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19/112

18:赤に染まる

 下水道。

 オーファの疲れを癒すために、少し休憩中だ。


 オーファの体力回復は早かった。

 曰く、『自己再生力上昇』のスキルも持っているらしい。


 以前から聞いていた通り、やはりオーファの持っているスキルは有用な物ばかりだ。

 世の中には『足の裏が丈夫になるスキル』や『歯が頑丈になるスキル』、『耳の霜焼け耐性が上がるスキル』など、役に立つのかどうかわかり難いスキルも多く存在している。

 そんな中で、オーファのスキルは聞くからに役に立ちそうなものばかりだった。

 レインは、『無能』の自分とは真反対だなぁ、と思った。


 「いきましょうか」

 「うん」


 少しの休憩で、オーファの体力が完全に回復したので、脱出のための探索を再開した。

 水路の流れを見て、水が流れる方へと歩いていく。


 角を曲がり、細い水路から大きな水路へと出て、緩やかな坂を下る。

 通路には時折、大きなカエルやカメ、名前もわからないような虫が鎮座していた。

 だが、邪魔なものは全てオーファが蹴り飛ばしていた。

 レインは頼もしさを感じつつ、秘かに、足癖が悪いなぁ、と失礼な感想を抱いていた。

 とはいえ、そんなことを考えるのも心に余裕が出てきた証拠だろう。


 「レイ、疲れてない?」

 「だいじょうぶ」


 それなりの距離を歩いたが、レインの体力はまだ問題ない。

 毎朝、駆け足で行っている配達の効果だろう。

 そう思うと、日々の訓練の効果を実感できて嬉しい。


 だが、


 「平気?」

 「だ、だいじょうぶ」


 さらに何時間も歩いていると、流石に足の裏が痛くなってきた。


 レインは『足の裏が丈夫になるスキル』が欲しいと切実に思った。

 例え、役に立つのかわかり難いスキルでも、無能のレインにしてみれば垂涎物である。


 レインがそんなことを考えてから、さらに数十分後。

 水路の先に光が見えた。

 魔力灯の薄く気味が悪い光ではない。

 外から差し込む、太陽の光だ。


 つまり、


 「みて!」

 「うん」


 出口だ。


 レインとオーファは顔を見合わせて、笑い合う。

 長い長い冒険も、ようやく終わりだ。

 早く家に帰りたい。

 そして、セシリアの作ってくれたご飯を食べながら、今日あったことを話すのだ。

 そんなことを考えて、どちらともなく外へと駆けだそうとした。


 だが、そのとき外から何かが入ってくるのが見えた。

 逆光だったが2人にはそれが何かわかった。


 オオカミの群れだ。


 何匹いるかまではよくわからない。

 だが、少なくとも20匹はいるだろう。

 そして、その群れはレインたちのいる方へと向かってきていた。


 オーファはそれを見て、心が折れてしまいそうなほどの絶望を感じた。

 レインを守らなければ、そう思って張りつめ続けていた心が、限界を迎えようとしていた。


 せっかく出口が見つかったのに。

 せっかく帰れると思ったのに。

 せっかくレインに許してもらったのに。

 あんな数のオオカミ、無理だ、死ぬ。

 逃げるべきか?

 無理だ。

 さっき走ったときに汗をかき過ぎた。

 身体の水分が足りない。

 もう長距離は走れない。

 逃げきれない。

 殺される。

 嫌だ。

 怖い。

 だめだ、諦めたらレインが死ぬ。

 レインだけは守らないと。


 だから、


 「……大丈夫よ、あんなオオカミ。あたしはすごいんだから」


 あいつらを殺さないと。


 レインを守らないと。

 皆殺しにしないと。


 オーファは木剣を構えながら、ゆらりと前に出た。


 「オーファ?」

 「……あんたは、黙ってあたしに守られてなさい。……あたしが、絶対にあんたを傷つけさせないから」


 レインはオオカミの群れへ相対しようとするオーファに驚いた。

 まさかあの数のオオカミと戦う気なのか。

 さっきみたいに逃げるべきなのではないか。

 そう思い、オーファに視線を向けた。


 ふぅふぅ、と乱れた息を吐き、瞳孔が開いている。

 普通ではない。


 「オーファっ!」


 レインはオーファが冷静ではないと気付き、少し強い口調で名前を呼んだ。


 だが、オーファはそれに反応せず、さらに歩み出る。

 開ききった瞳孔は、光を反射せず、薄く濁ってさえ見える。

 視野が狭まり、もはや敵しか見えていない。

 ぶつぶつと何事かを呟き、ゆらゆらと前へと進み出る。


 「……あんたは弱っちいんだから。……あんたなんか戦ったらすぐに死んじゃうんだから。だから、全部あたしに任せなさい。あたしが……、あたしがっ、あたしが絶対あんたを守ってあげるんだからっ!」


