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90.4:小話4-4

◆レインの朝


レインの朝は早い。

目を覚ますのは日が昇る前だ。


起きたらまず柔軟体操を行う。

それから自主鍛錬だ。


自主鍛錬は陸戦艇の中にある訓練室で行う。


訓練室は天井も高く、それなりに広い。

十分に身体を動かすことができる。


まずは日課の素振り。

次に剣術の型を一通り流す。

それから格闘術の稽古。

最後に魔術の練習をする。


スキル数が増えたおかげで、今までよりも濃密な自主鍛錬が可能になった。

獣人たちと戦ったときの事を思い出しながら、剣を振り、拳を突き、魔力を練る。

もし次に戦うことがあれば、そのときはもっと上手く戦う。

そんな決意を胸に、鍛錬に励む。


鍛錬が終わった後は配達に……、出かけたいところなのだが、実はもう配達はしていない。


配達のような簡単な依頼は、避難民の子供たちの小遣い稼ぎに丁度いい。

だが今のレインが配達をしてしまうと、1人でほどんどの配達をこなせてしまう。

それでは子供たちが困るだろう。

そんなこんなで、レインは遠慮することにしたのだ。


ジェルハードに渡された500万マナがあれば、当面の生活費には困らない。

溜め込んでいても仕方がないので、有効に使わせてもらうつもりだ。


そんなわけで、少し長めの自主鍛錬の後は自室の風呂に入る。


それからオーファを起こしに行く。

別に「起こして」と頼まれているわけではないのだが、これも日課だ。


レインが起こしに行くと、オーファはよく寝ぼけている。

だが2割くらいの確率で、寝ぼけずに起きることもある。


――コンコン。


「オーファ、朝だよ」

「うぅん、レイ? もう朝?」

「そうだよ」

「部屋に入ってきて?」

「うん」


と、のこのことオーファの部屋に入るレイン。

そしてベッドに近付き、


「えい! 捕まえたぁ、さ、一緒に寝ましょ♡」


あっさりシーツの中に引きずり込まれる。


「オ、オーファ、こんなことダメだよ!?」

「ダメじゃないもん。離してあげないもん。だってあたし、寝ぼけてるんだもん」


近頃のオーファは以前にも増して積極的だ。

寝ぼけていようがいなかろうが、グイグイとレインにじゃれつく。


「オーファ、今、寝ぼけてないよね?」

「寝ぼけてるもん。……ねえ、レイ?」

「な、なに、オーファ?」

「もっと触って?」

「え? …………えっ!?」

「いや?」

「いやじゃないけど、でも」


婚約者がいるのに、そんなことダメだ。

でも、その婚約者の父親には「オーファを受け入れるように」と言われた。

なら受け入れてもいいのか?


