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46:模擬戦

 臨時講師の騎士が前に立ち、自己紹介を始めた。


 「陸戦騎士隊所属のザブード・リッター・サウスレイクです。今日は皆さんの臨時講師を務めることになりました。よろしくお願いします」


 流麗な所作でお辞儀をするザブード。


 レインはザブードに見覚えがあった。

 かつて橋の上で起きた酔っ払い同士の喧嘩を、華麗に収めていた騎士だ。


 レインはその事件が切っ掛けで、騎士という存在に憧れを抱くようになった。


 「それでは中等部の男子生徒は、1人ずつ順番にザブード殿の前へ! それ以外の生徒は、邪魔にならないように下がれ!」


 教員の指示で、生徒たちがザブードを中心に輪のようにが広がった。


 「順番に」と言われた場合、いつもレインの順番は最後に回される。

 なので、レインの出番は最後だ。


 獣人や教員たちは、離れた場所にある高台に移動していた。

 そこから見学するようだ。

 エルトリアもその高台にいる。

 お姫様の役目をこなすのも大変そうだ。


 レインは、生まれて初めて見る獣人も気になったが、それよりも憧れの騎士への関心が勝った。

 ザブードの動きが見やすい場所に移動し、一挙手一投足を見逃さないように集中する。


 遠巻きに広がった円の中から、1人の男子がザブードの前に歩み出た。

 中等部の男子生徒だ。

 木剣と木盾を構えている。


 騎士剣術には必ず盾が用いられるわけではない。

 だが、王立学院では伝統的に盾を用いた騎士剣術が教えられている。


 「それでは始めようか」


 ザブードのその声で、一人目の生徒との模擬戦が開始された。

 模擬戦とは言っても、目的は生徒の力量をはかることだ。

 一瞬で決着が着いてしまっては意味がない。


 なのでザブードは攻撃を行わず、生徒の攻撃をさばくことに徹している。


 ザブードの動きに淀みは無く、かなりの余裕が感じられる。

 剣と盾を華麗に使い、最初の立ち位置から1歩も動くことなく、すべての攻撃をいなしている。

 当たり前だが、生徒とは比較にならないほどの技量の高さだ。


 レインがザブードの剣技に見惚れていると、いつの間にか横にいたイヴセンティアが声をかけてきた。


 「ザブード殿は高い実力を持つ猛者もさらしい。中等部の生徒では歯が立たんだろうさ」

 「イヴ先輩、ザブードさんのことを知っているんですか?」

 「直接は知らんが、うわさには聞く。複数の戦闘系スキルを所持し、剣の技量も高く、その実力は折り紙つきだと評判だ」

 「すごいんですね、ザブードさんって」


 レインは感心したような声を上げつつ、尊敬の眼差しをザブードへ向けた。


 「むっ、確かに今の私の実力では、ザブード殿に勝つことはできん。だが、きっと将来は私の方が――」


 ――と、なぜザブードと張り合おうとするイヴセンティア。


 その途中でザブードから「ここまでにしよう」と声が上がり、最初の模擬戦が終了した。

 最後までザブードが最初の立ち入りから動くことはなかった。


 模擬戦を終えた男子生徒はすでに疲労困憊だ。

 木剣を杖代わりにしてなんとか立っている状態である。


 そんな男子生徒に、ザブードが評価を伝えた。


 「ちゃんと基礎を身に着けているね。けど、体力が切れかけてからは動きが散漫になってしまっていた。もう少し体力が増えれば、きっと、もっと強くなれるよ。あとは――」


 ――と良かったところを褒め、特に気になる改善点を指摘する。


 その後、ザブードの評価が終わると別の男子生徒がザブードの前に出て、次の模擬戦が開始された。



 しばらく模擬戦を見ていたレインは、ふと気になっていたことをイヴセンティアに尋ねてみた。


 「なんで今日は、いきなり特別授業なんて入ったんでしょうね?」

 「おそらく、あそこにいる獣人連合国の者たちが、軍の訓練風景を見せるように要求してきたんだろう。だが、わが国も、そう簡単に軍の機密を漏らすわけにはいかん。獣人連合国は仮想敵国でもあるからな。でもだからといって、実際に敵対しているわけでもないのにその国の使節団を無下にもできん。それで、当たり障りのないように、騎士に王立学院の臨時講師を担当させて、その訓練風景を見せて誤魔化しているのさ」