 レインはオーファを止めようと手を伸ばした。


 だが、その手は急加速したオーファを止めることが出来ず、空を切った。


 「ヤアアアアアアアアッ!!!」


 オーファは咆哮を上げながらオオカミの群れへと突っ込んだ。

 一足、一足、凄まじい速度で駆け抜ける。


 瞬く間に距離が縮まる。


 そして、オオカミの群れに接敵する間際、オーファは跳躍した。

 三角跳びの要領で壁を蹴り、空中で身体を回転させ、さらに天井を蹴り、必殺の速度を持って上空から斬りかかる。


 全体重がかかったその一撃は、先頭を駆けていたオオカミの頭を容易く叩き割った。

 同時に、木剣も砕け散る。


 ――まず一匹、生き物を殺すのなんて、簡単だ。


 手に残った木剣の柄を、近くのオオカミへと投げつけた。

 それにオオカミが怯んだ瞬間、距離を詰める。

 そして、首を蹴り上げて、骨をへし折った。


 ――これで二匹、命を奪うことなんて、容易い。簡単に死ぬ。


 オーファの襲撃にオオカミたちが色めき立つ、が、遅い。

 隙だらけなオオカミの腹へ、回し蹴りを叩き込こむ。

 内臓が破裂し、口から大量の血を吐きながらオオカミが水路へと落ちた。


 ――三匹、敵は殺す。


 オーファの殺気に怯み、何匹かはすでに及び腰になっている。

 狭い通路で、オオカミたちはその数が邪魔になって思うように動けない。

 オーファは近くのオオカミの頭を掴み、無雑作に捻り折った。


 ――四、全部殺す。


 1匹が背を向けて外へと逃げ出した。

 残りもそれに続いて逃走を開始する。

 オーファは再び跳躍し、壁を蹴り、天井を蹴り、落下の勢いで逃げ遅れたオオカミの背骨を叩き潰した。


 ――五、つぎは?



