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28:第一章エピローグ

 レインたちは王都へと帰り着いた。

 すでに日が沈み、辺りは暗い。


 レインは走竜車を降りるとエルトリアたちに挨拶をして、家へと帰った。

 走竜車の中で十分な睡眠を取っていたため、すでに体力は回復しきっている。


 レインが家に帰ってくると、オーファが家の外で出迎えてくれた。


 「おかえり、レイ」

 「ただいま、オーファ。待っていてくれたの?」


 日が沈んでから、そこそこ時間が経っている。

 もしかしたら、わざわざ長い時間持っていてくれたのかもしれない。

 そう思うと、申し訳なさと同時に、つい嬉しさを感じてしまう。


 「べ、別に待ってなかったわよ! 今日はお姉ちゃんがまだ仕事だから、一緒にギルドでご飯を食べようと思って、それで待ってただけなんだから!」


 結局それは待っていてくれたということではないだろうか。

 そう思ったレインだったが、深くは追及しなかった。

 ただ、やっぱり、わざわざ待っていてくれたオーファに感謝した。


 「そうなんだ、ありがとう」


 屈託のない笑顔でのお礼。

 オーファは、自分の顔が熱くなるのを感じた。


 「あ、あんたの準備ができたら行くからね。早くしてよね」


 ぷいっ、と顔を背けながら、レインの支度を急かす。


 「うん、わかったよ。それじゃあ、準備してくるからね」

 「あ、やっぱり急いでないから、ゆっくりでいいわよ」


 2階へと上がっていくレインに、オーファは慌てて声をかけた。

 つい「早くして」と言ってしまったが、別に急いでいるわけではないのだ。

 疲れているだろうレインに、慌てさせるのは忍びない。


 レインはそんなオーファの気遣いに感謝しつつ、2階の部屋に入った。

 そして、部屋の棚に革の装備を置く。

 今回の遠征では、幸いなことに、敵からのまともな攻撃を受けることはなかった。

 だが、よく見たら革には小さな傷がたくさん付いていた。


 おそらく、地面に転がったときや、木々の隙間を駆けたときなど、気付かぬ内に何度も自分の身体を守っていてくれたのだろう。


 レインはそのことに感謝しつつ、オーファを待たせては悪いと、急いで部屋を出た。



 ギルドの食堂。


 レインたちは、2人用の小さなテーブル席に着いた。

 レインは他の冒険者たちと同じ大テーブルでも良かったのだが、オーファがさっさと席を選んでしまった結果だ。


 「で? どうだったのよ?」


 席に着き、料理を注文し終えると、オーファはレインに向かってそう尋ねた。


 「……なにが?」

 「遠征訓練よっ!」


 他になにがあるのよ! と言いたげなオーファ。

 レインは、それもそうか、と思った。

 だが、いざ説明しようとしても、何から話せばいいのか困ってしまう。

 あまりにも濃厚な遠征訓練だった。


 うーん、と考え、とりあえず一番大きな事件から話すことにした。


 「えっとね、ゴブリンが出たよ、けっこう沢山」

 「……、えっ!? だだだ、大丈夫だったの!? 怪我はないっ? 痛いところはないのっ!?」


 オーファは、こともなげに放たれたレイン言葉に、一瞬だけ呆け、次の瞬間には大慌てした様子でレインへと詰め寄った。

 席を立ち、レインの傍に回り込み、レインを立たせて、ぺたぺたと身体を触診する。


 どこか怪我をしているところはないか。

 レインが痛がるところはないか。

 脚を、腕を、腹を、胸を、背中を、入念に触っていく。


 「……オ、オーファ、恥ずかしいよ」


 公衆の面前でオーファに全身を触診されたレイン。

 乱れた服装、羞恥で赤くなった顔、微妙に潤んだ瞳。

 どことなく色っぽい。


 オーファは、ごくりっ、と生唾を飲み込んだ。

 だが、はっ、と我に返ると慌ててレインに謝った。


 「ご、ごめん! べ、別にあんたの身体に触りたかったわけじゃなくて! いや、触りたくないわけじゃないんだけど! ちがうちがう、そうじゃなくて、あたしはただ心配しただけで! ……っは!? ししし、心配なんかしてないんだからね!?」