いや、でも、『受け入れる』のと『触る』のは違う気がする。


果たして触ってもいいのか。

それともいけないのか。

無駄に悩むレイン。


そのとき、


――コンコン。


ノックの音。

続けて扉の外からフネアの声。


「ご主人さま、オーファ様、お楽しみ中のところを申し訳ありません。朝食の準備が整いました」


レインは、ほっとしていいのか、がっかりしていいのか、微妙な心境のまま朝食へと向かった。



食堂は広い。

陸戦艇の最大乗員数は数百人にも及ぶので当然だ。


レインとオーファ、メイド9人、計11人だけで使うには広すぎる。

ガランとしてちょっと落ち着かない。


いつかもっと人が増えるのだろうか。

レインはそんなことを考えながら朝食を食べた。


朝食の後はオーファと2人でギルドに出かける。

手頃な依頼が有れば一緒に受け、無ければ一緒に訓練をして過ごす。


「レイ、これなんかどう?」

「どんな依頼?」

「『はぐれオーク討伐』。オークが1匹、村の近くをうろついていて困ってるらしいわ。場所は王都から北西の村。日帰りで行ける距離ね。報酬は6万マナ」

「6万? 結構多いんだね。それにしようか」

「じゃ、決まりね。いつ行く?」

「それくらいなら準備も要らないし、明日でいいんじゃないかな?」

「そうね、そうしましょう。お姉ちゃーん、これ受けるわ!」


と、オーファが受付に駆けていって、「ギルドの中は走っちゃダメでしょ?」とセシリアに怒られていた。


ちなみに、「それくらい」とレインは言っているが、ナカルドたち若手冒険者には少し難しい依頼だ。

だが今のレインとオーファなら、オークの1匹くらい楽勝だ。

獣人と比べれば、なんてことはない。


受付後。


レインとオーファは訓練をして過ごした。


レインはオーファの訓練ペースについていこうと必死だ。

が、


「レイ、ちょっと休む?」

「ぜぇ、はぁ、だ、大丈夫、続けよう」

「そ、そう? それじゃあ続けるけど、無理しちゃダメよ?」


レインはあっという間に疲労困憊だ。

強者への道のりは遠い。




◆平和な昼下がり


昼。


この日はセシリアの仕事が昼までだったので、ギルドで昼食を食べた後、一緒に陸戦艇に行くことになった。

道中、レインに会いに来たエルトリアとも合流した。


エルトリアがセシリアに話しかけた。


「セシリアさん」

「なんでしょうか、エルトリア様?」

「ぜひわたくしのことは、もっと気安く扱ってください。セシリアさんはレイ君のお姉さんも同然。となれば、わたくしのお姉さんも同然なのですから」


セシリアはふーむと考えた後、ティン! と閃いた。


「わかりまし――、わかったわ、エルちゃん! つまりずっと4人一緒ということね!」


ずっと4人一緒。

それどころかメイドの子たちも妖精たちも一緒。

家族が沢山。

きっと毎日楽しいに違いない。

ずっとずっと皆と一緒。

そんな生活、幸せに違いない。


セシリアは上機嫌になった。


その横で、レインは妙に緊張した様子で歩いていた。

先日ジェルハードに言われた「エルトリアと関係を持て」という言葉を意識してしまっているのだ。


レインは耐えきれなくなり、エルトリアに聞いてみた。


「あの、エルトリア様」

「なんでしょうか?」

「ジェルハード様は、僕のことを何か仰っていましたか?」

「はい、『レイン君に可愛がってもらいなさい』と言われました」

「そ、そうですか」


レインは「可愛がる」という言葉を意識してしまい。さらに緊張したのだった。



陸戦艇の甲板。

スイたちの作物畑には、いつの間にか立派な作物が実っている。

のだが……。


レインは気になったことをスイに聞いてみた。


「ねえスイ?」

「なの?」

「作物畑ってまだ苗や種を植えたばかりじゃなかった?」

「そうなの! 植えたばかりなの!」

「ど、どうしてもう実がなってるの?」

「スイたち頑張ったの!」

「そ、そうなんだ。みんなすごいね?」


レインが言うと、妖精たちは皆、喜びだした。


「レインに褒めてもらったの!」

「嬉しいの!」

「これからも頑張るの!」


可愛らしく飛び回る姿に、レインの顔も綻ぶ、


それにしても立派な作物だ。

どうすれば1日でこんなに大きく育つのだろうか。


レインは再び、スイに聞いてみた。


「どうやったら、こんなに立派に育つの?」

「愛情たっぷりに育てたら大きくなるの!」

「な、なるほど」


よくわからないスイの説明に、レインは深く考えることを止めた。


そしてその会話を聞いていたオーファがエルトリアに言った。


「ねえ、おっぱいの小さなエル、今の聞いた? 大きさの違いは愛情の違いらしいわよ?」

「むうう、わ、わたくしのは別に小さくありません! ほどよい大きさです!」

「もっと可愛がってもらったほうがいいんじゃないの? ぷぷっ」

「わ、笑わないでください!」


そんな2人の横で、セシリアが自分の胸を満足気に撫でながら言った。


「そっかぁ、レイン君の愛情の違いかぁ。どうりで」

「お、お姉ちゃんは昔から大きかったでしょ!?」

「やっぱり私の胸が一番レイン君の好みなのね」

「あたしのよ!」

「わたくしのです!」


わいわい賑やかな3人。

その横で、レインがフネアに問いかけた。


「フネアさん、この野菜どうしましょうか?」

「そうですねぇ……。私たちだけでは食べきれませんし、避難民キャンプの市場などで買い取ってもらうのが良いと思います。食べ物ならどこに持って行っても良い値段で買い取ってもらえますので」

