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48:できないから

 オーファとエルトリアに腕を引かれて歩いていたレインは、中央区から東区に渡る橋の手前で、新聞記者のキャメルドと出会った。


 「レイン君、こんにちは」

 「キャメルドさん、こんにちは」


 挨拶を返したレインだったが、両腕をそれぞれ抱きしめられているので、腰を折ってお辞儀をすることはできなかった。

 仕方がなく、目を伏せて、頭だけを軽く下げる。


 「ははは、レイン君は女の子にモテるんだね?」


 キャメルドは、レインが女の子2人に抱き着かれて困っている姿に、微笑ましいものを見るように笑った。

 キャメルドから見たレインは、いつも清潔感があって礼儀正しく性格も良い。

 だから、見る目のある女の子にモテるのも当然だろうと思った。

 そして、やんちゃだった自分とは大違いだと思い、少しだけ自嘲的な気分になったのだった。


 「2人ともとても親切で、僕なんかにも優しくしてくれるんです」


 謙遜ではなく、本心からそう思っているレイン。


 キャメルドは改めてレインの腕に抱き着いている女の子へと目をやった。

 そして、ぎょっと目を見開いて驚いた。


 「ま、まさかエルトリア様と神童オーファさんかいっ!?」

 「そうです。流石キャメルドさんは女の子にも詳しいですね」

 「あ、いや、別に女の子だから知っていたわけじゃないんだけどね」


 とほほ、と苦笑するキャメルド。


 「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですけど」


 レインは言葉の配慮が足りなかったことに気が付き、すぐに謝った。

 だが、やはり腰を折って謝ることはできなかった。


 「ははは、気にしなくてもいいよ。それにしても、すごい組み合わせだね。3人は仲が良いのかい?」

 「う、うーんと……」


 レインは答えにきゅうした。

 レイン自身は2人と仲が良いと思っている。

 だがオーファとエルトリアが仲が良いとは思えなかった。

 しかし、だからといって、「仲が悪い」と言うのもはばかられる。


 キャメルドはそんなレインの様子に、モテる男の子も大変なんだなぁ、といろいろなことを勝手に察した。

 3人の関係性が気にならないといえば嘘になるが、それを追及したりはしない。

 有名人の私生活を暴くなんてことは、誇りある王立新聞記者の仕事ではないのだ。


 とはいえ、せっかくだから大人として、この子供たちになにかしてあげたいという気持ちも湧いてくる。

 なにかできないだろうかと考えて、1つの案が浮かんだ。


 「そうだ、せっかくだから3人の写真を撮ってあげようか?」

 「いえ、そんな――」


 ――悪いですから。

 とレインが遠慮する前に、今まで黙っていたオーファとエルトリアが、


 「仕方がないから、撮らせてあげるわ!」

 「よろしくお願いします!」


 と声を上げた。

 3人一緒の写真というより、レインの写真が欲しいのである。


 「そ、それじゃあ、魔術具の用意をするから、少し待っていてね」


 女の子2人の勢いに驚いたキャメルドだったが、気を取り直して魔術具を用意し始めた。

 背中に背負っていた大きな魔術具を下ろし、布袋から本体を取り出してからレンズを取り付け、脚を立て、少しづつ丁寧に組み立てていく。


 「やっぱり、写真撮影用の魔術具って大きいですね」

 「そうだね。だけど、これでも大分と小さくなったらしいよ。もともとはこの3倍くらいの大きさがあったらしいからね。魔力による射影の疎外を防ぐには、どうしてもこれくらいの大きさが必要なんだよ」


 ガチャガチャと魔術具を組み立てながら、魔術具の仕組みを説明するキャメルド。


 だが女の子2人はその話をまったく聞いていない。

 レインの腕に抱き着いたまま、自分の髪をせっせと整えている。


 そうこういている内に、キャメルドが魔術具を組み立て終えた。


 「よし、できた。それじゃあ、そっちの方に立ってくれるくれるかな?」


 そう言いながら、キャメルドが川沿いの並木の辺りを指さした。

 どうやら背景や光の角度など、素人にはわからない拘りがあるようだ。


 レインたちは大人しくキャメルドに言われた場所まで移動した。

 レインの腕は2人に抱きしめられたままだ。


 「キャメルドさん、この辺りでいいですか?」

 「うん、いいよ。それじゃあ、いいかい? 3、2、1で撮るからね?」

 「はい」

 「いくよ、3、2、1!」


 レンズの辺りに魔術陣が浮かび上がり。


 ――カシャ! カシャ! カシャ!


