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13:スキル数『8』

 放課後。


 レインが学院を出たところでブラードたちに呼び止められてしまった。

 ブラードはいつものように、取り巻きの男子たちを連れている。


 「おい、無能! テメーの巣はゴミ捨て場だろ!? どこに行く気だよ?」


 ブラードの声にはレインを馬鹿にしてやろうという意図が多分に込められている。

 友好的な感情などは微塵も感じられない。


 レインは、学院だけではなく街中でまでイジメられては堪ったものではないと思った。

 だから、無視して足早にその場を立ち去ろうとした。


 「おい、無視すんのか!? おい、止まれよ! 止まれって言ってんだろうが! 無能のゴミやろーっ!」


 だが、ブラードはレインのそんな態度が気に入らず、頭に血を上らせて、その後を追いかけてきた。

 取り巻きたちも面白がって追いてくる。


 「おい、なにか言えよ、ゴミっ!」


 ブラードはレインへと罵声を浴びせながら、レインのすぐ後ろを追いかけた。

 それでも立ち止まろうとしないレインに苛立ちが増す。


 すでにブラードの脳内はレインへの怒りで埋め尽くされている。

 汚らしい無能なゴミの分際で無視しやがって!

 ゴミはゴミらしく、地面を這いつくばっていやがれ!

 クソがっ!!