 ぷいっ、と顔を背けるオーファ。

 その顔は真っ赤だ。


 レインは身体中を触られたことは恥ずかしかったが、それが自分を心配してくれたからこその行動だとわかっていた。

 だからこそ、心配をしてくれたお礼と、自分の無事を、しっかりと言葉で伝えようと思った。


 「ありがとうオーファ、僕は大丈夫だったよ」

 「……そう、なら、いいわ」


 そう呟きながら自分の席に戻るオーファ。

 その顔はまだ少し赤い。



 ギルドの食堂。

 運ばれてきた料理に舌鼓を打つ2人。


 「美味しいね、オーファ」

 「そうね、お姉ちゃんの料理も美味しいけど、たまにはこういう食事も良いわね」


 何気ない会話をしながらの食事は楽しい。

 それに、1人でする食事より何倍も美味しい。


 レインにとって、一番仲が良い友達といえばオーファだ。

 だからレインは、他の誰かに聞けないことでも、オーファになら聞ける気がした。

 そして、ふと聞いてみたくなった。

 なぜ、ゴブリンがメスを欲するのかを。


 だが、レインはその話題が、人を困らせてしまう話題だと、薄々、気付いている。

 なので、なるべく慎重に話題を切り出すことにした。


 「ねえ、オーファ?」

 「なーに?」

 「聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 「……なによ?」


 訝し気なオーファ。


 「お、怒らない?」

 「…………オコラナイヨ」


 オーファの返答はすごく棒読みだった。

 それを聞いたレインは、絶対に嘘だ! 絶対に怒る! と確信した。

 しかし、今更、「やっぱり聞くのやめる」とは言えない。

 そんなことをすれば、そっちの方が怒られそうだ。

 慎重に話題を切り出したつもりだったが、どのみち聞くしかなくなってしまった。


 レインは自分の浅はかさを呪いつつ、思い切って切り出した。


 「ゴブリンってなんでメスが欲しいの?」


 その質問を受けて、真顔で固まるオーファ。

 次の瞬間には、


 「あ、あああ、あんた、女の子になんてこと聞くのよっ!?」


 真っ赤になって怒り出してしまった。


 レインは、やっぱりこの話題は人に聞いちゃダメなんだ、と改めて確信した。

 だが、その確信に至るのが致命的に遅かった。

 やはり聞かなければよかったと思ったところで、最早、後の祭りである。


 レインは、全面的に自分が悪いと思ったので、せめて誠心誠意、謝ろうと思った。


 「変なこと聞いてごめん、オーファ」


 ぺこりと頭を下げる。


 「あ、いや、あの、べ、別に怒ってるわけじゃないんだけどね? ただ、ちょっとビックリしただで。そ、それに、あんたがどうしても教えてほしいって言うなら、教えてあげないこともないんだけど……、た、ただし、2人っきりのときに、ね?」


