90.6:小話4-6
◆キュリアちゃんたちの貢ぎ物
王立学院高等部の女子たちは、実はすでに卒業試験を終えている。
主に輜重科目を専攻している都合で、騎士専攻のレインたち男子より試験のタイミングが早かったのだ。
輜重とは、食料や被服、武器などの、軍隊に必要な物資の総称だ。
輜重科目は、さらに兵站輸送と需品補給に区分される。
キュリアたちは兵站輸送ではなく、需品補給を中心に専攻している。
その結果、やたらと物を仕入れるのが上手い。
そんなキュリアたちだが、今の王立学院は授業どころではないので暇だ。
学院に行っても自習ばかりなので行く意味がない。
そんなこんなで、得意の仕入れ技術を駆使してせっせとレインへの貢ぎ物を仕入れては、陸戦艇へと届けていた。
◇
穏やかな昼下がり。
陸戦艇の前の野原。
キュリアたちが今日の貢ぎ物をフネアたちに渡していた。
「フネアさん、今日は品質の良いカーペットを持ってきました。是非、陸戦艇でお使いください」
「キュリア様、いつもありがとうございます。先日の調理器具も、とても助かりました」
「いえ、レインさんのお役に立てるのならこれくらい。他に何か必要なものはありませんか?」
「いえ、キュリア様たちのおかげで、必要なものはほとんど取りそろえることができましたので」
「そうですか、それは良かったです。でしたら引き続き、調度品や嗜好品をお届けしますね」
そう言って微笑むキュリア。
レインの身の回りが自分たちの貢ぎ物で満たされていく。
レインに仕えるフネアたちのメイド服も、自分たちの貢ぎ物だ。
キュリアたちはそのことに軽い興奮を覚えていた。
そこにレインが帰ってきた。
レインの手には串肉が持たれている。
珍しく間食しているようだ。
フネアがレインに問いかけた。
「ご主人さま、それは?」
「トリの串焼きです。さっき避難民キャンプの方たちに頂いたんです。沢山ありますから、皆さんもよければどうぞ」
そんなことがありつつキュリアたちは、レインの口に入る物も自分たちで貢ぎたいと思った。
◇
後日。
「レインさん、相談なのですが、よろしいですか?」
「もちろんです。キュリアさんたちには、フネアさんたちも僕も、いつもお世話になっていますから。そのお礼と言ってはなんですが、僕にできることなら、なんでも言ってください」
「え、な、なんでもですか!?」
「はい」
朗らかに微笑むレイン。
ごくり。
キュリアたちは唾を飲んだ。
キュリアたちは、イジメっ子だった自分がレインに女性として好いてもらうなど不可能だと思っている。
だから、いろいろなことを内心で諦めているのだ。
なのに、なんでもしてもらえる?
どんなことでも?
――だめ、勘違いしてはいけない。
頭を振って邪念を飛ばすキュリア。
レインにイジメてほしい、激しく罵ってほしい、思いっきり踏んでほしい、無理やり犯してほしい、過去を許してほしい――。
そんなこと、言えるわけがない。
浅ましい女だと思われて、軽蔑される。
折角レインと良い関係を結べているのに、変なことを言って、その関係を壊すなんて愚の骨頂だ。
キュリアは咳払いしつつ、本題を切り出した。
「こほん、レインさん、乳竜を飼ってみる気はありませんか?」
「にゅーりゅーですか?」
ちょっと間抜けな顔で問い返すレインに、キュリアたちや、横で話を聞いていたフネアたちの母性がガンガン揺さぶられた。
「は、はい。え、えーと、乳竜とは、その名が指し示す通り、乳をよく出す竜です。妊娠していなくても乳を出すのが特徴で、性格も穏やかです。様々な魔術処理がされていますので、排泄物や体臭の心配もありません。ウシほど身体が大きくないので場所も取りませんし、食事量も少なくすみます。おおよそヒツジくらいの大きさですね。見た目も可愛らしいので、ペットとしても優秀だと思います」
「な、なんというか、すごいですね?」
