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43:他種族のスキル

 王立学院。


 レインは、エルトリアに妖精のスイとキスをしてしまったことを伝えようと思った。


 あのとき身体が光ったので、『スキル共有』が発動してしまったのは確実だ。

 だが、体を動かしてみても身体能力が上がったようには思えないし、魔力が強化されたようにも感じない。

 いったいなんのスキルを得たのか、皆目見当が付かない。

 それを知るには、やはりエルトリアに見てもらうしかない。


 だが、エルトリア以外の生徒に『スキル共有』に関することを聞かれると不味い。

 話をするなら2人きりになる必要がある。

 しかし、教室には大勢の生徒がいて、なかなか2人きりになることができない。


 レインがどうしようかと悩んでいると、エルトリアの方から声をかけてきた。


 「レイ君、少しお話がしたいので、ご一緒にきていただけますか?」

 「もちろんです、エルトリア様」


 レインは渡りに船とばかりに、即座にその誘いに乗った。



 レインとエルトリアは、人気ひとけのない空き教室へと入った。


 すると唐突に、エルトリアがこんな質問をしてきた。


 「……レイ君、いったい誰とキスをしたのですか?」


 抑揚のない、静かな声。


 レインは驚いて問い返した。


 「な、なぜそのことを?」


 まだスイと出会ったことは誰にも言っていない。

 それなのに、なぜキスしたことがわかったのだろうか。

 そんな疑問の問いかけ。


 「わたくしは毎晩、鏡を使ってスキル鑑定の訓練をしています。昨晩も鏡を使って自分のスキル紋を確認しました。そのときです、気付いたのは」


 レインとスイが『スキル共有』したことで、エルトリアにもスイのスキル紋が現れた。

 それを鏡で見たので、レインが誰かとキスしたことに気付いたのだ。


 「そうだったのですか、ご心配をおかけしてしまって申し訳ありません」


 レインは深々と頭を下げた。

 いきなりスキル紋が増えたことで、さぞ驚いただろう。

 そう思うと申し訳ない気持ちで一杯になった。


 「あ、頭を上げてください。レイ君はなにも悪くありません。……で、ですけど、誰とキスをしたのかは……、教え欲しいです」


 もちろんレインにいなはない。

 もともとそのつもりだったのだ。

 早速とばかりに説明を始める。


 「実は昨日、とある農村に出向いていたのですが」

 「そ、そこで村の女性と一晩の過ちを?」


 ごくり、と息を飲むエルトリア。


 一方のレインは「村の女性」という言葉で、あのお婆さんを思い出していた。

 「過ち」がなにを示唆しているかはわからないが、おそらくエルトリアの想像は間違っているだろうと思った。


 だが、妖精と出会ったと言って信じてもらえるだろうか。

 普通に考えたら、信じてもらえない気がする。 


 「もしかしたら、こんなことを言っても、信じてもらえないかもしれませ――」

 「信じます!」


 やや食い気味に言うエルトリアに、レインは少しだけ面食らった。

 だが、信じると言われて嬉しく無いはずがない。

 なので、自分もエルトリアの言葉を信じて正直に話そうと思った。


 「あ、ありがとうございます。それで、ですね。その村で遭遇したのです。……妖精と」

 「よ、妖精さんですかっ!?」


 エルトリアが、まったく予想もしていなかったキスの相手に、驚愕の声を上げた。


 「はい。妖精のスイと名乗っていました。そして、僕の注意力が足りず、スイと『スキル共有』してしまったのです」


 レインにはスキル共有が発動したことを、スイのせいにする気はなかった。

 スイは善意で『キス』をしてくれたのだ。

 それを悪く言う気持ちはない。

 むしろ、自分が油断していなければ『スキル共有』は防げた。

 そう思い反省している。


 だが、それを聞いてもエルトリアは、レインが悪いなどとは微塵も思わなかった。

 というか、レインが悪いという発想そのものがなかった。


 「そうだったのですか……。それで、そのスイという妖精は今どこに?」


 『スキル共有』について知られてしまったのだから、なにか対処する必要があるだろう。

 そう考えたエルトリアなのだが、レインは困ったような顔でこう告げた。


 「それが、『スキル共有』が発動した直後、止める間もなく飛び去ってしまったため、スイが今どこにいるのかは、まったくわかりません」

 「なるほど、困りましたね」


 居場所さえわかれば、保護するなり、『スキル共有』について口止めをするなりの対処ができる。

 だが、どこにいるかわからないのでは、なにも対処ができない。


 2人はどうするべきかを考えたが、良い案は出なかった。

 結局、スイのことは放置するしかできないのだった。



 レインはスイのスキルについて気になっていたので、それをエルトリアに聞いてみることにした。


 「ところで、スイのスキルがどのような効果なのか、お聞きしてもいいですか?」


 鏡で自身のスキル鑑定を行ったのなら、スイのスキルについても、すでに鑑定が終わっているだろう。

 そう思ったからこその質問だ。


 だが、エルトリアは首を横に振った。


 「ごめんなさいレイ君。スキル紋は見たのですが、まだスキルの効果まではわかっていないのです」

 「そうなのですか?」

 「はい。新たに共有されたスキル数が5つだということはわかったのですが、スキル辞典を見ても、意味を読み解くことができなかったのです。奇妙なスキル紋の形状でしたので不思議に思っていたのですが、キスの相手が妖精だと聞いて納得しました。人間用のスキル辞典ではわからないわけです」