 もじもじと赤い顔のオーファ。

 それを見たレインは、この話題の禁忌性についてなんとなく悟った。

 そして、恥ずかしそうにしながらも教えてくれるというオーファを、やはり優しい女の子だ、と再認識した。


 「ありがとう、オーファ。でも、僕、オーファを困らせたくないから、できるだけ自分で調べてみるよ」

 「そ、そう。わかったわ」


 がっかりしたような、それでいて、ほっとしたような、そんな不思議な表情のオーファに、レインは小首を傾げるのだった。



 レインたちが食事を食べ終わるころ、マフィオとルイズが食堂へとやってきた。


 マフィオたちは、レインたちのテーブルのすぐ横の席へと座った。


 「よう、レイン! さっきそこで聞いたぜ、遠征訓練、大変だったらしいな!」


 遠征訓令でゴブリンの襲撃があったことは、すでに冒険者たちの耳に入っているらしい。

 相変わらず情報が早い。


 「マフィオさん、ルイズさん、こんばんは」

 「おう! そんで、怪我はしなかったか?」

 「はい、大丈夫でした」

 「そうか、そりゃよかった! ところで、ゴブリンの襲撃はどんな感じだった?」


 マフィオはレインが怪我をしていないとわかると、嬉しそうに、がはは、と笑った。


 「うーん、夜中に襲撃をかけてきて――」


 レインは、深夜に始まったゴブリン襲撃の顛末を、自分の知る範囲で簡単に告げた。

 陽動のために男子たちが襲撃されたこと。

 教員が包囲され、足止めされたこと。

 女子たちが攫われそうになったこと。

 自分もゴブリンと戦ったこと。

 2人にもらった装備のおかげで、なんとか勝つことができたこと。


 オーファは、その話をふんふんと興味深げに聞いていたが、レインがゴブリンと戦ったと聞いて顔色を変えた。

 さっき、ゴブリンが出たとは聞いたが、直接戦ったとは聞いていなかった。


 「ちょっとレイ! あたしがいないときに、そんな危ないことしちゃダメでしょ! け、怪我はないの!?」

 「だ、大丈夫だよ、オーファ。怪我はないから!」


 レインは、またオーファに触診されるのではないかと思い、焦った。

 マフィオたちの前で女の子に身体をまさぐられるなんて、恥ずかしすぎる。

 詰め寄ってくるオーファをなだめるのに必死だ。


 一方、マフィオとルイズは、レインの話に感心していた。

 全体で起きたことを把握し、それに対応するために動き、そして最良の結果に繋がった。

 大いに評価できる。

 一応、「複数匹に囲まれたら逃げろ」と教えていたのに、逃げなかったことを注意すべきか考えた。

 だが、そんな無粋なことをしなくても、危なかったことは本人が一番よくわかっているだろう。

 だからこそ、ここは褒めるべきだ。


 「よく頑張ったな! 偉いぞ、レイン!」


 マフィオに褒められて、レインは顔が綻んだ。

 尊敬する人に褒めてもらえると、やっぱり嬉しい。


 「ああ、兄さんの言う通りだ。よく頑張ったな、レイン」


 ルイズが褒めてくれることは珍しい。

 レインは頑張って良かったと心から思った。


 「そのゴブリンどもの巣も、おそらくだが、明日、明後日くらいには駆除されるだろう」

 「ゴブリンの巣ってどうやって駆除するんですか?」


 ルイズが立てた予想に、レインは興味深げに尋ねた。

 それなりの数がいたが、1日、2日でそんなにも簡単に駆除できるのだろうか、と。


 「方法はいろいろとあるが、最近だと毒餌式どくえしきが主流だな」

 「毒餌式ですか?」


 名前から毒を使うということはわかるが、具体的な方法が思い浮かばない。


 「ああ、毒の入った食べ物を大量に箱に詰めて、巣の近くに置いておくんだ。ゴブリンは餌を巣に持ち帰ってから、仲間たちと食べる習性がある。だから、それだけでかなりの数が減らせる。数が減ったら巣に突入して制圧って流れで行うのが、毒餌式だ」


 ルイズは、レインが頷いているのを確認すると、さらに話を続けた。


 「とはいえ、それは絶対じゃない。ゴブリンは巣や集落によって、その生活様式は千差万別だ。だから、一番良い駆除方法っていうのは一概には言えない。だが、まあ、とりあえず、失敗しても大した損害が出ない毒餌を試す、っていうのが最近の鉄板だな」