 イヴセンティアは、獣人たちを一瞥しながら自らの予想を話した。

 確証はないが、事前に得ていた情報から、それで間違いないだろうと思っている。


 レインはその話を聞いて、ヴァーニング王国と獣人連合国は決して友好的ではないのだと思い知った。

 要するに、授業の見学というのは偵察行為の一環らしい。

 だが、疑問もある。


 「なぜ模擬戦の相手が中等部なんですか?」

 「高等部はあと2年ほどで卒業だからな。卒業生がどの程度の実力なのか、それも知られたくないんだ。逆に初等部では実力が低すぎて話にならん」

 「それなら中等部だけで特別授業をすればよかったのでは?」


 模擬戦を行うのが中等部だけなのに、校庭には高等部と初等部まで出てきている。

 それは無駄なのではないだろうか、というレインの質問。


 「中等部だけの授業風景を見せて、後でごねられても困るからな。一応、全学年を校庭に出しておけば、なんとでも言い訳が立つ」

 「……面倒ですね」

 「そのとおりだな」


 イヴセンティアはそう言いながら肩を竦めた。


 「よし、ここまで」


 レインたちがそんな話をしていると、また1つの模擬戦が終了した。

 今回はブラードの番だった。

 ブラードはスキル7つ持ちというだけのことはあり、かなり善戦したようだ。


 とはいえ、それでもザブードを最初の立ち位置から動かすことはできなかった。


 「なかなか筋が良いね。このまま努力を続ければ、あと1、2年ほどでゴブリンと正面から戦っても、問題なく勝てるようになるよ」


 ザブードもブラードを褒めている。

 レインも少しだけ感心した。

 中等部の男子たちもブラードに歓声を飛ばした。

 だが、中等部の女子たちの視線は冷めたものだった。


 ブラードはザブードのもとから下がる間際、レインに向かって、ものすごく自慢気な表情を見せてきた。


 やがてレインの模擬戦の番になった。



 ザブードは口にも表情には出さないが、内心では今期の中等部の男子生徒に落胆していた。

 あまりにも実力が低すぎるのだ。

 先ほどのブラードと言う生徒は少しだけマシだったが、あくまでマシという程度だ。

 せめて1人くらいは騎士になり得る人材がいるだろうと期待をしていたが、どうにも望みは薄そうだ。


 高等部にはボーディナ家の令嬢にして、すでに騎士の資格を有するイヴセンティアがいる。

 聖カムディア女学院には、10代前半の人間の子供では最強と名高い、『狼殺しの神童』オーファがいる。


 そこまでとは言わなくても、努力か才能、そのどちらかを備えた人材を期待していた。


 スキル的には問題がない生徒が多い。

 だが、スキルに頼りっきりで、剣を扱う技術がまったくなっていない。

 スキルを除いた基礎身体能力や体力も低すぎる。

 おそらく学院以外で自主訓練を行っていないのだろう。


 ザブードがそんな予想をしていると、最後の生徒が歩み出てきた。

 黒髪黒目の男子生徒。


 「レイン・ラインリバーです。よろしくお願いします」

 「いつ初めてもいいよ、好きなタイミングで打ち込んできてごらん」

 「はい!」


 レインと名乗った生徒が頷き、模擬戦が開始された。


 ザブードは、剣とを構えたレインを見て、ほぅと感心した。

 剣の構えにぶれが無く、身体にも無駄な力が入っていない。

 いままでの生徒の中では、群を抜いて剣の扱いが上手ように見える。

 盾を構える位置も的確で、しっかり急所を補っている。

 脚運びも滑らかで、間合いを測るのも美味い。

 無暗に打ち込んでこないのは、こちらが隙を見せていないからだろう。

 これは期待できそうだ。


 ザブードは、レインが打ち込みやすいように、自分の木盾をわずかにそらして隙を作った。


 その瞬間、


 「はッ!」


 その隙を突くように、レインが鋭い刺突を放った。


 ――ガッ!


 心臓を一突きにするような鋭い攻撃だったが、ザブードはそれを難なく防いだ。


 すぐさま剣を引いて距離を取るレイン。


 ザブードの実力ならば、即座に決着を着けることもできる。

 だが、もちろんそんなことはしない。

 勝敗を決めることが目的ではなく、レインの実力をはかることが目的なのだ。


 今の突きはとても良かった。

 隙を見せた瞬間、躊躇なく急所を狙える胆力は素晴らしい。


 突きが防がれてからの動きも良い。

 即座に盾で身を守り、間合いの外に出ながらも構え崩さない。

 一連の動きに戸惑いが無く、目立った隙も無い。


 「レイン君は剣の扱いになれているようだね?」

 「恐れ入ります」


 会話中も気を抜かないレイン。

 ザブードの隙を見逃すまいと、視線を鋭くしている。


 「さあ、遠慮はいらないから、どんどん打っておいで」

 「はい。はッ!」


 ――ガンッ!