 「オーファ!」

 「はぁはぁ、レイ、あたし……」


 レインがようやくオーファに追いついたときには、すでにオオカミたちは逃げ出した後だった。

 辺りには無数の骸。

 そして漂う死の匂い。


 「はぁはぁ、あたし……、あたしっ、ううぅっ」


 オーファは、たかぶった感情を上手く処理できずに、突然、泣き出してしまった。

 自分でも理由はわからないが、次々に涙があふれ出してくる。

 大粒の涙が頬を伝う。

 戦いの後の高揚感。

 生き物を殺した嫌悪感。

 生き残った安心感。

 オーファの幼い心は、せめぎ合うさまざまな感情に押しつぶされそうだった。


 「オーファ、守ってくれて、ありがとう」


 レインは、他にオーファになんて声をかければ良いかわからなかった。

 とにかく、今の内にここを出ようと、オーファの手を取って外へと向かって歩き出した。


 『守ってくれて、ありがとう』


 その言葉は、オーファの心にドロリと染みこんだ。



 下水道の外は、大きな湖だった。

 すぐ近くに王都の外壁が見える。

 時間は、すでに夕方のようだ。


 空も湖面も、すべてが茜色に染められている。


 「ごめん、レイ。もう、大丈夫」

 「うん」


 泣きながら、レインに手を引かれていたオーファだったが、ようやく気分が落ち着いたようだ。

 オーファは、泣いてしまったのが恥ずかしのか、バツが悪そうな顔をしていた。


 一方のレインはさっきのオーファとオオカミの戦いを思い出していた。

 風のように駆け、宙を舞い、一撃で命を刈り取るオーファ。

 すごかった。

 すごいすごいとは思っていたが、自分はまだオーファの実力を見誤っていたらしい。

 もし自分とオーファが戦えば、あっという間に殺されてしまうだろう。

 事実、模擬戦では手も足も出ない。

 本来なら、畏怖を覚えて然るべきなのかもしれない。


 だが、レインは自分を守るために必死に戦ってくれたオーファに、そんな感情を抱く気にはならなかった。

 むしろ、誰かを守るために命をかけて戦えるその強い心に、尊敬の念すら抱いていた。

 それこそが、自分の憧れる騎士のような在り方であり、自分が目指すべき『綺麗な心』の在り方なのだと思った。


 だからこそレインは、そんなオーファが泣いてしまったことが辛かった。

 自分が無能だから。

 何もできない、役立たずだから。

 だから、オーファを傷つけてしまった。

 そう思うと、やるせない気持ちになった。


 2人は黙って水辺を歩いた。

 今のレインたちの場所から王都まで帰るには、少し水辺を歩いて迂回する必要がある。

 レインが前を歩き、オーファがその後ろを、少し離れてとぼとぼとついてきていた。

 オーファは、まだ少し、泣いてしまったことを気にしているようだった。


 「きゃ」


 少し、水辺を歩いていたところで、オーファが転んでしまった。

 外に出られたことで、気が緩んでしまい、ぬかるみに足を取られたのだ。

 レインが泥に汚れたオーファの手を取って、立ち上がらせる。


 「だいじょうぶ?」

 「うう、汚れちゃった」


 オーファは自分の姿を見下ろして、さらに気落ちした。

 さっきからレインに格好悪い所を見られてばかりだ。

 そう思うと、また泣きそうになってしまう。


 「これくらい、平気だよ」

 「でも、こんなに泥だらけに汚れちゃって」


 レインはオーファの目を見た。

 いつもは強気なその瞳が、悲し気にしょげている。

 それを見て、励ましたいと思った。

 元気になってもらいたいと思った。


 「いくら服が汚れても、いくら泥にまみれても、オーファはきれいだよ。だって――」


 ――だって、オーファは『無能』じゃないから。


 続くはずだったその言葉が、レインの口から発せられることはなかった。

 レインは、突然、オーファを引き寄せた。

 そして、身体の位置を入れ替え、オーファを軽く突き飛ばした。


 「な、なに!?」


 オーファは驚いた。

 い、いまのは抱き寄せられる場面じゃないの!? そんなふうに思って、混乱した。

 振り返ると、


 「うぐ」

 「ガウァッ!」


 レインが一頭の巨大なオオカミに引きずり倒されていた。


 片目が潰れた、隻眼せきがんのオオカミだ。

 下水道の奥でレインたちを追いかけてきたオオカミだ。

 諦めずに、臭いをたどって、ずっとしつこく追跡してきていたのだ。


 レインは引き倒された状態で、喉元を食いちぎろうとしてくるオオカミの口に、必死にしがみついていた。

 オオカミの口が開かないように、下あごに抱き着くようにして押さえている。

 マフィオが言っていた、「あごの筋肉は噛む力は強いが、開く力は弱い」という言葉を思い出したのだ。


 レインにしがみつかれたオオカミは口を開くことができないでいる。

 子供の力でも。オオカミの開口を押さえるには十分だったようだ。


 押さえつけられた口の奥から唸り声が漏れ聞こえる。


 「グルゥゥゥッ!」


 隻眼のオオカミは、レインを振り解こうと頭を振る。

 しかし、レインも、振り解かれて堪るか、と必死にしがみつく。


 「レイっ! この、レイを離せえええッ!」


 激昂したオーファが隻眼のオオカミへと迫る。

 さっき戦ったオオカミたちと比べても、ひときわ大きな体躯。

 それでも、怯まず、一切の躊躇なく、オーファはオオカミを蹴りつける。


 「グゥッ!?」


 オオカミはレインに口を押えられたまま苦しそうに呻くが、致命傷には至っていない。

 まだ生きている。


 オーファはさらに何度も蹴りつけた。


 「死ぃねえええええッ!」


 だが、焦りとぬかるんだ足場のせいで、軸足が安定しない。

 オオカミの強靭な骨を蹴り砕くができない。


 しかし、それでも、腹を首を頭を、ひたすら蹴り続けた。


 「グゥゥッ!?」


 オオカミは分の悪さ悟って、途中で逃げようとした。

 だが、レインにしがみつくように口を押さえられているせいで、上手く立ち回れない。

 オーファから逃げられない。


 すでに、オオカミからはレインを噛み殺そうという意思は消えている。

 それでもレインは離れない。

 オーファの攻撃も止まらない。


 ――バキッ!