  レインは、いつまでも付いてくるブラードたちに、いい加減うんざりとして立ち止まった。


 「なにかよう?」

 ブラードは、やはりレインのそんな態度が気に入らない。


 「ようなんかねーよ! 話しかけてくんな、ゴミやろーっ!」


 ゴミの癖に生意気な態度を取りやがって。

 そう思って、さらに怒りが増した。


 レインは、もう、意味がわからなかった。

 「待て」というから、待って。

 「無視するな」と言うから、用を聞いた。

 なのに、「用なんかない、話しかけてくるな」と怒られても困る。

 だったら、どうすれば良かったのか。

 そんなふうに思った。

 だが、どうせ、なにをやっても怒ったのだろう、と気にすることをやめた。


 ブラードの取り巻きたちも、レインへの加虐心をたぎらせ、次々に悪口を飛ばし始める。


 「そうだぞ、くさいから、こっちくんなよ!」

 「おれたちまで、よごれるだろ!」

 「あやまれよ、きたない無能め!」


 レインは、自分で追いかけてきたくせに、と思った。

 しかし、下手に言い返すと余計に悪化すると考えて、何も言い返さなかった。


 せっかく、今朝はお風呂に入ってきたのに、やはり『汚い』との誹りは無くならなかった。

 わかってはいた。

 でも、つらい。


 「どげざしろ!」

 「そうだぞ、どげざだ!」

 「どげざしろー!」


 「「「どげざ、どげざ、どげざ」」」


 レインは、ああ、いつもの流れか、と、どこか他人事のように感じていた。

 いつもの通りなら、地面に頭を擦り付けて、謝罪し、頭を踏まれたら解放される。

 こんなところで時間を使っていないで、早く終わらせてギルドへ行こう。

 そう思い、さっさと地面に頭をつけた。


 そして、頭をついてから、はて、今日は何について謝罪するんだったかな、と考えた。

 無視したことか。

 話しかけたことか。

 無能なことか。

 どれだろうか、とレインはしばし逡巡しゅんじゅんした。


 「……、話しかけて、ごめんなさい」


 だが、どうせ何について謝っても同じだろうと、とりあえず話しかけたことについて謝っておいた。


 ブラードたちは、それに満足して、いつも通りにレインの頭を踏んだ。

 いつも通りの流れだ。


 「仕方がないから、今日のところは――」

 「あんたたち、何やってんのよっ!!」


 だが、いつも通りにはならなかった。

 乱入者だ。


 「ああっ?」


 ブラードは、声のした方を向いた。

 知らない女の子たちがいた。

 年は自分たちと同じくらい。

 全員、聖カムディア女学院の制服を着ている。


 レインは声の主に驚いた。

 それはオーファだった。

 オーファが、ブラードたちを睨みつけていた。

 その背後には、友人だろうと思わしき女の子たちを引き連れている。


 オーファの視線は鋭い。


 ブラードはオーファの睨みに一瞬怯んだ。

 だが、それを誤魔化すように、イラついた声で怒鳴り返した。


 「っ!? だ、だれだよ、テメーら! かんけいない奴らは、引っ込んでろよっ!」


 オーファの視線に鋭さが増す。


 「関係ならあるわよっ!」

 「なんのかんけいが、あるってんだよ」

 「そこのレイはあたしの友達なのよ!」

 「うそ言うな! こいつに友だちなんか、いるはずないだろっ!」


 ブラードはオーファの言葉が信じられなかった。

 レインはゴミ捨て場に住んでいるような、醜くて卑しい無能なゴミだ。

 友達なんかいるはずがない。

 友達なんかできるはずがない。

 しかも、それが他学院の女の子たちだなんて、嘘にきまっている。


 「ねえレイ、あたしたち友達よね? 今朝も一緒に登校したもんね?」

 「え? う、うん。 ぼく、オーファと友だちだよ」


 レインはいきなり話を振られて驚いた。

 だが、とりあえず空気を読んで、話を合わせた。

 今朝、一緒に登校したのは本当だし、まったくの嘘ではない。

 友達なのかどうかは、よくわからない。

 でも、レインは、オーファが本当に友達だと思ってくれていたら嬉しいな、と思った。


 「ほら、私たちは友達なのよ、わかった? どうせ、あんたたちはレイの友達じゃないんでしょ? 関係ない奴らはどっか行きなさいよっ!」


 オーファは勝ち誇ったように、ブラードたちに言い放った。

 しっしっ、と手で追い払う仕草もおまけで付ける。


 ブラードは言い負かされたことに腹が立った。

 オーファの見た目が可愛いことも気に入らない。

 レインの友達の女の子が可愛いなんて、あってはならない。

 このまま引き下がって堪るか。

 そう思い、意気込んで吠えた。


 「やんのかよ、おれのスキル数は『7』だぞっ!」


 同年代の子供なら、自分のスキル数を言えば、ビビッて引き下がるはずだ。

 今まではそうなったし、今回もそうなると信じていた。

 そうなれば、この場は自分の勝ちだ。


 だが、


 「それがどうしたのよ、あたしは『8』よ」


 オーファはこともなげに、そう言い放った。


 「なっ!?」と驚くブラウド。

 他の男子たちも目を剥いている。


 「喧嘩でしょ? いいわよ? かかってきなさいよ!」


 オーファは余裕の表情で、制服の袖をめくった。


 ブラードには、オーファが嘘を吐いているようには見えなかった。

 だとしたら、本当にスキルを8つも持っているということだ。

 そんな相手に勝てるはずがない。


 ブラードはスキルが7つもあることが自慢だった。

 7つもあったから、ラザフォード家の養子になることができた。

 だからこそ、スキル数の重要性を知っている。


 そのとき、オーファの背後の女の子たちが話している声が聞こえた。


 「オーファちゃん、さいきょーだもんね」

 「持ってるスキルも、すごいのばっかりだしねー」

 「がんばれー、オーファちゃーん」


 ブラードは、スキル数8の相手には絶対に勝てない、と思った。

 もし負けたら、どうなるか。

 レインの友達の女の子に負けたら、どうなるか。

 明日から、クラスで笑いものにされるのは自分なのではないか。

 みんなから蔑まれ、イジメられるのは自分ではないのか。

 そう考えたら、足が震えそうになった。

 頭の中は逃げ出すことで一杯になった。


 「くっ、いくぞ!」

 「お、おい、まってよブラード」


 ブラードは取り巻きたちを連れて、足早に立ち去った。



 「ふんっ」


 オーファはブラードたちが立ち去った方を一瞥すると、つまらなそうに鼻を鳴らした。


 「ありがとう、オーファ」

 「べ、別に、あんたのためじゃないし! あたしが気に入らなかっただけだし! それに、あんたはセシリアお姉ちゃんが連れてきたんだから、仕方がなくね! そう、そうよ! あんたのためじゃなくて、セシリアお姉ちゃんのためなのよ! わかった?」


