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24:野営地

 「やっぱり間違いありません、わたくしと同じ『攻撃力上昇』のスキル紋が増えています」


 エルトリアが判別できるスキル紋の形状は、まだ少ない。

 だが、流石に、自分のスキル紋の形状くらいは覚えている。

 だから、レインに新たに現れたスキル紋を見て、すぐにわかった。


 これは、自分のスキル紋とまったく同じ形状だ、と。


 『攻撃力上昇のスキル紋』と一口に言っても、本来、その形状は様々だ。


 スキル紋は幾何学模様を組み合わせた、魔術陣のような形状をしている。

 同じ名称のスキル紋であっても、その形状は人によって違い、効果の大きさも様々だ。

 まったく同じ形状のスキル紋が現れる可能性は、無いに等しい。


 しかし、レインに新たに現れたスキル紋は、間違いなく、エルトリアとまったく同じ形状のスキル紋だった。

 エルトリアは、鏡を使ったスキル鑑定の訓練で、何百回も自分のスキル紋を見てきたのだ。

 見間違うはずがない。


 「な、なぜ僕にエルトリア様と同じスキル紋が……」


 レインはエルトリアの説明を聞いて唖然とした。

 そして、なぜそんなことが起こったのか不思議に思った。


 「それはおそらく、わたくしと、その、キ、キスをしたからではないかと」


 エルトリアはもじもじと恥ずかしそうに己の推測を述べる。


 一方のレインは自分自身に起きたことだが、いまいち実感が湧かず、どこか他人事のようだった。

 最初、自分にスキルがあるとわかっただけでも驚いたのだ。

 そこに、畳みかけるようにキス騒ぎ。

 さらに新しいスキル紋の発現。

 すでに理解の許容限界量を超えてしまっている。


 「そんなことがあり得るのですか?」

 「確かに聞いたことがない話ですが、ほかに考えられません。推測ですが、レイ君がもともと持っていたスキルに、スキルを共有するような効果があるのだと思います」

 「そういえば、エルトリア様に『お礼』を賜わったとき、身体が熱くなって、少し光っていたような気がします」


 光った直後、エルトリアが取り乱してしまったので、そのことを忘れていた。


 エルトリアはレインの言葉を聞いて、原因はキスで間違いないと確信した。

 だが、やはりここで詳しく調べるのは不可能だ。

 スキル辞典無しでは、鑑定ができない。

 続きは王都に帰ってからにするべきだろう、と思った。


 「レイ君、わたくしには、ここでこれ以上、詳しいことを調べることができません。つづきは王都に帰ってから調べることにしましょう。帰ったらすぐに調べましょうね? 約束ですよ?」

 「はい、エルトリア様。よろしくお願いします」


 エルトリアは王都に帰ってからレインと会う約束を取り付けようと必死だ。

 だが、レインはそんな下心には気付かず素直に約束を行ったのだった。



 「エルトリア様、どちらへ行かれていたのですか?」

 「向こうに可愛いお花が咲いているのです」

 「そんな、無能など放っておいて、私たちと遊びましょう」


 レインたちが野営地に戻ってくると、エルトリアの帰りを待ちわびていた女子たちが一斉に出迎えに来た。


 「レイ君、約束のこと、ちゃんと覚えていてくださいね?」


 レインが『無能』と呼ばれた瞬間、エルトリアは、むっ、とした表情になった。

 だが、すぐに澄ました表情を作り直すと、レインに別れの挨拶を告げ、クラスの女子たちに連れて行かれてしまった。


 野営地にはすでに無数のテントが張られている。

 テントは密集しておらず、広範囲にわたって一列になるように張られているようだ。

 中央に教員たちのテントがあり、そこから男子と女子がそれぞれ逆方向に分かれてテントを張っているようだった。

 これは広範囲を警戒するための一列野営陣形だ。

 テントごとの距離がかなり離れている。

 小隊規模での野営の練習も兼ねているのだろう。


挿絵(By みてみん)