「はい、なにせ家畜用の竜ですからね。とても長い時間をかけて品種改良されてきたらしいですよ。レインさんが飼ってみたいと思ってくださるなら、3匹ほどすぐに用意できますが、いかがでしょうか?」
レインは生き物を飼ったことがないので、乳竜の飼育にとても興味がある。
正直、乳を出さなくてもいいから飼ってみたい。
でも、陸戦艇に住んでいるのは自分1人ではないので、勝手に決めるのは憚られる。
とりあえずレインは、隣に立っているフネアに聞いてみた。
「フネアさんはどう思いますか?」
フネアは、ちらっとキュリアと目配せし合ってから答えた。
「乳竜が出す乳は栄養価が高く、味も絶品だと評判です。ですからご主人さまさえよろしければ、是非、飼いたいです。世話は私たちメイドの中に家畜に詳しい娘がいるので、その娘にまかせれば大丈夫です」
なんとなく「世話は僕がしたいです!」と言い出せないレイン。
ふむふむと納得したように頷く。
「いかがでしょうか、レインさん?」
「迷惑でなければ、是非、飼ってみたいです」
「迷惑なんてとんでもないです。もしろ皆が助かります。ありがとうございます、レインさん」
キュリアがお礼を言うと、その場にいた全員がそれに続いたのだった。
◇
1時間後、3匹の乳竜が届いた。
あまりの早さに驚くレイン。
「ほ、本当に早かったですね」
「はい、レインさんのためですから」
「あ、その、ありがとうございます」
にこっとキュリアに笑顔を向けられて、レインは少しドキッとしてしまった。
誤魔化すように乳竜へと視線を向ける。
「キュウ」
愛らしい鳴き声。
きゅるんとつぶらな瞳。
もこもこふわふわと白い羽毛に覆われた身体。
ぬいぐるみのようだ。
思わず、レインが呟く。
「か、可愛いです」
「え!? あ、そ、そんな、私、嬉しいです、レインさん」
「僕、乳竜がこんなにも可愛いなんて思ってもみませんでした」
「……え? あっ、はい、この子たちは特に羽毛の質が良い美人さんたちばかりですから。レインさん、この子たちのお乳を、毎日いっぱい飲んであげてくださいね」
「はい。ありがとうございます、キュリアさん」
もふもふと乳竜と戯れるレイン。
キュリアたちは、レインが貢ぎ物である乳竜の乳を飲む姿を想像して興奮した。
そのとき、3匹の乳竜たちがレインの顔をペロっと舐めた。
そして、ぴかっと発動する『スキル共有』。
レインは動物相手に『スキル共有』が発動してしまったことに驚いた。
本来、動物はスキルを持っていない。
だから発動しないと思って油断していたのだ。
ちなみにキュリアたちもレインの身体が光ったので驚いている。
「い、いまの光は?」
「実は――」
レインはすでに隠しておく意味も薄いので、今後のことも考えて『スキル共有』の説明をした。
キュリアたちはその説明を聞いて、自分たちのスキルをレインに貢ぐことができると気付いた。
しかもその貢いだスキルは、死が2人を分かつまで、永遠にレインの中にあり続ける。
想像しただけで興奮して、倒れてしまいそうだった。
余談だが、『スキル共有』された乳竜の乳は濃密な魔力に溢れ、とても美味しかった。
飲んでいるだけで身体が丈夫になり、強くなれそうな気がした。
◆魔物の脅威
ギルドの食堂。
レインはマフィオたちと食事をしながら、国内の獣害情報について聞いていた。
近頃は軍が戦争のために東に集結している影響で、獣の間引きが行えない地域が増え、獣被害が増加しているらしい。
さらには獣どころか、普段は出ないような場所で『魔物』が出没することもあるようだ。
「僕、魔物ってまだ見たことないです。どんな感じなんですか?」
「そうだなぁ」
と、マフィオは魔物についての説明をした。
魔物とは濃密な魔力を餌とする生物の総称だ。
大きさや姿は多種多様なため、一概には言えない。
魔物たちは普段、『魔の森』と呼ばれる、濃密な液状魔力――魔水――が湧き出す森に生息している。
