35:依頼を受ける
レインたちがギルドに入ると、その場に居合わせた冒険者たちが、ざわっと声を上げた。
レインがオーファと、もう1人別の女の子を連れてきたからだ。
それを見た冒険者たちはこう思った。
――修羅場だっ!!
そして、この場から逃げるべきかを迷った。
レインの浮気――正確に言うと浮気ではないが――にキレたオーファの怒りが、自分たちにまで波及してくることを恐れたのだ。
だが、冒険者たちは、オーファが決してレインに暴力を振るうわないことも知っている。
今までオーファがレインに手をあげたことは一度もない。
しかし、浮気相手の女の子が暴力の対象になることは、十分以上にあり得る。
でも、その場合はレインがオーファを止めに入るだろう。
そして、止めに入ってきたレインのことを、オーファは傷つけられない。
だから結局、大事になることはない。
そう結論付けた冒険者たちは、とりあえず成り行きを見守ることにした。
オーファの声が聞こえる。
「――だからね、そのときレイが、あたしのことを命がけで助けてくれたのよ!」
「ほう、レインはそんなに小さなころから、意外と度胸があったのだな」
「イヴ先輩、オーファはこう言ってくれてますけど、助けられてるのは、、いつも僕の方ですよ? オーファは昔からすごかったですからね」
「オーファ殿が小さなころからすごかったのは、私も知っている。昔から有名だったからな」
予想より、楽し気に話す3人。
冒険者たちは、修羅場ではないことがわかり、ほっと胸をなで下ろした。
そして、あまり様子を探るのはレインたちに悪いと思い、すぐに3人から意識を外したのだった。
◇
「これなんてどう?」
オーファが張り出された依頼書の1枚を指さした。
レインとイヴセンティアは、その依頼書に目を通した。
『ハチの巣駆除』
場所は、王都の北東にある農村。
王都からだと、大人が歩いて約2時間といった距離。
朝に出発すれば、馬車を使わなくても、日帰りで行って帰って来られる。
ハチの種類は、オオカラスバチ。
カラスほどの大きさがあり、攻撃的で、強い毒を持っている。
とても危険なハチだ。
群れで生活し、木の枝などに巣を造るらしい。
巣の大きさは、およそ2メーチル。
ハチの体の大きさの割には小さいが、小型のハチの巣と比べると十分に大きい。
食性は雑食。
畑の作物を荒らすことがあり、農家からは害虫として嫌われている。
報酬は、1万8千マナ。
配達や草むしりの依頼と比べると、かなり多い。
やはり、それなりに危険だからだろうか。
レインは少し心配になった。
「僕、ハチの巣の駆除なんかやったことないけど、危なくないの?」
「あたしもないけど、夜になってハチが寝静まってから、巣に向かって殺虫薬を魔術で飛ばせば大丈夫でしょ。危なくないわよ。あんたはあたしが守ってあげるんだから」
レインは、もしハチが襲い掛かってきても、オーファならあっさりと返り討ちにできそうだと思った。
危険なハチとして有名だが、それでもオーファを傷つけられるとは微塵も思えない。
「イヴ先輩はどうです?」
レインは依頼書に目を通しているイヴセンティアに問いかけた。
ギルドに来るまでの会話で、イヴセンティアも一緒に依頼を受けるという話になっている。
だだの興味本位ではなく、一応、見聞を広めるという名目だ。
「私ならなんでも構わん。ハチ程度なら心配しなくても、レインのことは私も守ってやるぞ」
イヴセンティアもハチ程度に後れをとるつもりはない。
ハチはハエなどと比べると、そこまで飛行速度が速いわけではない。
それに体が大きいオオカラスバチは、端的に言って斬りやすい。
しかし、それにオーファが待ったをかけた。
「レイはあたしが守るから、イヴは気にしなくていいわ」
「む、そうか。オーファ殿がそういうなら、任せよう」
イヴセンティアは、騎士の資格を得ることが可能なほどに、剣の実力に優れている。
