっぱいも、揉みたいって思ってくれる?」
「それは」
揉みたいに決まっている。
正直、セシリアよりオーファのを揉みたい。
レイン的には、セシリアはそういう目で見てはいけない相手で、オーファは将来そういうことをしたい相手なのだ。
だが、だからといって、素直に「揉みたい!」と言って良いわけがない。
しかし、「揉みたくない」と言ってしまうのも憚られる。
どうすればいいんだ!
そんなふうにレインが葛藤する様子を見て、オーファは少し元気になった。
やっぱりレインの一番は自分なんだと察し、瞳に光が戻る。
オーファはゆっくり歩いて来るエルトリアを指しながら、レインに問いかけてみた。
「レイ、エルのおっぱいを揉んでみたら?」
「揉まないよっ!?」
即座に否定するレインに、オーファは気を良くした。
やっぱり自分がレインの一番なのだと確信して、満面の笑顔になる。
そして、ようやく追いついてきたエルトリアに向かってこう言った。
「やっぱりレイはエルのおっぱいには興味ないってさ!(ぷーくすくす)」
「突然ひどいですぅっ!?」
エルトリアは突然の揶揄いに、びっくりですぅっ! と驚いたのだった。
◆レインの卒業試験
今日は休日だが、レインは学院の面談室に呼び出されていた。
そこで卒業試験についての説明をされているのだ。
最初にお茶を勧められ、それから資料を渡された。
渡された紙には、『敵占領地の偵察任務』と書かれていた。
試験の大まかな内容は以下の通りだ。
・獣人連合国に占領された東部市街地に乗り込み、有益情報を確保。
・任務は極秘であるため、誰にも知られてはならない。
・経費は自己負担すること。
レインは試験の内容に驚いた。
経費自己負担はいつものことなので驚かないが、ただの学生でしかない自分が、実際に前線の偵察を行うことに驚いたのだ。
どう考えても危険だろう。
それに素人が前線に出張ってしまうと、本職の軍人たちの邪魔になりそうだ。
色々考えて不安になってしまう。
そんなレインの様子を見つつ、理事の男が説明を始めた。
「試験の内容に驚くだろうが、これくらいの試験はよくあることだ。文面から受けるほど難しくないから、気楽に行けば良い」
「そういうものですか?」
「ああ。毎年これくらいの難易度の試験は出されている。だが問題が起きたことは1度もない。今年も、君以外の数名が同じ試験を受ける予定だ。安心して敵占領地の偵察を行え」
「そ、そうだったのですね」
納得するレイン。
もちろん理事の話は大嘘である。
だがレインにはそれを知る由もない。
疑う理由もない。
それに、兵士には「なぜ」を問わずに任務に当たることが求められると授業で習った。
部下が上官の命令にいちいち反発していたら、とてもではないが軍が成り立たなくなってしまうからだ。
レインは湧き出る疑問を飲み込み、理事の男の説明に耳を傾けた。
「偵察を行うのは、敵に占領されたクワティエロの街だ。数年前から陸戦艇の造船街として知られている街だな。クワティエロの手前にあるトーレの街には、王国軍が駐留している。試験は極秘任務を想定しているから、王国軍にも知られてはならない。だから、トーレのさらに直前で南下して、そこから『海の森』に入れ。『海の森』の中を通り、トーレを迂回しつつクワティエロに潜入しろ。出発は明日の――」
――と説明が続けられた。
◇
説明は長く続いた。
メモを禁止されているので、レインは必死に頭に叩き込む。
面談室にいたのはレインと理事の男、2人だけだ。
この情報がどこかに漏れることはない。
そのはずだった。
だが実は、その説明を聞いている者が他にもいた。
面談室の前で、こっそり盗み聞きをしているエルトリアだ。
レインと一緒に試験を受ける気でいるのだ。
エルトリアには、すでに別の試験内容が言い渡されている。
その試験内容は、『誰かの試験の手伝い』だ。
絶対に不合格にならない試験内容である。
理事たちは、もし第一王女のエルトリアが卒業試験に落ちたら面倒だと考えた。
なので、絶対に合格できるような試験内容に決めたのである。
王立学院ではよくあることだ。
そんなわけで、エルトリアはレインの試験の手伝いをすることを、試験を言い渡された瞬間から決めていたのである。
しかし、まだレインにはその話をしていない。
レインに「手伝います」と言っても、きっと遠慮されてしまうからだ。
なので、本来の試験内容を伏せたまま、「わたくしも、レイ君と同じ試験ですっ!」と言い張るつもりなのだ。
面談室では説明が続いている。
エルトリアの位置からでは、試験の内容をすべて知ることはできない。
だが敵占領地への偵察ということはわかった。
それなら、きっとレインの役に立てるとエルトリアは思った。
エルトリアには、長年の訓練で身に着けた遠距離からのスキル鑑定技術と、獣人用のスキル辞典から得た知識がある。
遠視の魔術も得意だ。
だから自分がいれば、レインがわざわざ敵に近付かなくても、遠くから安全に偵察をできるだろうと考えた。
