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54:穏やかな昼

 王立学院、昼。

 お弁当の時間である。

 レインたちがいるのは教室ではなく、校舎に併設されているテラスだ。


 このテラスは社交の授業などにも使われるため、それなりに広い。

 レインと女子たちは1、2年ほど前からこの場所でお昼を過ごすようになっていた。


 お昼になると他の学年の女子まで集まってくるせいで、教室だと狭すぎるからだ。


 エルトリアたち高等部の女子だけではなく、アイシアを筆頭とする中等部の女子、さらにはなぜか初等部の女子まで集まってきているのである。

 流石に教室には入りきらない。


 そんなわけで、いつもお昼になると、全員でテラスに集まっているのだ。

 ちなみにレインは、エルトリアが人気者だから女子が集まってくるのだと思っている。

 エルトリアは人当たりも良く、優しく、賢い。

 それに今やオーファと同じく、『三優美女』の1人と謳われるほどの美貌を持っている。

 銀髪碧眼の賢く美しいお姫様。

 男子だけではなく、女子が憧れるのも頷ける。


 「レイ君、ぜひわたくしの隣へ」

 「はい、エルトリア様、失礼します」


 レインはエルトリアに誘われるまま丸テーブルの席に着いた。

 セシリアが持たせてくれた包みを広げ、弁当を取り出す。

 今日も手の込んだ美味しそうなお弁当だ。

 毎日、弁当を用意してくれるセシリアには感謝してもしきれない。


 エルトリアも自分の弁当を取り出し、中を吟味する。

 そして手頃なおかずを見つけると、それをフォークで刺した。


 「レイ君、はい、あーん」


 そう言いながら、レインの口もとへとおかずを運ぶ。

 エルトリアはとても嬉しそうな表情だ。


 いつの頃からか、レインの隣に座った女子はレインに「あーん」をしても良いという、暗黙のルールができあがっていた。


 とはいえ流石に毎日のように「あーん」されるわけではない。

 あくまで時々だ。


 ぶっちゃけレインとしては、他の女子が見ている前で「あーん」されるのはかなり恥ずかしい。

 だがしかし、当然レインには「あーん」を断ることができない。


 「あ、あーん」


 大人しく口を開け、ぱくりと食べる。

 するとエルトリアは、ますます嬉しそうな笑顔になった。

 思わず見惚れてしまいそうな可愛らしい笑顔だ。


 「ありがとうございます、レイ君」


 レインは、お礼を言うべきなのは自分の方ではないだろうかと不思議に思った。

 だがエルトリア以外の女子も、「あーん」の後にはお礼を言ってくる。

 なので、間違っているのは自分の常識なのだろうか、とも思ってしまう。

 とはいえ、「あーん」をしてもらってお礼を言わないというのはどうにも落ち着かない。

 そんなわけで結局、レインもお礼を言うのだった。


 「美味しかったです、エルトリア様。ありがとうございます」

 「レイ君に喜んでもらえると、わたくしも嬉しいです!」


 笑顔を向け合うレインとエルトリア。

 そんな2人のやり取りを、他の女子たちは羨望の眼差しで見ている。


 テラスの丸テーブルは3人掛けだ。

 レインと同席できる椅子はあと1つ空いている。


 じりじりと牽制し合う女子たち。


 そのとき、その空いている席の傍に1人の女性が立った。

 オーファとエルトリアに並ぶ、もう1人の『三優美女』と謳われている女性。

 艶のある黒髪、碧眼。

 イヴセンティアだ。


 イヴセンティアはすでに学院を卒業している。

 今は近衛騎士として、エルトリアの護衛のために学院まで同行しているのだ。

 騎士の制服がよく似合っている。


 「エルトリア様、私もご一緒によろしいですか?」

 「はい、イヴセンティアさん」


 イヴセンティアとエルトリアは普段から仲が良い。

 だがそれでも礼儀を欠いたりはしない。

 親しき仲にも礼儀ありだ。


 「レインもいいか?」

 「もちろんです、イヴ先輩」


 近衛騎士隊の仕事はエルトリアやアイシアを守ることだ。

 普段からこうして傍に付き添って護衛している。

 部下の女性騎士たちも一緒だ。


 近衛騎士隊はまだ新しい部隊だが、美女ばかりの部隊としてすでに有名になっている。

 当たり前だが、偶々偶然たまたまぐうぜんに美女ばかりになったわけではない。

 人員選出の際に、『容姿』という項目が重視されたのだ。

 理由は多々あるため一概にはいえない。

 巷では、姫の護衛だから容姿が重視された、式典での見栄えのため、などの理由が知られている。


 そんな美女騎士たちが、席に着いたイヴセンティアに群がり、なにやら小声で話しかけ始めた。


 「イヴ隊長ばっかりレインくんと仲良くしてずるいですよ」

 「この前だって、隊長だけレインくんと仲良くしていたじゃないですか」

 「たまには私たちにもレインくんを譲ってくださいよ、隊長」


 口々に自分もレインと仲良くしたいと抗議する女騎士たち。


 隊長ことイヴセンティアは、それを適当に手で払いのけた。


 「うるさい、エルトリア様の前だぞ。早く自分たちの食事を済ませろ」


 取り付く島のないイヴセンティアの様子に、女騎士たちは渋々と近くの席に腰かけた。

 だがいつものことなので、こんな程度で嫌な空気にはなったりはしない。

 部隊仲はとても良好なのだ。


 イヴセンティアは、やれやれと頭を振りながらレインへと声をかける。


 「おいレイン、あいつらに不用意に近付くなよ。男と手を繋いだこともないくせに、変な知識ばっかり持ってるから危険だぞ」