そこで樹液に群がる虫のように、魔水をすすって生きているのだ。
魔物たちは『魔の森』から出てしまうと餌が無くなる。
やがて飢餓感に耐えきれなくなった魔物は、体内に魔力を持った生物を、狂ったように捕食し始める。
人間はもちろん、ゴブリンやオークなども魔物の餌だ。
「つーわけで、ゴブリンやオークは魔物が現れると、新しい住処を求めて移動を始める。ただ移動するだけならいいんだが、厄介なことにオークなんかは人間の村や町なんかを乗っ取ろうとしやがるんだ」
だから魔物が現れると、各地でゴブリンやオークの被害が増えるらしい。
「この前、オーファと一緒に『はぐれオーク討伐』の依頼を受けたんですけど、あのオークもどこかの魔物から逃げてきたんでしょうか?」
「可能性はあるが、絶対にそうだとも言い切れねぇな。オークはゴブリンより頭が悪いし、ただ迷子になってただけかもしれねぇ」
なるほどと頷くレイン。
オークはゴブリンより力が強い分、力任せに物事を解決しようとする傾向があるらしい。
「ところで、魔物ってやっぱり強いんですか?」
「ああ、強えぇ。魔物の強さはピンキリだが、弱えぇヤツは見たことがねぇ。俺とルイズの2人がかりでも、正面から戦ったら勝てねぇヤツばっかりだ」
「そ、そんなに強いんですか!?」
「そうだ。だから正面からは戦わずに、罠なんかを使って搦手で倒すのが基本だ。まあ、こっちが先に見つかって、餌だと思って狙われちまったらどうしようもねぇがな!」
がはは、と笑うマフィオ。
レインは魔物という存在に恐怖を抱き、笑う気にはなれなかった。
◆改造なの!
ある日、レインが帰船すると、陸戦艇が3メーチルほど浮いていた。
ええっ!? と驚くレイン。
確かに前から少しだけ浮いていたが、それは精々が数センチルほどだ。
今は3メーチル近く浮かんでいる。
浮き過ぎだ。
「スイたち頑張ったの!」
「「「なの!」」」
胸を張る妖精たち。
頑張ってどうにかなる問題なのだろうか?
疑問に思ったレインは、フネアに視線で問いかけた。
「り、理論上は不可能なはずです、けど……」
フネアも目の前の光景が信じられないのか、自信なさげだ。
「妖精に理論を求めるなんて不毛なの!」
「頭良さそうに頭悪いことを言うのはやめるの!」
「無知を認めないものに、知を得ることはできないの!」
妖精たちは基本的にフネアに辛辣である。
次に妖精たちはレインへと群がり始めた。
「モコモコ竜なんかにデレデレしているレインがいけないの!」
「妖精の方が可愛いし、ペットとして優秀なの!」
「ペットとしての恪の違いを見せつけてやったの!」
なんだか怒っているが、レインには意味がわからない。
レインはとりあえず、気になったことを確認しておくことにした。
「この船、ちゃんと下ろせるの?」
「当たり前なの! 今のスイたちに不可能はないの!」
下ろせるならいいかぁ、とレインは深く考えることを止めたのだった。
◆あとがき
『折角レインと良い関係を結べているのに、変なことを言って、その関係を壊すなんて愚の骨頂だ』byキュリア
なおセシリアさん
そんなこんなで、年末までに4章を終わらせるために執筆中(作者的には、4章の内にハーレムの基盤を作っておきたいです)なわけですが。
1章から3章まではおおよそ14万から15万文字ほど長さなんですけど、4章は11万文字くらいになりそうです。
予定より3~4万文字(5~8話ほど)少ないです。
その都合でちょっと強引な話の展開などがある(いつものこと)と思いますが、許してね(・人・`)
そんなにカツカツになるのなら、エロメイドとの中途半端(雑)なハーレムプレイごっことかいらなかったんじゃね?
と、疑問に思う人もいるかもしれませんが、ぶっちゃけ作者も同じことを思ってます(ぇ
あまりにも部屋が寒かったから、つい人肌の温もり恋しさにやっちゃったわーい(´v`*)←