エルトリアはレインの邪魔をしたくない。
なので、レインの邪魔になりそうなら、無理についていく気はなかった。
だが試験内容的に、レインの役に立つことができそうだと思った。
自分がいればレインへの危険を減らせるはず。
となれば最早ついていく以外の選択肢はない。
出発は明日の早朝、東門から。
エルトリアはそっと扉を離れ、準備のために動き出したのだった。
◆いきなり個性を盛られるカム女っ娘
レインが卒業試験の説明を受けているころ。
東区の公園で1人のカムディア女学院の女子が大泣きしていた。
「びええええんっ!」
オーファの友達の、ミディアという名前の女の子だ。
オーファは基本的に面倒見が良い。
なので、一応心配して声をかけてみた。
「どうしたのよ、ミディア?」
「ぐす、お、お母さんが!」
「どうしたの!? も、もしかして、おばさんになにか良くないことが?」
「ぐす、うん、お母さんがっ、お母さんが私の髪を切りすぎちゃったの、びええええんっ!」
ガクっと力が抜けるオーファ。
言われてみると、ミディアの髪は確かに短い。
「お母さんが、『あ、失敗しちゃった、ちょっと周りも短く切って整えるわね。あ、また失敗しちゃった。ごめんごめん。あ、また』って何回も何回も何回もおおおおおやだよおおおおっ、こんな髪じゃ、レインくんに会いに行けないよおおおお、びえええええんっ!」
「レイは髪が短いくらい、気にしないと思うけど?」
ミディアは元の顔が良いので、髪が短くても可愛い。
ショートヘアも結構似合っている。
だから気にしなくても良いんじゃないかとオーファは思った。
しかしミディアはそうは思わなかった。
「ちょっとオーファちゃんっ! こんな髪型で、レインくんに『男の子みたい』って思われたらどうするの!? オーファちゃんだってレインくんにそんなこと思われたら嫌でしょっ!? ただでさえ私は普段からズボンなんか穿かなきゃならないのにもおおおおやだあああああっ!!」
凄まじい剣幕からの、悲痛な嘆き。
ミディアは家の手伝いをするために普段からズボン姿だ。
制服以外にはスカートを買ってもらえないらしい。
当然、今もズボンを穿いている。
そのせいで、顔は可愛いのだが、男の子っぽい気がしなくもない。
あまりにもミディアが嘆くので、オーファも可哀想になってきた。
「な、なんかごめん、適当なこと言ったかも?」
「かもじゃないよ! オーファちゃんは世界最高峰って言われるほどの美少女だからわかんないんだよ! だって、どうせどんな髪型でも似合うんだもん! どうなっても可愛いに決まってるもん! なに着たって綺麗だもん! スタイルだって抜群だし! ずるいよ! いつもレインくんと一番仲が良いし、いちゃいちゃしてるし! 私もいちゃいちゃしたいもおおおおおこんな髪やだよおおおおっ! びえええええんっ!!!」
褒めているのか、怒っているのか、妬んでいるのか、よくわからないことを言って、再び大泣きするミディア。
「そんなに嫌なら、カツラとかウィッグとか買えば良いじゃない?」
「ぐす、ひっく……、そんなお金、持ってないもん……」
「ほら、元気だしなさいよ。カツラやウィッグの1つや2つくらい、あたしが買ってあげるわ」
実はオーファは年齢のわりに金持ちだ。
実力があり、容姿に優れ、知名度もある。
なにをやっても花があるし、目立つ。
立っても、座っても、歩いても、花があり、目立つ。
なので、『高級レストランに座っているだけ』という指名依頼が来たりする。
オーファが1時間ほど1人席に座っているだけで、集客効果が凄まじいのだ。
だからそんな簡単な依頼で、高額な報酬がもらえるのである。
すでにレインとは稼ぎの桁が違う。
「ぐす、で、でも、オーファちゃんに悪いし……」
「遠慮しなくてもいいわ。さあ、いくわよ」
「う、うん、オーファちゃん、さっきは変なこと言ってごめんね?」
「気にしてないわ」
そう言うオーファ。
実は気にするどころか、少し機嫌が良い。
「レインくんと一番仲が良い」と言われて、内心で浮かれているのだ。
そんなこんなで、2人は商店街へと向かったのだった。
◆あとがき
クワティエロとかトーレとかいう街の名前が出てきました。
これはイタリア語の数字、クワットロ(4)とトレ(3)から取ってます。
王都から遠ざかるほど、数字が大きくなっていく感じです。
王都→ウノ(1)の街→ドゥーエ(2)の街→トーレ(3)の街→クワティエロ(4)の街
こんな並び順です。
一章で出てきたトロワの街は、フランス語の数字トロワ(3)から取ってます。
王都から北にある、3つ目の大きな街ということです。
以下、ネタバレを含む注意事項。
次話、レイン君がミディアちゃんを男だと間違えて、オーファちゃんが知らない男と仲良くしていると勘違いします。
それから数話ほどレイン君がちょっとモヤモヤしますので、そういうのが苦手な人は注意です。