「なるほど」


納得するレイン。


「ところでご主人さま」

「なんですか、フネアさん?」

「私のは、いかがでしょうか?」


胸を強調するように立つフネア。


「はい、そのメイド服、とても良く似合っています。理知的で落ち着いたフネアさんの魅力を、さらに引き立てているように思います。とても素敵ですよ」


すらすらと社交辞令を述べるレイン。

一応、本心だ。

『ご奉仕』の一件を思い出して取り乱しそうになったが、なんとか平常を保てた。


そんなレインの言葉を受けたフネアは、


「あ、ありがとう、ございましゅ」


ボっと赤くなって照れたのだった。



船内。


「いい? こういう角に汚れを残さないようにね?」

「「「わかりました、セシリア様」」」


セシリアが新米メイドたちに掃除や洗濯のコツを教えている。


セシリアの家事能力は極めて高い。

長年にわたり修道院で生活したことで、自然と磨き上げられた技術だ。


そして実は、レインとオーファもそこそこ家事能力が高い。

子供のころからセシリアの手伝いをしてきたからだ。


だがエルトリアの家事能力は壊滅的だ。

家事なんてやったことがない。


エルトリアの見ている前で、テキパキと掃除をこなしていくセシリア。


「こういう場所は、洗浄の魔術で――」


――と様々な掃除の小技をメイドたちに教えていく。


セシリアにはエプロンがよく似合っている。

とても家庭的だ。

なんとなく、すごく良いお嫁さんになりそうな気がする。


エルトリアは冷汗をかきつつ、オーファに問いかけた。


「も、もしかして、オーファさんも家事ができるのですか?」

「ん? できるに決まってるじゃない。エルはできないの?」

「うぐっ」


言葉に詰まるエルトリア。

このままでは不味い。

折角レインに婚約してもらったのに、このままではお嫁さんの座が危ない。

ただ見ているわけにはいかない。


「セシリアさん、わたくしにも教えてください!」

「もちろんいいわよ」


そんなこんなで、メイドに交じって掃除を始めるエルトリア。


そんな様子を見て、オーファは思った。

このままじゃ負けてしまう!


「あ、あたしもやる! あたしにも教えて!」

「もちろんよ、オーファちゃん」


レインは思った。

仲間外れは寂しい!


「僕も――」

「レイン君は見てればいいのよ? 掃除は私たちがやってあげるからね」


しょんぼり落ち込むレイン。


見かねたオーファがセシリアにそっと耳打ちした。


「お姉ちゃん、そんなこと言ってると、またレイに逃げられるわよ?」

「……え?」

「ほら見て、レイの寂しそうな顔」

「はうっ!? ご、ごめんなさいレイン君! 私が手取り足取り教えてあげるからね?」

「あたしも教えてあげる!」

「わ、わたくしも」


手を上げたエルトリアに、オーファがジトっとした目で言った。


「エルは教えられないでしょ?」

「うっ……。ごめんなさい、レイ君。わたくし、婚約者なのに……」

「はいはい、コンニャクコンニャク」

「婚約者です! こ・ん・にゃ・く・しゃ!」

「やっぱりコンニャクじゃない」

「ちょ、ちょっと噛んだだけです!」


賑やかな2人の横で、レインがセシリアに手取り足取り教わっていた。



夕方。


レインとオーファは、セシリアとエルトリアを送り届けた後、再びギルドへと来ていた。

再び訓練をするためだ。


が、


「ぜぇぜぇ」

「レイ、ちょっと休憩しよっか?」

「ご、ごめん」


やはり、強者への道のりは遠い。



翌日、2人は無事に『はぐれオーク討伐』を終え、明るい内に王都へと戻った。


2人で6万マナの稼ぎ。


レインは、ジェルハードの500万マナに頼らなくても、生活費はなんとかなりそうだと安心したのだった。

◆あとがき


突然ですけどソルジャー(兵士)の由来がソールソルト(塩)だって話はそこそこ有名(?)ですよね。

お給料に塩をもらっていたからソルジャーっていうアレです。

サラリーも同じような由来だった気がします。


では、『マナ』をお給料にもらう人たちは何て呼べば良いのでしょう?

やっぱり『マナー』でしょうか?

とてもお行儀が良さそうな名前ですね(・ω・´)←

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