 ついにオオカミの肋骨が折れた。

 骨が内臓に刺さり、口から大量に血が出る。

 だが、レインが口を押えているせいで、血を吐き出すことができない。

 行き場を失った血が、肺臓に溜まる。


 オオカミが完全に動かなくなるまで、そう時間はかからなかった。

 死因は吐血による窒息死だった。



 「さっき、あたしのこと綺麗だって言ってくれたじゃない?」


 もじもじとした仕草で聞いてくるオーファの顔は、夕日に照らされて真っ赤だ。

 ちなみに、その横には巨大なオオカミの死体が転がっている。

 なんとなく不釣り合いな光景だ。


 レインはさっき言いかけた言葉を思い出した。

 確か、「いくら服が汚れても、いくら泥にまみれても、オーファはきれいだよ。だって、オーファは『無能』じゃないから」だ。

 だが、冷静になって、その言葉が、オーファに対してすごく失礼な言葉だったと気付いた。


 だって、その言葉は、捉えようによっては、


 『君の、誰かを守ろうとする強い心はとても綺麗だ。だけど、それは君がスキルを大量に持っているおかげだ』


 ということになってしまう。


 それではまるで、オーファが優秀なスキルをたくさん持っているから、心が綺麗なのだと言っているみたいだ。

 失礼にもほどがある。

 オーファはスキルなんてなくても、きっと美しい心根を持っていただろう。

 そう思って、反省した。

 だから謝った。


 「ごめんね?」

 「なんであやまんのよ!?」


 オーファはレインの謝罪に釈然としなかった。

 「きれい」と言ってもらったことが嬉しかったのだ。

 年齢的には「かわいい」の方が相応しい表現化もしれないが、別に気にしない。

 だから、もっと言って欲しい。

 謝ってほしくはない。

 だが、それを正直に言うのは照れくさい。

 どうしたものか。


 そんなふうに悩むオーファの横で、レインは他にもオオカミが潜んでないか警戒していた。

 すると、遠くの方を見知った男たちが通るのが見えた。

 マフィオたち冒険者だ。


 「あ、マフィオさんたちだ! おーい!」


 レインはマフィオたちに手を振って、自分たちの居場所を伝えた。

 マフィオたちはすぐにそれに気が付いて駆け寄ってきた。


 「レインとオーファちゃんじゃねーか! こんなところで遊んでたら危ない、って、うおおっ!? なんじゃこりゃ!? ……イッカクオオカミの変異個体か? かなりの大物だな。こいつに襲われたのか、怪我はねーか?」


