18.5:小話1-2
◆セシリアはレインを甘やかしたい
なんやかんやあって、セシリアはなにかと不憫なレインを甘やかしてあげたくなった。
「よーし、今日は特別に、私がレイン君の『お願い』を聞いてあげるわよ?」
「え? お願いですか?」
「そうそう、なんでもいいわよ? あ、でも、エッチなお願いは、ダ・メ・だ・ぞ?」
「えっ、は、はい」
レインには最初からエッチなお願いなんて頭になかったが、そう言われると微妙に意識してしまう。
目線をセシリアの顔から少し下げかけて、慌てて目を逸らすレイン。
「えっと、じゃあ、夕食においしいものを食べたいです」
このお願いなら、オーファとセシリアも一緒に美味しいものを食べられる。
だから、自分一人だけが得をすることはない。
「それじゃあ今日は、レイン君の好きなものを作ってあげるわね。なにが食べたい?」
「ぼく、セシリアさんが作ってくれたものなら、なんでも好きですよ?」
「ふふ、ありがと。でも、なにかお願いしてくれたほうが、助かるなぁ」
セシリアが助かるなら、と思って必死に考えるレイン。
「えーと、ハムカツを」
「……それってオーファちゃんの大好物よね?」
「う、ごめんなさい」
「ううん、いいのよ? レイン君は優しいわね。それじゃあ、いっぱい作るから、みんなで食べようね?」
「はい!」
「ふふ、それじゃあ、次のお願いにいってみよっか?」
「…………え?」
「次のお願い、なんでもいいわよ? あ、でも、エッチなお願いは、ダ・メ・だ・ぞ?」
レインは再び必死になって『お願い』を考えたのだった。
◆続、エルトリア様が見ている
王立学院の朝。
レインと挨拶するエルトリア。
「レイ君、おはようございます」
「おはようございます、エルトリア様」
(レイ君、今日もすてきです!)
席に着いたレインに罵声を浴びせる男子たち。
「無能のせいで、きょうしつの空気がよごれたぞ!」
「あやまれよ、ゴミ!」
「そうだぞ、どげざだ!」
(レイ君以外の男子はいなくなってしまえばいいですのに!)
王立学院の昼。
レインはさっさと教室を出ていく。
エルトリアもついていきたかったが、クラスの女子につかまる。
「エルトリアさまー」
「いっしょに食べましょー」
「無能なんてほっときましょー」
(女子もいなくなってしまえばいいですのに!)
剣術の授業中。
遠くからレインを見つめるエルトリア。
男子が寄ってたかってレインをイジメているが、教員が止める気配はない。
(レイ君以外、みんな、いなくなってしまえばいいですのに!)
イジメられても、表情一つ変えないレイン。
(ああ、レイ君、レイ君、レイ君、レイ君、レイ君――)
放課後。
学院から帰ったエルトリアを侍女が迎える。
「エルトリア姫、今日の学院はどうでしたか?」
「とても、ためになる授業ばかりでした」
「それは良かったです」
そのとき、騒ぎの声が耳に入る。
「あの声は?」
「なんでも、王城に提出されたスキル鑑定の証明書に、間違いが見つかったらしいですね」
「そうなのですか。スキル鑑定に間違いが?」
「たまにあるらしいですよ。そんなことより、午後のお茶にしましょう。すぐお紅茶を入れてまいりますね?」
「はい」
(レイ君と一緒にお茶を楽しみたいです!)
◆オーファのレイン自慢
オーファは、聖カムディア女学院の友人たちに下水道の冒険のことを語っていた。
しかし、ほとんどレインの話しかしていない。
「それでね、あたしが弱気になっちゃったときは、レイが地下から出るための案を考えてくれたのよ」
「レインくんすごいね」
「そうなのよ、レイはすごいのよ。他にもね、背後から大きなオオカミに不意打ちされたときなんか、命がけであたしのことを庇ってくれたのよ」
「レインくん、かっこいい!」
「そ、そうね、ちょっとだけね。弱っちい癖に、あんなに頑張っちゃって、もう///」
にやけ顔のオーファ。
「ねえねえ、もっとレインくんの話、聞かせて?」
「し、仕方がないわね。あ、今からする話しは、別に自慢ってわけじゃないんだけどね?」
「うん」
「レ、レイがね、夕日に染まる湖の畔で、転んじゃったあたしを優しく助け起こしてくれたの。それでね、優しく手を握り締めて、目を見つめながら『オーファはきれいだよ』って、きゃー///」
「「「きゃー///」」」
きゃーきゃー喜ぶ女の子たち。
レインのあずかり知らぬところで、レインの好感度が上がったり、恥ずかしい話しが広まったりしていた。
◆オーファ、有名になる
ギルドの食堂で新聞を読んでいたマフィオ。
面白い記事を見つけてレインに見せる。
「見てみろよ、レイン。オーファちゃんのことが載ってるぜ」
「ほんとですか?」
「ああ、ここだ、見てみろ」
「オオカミ殺しの、しんどうオーファ……、ほんとだ!」
「この前の下水道の調査のときの記事だな。どうやら、湖側から下水に入った調査隊が、オーファちゃんの殺ったオオカミの亡骸を見つけたらしい。そのことが書いてある」
そこにオーファがやってくる。
「なにやってんの?」
「新聞を見てたの。オーファのことが書いてあるよ?」
「え、ちょっと見せて」
「うん」
新聞に目を通すオーファ。
微妙そうな表情に変わる。
「いやなの?」
「嫌じゃないけど、あんたのことが書いてないじゃない」
「ぼくのことなんて、書くことないよ?」
「そんなことない! だって、……っ/// ……なんでもない」
途中で赤くなって言葉を打ち切るオーファ。
「よくわからないけど、ぼくはオーファがそう言ってくれただけで、嬉しいよ?」
「うん……///」
空気を読んだマフィオは背景になっていた。