 レインはゴブリンと遭遇したことを教員に報告しようと思い、教員たちのテントの方へと歩き出そうとした。

 だが、それを呼び止める声がかかった。


 「レイン」


 レインが振り返ると、イヴセンティアがこちらに向かってきているのが見えた。


 「イヴ先輩。エルトリア様を連れ出してしまって、申し訳ありませんでした」


 レインは、イヴセンティアがなるべくエルトリアの近くにいるよう言われていることを知っていたのに、2人だけで森へ入っていたことを気にして、頭を下げた。

 だが、イヴセンティアはそんなレインの頭をすぐに上げさせた。


 「いや、そのことはいい、気にするな。エルトリア様も、ずっと私に付きまとわれていたら気が休まらんだろう。ところでレインはこれから暇か?」


 イヴセンティアは明確に「エルトリアの護衛をしろ」との指示を受けているわけではない。

 それに、護衛が必要なら正規の騎士を使うはずだろうと考えている。

 なので、あまりしつこくエルトリアに付きまとはないほうが良いだろうとさえ思っていた。


 それよりもイヴセンティアには気になっていることがあった。

 朝に見た、レインへのイジメのことだ。

 そのときに感じた自分の感情が、ただの傲慢であることは理解している。

 自分にはイジメを止めることができない。

 エルトリアを第一に考えるのは、王族に仕えるボーディナ家の者として当然のことだ。


 だが、だからといって、自分までもがそのイジメに加担する気はない。

 なので、レインが暇なら話し相手にでもなってもらおうと思ってここまで来たのだ。


 イヴセンティアは、同級生には女友達が大勢いるが、下級生には友達と呼べるほど親しい人がいない。

 そんなわけで、ぼっち同士で雑談に興じようと思ったのである。


 だが、直後、レインからもたらされた情報で、そんなのん気なことをしている場合ではなくなった。


 「実は先ほどゴブリンに遭遇しました。そのことを報告しにいくところです」

 「なに!? この近くか?」

 「場所は、向こうにある吊り橋を渡った先です」

 「そうか、……報告は、私からしておこうか?」


 イヴセンティアはレインが教員たちに報告をしに行っても、まともに取り合ってもらえないのではないかと心配になった。

 だから、自分が報告へ行く方が確実だろうと思った。


 「それではお願いします」


 レインにもイヴセンティアの気遣いがわかったので、素直に任せておくことにした。

 その後、イヴセンティアはレインにさらに詳細な情報を聞き、教員用のテントへと報告に向かった。



 教員用テント。

 イヴセンティアはまだ到着していない。


 テントには、副理事長と指導教員数名がいた。

 副理事長は、一応、責任者として今回の訓練に同行している。

 だが、まだ日も沈む前から、1人、酒を飲んでいた。


 指導教員たちは嫌そうな顔でそれを見ていた。

 だが、雇用者と被雇用者の関係なので、文句を言うことはできない。

 やがて、指導教員たちはその場にいることに嫌気がさして、周囲の見回りに出てしまった。


 イヴセンティアが報告へやってきたときには、テントにいたのは副理事長だけだった。


 イヴセンティアは副理事長が酒に酔っていることには気が付かなかった。

 そんなこと思いもしなかった。

 だから、今回の訓練の責任者らしき副理事長に、レインに聞いたことを正確に報告した。


 副理事長はイヴセンティアの報告を受けると「わかったわかった」と言って面倒そうに手を振り、すぐにイヴセンティアを下がらせた。


 イヴセンティアはその対応に不快感を覚えた。

 だが、報告はしたので、対策はまかせようとエルトリアのもとへと向かった。


 副理事長はその後、すぐ眠ってしまった。


 そして、夜になった。

◆あとがき


今回、前話の3分の1以下の長さです。


Q:話別けるの下手かΣ( ̄□ ̄;!?

A:ごめんなさい(・ω・`


さて、今回の話で一番頑張ったところは、

なんといっても『野営地イメージ図』の背景のテクスチャ作りです。


アホですね。

アホなんです。

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