 と、小気味良い音が3回連続で鳴った。

 これで撮影が終わったらしい。

 準備に時間がかかった割に、撮影そのものは一瞬で終わった。


 「写真って、思ったよりも簡単に撮れるものなんですね?」

 「そうだね。あ、ちょっと待っててね」


 キャメルドが魔術具をガシャガシャと操作すると、手のひらほどの3枚の紙が出てきた。


 キャメルドはその紙を抜き取ると、軽く振って風に当てたり、太陽にかざしたりした。

 そしてその出来栄えに納得すると、写真をレインたちへと差し出した。


 「…………これでよし。はい、どうぞ」

 「ありがとうございます、キャメルドさん」

 「ありがと」

 「感謝致したします」


 それぞれにお礼を言って写真を受け取る3人。

 流石に写真を受け取るときには、レインの腕は解放されていた。


 レインが写真を見ると、当たり前だが、そこには自分たちの姿が移っていた。

 こうやって紙に写った自分を見るのは、なんだか不思議な気分だった。


 写真に写ったレインの表情は少し緊張している。

 オーファやエルトリアは余裕のある表情だ。


 レインは折角の写真が折れ曲がったり汚れたりしないように、慎重に手荷物の中にしまった。

 オーファとエルトリアも、大事そうに写真をしまっている。


 「キャメルドさん、素敵な写真をありがとうございます」

 「ははは、喜んでもらえて嬉しいよ」


 レインが改めてお礼を言うと、キャメルドは朗らかに笑ったのだった。



 キャメルドと挨拶をしてわかれたレインたちは、家へと帰り着いた。


 家の前で、オーファとエルトリアが揉めている。


 「なんであたしはレイの部屋に上がっちゃダメなのよっ!」

 「オーファさんがいると、わたくしとレイ君が2人っきりになれないからです!」


 『スキル共有』のことをオーファに知られるわけにはいかない。

 だからスキル鑑定はレインとエルトリアの2人だけじゃないと不味い。

 オーファに詳しい理由を説明するわけにもいかない。


 だが理由も言わずに2人っきりになろうとするなんてことを、オーファが黙って見ているはずもない。


 「あんたレイと2人っきりになって何するつもりよ? エッチなことをする気じゃないでしょうね!?」

 「さあ、どうでしょう」


 うふふと上品に笑って真相をはぐらかすエルトリア。


 その様子に、オーファは以前レインにしてもらった、スキル鑑定の再現を思い出した。

 自分がベッドの上に寝かされて、レインが跨ってきて、顔を近づけて――。


 また2人であれと同じことをする気なのかもしれない。

 そう思うと、いてもたってもいられない。


 「あ、あたし知ってるんだからね! 前にもあんたがレイの部屋に来て、エッチなことをしてたの!」

 「羨ましいのですか?」


 エルトリアが静かに尋ねた。


 羨ましいに決まっていると、オーファは思った。

 自分だってレインといろいろしてみたい。

 だが、レイン本人がいる前でそんなこと言えない。

 恥ずかしいし、浅ましい女だと軽蔑されるかもしれない。

 だから、


 「べ、別にあたしは羨ましくなんか」


 つい本心とは違うことを言ってしまう。

 素直に「羨ましい」と言えない。

 ふと、


 『もっと素直にならないと他の娘に取られちまうぜ』


 以前そんなことを言われたのを思い出した。

 オーファの心がざわつく。


 「なら、わたくしとレイ君の邪魔をしないでいただけますか?」


 冷めた目でオーファを見るエルトリア。


 オーファはなにも言い返せなかった。

 羨ましくないなら邪魔するな、なるほど、その通りだ。

 たった一言、素直に言えなかっただけなのに。

 このままじゃレインを盗られる。

 そんなの嫌だ。


 オーファはすがるような気持ちでレインへと顔を向けた。


 だが、


 「ごめん、オーファ」


 レインはそれだけ告げると、オーファから顔を逸らした。

 その横顔はとても辛そうだった。


 オーファは自分がレインにそんな顔をさせてしまったことが辛かった。

 レインの平穏な生活を守りたいのに、逆に苦悩を与えてしまった。


 「わたくしたちが2人っきりになることは、レイ君を守る・・ために必要なことです」


 エルトリアの静かな声。


 レインを守る。

 自分じゃなくて、エルトリアがレインを守る。

 そんなの嫌だ。


 「あたしじゃ、ダメなの?」


 レインへと問いかけたオーファの声は、かすかに震えていた。


 レインは、ちらりとオーファの顔を見た。

 不安そうで、泣きそうな顔。

 そんな顔を見たら「ダメだ」なんて言えない。

 だから、


 「……」


 なにも言えなかった。


 代わりにエルトリアが答えた。


 「これは、わたくしにしかできないことです」


 言い聞かせるようにゆっくりとした言葉。


 オーファが、レインを見つめながら言った。


 「あたし、レイがして欲しいなら、なんでもするよ? なんでも……」