 レインは、なるほど、と頷きお礼を言った。


 「んで、レイン、ゴブリンとの戦いはどうだった?」


 マフィオは、なるべく軽い調子でレインに尋ねた。

 ゴブリンは人に似た生物だ。

 それを殺したことに忌避感を感じて、精神を病んでしまう者もいる。

 見た感じレインは大丈夫そうだが、一応、確認しておこうと思ったのだ。


 「えっとですね――」


 ――と、レインは戦いの内容を思い出した。

 一戦一戦、自分がどう感じたか。

 人間よりも硬い皮膚や筋肉が厄介だったこと。

 意外なほど慎重で、中々、自分の間合いに入って来ないこと。

 心臓を突き殺したとき手に伝わった感触のこと。

 まだ鮮烈に残る記憶。

 それらを思い出しながら、ゴブリンとの戦いの感想をマフィオたちに伝えた。


 網膜に残る、殺生の場面。

 鼻に残る、死の匂い。

 思い出すと、少しだけ身体が強張る。


 だが、


 「よし、よく頑張ったな! 偉いぞ!」


 マフィオに褒められたことで、その時の気持ちを上手く消化することができた。


 マフィオたちはその様子に、大丈夫そうだな、と安心した。



 「それにしても、よく何匹も相手にして勝てたな?」


 マフィオはレインがゴブリンと1対1で戦うのは、まだ少し厳しいと思っていたのだ。

 剣術の腕は問題ないのだが、スキルが無いせいで身体能力は並みの子供とそれほど変わらない。

 そのせいで、一撃で致命傷を与えることが難しく、戦いが長引いてしまう。

 なので、複数匹相手だと勝ち目は無いだろうと予想していた。


 マフィオは、自分の見立てが間違っていただろうかと、考えた。


 不思議そうなマフィオの様子を見たレインは、そういえば、まだ自分がスキルを手に入れたことを言ってなかった、と思い出した。

 だから、


 「実は僕、『攻撃力上昇』のスキルを持っているらしいです」


 とりあえず簡潔にそう言った。


 「「「……っ!!?」」」


 驚きの表情で固まる3人。


 レインは思った。

 そりゃ驚くに決まっている。

 自分も驚いた。

 すぐに理解しろというのは無理だろう。

 だって、自分ですら、いまだに理解できていないのだ。

 そんなことを考えながら、3人の思考が復活するのを大人しく待った。


 3人が静かになったことで周りの音がよく聞こえる。

 ギルドの食堂は、いつも人がたくさんいて賑やかだ。

 周りからはガヤガヤと話し声が聞こえる。


 レインはグラスを手に取り、飲み物を喉に流し込んだ。

 爽やかなレモン水の味が口に広がる。

 美味い。


 そして、レインがグラスをテーブルに置いた、そのとき、


 「「「なにいいいいいいっ!??」」」


 ようやく、3人が動き出して、絶叫を上げた。

 食堂の視線が集まる。


 「ちょ、あんた、それ本当なの!?」

 「おい、レイン、そりゃマジかっ! 間違いねーかっ!!?」

 「ににに、兄さん、オーファ、おちおちおち、落ち着けいっ!」


 オーファとマフィオが、ばんっ、と立ち上がりレインへと詰め寄る。

 その表情は驚愕に彩られている。

 ちなみに、3人で一番取り乱しているのはルイズだ。

 遠目には落ち着いているように見えるが、よく見ると、手に持ったグラスがガッタガッタと揺れている。


 一方で、当の本人にであるレインは落ち着いていた。


 「はい、間違いないです」


 こくりと頷く。


 「あ、あんたはなんでそんなに落ち着いてんのよっ! そもそも、なんで今までわかんなかったのよ!?」

 「そりゃ、『攻撃力上昇』は実戦じゃなきゃ効果がわかりづらいスキルだからじゃねーか!?」

 「でも、スキル鑑定したことあるなら、そのときに気付くでしょっ!?」

 「んなこと、俺に言われても知らねーよっ!」

 「ににに、兄さん、スキル鑑定は極々まれにだが、鑑定士がスキル紋を読み違えることがあるらしいぞうっ!!!」

 「「なるほどっ!」」


 あーだ、こーだと言い合うオーファとマフィオ。

 そこにルイズの雑学が混ざって勝手に納得し合う。

 もはや当人そっちのけである。


 レインは、今になって新しくスキルが手に入ったかの理由を、正しく伝えた方が良いのだろうか、と考えた。

 だが、正しくと言われても、なにが正しいのか、そもそも自分になにが起きているのか、レイン本人が一番理解できていない。


 『攻撃力上昇』のスキルが手に入ったのは、エルトリアとキスしたからだということは、なんとなくわかる。

 しかし、エルトリアの名誉のためにも、そのことを言うわけにはいかない。

 第一王女の唇がすでに平民によって奪われているなど、醜聞以外のなにものでもない。


 ならば、もともと自分が持っていた『謎のスキル』について説明するか、と考えた。

 だが、自分でもわかってないものを説明しろと言われても、なにもわからないので、なにも説明できない。