 1合、2合と剣を合わせる。


 レインはザブードの首を腕を脚を目がけて、何度も鋭い攻撃を放った。

 だが、そのことごとくを危なげなく防がれる。

 とはいえ、そんな経験は初めてのことではない。

 いつも稽古をつけてくれる冒険者たちにも同じように防がれるのだ。

 だからそんなことで戸惑って攻撃の手を緩めることはない。


 ――ガガッ、ガン!


 11、12、13と木撃音が響く。


 レインはザブードの視線を防ぐように、自身の盾を突き出した。

 それと同時に、死角から剣撃を放つ。

 だが、剣はいなされ、盾は弾かれる。


 「いいぞ、その調子だ!」


 ザブードの声を受け、レインは直ぐさま次なる攻撃に挑む。


 「せいっ! でりゃッ!」


 ――ガンッ、ガッ!


 35、36と技を試し、隙を突く。


 斬り下ろし、薙ぎ払い、突き、盾を使った殴打を繰り出す。

 だが、その全てを軽く防がれる。

 ザブードを一歩も動かすことすらできない。


 やがて、レインが50回目の打ち込みを防がれたところで、ザブードから質問の声がかかった。


 「レイン君はなにか戦闘に役立つスキルは持っているのかな?」

 「……攻撃力上昇だけ、持っています」

 「そうか」


 ザブードは身体能力を強化するスキルがないことを、少し残念に思った。

 剣の腕はこの年にしては大したものだし、将来が楽しみではある。

 だが、普通の子供の身体能力の域を出ないレインでは、これが限度だろう。

 十分な実力は示してもらった。

 ここらが止め時かもしれない。


 ザブードがそう考えた瞬間、レインは盾を放り投げ、両手で剣を構えた。

 マフィオから徹底的に教え込まれた、フェムタイ式の構えだ。


 レインの雰囲気が変わったことにザブードは目を見開いた。

 いままではヴァーニング王国式の騎士剣術で戦っていたのが、一瞬でフェムタイ式の剣術の構えに変わった。

 この年齢ですでに複数の剣術を収めているということだ。

 しかもその構えは堂に入っており、先ほどにもまして気迫が乗っている。


 「はッ!」


 ――ガッ!


 レインの一撃はまたも易々と防がれた。

 だが、盾を捨て、両手で剣を持ったことで剣速が増している。

 脚さばきも先ほどより軽く、速い。


 ざざざっ。


 攻撃を防がれたレインは、素早くザブードの盾側に回り込むように移動した。

 ザブードからは自分の盾が邪魔になって、身体が小さなレインの姿を見ることができない。


 「くっ」


 ザブードは思わず、その場から一歩下がった。

 模擬戦が始まってから一歩も動いていなかったザブードが、初めて自分から距離を取ったのだ。

 そこに、レインがさらなる追撃をかける。

 一撃、二撃、三撃、と急所を狙った攻撃を打ち込む。


 ――ガガン、ガッ、ガンッ!


 連続する剣戟の響き。


 ザブードはまだまだ余裕だが、内心では驚愕していた。

 すでに限界を見極めていたと思っていた子供に、さらにこんな実力があるなんて思ってもみなかったのだ。

 この年でここまで至るには、どれほどの修練を積めば良いのか想像もつかない。

 とてもではないが温室育ちの王立学院生が到達できる技量ではない。


 確かに、スキルが無いせいで身体能力は高くない。

 だが、これだけの実力を持つのなら、かなり将来に期待できる。

 卒業後さら数年ほど軍で経験を積み、さらに実力を上げれば、騎士になることも可能かもしれない。


 ザブードがそんな考えを巡らせたとき、レインの剣先がわずかに上がった。


 反射的に、盾を眼前まで上げ、防御の姿勢を取るザブード。

 頭を守ったことで、胴の守りが空いた。


 その瞬間、がら空きになったザブードの胴を目がけて、レインは素早く踏み込みながら剣閃を走らせた。


 ――パァンッ!