だが、同世代最強と言われるオーファに代わって「レインを守る」と言い切れるほど、自分の力を過信しているわけでもない。
「レイはあたしが守ってあげるからね?」
「う、うん。いつもありがとう、オーファ」
女の子2人に「守ってあげる」と言われたレインは、微妙に情けない気持ちになった。
でも、それに文句を言う理由なんてないので、素直にお礼を言った。
ちなみに、レインは内心、この依頼だと『攻撃力上昇』の有無は関係ないのでは、と思っていた。
だが、それは黙っていた。
『攻撃力上昇』のスキルを得たから、という名目で依頼を受けに来たわけだが、別にこだわる理由もない。
それによくよく考えてみれば、スキル必須の依頼など、危険すぎて子供に受けられるわけがなかった。
◇
「お姉ちゃーん」
剥がした依頼書を手に持って、受付に駆けていくオーファ。
早い。
レインとイヴセンティアも、慌てて追いかける。
追いつくと、受付でオーファがセシリアに怒られていた。
「オーファちゃん、ギルドの中は走っちゃダメって、いつも言っているでしょ?」
「はーい、ごめんなさい」
素直に謝るオーファ。
だが、いまいち反省しているように見えない。
セシリアは、まったくもう、と怒った顔だ。
その表情からは、妹を躾ける姉の意気込みを感じる。
「セシリアさん、お疲れさまです」
「レイン君もお疲れさま」
お互いに労いの言葉をかけ合う2人。
さっきまでとは打って変わって、セシリアは優しい笑顔をレインに向けた。
そんな笑顔を向けられたレインも、頬が緩み笑顔になる。
2人とも笑顔で、互いの仲の良さを窺える光景だ。
だが、2人だけで仲良くされるのは、オーファにとって面白いことではない。
だから、すぐに割って入る。
「ちょっと2人とも、お疲れさま、お疲れさまって、あたしの相手をするのが疲れるみたいな挨拶はやめてよね!」
「そ、そんなつもりはないよ。僕、オーファといるのはすごく楽しいよ」
「そ、そうなの? なら許してあげるわ」
尊大な物言いのオーファだが、ニヤけそうになるのを抑えるために必死だ。
口元がムニュムニュ動いている。
「オーファちゃん、レイン君を困らせちゃダメでしょ? ところで、そちらの子はレイン君のお友達かしら?」
セシリアはオーファを窘めつつ、レインの後ろに控えていたイヴセンティアに視線をやった。
「はい、僕がいつもお世話になっているイヴセンティア・リッター・ボーディナ先輩です」
レインに名を呼ばれたイヴセンティアは、はっ、と我に返った。
セシリアの美しさに見惚れて、放心状態になっていたのだ。
慌てて頭を振り、気を引き締める。
女が女に見惚れて自己紹介もまともにできなかったと知られれば、ボーディナ家の名折れだ。
「しょ、紹介に預かったイヴセンティア・リッター・ボーディナだ」
「私はセシリア・ラインリバーよ、よろしくね? イヴセンティアさん」
イヴセンティアは、自分の名を呼んで微笑むセシリアに、またしても見惚れてしまいそうになった。
そして、ちらりとオーファを見て考える。
オーファも後数年でこんな美女に成長するのだろうか、と。
今でも、オーファの容姿はかなり整っていて可愛いらしい。
これは間違いなく相当の美女になる。
イヴセンティアはそう確信した。
「お姉ちゃん、美人でしょ?」
「ああ、そうだな」
イヴセンティアは、自慢気なオーファの言葉に素直に頷いた。
「オーファちゃん、イヴセンティアさんに変なこと言わないの。ごめんなさいね?」
「いや、構わん。あと、セシリア殿、私のことはイヴでいい」
「わかったわ、イヴちゃん」
オーファのときとは違い、セシリアがすんなりと自分を受け入れてくれたことに、イヴセンティアは嬉しさを覚えたのだった。
◇
セシリアがオーファに問いかけた。
「それで、なにか良さそうな依頼は見つかったのかしら?」