 レインがお礼を言うと、オーファは早口で捲し立てた。

 どうやら、助けに入ったことが照れくさいらしい。


 「うん、わかった。ありがとう」

 「……ふんだ」


 オーファは、ぷいっ、と顔を背けてしまった。


 「みなさんも、ありがとうございました。ぼくはレイン・ラインリバーです。オーファの……、友だちです」


 レインは、「オーファの友達です」と自己紹介してもいいのか少し悩んだ。

 さっき、オーファ自信が言ってくれたことではあるが、あれはブラードを言い負かすための方便だったと思う。

 だとすると、勝手に友達だと名乗るのは図々しくないだろうか。

 そう思って少し悩んだ。

 でも、結局、友達だと名乗ることにした。


 レインは、ちらっ、とオーファの様子を窺ったが、別に友達と名乗ったことに対して怒った様子はなかった。


 その後、女の子たちも自己紹介をしてくれて、1人ずつ名前を交換した。

 女の子たちはみんな、聖カムディア女学院の生徒らしい。

 みんなで一緒に下校しているときに、レインがイジメられている現場に出くわしたようだ。


 「レインくん、私ともお友達になってくれる?」


 一通り自己紹介が終わったところで、一人の女の子がそう言い出した。

 もちろん、レインに断る理由はない。


 「ぼくでよければ、よろこんで」


 言葉通り、喜んで友達になった。

 すると、他の女の子たちもこぞってレインと友達になりたがった。


 「あー、ずるーい」

 「わたしもお友達になってー」

 「レインくん、わたしもー」


 どうやら、女学院に通っているせいか、男の子というものが珍しいようだ。


 レインはみんなと友達になった。


 「わたし、男の子のお友達ってはじめてー」

 「わたしもはじめてー」

 「よろしくねー」


 レインは沢山の友達ができたことが嬉しかった。

 思わず顔が綻ぶ。


 すると、オーファがジトっとした視線を向けてきた。


 「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ」

 「の、のばしてないよ!?」


 レインは慌てて否定した。

 濡れ衣である。

 女の子だから喜んだわけでは無くて、友達ができたから喜んだのだ。

 そう説明したかったのだが、オーファはすでに聞いていないようだった。


 「あたしたちは、この後、一緒に遊ぶ約束してるんだけど、あんたはどうする? 別に一緒に遊んであげてもいわよ?」


 オーファは、基本的に面倒見が良い。

 女学院でも人気者だ。


 だが、セシリアが絡むと話が変わる。

 大好きなお姉ちゃんを取る奴は敵なのだ。


 レインとオーファの出会いは、そういう意味では最悪だった。

 なにせ、最初から敵対心が最大だったのだ。

 でも、一緒に登校したせいか、時間が経って落ち着いたせいか、セシリアがこの場にいないせいか、オーファの険はかなり取れたようだ。


 レインは、オーファが自分を気遣って遊びに誘ってくれたことが嬉しかった。

 だが、残念ながら今日は予定がある。


 「ありがとう、でも、ぼく、この後は冒険者ギルドに行くから」

 「ギルド? あんた子供なのに冒険者にでもなるの?」

 「うん、昨日、セシリアさんに登録してもらった」


 オーファは、レインのことを大人しい男の子だと思っていた。

 だから、すでに冒険者登録をしているという言葉を意外に思った。


 「ふーん。まあ、あたしも、お姉ちゃんにの受付の練習に付き合わせられて、登録だけはしてあるけどね。本当に登録だけだけど」


 オーファは、自分が冒険者登録したときのことを思い出しながら言った。

 そして、登録はしたけどそれっきり何もしてなかったなぁ、と思い出した。

 子供にできるギルドの仕事というと、手紙の配達、清掃活動、草むしりなどだ。

 はっきり言って、面白くない。

 だから、オーファはまだ一度も依頼を受けたことがなかった。

 受ける予定もない。