 マフィオはレインたちのそばに転がる巨大なオオカミに驚いたあと、心配そうに尋ねてきた。

 他の冒険者たちも一様に驚いたり心配したりしている。


 「大丈夫です、危なかったけどオーファが助けてくれました。マフィオさんたちは何をしているんですか?」

 「俺たちは今日、総出でオオカミ狩りよ!」

 「オオカミがり?」

 「そうだ。最近どうもオオカミの数が多くなってきてな。餌場やら住処やらはわからんが、とりあえず間引かにゃ危ねーってんで、俺たちが駆り出されたのよ」

 「なるほど」

 「レインたちはこんなとこで何やってんだ? あんま危ないことばっかしてっと、セシリアちゃんにどやされるぜ?」


 レインはマフィオたちに、廃墟で遊んでいたが下水道へと入ってしまい、そのまま道に迷って、オオカミに襲われたことを告げた。


 「なるほど、下水道か。奴ら、そんなとこに巣くっていやがったのか。それにしても、2人ともよく頑張ったな! 偉いぞ!」


 そう言ってマフィオは、がはは、と笑った。


 「よし、もう日が暮れるから、今日の狩りはここまでだ。レインたちと一緒に帰って、このことを報告するぞ!」


 冒険者たちはレインたちの周りを取り囲むような陣形を取った。

 どうやら護衛してくれるらしい。

 もう安心だ。


 「ほら、手を繋いであげるわ」


 オーファがレインへと手を差し出してきた。


 レインは自分の手を見た。

 泥と血で、ものすごく汚れている。

 オオカミに引き倒されたせいで、全身、泥だらけだ。

 その上、オオカミの口からあふれた血が大量にかかっている。

 その汚れ方は、転んだだけのオーファの比ではない。

 こんな状態でオーファと手を繋ぐのははばかられる。


 レインは、どうしよう、と困った。

 だが、そんなレインの手を、オーファは、がしっ、と掴んだ。


 「汚くなんかないわよ」


 一言だけだった。


 「……うん、ありがとう、オーファ」


 だけど、その一言は、レインにとって何よりも嬉しかった。

 普段、『汚い』と言ってイジメられるレインにとって、何よりも嬉しかった。


 ちなみに、実は、冒険者たちは水の魔術でレインの手を綺麗にすることもできたのだが、空気を読んで黙っていた。

 そして、互いに目配せをし、頷き合うと、子供が歩く速さに合わせて、ゆっくりと歩き出した。



 「2人とも無事だったのね!?」


 レインがマフィオたちと冒険者ギルドへ帰ると、セシリアが駆け寄ってきた。


 「お姉ちゃーんっ!」


 オーファは迷わずセシリアに飛びつき、抱き着いていた。

 レインは恥ずかしかったので、そうはしなかった。


 聞くところによると、どうやら廃墟で一緒に遊んでいた女の子たちが、レインとオーファがどこかに行って戻って来なくなったことを心配して、セシリアへと知らせに来てくれたらしい。

 女の子たちはすでに家に帰らされており、今からレインとオーファを探すための捜索隊が結成される予定だったようだ。


 「まったくもう! お姉ちゃん、心配したのよ!? 危ないことはしちゃダメっていつも言ってるでしょ!?」


 そして、落ち着いてからはお説教の時間だった。

 一応、セシリアとしては、早く2人を休ませてあげたいとも思っている。

 だが、鉄は熱い内に打てという格言通り、叱るなら今が一番だと考えたのだ。


 ぷりぷりとおかんむりのセシリアを前に、オーファは、全部自分が悪い、自分がレインを無理やり地下の探検へ誘った、と自供した。

 レインはオーファの自供を聞いて、このままではオーファがさらに怒られるのではないかと心配になり、必死になって、オーファがいかに頑張って自分を助けてくれたかを伝えた。


 それを聞いたセシリアは、怒るに怒れなくなり、反省しているなら許してあげてもいいかなぁ、とかなり甘い判決を行うことになった。


 その後、ギルドで食事をとり、3人一緒に家に帰った。

 こうして2人の冒険は終わったのだった。


 余談だが、『鎖骨つんつんの刑』はしっかりと執行されて、レインは大いに身悶えた。



 翌日、マフィオたち冒険者が中心となり、下水道の調査が行われた。

 下水道の中には複数のオオカミの群れが生息していることが確認された。

 外敵がおらず、意外と食べ物が豊富な環境が、オオカミの大量発生に繋がったようだ。


 調査後は、オオカミを現状のまま放置することは危険だと判断され、即座に間引きが行われることになった。

 魔物ですらないただのオオカミなど、冒険者の敵ではない。

 間引きは容易だ。


 だが、すでに王都の下水道には独自の生態系が築かれており、オオカミを全て狩りつくしてしまうと、今度はネズミなどが増えすぎてしまう。

 そうすると、それが原因で湖周辺の生態系にまで影響が出かねない。

 そのため、間引きは慎重に行われた。


 レインたちが下水道へと迷い込んだ原因の廃墟は、今回の事件を受けて、しっかりと地下への扉が封鎖されることになった。

 この廃墟は、使われなくなった下水管理棟だったらしく、そのときの名残で下水道への入り口が残っていたらしい。

 一応、下水道への出入り扉はしっかりと閉じられていたはずなのだが、先日、雷が落ちた際、下水道へと繋がる扉を制御する魔術路が壊れてしまっていたらしい。


 さらに下水道のオオカミ討伐から数日後。

 レインとオーファには、オオカミの生息地に関する状況提供への謝礼として、わずかばかりの報酬が支払われた。


 その日のレインリバー家の食卓には、数々の御馳走が並んだのだった。

◆あとがき


そんなわけで、16話『やみへの一歩』で下水の暗やみへと踏み出したオーファちゃん。

無事に、ちょっとだけ病みやみました。

ソフトなヤンデレへの第一歩です!


今日の夕方に、『小話』を予約投降する予定です。

それで、レイン君の幼少期編終了です。


明日からは、レイン君11才編です。

引き続き、よろしくお願いします。


Q:子供時代長くね?

A:ゆっくりやりたいでござる!

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