「うん、お姉ちゃん、これ」
セシリアはオーファが差し出してきた依頼書を受け取った。
『ハチの巣駆除』と書かれた依頼書だ。
「これを受けるの? 危なくない?」
難色を示すセシリア。
もしかしたらハチに刺されるかもしれない依頼だ。
子供が受けるには少し危険ではないだろうか。
そんなことを考え、心配気な表情を浮かべる。
一方のオーファとイヴセンティアは、ハチ程度なら危険はないと判断している。
「大丈夫よ、お姉ちゃん。レイはあたしが守ってあげるから、かすり傷1つ付けさせないわ」
自信満々なオーファ。
セシリアも、オーファがハチに負けるとは思っていない。
だが、ハチの巣を探して森や林に踏み入れば、ハチ以外のどんな危険が潜んでいるかわからない。
思いがけない目に遭うことだって考えられる。
もちろんオーファも、そのことは十分に承知している。
だが、だからといって、いつまでもレインが配達や草むしりの依頼しか受けられないのは可哀想だ。
それに、なにがあっても絶対にレインだけは守り切れる自信がある。
普段から、それだけの努力をしている。
なにが出てきても負けない。
だが、そんなオーファの言葉を聞いても、セシリアの心配は晴れなかった。
しかし、そこで、受付に座っていた中年女性が会話に加わってきた。
「セシリアちゃんは相変わらず心配性ねぇ。でも、この子たちのことを想うなら、少しくらい危ない依頼も経験させてあげないと」
「確かにそうかもしれないですが……」
それでも心配なものは心配だ。
「あんまり過保護にしすぎて困るのは、大人になったこの子たちなのよ?」
「うう、そうですね」
結局、その言葉にセシリアは折れた。
この子たち、特にスキル事情が厳しいレインには、なるべく多くの経験が必要だろうと思ったからだ。
そして、渋々といった様子で手続きを行いながら、3人に向かって注意を促した。
「3人とも、危ないことはしちゃダメよ? もし危ないことをしたら、『お耳ふぅふぅの刑』よ?」
『お耳ふぅふぅの刑』は、受けると背筋がゾクゾクして妙な気分になる、恐ろしい刑だ。
だから、
「はーい」
「わかりました、セシリアさん」
オーファとレインは気を引き締めて、元気よく返事をした。
一方のイヴセンティアは、
「え? お耳? え?」
と、自分の両耳を隠しつつ、困惑した顔を浮かべていた。
セシリアはその後、オーファたちから何日後に現地に赴くのかなどを聞き出し、書類に必要事項を書き込んでいった。
その間に、イヴセンティアは隣の中年女性に冒険者登録をしてもらっていた。
それからレインたちは、ギルドの中を見て回ったり、食堂で食事をとったりして過ごした。
イヴセンティアは、久々に、人に気を遣わなくてもよい時間を楽しんだのだった。
◆あとがき
Q:レイン君って、学校の話とかをオーファちゃんにしないの?
A:しません。
レイン君は、親に捨てられたりイジメられたりしたことを人に言いたくないと思っています。
そのせいで自分のことを人に話すのが嫌いなのです。
オーファちゃんもその辺を理解しているので、普段は無理に聞き出そうとしません。
Q:ハチってそんなに簡単に斬り落とせるの?
A:一応、1匹ずつなら、へっぽこりんな作者でもできます。
なので、オーファちゃんたちなら余裕です。
レイン君でもたぶん余裕です。
過去の剣豪のエピソードに、
飛んでるハエを箸でつかむというのがありますよね。
そんなことは、ぽんぽこりんな作者にはできません。
レイン君にも、まだできません。
オーファちゃんなら余裕です。
Q:オーファちゃんとレイン君の戦力差は?
A:レイン君をグフだとしたら、オーファちゃんはギャプランです。
Q:ガ○ダムに出てくる好きなモビルスーツはなんですか?
A:ハイゴッグです。
まったく小説に関係ないΣ( ̄□ ̄;!?