 エルトリアは納得したように頷いた。

 流石に、レインの『スキル共有』ほど複雑なスキル紋ではなかったが、初めてみる形状ばかりだった。


 「種族によって現れるスキル紋は違うものなのですか?」

 「はい。あと推測なのですが、他種族のスキル紋は人間には効果がないのだと思います。事実、今回の『スキル共有』で複数のスキルを得たにも関わらず、身体能力などに変化は見られませんし」


 それはレイン自身も感じていたことだ。

 今朝も配達の依頼や、素振りなどをこなしたが、身体能力に変化は見られなかった。

 でも不思議なことがある。


 「どうして他種族のスキル紋は人間に効果がないのでしょうか?」

 「これも推測の域を出ませんが、他種族と人間では身体の構造が違うからだと思います。ですが、魔力強化系のスキルや、耐性強化系のスキルは人間にも効果があるはずです。なぜなら――」


 ――とエルトリアは自身の推測を述べた。


 他種族のスキルを得た人間なんて前例がない。

 なので、あくまで全て推測の域を出ない。


 それでも、スキルに関する知識が豊富なエルトリアの考察は、とても適格なものだった。



 「なるほど。流石、エルトリア様です」


 説明を聞き終えたレインは、感心したようにエルトリアを褒めた。

 エルトリアは座学の成績も良い。

 普段から予習復習などを怠っていない証拠だ。

 その上さらにスキルに関する勉強までするなんて、並大抵の努力ではないだろう。

 流石だ。


 そんなレインの褒め言葉を聞いたエルトリアは、驚き、照れたような表情になった。


 「ほえ!? そ、そうでしょうか?」

 「はい、もちろんです」


 当然だと言わんばかりのレイン。


 レインが褒めてくれた。

 そのことに、エルトリアはこの上なく嬉しくなった。

 そして、もっとレインの役に立ちたい、喜んでもらいたいと思った。

 何かできることはないだろうかと考えて、ふと閃いた。


 「人間用のスキル辞典では、妖精のスキル紋の解読はできませんでした。ですが、様々な種族のスキル紋について網羅された『獣人用のスキル辞典』なら、おそらくなにかわかるはずです」

 「それはすごそうな辞典ですね」


 獣人には様々な種族がいる。

 例えば、全身がオオカミのような全獣人、オオカミの特徴が耳や尻尾だけという半獣人、全身がゾウのような全獣人、カラスのような翼を持った半獣人などだ。


 そんな多種多様な種族のスキルが記された『獣人用のスキル辞典』なら、妖精のスキルについても解読できるはずである。

 流石に、妖精のスキル紋そのものは載っていないだろうが、役に立つ情報はかなり載っているはずだ。


 ちなみにエルトリアは、獣人用のスキル辞典であっても、『スキル共有』のスキル紋を今以上に読み解くことは不可能だと考えている。

 あれは辞典を変えれば解読できるという次元の複雑さではない。


 「今晩にでもお父様にお願いして、数週間後に来訪予定の獣人連合国からの使節団の方々に、獣人用のスキル辞典を持っきてもらえるよう、頼んでおいてもらいます」


 「お父様」とは、ヴァーニング王国の現国王その人である。

 エルトリアはレインのためになるのなら、一国の王をあごで使うこともいとわない。


 とはいえその国王も、自分の娘がスキル鑑定の訓練を頑張っていることを知っているので、エルトリアがスキル辞典を求めれば喜んで与えるだろう。

 普段からエルトリアはわがままを言わないし、甘えても来ない。

 だからこそ、たまのお願いくらい叶えてあげたくなるのが親心というものである。


 だが、そんな事情をつゆとも知らないレインは、心配げな表情で問いかけた。


 「だ、大丈夫なのですか?」


 国王を便利に使うのは、明らかに問題だろう。

 それに、イヴセンティアから聞いた、「獣人連合国で不穏な動きがある」という情報も気になる。


 「大丈夫です!」

 「そ、そうなのですか?」

 「はい!」


 自信満々なエルトリアの言葉に、レインは大丈夫なのだろうと思うことにした。

 国王のことも、獣人連合国のことも、自分が気にしても仕方がないと気付いたからだ。


 それからレインは、自分のためにいろいろと考えて動いてくれるエルトリアに、感謝の言葉を告げた。


 「エルトリア様、わざわざ僕のためにありがとうございます」

 「レイ君が喜んでくだされば、わたくしも嬉しいです」


 そう言って、花が咲いたような笑顔を見せてくれるエルトリア。


 レインは、いつも惜しみない善意を向けてくれるエルトリアに、心の底から感謝したのだった。

◆あとがき


エルトリア様、久々の登場なのに説明役に回されておいたわしや(;ω;`)ブワッ




Q:不穏な動きがある獣人連合国の使節団を、王国は普通に受け入れちゃうのかよ!

A:実際に敵対しているわけではないので、あまり無下にはできんのじゃよ

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