 いじめっ子を殺して欲しいなら殺す。

 死んで欲しいなら死ぬ。

 なんだってする。

 なんだってできる。

 そのために強くなった。

 レインのためだけに。

 全部、レイン1人のためだけに。

 なのに、


 「……ごめん」


 レインがまた辛そうに謝ってしまった。


 オーファはこれ以上レインを苦しめたくないと思った。

 でも知りたい。

 最後にこれだけは教えて欲しい。


 「ふたりで、キス、するの?」

 「しないよ」


 頭を振って否定するレイン。


 「でも、一度はしたのよね?」

 「……」


 黙ったまま俯くレイン。


 オーファは自分が邪魔者なのだと悟った。


 「ごめんね、レイ。困らせちゃって。あ、あたし、ぐす、あたし、いくね」


 思わず涙が零れそうになる。

 だから走った。

 全力で。


 オーファの震える声に、レインの胸は張り裂けそうになった。

 耐えられない。


 「待って、オーファ!」


 オーファへ手を伸ばす。

 だがオーファの速さには届かず、伸ばした手が空を切った。


 慌ててオーファを追おうとするレイン。


 しかし、エルトリアがレインの身体にしがみつき、それを止めた。


 「レイ君!」

 「エルトリア様、オーファがっ! オーファっ!」


 誰よりも大切な一番の友達。

 唯一無二の親友。

 かけがえのない家族。


 そんなオーファを泣かせてしまった。

 そのことに、レインは取り乱した。

 心をかき乱した。


 だが、すでにオーファの姿は見えなくなってしまった。



 「ごめんなさい、レイ君」

 「エルトリア様が謝ることなんてありません。悪いのは僕です。全部、僕が」


 エルトリアに止められていなくても、オーファに追いつくなんて不可能だ。

 そんなこと、冷静に考えればすぐにわかる。

 だからエルトリアはなにも悪くない。


 それに、もとをただせば、スイとキスしてしまった自分が悪い。

 『スキル共有』なんて厄介なスキルを持っている自分が悪い。

 いつもオーファの優しさに甘えている自分が悪い。


 レインは己の不甲斐なさに、自らを殴り飛ばしたくなった。


 エルトリアは、そんな悲痛なレインの顔に心を痛めた。

 そして、オーファという女の子が、いかにレインの中で大きな存在なのかを思い知った。

 レインを幸せにするためには、オーファという存在を欠かすことができないことを思い知った。


 そのことが、悔しかった。


 「レイ君、早くスキル鑑定を終わらせましょう」


 淡々と告げるエルトリア。


 『獣人用のスキル辞典』は使節団から借りているだけなので、今日中に返還する取り決めになっている。

 だから今日を逃すと、次はいつスキル鑑定を行えるかわからない。


 「……はい、よろしくお願いします」


 レインはオーファを追いかけたい気持ちを必死で抑え着けていた。

 だってわざわざエルトリアが自分のためにここまで来てくれたのだ。

 だというのに、そのエルトリアを放り出して、街を駆けまわるわけにはいかない。

 そう自分に言い聞かせる。


 そんなレインに、エルトリアは優しく微笑みかけた。


 「スキル鑑定が終わったら、オーファさんを探しましょう。大丈夫です、妖精のスキルなんて、あっという間に鑑定して見せます」


 すでに鏡で自分のスキルを見て、ある程度は解読できているのだ。

 それに『スキル共有』のスキル紋ほど複雑でもない。

 鏡越しでさえないのならば、素早く終わらせてみせる。


 「っ! はい、エルトリア様!」


 レインが元気を出してくれた。


 そのことが、エルトリアは嬉しかった。


 だが、少しだけ。

 ほんの少しだけ、寂しくも感じた。

◆あとがき


`・ω・)子供の頃に3人で撮った写真だって!?

`・ω・)きっと重要アイテムに違いない!


ぶっちゃけエロ本ほど重要じゃないです^q^;



そんなこんなで、この作品に出てくるカメラ(魔術具)は大きいっていう設定なのですが、それには深い理由があるのです。


それは、


『もしも小型のカメラが存在すると、ヒロインが盗撮されそうで嫌』


という重要かつ重大な理由です。


もし小型のカメラがあったら、スカートの中、更衣室、浴室、濡れ場。

盗撮され放題かもしれないわけですよ。

作者は変態なので、例え可能性であっても、そんなことは許せません。


だから、大型のカメラしか存在しないという設定なのです。


もしかしたら、

「そもそもファンタジーにカメラなんて無くてもええんちゃうん?」

と思う、真面目で善良な方もいるかもしれません。


でも、

「カメラが無いとエロいシチュエーションが減るやん!」

と思う、猥褻わいせつで卑猥な顔の作者もいるのです。



つまり、全部変態な作者が悪いのです(・ω・´)←

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