 レインはどうしたものかと困ってしまった。


 「とにかくレイン! スキル鑑定だ! 明日、いや、今すぐに鑑定士のとこに行くぞっ!」


 マフィオはレインの手を取って、街へ飛び出そうとした。

 だが、今は、日が暮れてからそこそこの時間だ。

 スキル鑑定士も、こんな時間に尋ねて来られても困ってしまうだろう。

 普段のマフィオは、そんな傍若無人な振る舞いなどしないのだが、今の事態によほど興奮しているのだろう。


 「マフィオさん、落ち着いてください!」

 「お、おう、そうだな、すまん」


 マフィオたちはレインに窘められて、大人しく席に戻った。

 だが、そわそわと落ち着きなく、貧乏ゆすりをしている。


 「僕、クラスにスキル鑑定をしてくれると言ってくれた人がいるので、鑑定はその人にお願いしようと思っています」


 レインは、とりあえずエルトリアに詳しく調べてもらうまで、『謎のスキル』については黙っておくことにした。

 まだ、いろんなことが、わかっていないのだ。

 適当なことを言って、ぬか喜びさせてしまうのは避けたい。

 ちゃんとどんなスキルかわかってから伝えるべきだ。

 そんなふうに考えた。


 「おお、そうか! その年でスキル鑑定ができるなんてすげーな! 大したもんだ!」


 マフィオは感心したように頷いて、がはは、と笑った。


 そのときレインは、あちこちから「レインにスキルが!?」「マジかよ!?」というような驚愕の声が上がっていることに気付いた。

 3人の騒ぎ声が聞こえていたようだ。

 『レインにスキルが見つかった』という話題は、すでにギルド中に広まっているらしい。

 次々に冒険者たちがレインのところに集まってきた。


 噂を聞きつけたセシリアも、受付から駆けてきた。


 「レ、レイン君、スキルが見つかったって本当なのっ!?」

 「ほ、本当です」


 レインは、セシリアの勢いに、一瞬、面食らってしまった。

 だが、なんとか気を取り直して、スキルが見つかったという事実を伝える。


 それを聞いたセシリアの目には、感極まったように涙が溢れた。

 今まで『無能』であることを理由にレインが負ってきた不当な苦労の数々が、これで少しは解消されるかもしれない。

 そう思うと嬉しさが込み上げてきて、我慢できなくなった。


 「うう、おめでとうー!」

 「むぎゅ」


 セシリアに強く抱きしめられるレイン。


 「よかったなレイン!」

 「おめでとう!」

 「これからも一緒に頑張ろうな!」


 冒険者たちも、レインへと口々に祝いの言葉をかける。

 その目には一様に涙が溜まっていて、数名は男泣きしていた。

 ルイズも今更になって号泣していた。


 「お、お姉ちゃん! レイも男なんだから、そんなにくっついちゃダメだよ! 早く離れてー!」


 オーファがセシリアからレインを引きはがそうとするものの、ぎゅーっ、と強く握りしめられていて、引きはがせない。


 「よっしゃ、今日は祝いだっ! 宴にすんぞーっ!」


 「「「「「おーっ!」」」」」


 マフィオの言葉に、ギルドの中はあっというまにお祭り騒ぎとなった。

 その後も、どこからともなく噂を聞きつけた冒険者たちが集まり、その日のギルドは朝まで賑やかだった。


 レインとオーファはいつの間にか寝てしまった。

 そして、ギルドの控室で、2人仲良く毛布をかけてもらい、朝までゆっくりと眠ったのだった。



 翌日、ルイズが予想した通り、ゴブリンの巣の駆除が行われた。

 トロワ近郊の冒険者が中心に行った、毒餌を用いた作戦だった。


 駆除作戦の取材をするために、王都からは新聞記者が駆けつけていた。

 写真を撮るための大きな魔術具を担いだキャメルドという男だ。


 ゴブリンが毒餌を回収した1日後には、冒険者が洞窟に作られた巣に入り、制圧戦を行った。

 巣には生き残ったゴブリンが無数にいた。

 だが、ゴブリン如き、冒険者の敵ではない。

 制圧戦はあっさりと終了した。


 アリの巣状の洞窟の一室には、ヒツジやイノシシなどのメスが閉じ込められている部屋が見つかった。

 これにより、ヒツジ盗難事件の犯人がゴブリンであったと証明された。


 後日出された新聞の一面には、トロワ近郊で起こったゴブリン騒ぎについて記されていた。

 一面を飾る大きな白黒の写真には、冒険者によって討伐されたゴブリンの姿。


 そのゴブリンは、王立学院生から奪った豪華な鎧を身に着けていた。

 明らかに装飾過多なその鎧は、読者たちの嘲笑を誘った。


 ちなみに、その写真の鎧には『ラザフォード家の家紋』が大きく彫り込まれていた。

 そのことで、ブラードたちは大いに恥をかくことになったのだった。

◆あとがき


1章終了です。


次話からは2章になります。

引き続き、よろしくお願いします(´人`)なむなむ

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