 レインの木剣が砕けた。

 残念ながらレイン渾身の一撃は、ザブードの木剣に防がれてしまった。


 砕けたのはレインの木剣だけだ。

 ザブードは攻撃を受けるとき、自分の木剣に負担がかからないように、上手く衝撃を受け流していたのだ。


 レインは改めて技量の違いを思い知った。

 やはり騎士はすごい。

 だが、まだ終わりではない。

 砕けた木剣の柄を捨て、帝国式軍隊格闘技の構えを取る。


 ぎょっと驚くザブード。

 まさか無手格闘技まで修めているとは、いったいどれほどの――。

 もう少し模擬戦を続けて、実力を見たい気持ちはある。

 だが――。


 「ここまでにしようか」

 「はい、ありがとうございました!」


 レインは清々しい気持ちで頭を下げた。



 「レイン君なら、ゴブリンくらい余裕で倒せるだろうね」


 ザブードはレインにそのような評価を付けた。


 レインは「余裕で」という言葉を聞いて、嬉しくなった。

 数ヵ月前にゴブリンと戦ったときには、例え『攻撃力上昇』のスキルを考慮しても、「余裕で」なんていう評価はもらえなかっただろう。

 以前よりも実力が向上しているという証拠だ。

 嬉しくならないはずがない。


 一方、中等部の男子たちは、レインの模擬戦を見て呆然としていた。

 自分たちが一歩も動かすことさえできなかった騎士を、無能のレインが追い詰めていたように見えたのだ。


 それに、自分たちの中で一番善戦したブラードは、「ゴブリンを倒せるようになるまであと1、2年」と評価されたのに、レインは「余裕」と評価されている。

 レインの方が、実力が上ということだ。


 男子たちはレインを馬鹿にすることが急に怖くなった。

 もしレインを怒らせて喧嘩になったら、自分が負けてしまうかもしれない。

 無能に喧嘩で負けたら、自分は無能以下になってしまう。

 次に馬鹿にされてイジメられるのが、自分になってしまう。

 そう思うと、怖くて馬鹿にすることなんてできない。


 レインに1つもスキルがないのなら、もう少し強気でいられた。

 だが、レインにはすでに『攻撃力上昇』があると判明している。

 男子たちは平均的に5つのスキルを持っているが、その中で直接的に喧嘩に役立つものなんて、せいぜいが1つか2つ程度しかない。

 スキルの条件が同じなら、どちらが勝つかなんて、いまの模擬戦を見ていれば一目瞭然だ。


 男子たちが恐々としている間に、レインへの評価が終わっていた。


 「ありがとうございました」


 礼を告げて下がるレイン。

 すると女子たちから黄色い声援が上がった。


 レインは照れくさくなって、速足で下がったのだった。



 レインがもとの場所に戻ると、イヴセンティアが出迎えてくれた。


 「レイン、なかなかの戦いぶりだったぞ」

 「ありがとうございます、イヴ先輩」


 レインは礼を言いつつも、イヴセンティアならもっと善戦できたのだろうと予想した。


 「どうした?」

 「いえ、イヴ先輩だったら、どのくらいまでザブードさんに食い下がれるのか気になって」

 「そうだなぁ……、私は見ていただけだから正確にはわからんが、おそらく、ザブード殿に攻撃を出させるくらいには戦えるだろう。まあ、勝てるとは思わんがな」


 ザブードに攻撃を出させてから、どれくらい戦えるのかは未知数だ。

 一撃で終わらせられるかもしれないし、数発は防ぐことができるかもしれない。


 そんなことをレインとイヴセンティアが話していると、エルトリアとアイシアもそこにやってきた。


 「レイ君、とっても格好よかったです!」

 「お兄様、感動しました!」


 口々にレインを褒めたたえる2人。


 「お2人とも、ありがとうございます」


 レインとしては、ザブードに手も足も出ずに負けてしまった、と言えなくもないので、あまり手放しに褒められると恐縮してしまう。


 レインはムズ痒いような、気恥ずかしいような、そんな妙な気分になりつつ、しばし姫姉妹に褒められたのだった。



 「ザブード殿、俺とも一手、手合わせ願えんか?」


 そう名乗り出たのは、使節団の獣人だった。

 灰色の毛並みの狼人族ろうじんぞくだ。


 いきなりの申し出に、ザブードは困った顔をした。

 本心では受けたくない。

 なんとかならないものか、と教員たちの方へ視線を送った。

 だが教員が無言で頷いたのを見て、仕方なく獣人の方へと向き直った。


 「わかりました。私で良ければお相手させていただきます」

 「恩に着る」

 「魔術や殺傷力の高い攻撃は禁止にしますが、よろしいですね?」