 そう言われても、レインとしては素直に頷きづらい。

 近衛騎士たちは、いつもとても親切にしてくれるのだ。


 「えっと、皆さん、とても優しくて強い、尊敬できる方たちばかりですよ」


 レインがそう言うと、女騎士たちは顔を綻ばせて喜んだ。

 その顔は凛々しい騎士というより、ただの初心うぶな乙女だ。

 うっとりとレインの横顔を見つめている者までいる。


 そんな部下たちの様子に、イヴセンティアはダメだこりゃと言わんばかりの微妙な顔になった。

 それからまた、やれやれと頭を振り、自分の弁当を食べたのだった。



 「お兄様、わたしも一緒がいいです!」


 そう言いながら、アイシアが素早くレインのひざに跨った。

 背中を預けるのではなく、向かい合うように座る。

 巷では『恋人座り』などと呼ばれる座り方だ。


 ちなみに、レインとアイシアの年の差は2才ほど。

 あまりにも年齢が近すぎる。

 この座り方はいろいろと不味い。


 「アイシア、レイ君が困っているから降りなさい」


 エルトリアがやんわりと注意すると、アイシアは潤んだ瞳でレインを見つめた。


 「うう、お兄様、わたしにこうされるのはお嫌ですか? ご迷惑ですか?」


 不安そうで、泣き出しそうな表情。

 ちなみに全部演技である。


 アイシアはレインがこういう仕草に弱いことを知っているのだ。

 自分が可愛い女の子であることを理解して武器にしている。

 実にあざとい。


 案の定、レインは「嫌だ」とも「迷惑だ」とも言えない。


 「め、迷惑なんてとんでもないで――」

 「わぁい、お兄さま、ありがとうございます♡」


 レインが言い終わる前に、アイシアはコロッと笑顔になって抱き着いた。

 レインの首に腕を絡みつけ、身体を押し当てるように密着する。

 ちなみに、アイシアの背はあまり高くないが胸はそれなりにある。

 やはりこの座り方はいろいろと不味い。


 「アイシア、怒りますよ?」

 「はーい、ごめんなさい、お姉様」


 エルトリアにとがめられたアイシアは、すぐにレインから離れた。

 不興を買いすぎないことが世渡りのコツなのだ。


 そんなアイシアの行動を、中等部のカルアたちがじぃっと見ていた。



 お昼休み、終盤。

 キュリアがそっとレインへと近付き、声をかけた。

 今日も金色の巻き毛が見事に決まっている。


 「レインさん」


 突然ひざに跨ってこないし、抱き着いたりもしてこない。

 とても常識的な声のかけ方だ。

 それが当たり前のことなのだが、なぜかレインは安心感を覚えた。


 「なんでしょうか、キュリアさん」

 「明日の放課後、私の家でお茶会を開くのですが、もし良ければレインさんにも参加していただけないかと思いまして」


 レインは、それなりにキュリアたちとも仲良くなったと思っている。

 だが、お茶会に呼ばれるのは初めてだ。


 「お茶会ですか?」

 「そうです。小さなお茶会ですが、ご迷惑でなければ、ぜひ」


 迷惑だなんて微塵も思わない。

 これといって断る理由もない。

 なのでレインはその誘いを受けることにした。


 「お誘い、ありがとうございます。喜んで参加させていただきます」

 「ありがとうございますレインさん。心ばかりの贈り物も用意しておきますので、楽しみにしていてください」


 そう言ってしとやかに笑うキュリア。


 その様子を、カルアたち中等部の女子がひそひそと話し合いながら見ていた。

◆あとがき


3章のタイトル『大好きを君に』。


そこは『愛してるを君に』の方がいいのでは?

と、思う人もいるかもしれません。


しかしこの作品の世界には、


『愛こそが世界で一番美しい感情だ!』

『愛さえあれば皆救われるんだ!』

『愛は無条件で素晴らしい!』


みたいな宗教観や価値観はありません。

(仏教の宗派によっては、愛は執着心に結びつくので悪という考えがあるとかないとか←よく知らない)


そんなこんなで『大好き』が感情表現の最上級になってきます。

(作中で『愛おしい』という言葉を3度ほど使ってますが、これは『可愛がりたい』や『大事にしたい』という意味ですので、好きという意味とは違います)



一応ですけど、作者は『愛』をテーマにした作品が大好きです。

作者の汚れた心が癒されるような素晴らしい作品ばかりです。


ですが、この作品での中では『愛こそが至高』という価値観はありません。


その理由は、エルトリア様がレイン君を『幸せ』にしたいと考えていることにあります。

後々重要になってくるのは『幸せ』とは何なのかということです。


ハーバ○ド大学が75年間もかけて研究した結果、『幸せとは愛である』という結論になったらしいです。


愛こそが至高と言う世界観だと、エルトリア様の思考も同じ方へ向かいそうですよね。

それだと作者が困るんです。


なので、この作品では『愛こそが至高』という価値観がないのです(ぶっちゃけ全部、作者の都合)。



Q:恋愛タグついてるのに、そんなんでええのん?

A:う、うーん(・ω・`;




余談、たまにエルトリア様がお天気の話をしています。

天気を気にする挨拶などは、農耕民族の特徴です(日本人など)。


エルトリア様たちは農耕民族ではないのですが、あまり言葉の意味合いを変え過ぎると話がややこしくなりすぎるので、『愛してる』などの特別な言葉以外は普通の日本語感覚で使かっています。

だから、「いただきます」や「もったいない」などの日本特有の言葉もガシガシ使います。

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