 一方で、女の子たちは『冒険者』という言葉に興味津々だ。


 「ぼうけんしゃー?」

 「おもしろそー!」

 「わたしも行きたーい!」


 全員がレインへと群がる。


 「レインくん、わたしたちも連れてってー」

 「おねがーい」

 「連れてってー」


 「「「おねがーい」」」


 瞳を輝かせる女の子たち。

 レインは困ってオーファを見た。


 「別にいいんじゃない? じゃあ、みんな、後であたしの家に集合ね」


 「「「はーい」」」


 そんなこんなで、この後の予定が決まった。

 そして、荷物を置きに帰るため、一度、解散となった。



 「ねえ、オーファ」

 「なによ?」


 家へと帰る道すがら、2人になったタイミングで、レインはオーファへと話しかけた。


 「さっきのこと、セシリアさんには、ないしょにして?」

 「さっきのって、あんたがイジメられてたこと? なんで?」


 レインは聞き返されて考えた。

 なんで?

 なんでだろう?

 心配かけたくないからかな?

 迷惑かけたくないからかな?

 かっこ悪いところを知られたくないからかな?


 考えたが、自分でも明確な理由はわからなかった。

 でも知られたくないと思った。


 「なんでだろう」


 結局、レインは小首を傾げるだけしかできなかった。


 「そもそも、なんであんたは、あんな目にあってまで王立学院に通ってんのよ。辞めればいいじゃない」


 オーファは呆れたというより、心底、不思議そうにそう聞いた。

 だって、別に『子供は学院に通わなければならない』と決まっているわけではないのだ。

 行きたくないなら、行かなければいい。

 だから、レインが冒険者になるなら、学院なんか止めればいいと思った。

 そうすれば、さっきみたいにイジメられることはなくなる。


 もちろん、冒険者になるにしても、学院で学ぶことが無駄になるわけではない。

 なので、オーファの考えは必ずしも正しいとはいえない。


 だが、レインはオーファの言葉に、一理ある、と思った。

 最初は友達が欲しかった。

 王立学院に行けば友達ができると思っていた。

 でも、入学してすぐに、それは無理だと気が付いた。

 それからは、ただ漠然と、理由もなく学院に通っていた。

 確かに、そのときは通う意味なんてなかった。


 しかし、今は違う。

 レインには王立学院に通う目的ができた。

 なりたいものができたのだ。


 「ぼく、騎士さまになりたいから」


 レインは、騎士になる方法を詳しくは知らない。

 だが、昨日、橋で出会ったキャメルドの話を聞いて、とりあえず王立学院で頑張れば騎士になれると思っている。


 「ふーん、そっか」


 と頷くオーファ。


 「うん」


 レインも頷いて返す。


 「なれるといいね?」

 「うん!」


 オーファも騎士のことはよくわからなかった。

 でも、レインが楽しそうに将来の夢を語るのを見て、それが叶うといいなと思った。

◆あとがき


レイン(エルトリア様に、『イジメから助けなくていい』って言ったけど。オーファに助けてもらって嬉しい)


そんなわけで、聖カムディア女学院の女の子たちの登場です。

彼女たちも立派なヒロインです。


もちろん、メインヒロインではありません。

しかし、サブヒロインでもありません。


彼女たちは『モブヒロイン』なのです!


超ハーレムには欠かせない要素です(たぶん。


ちなみに、この話はヒロイン格差が大くなる予定なので、

モブヒロインたちは基本的にチョロイです。


1人1人、丁寧に主人公に惚れさせていたら、

いつまで経っても超ハーレムなんてできませんからね。


ですが、たまに、ネームド・モブヒロインが登場します。

ネームド・モブヒロインは名前持ちだけあって、潜在能力が高いです。


これからが楽しみですね!

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