 「ああ、もちろんだ」


 生徒たちはそのやり取りを興味津々といった面持ちで眺めていた。

 全獣人は身体能力が人間と比べて格段に高い。

 人間が1対1で戦ったとしても勝つのは難しいというのが常識だ。

 しかし、ザブードの実力がとても高いこともわかっている。

 だから、もしかしたらという期待があるのだ。


 「よろしければ、貴殿の名をお聞かせ願えますか?」

 「おっと、こいつは失礼した。俺はグレイ・ウルフロードだ」

 「ではグレイ殿、よろしくお願いします」

 「ああ」


 互いに木剣を構える2人。

 開始の合図は無い。


 先に動いたのはザブードだった。

 レインたちでは捉えられないような、凄まじい速度での踏み込み。

 そして木剣を一閃。


 ――ゴウッ!


 突風のような一撃。


 だが、グレイは少し身を引くだけで、それを悠々と避けてみせた。


 ザブードは怯まず、続けて剣を振った。

 ゴウゴウと、まるで暴風が吹き荒れているかのような乱撃。


 しかし、そのことごとくをグレイに避けられてしまう。


 次にグレイが剣を振り下ろした。

 緩怠で無造作な動き。

 だがその速度は桁違いだ。


 ザブードは紙一重のタイミングで防御の姿勢を取った。


 ――ダァン!


 轟音が鳴り響く。


 「ぐうっ!」


 苦悶の声を漏らすザブード。

 木剣が折れないようにするのが精一杯で、身体に伝わる衝撃を逃がしきれなかったのだ。


 「ほう、防いだか。だが、いつまで持つかな?」


 そこからの戦いは一方的なものだった。


 潜めていた加虐心を剥き出しにしたグレイは、オオカミの顔を凶悪に歪め、何度も木剣を振るった。

 その度に、木剣を使っているとは思えないような豪快な打撃音が鳴り響く。


 ザブードは、何度かぎりぎりでその攻撃をいなしたものの、ついに攻撃をいなしきれなくなり、まともな一撃を身に受けてしまった。


 「がはぁっ!」


 地面に倒れ伏すザブード。

 気を失ってしまったのか、起き上がる気配が無い。


 「ふはは、騎士と言っても大したことはねぇな」


 楽し気に笑うグレイ。

 人間の騎士を叩き伏せたことに愉悦を感じているようだ。


 生徒たちはその光景に恐怖した。

 初等部の生徒の何人かは、あまりの恐怖心に泣き出してしまっている。


 グレイのもとに1人の獣人が歩み寄った。


 「グレイ様、言葉が過ぎます。俺たちは戦争をしにきたわけじゃないのですから、いくら本当のことでも言葉を選んでください。この後の予定が続けられなくなりますよ」

 「おお、そうだな。すまん」


 獣人たちの言葉からは、人間のことを馬鹿にしているのが透けて見えた。


 レインは、こんな人たちを使節団として派遣してくる獣人連合国に、いきどおりを覚えた。

 そして近い将来、本当に戦争になりそうだと思った。

 そのときが来ることを、心の底から怖いと思った。

 あんなに強いザブードすら、獣人にあっさり負けてしまったのだ。

 人間に勝ち目があるとは思えなかった。

◆あとがき


台風の影響(車が水没しかけたり、玄関の戸が吹き飛ばされたり散々だった)でとても忙しかったですが、ようやく一段落つきました^v^


・ω・)また台風くるってよ!


ほげぇ^q^;




Q:主人公が子供の頃に憧れた騎士って、普通は強キャラじゃないの?

A:ザブードさんは強いです。


でも、オオカミさんのほうがもっと強いです(松○引越センターのCM風に




Q:レイン君ってイケメンなん?

A:残念ながら、普通メンです。




Q:レイン君って本当にいい子なん?

A:ぶっちゃけ根っからの善人ではありません。


1話目に、


・夕食を食べ残した

・お風呂に入るのを嫌がった

・勉強の時間に逃げ出した


と書いている通り、根はそれほど真面目ではありません。

基本的には普通の男の子です。

嫌いなものは嫌いですし、好きなものは好きなのです。


でも、なんやかんやあって、レイン君は常に真面目であろうと心がけています。

だからこそレイン君の行動は理性的であり、いい子なわけです。

(もし根っからの善人だったら『善行=本能的な行動』になるので、とてつもない野生児になっていたかも?←ドラゴ○ボール初期の悟空みたいな感じ)



そして作者は、そんなレイン君の理性をぶっ壊してエッチなイベントをぶっこみにいきたいわけです(ゲス顔

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