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90.2:小話4-2

◆お小遣いあげちゃうおじさん


朝。

レインは1人、国王ジェルハードに呼び出され、王城に来ていた。

城に入り、案内された先はジェルハードの執務室。


「レイン君、エルトリアの引っ越しを受け入れてくれてありがとう。礼を言う」

「い、いえ、エルトリア様を迎え入れることができるなんて、光栄です」


レインには『オーファとセシリアにサンドイッチにされていたところを見られて、断るに断れなかった』なんて言えない。


よく見ると、執務机の上には皿に乗ったサンドイッチが置いてあった。

サンドイッチなんてただの軽食だ。

深い意味はないはず。

だが、なにかを示唆している気がして、レインは妙に緊張した。


ちなみに本当にただの軽食であり、まったく意味はない。


「エルトリアから、レイン君の『スキル共有』のことを聞いた。疑うわけではないのだが、すんなりと信じて良い話でもない。だから念のため、スキル鑑定を受けてみてくれないか?」

「スキル鑑定ですか? わかりました」


レインに断る理由はない。

なので素直に受けてみることにした。


しばらくすると、部屋に1人の白髪の老人が入ってきた。


「お呼びでしょうか、ジェルハード様」


70代くらいの老人。

レインを『無能』だと診断した張本人だ。

だがレインを始め、全員そのことに気付いていない。

レインは、どこかで見たことがあるお爺さんだなぁ程度にしか思っていない。



老人は早速、レインのスキル鑑定を開始した。

レインの頬に手を当て、下瞼をぐいと引き、瞳の中を覗き込む。

慣れた作業だ。


だが、


「な、なな、こ、これは!??」


あまりにもスキルが多すぎる。


スキル数は平均5つ。

多くて7つ。


だが、今見えているスキル数はそんなものじゃない。

多すぎていくつあるのかわからない。

30、いや、40以上はありそうだ。

もしかしたらもっとあるかもしれない。

個別に識別するなんて不可能だ。


「レイン君のスキルはどうかね?」

「そ、そうですなぁ、ううむ」


どう答えるか悩む老人。

わかりませんとは言いたくない。


ジェルハードが、ごくり、と息を飲み、聞いた。


「……ご、50以上のスキルが見える、のか?」

「え、ええ、そ、そうですな……。驚くべきことですが、おそらく、それくらいはありそうです。ワ、ワシも信じられません……」

「うむ、そうか、わかった……。ご苦労であった、もう下がってよい」

「は、はい」


老人はフラフラとした足取りで部屋を出ていった。



再び執務室にはレインとジェルハードの2人になった。


「さて、レイン君」

「はい、なんでしょうかジェルハード様」

「是非、エルトリアをよろしく頼む」

「はい」


力強く頷くレイン。

否は無い。


ジェルハードも満足気に頷く。

だが次に、少し申し訳なさそうにこんなことを言い始めた。


「それと……、先日オーファ殿を受け入れるように頼んだばかりで、こんなことを言うのは気が引けるのだが……。なるべく早くエルトリアと関係を持ってくれると助かる」

「………………え?」


関係を持つ。

その言葉が指し示す意味を考えて、固まるレイン。

言葉の意味はわかる。

でも、そんなことを言われる意味がわからない。


「レイン君、以前わたしは君に、婚前交渉はなるべく控えるように言ったな?」

「は、はい」

「あれは忘れてくれ」

「え? い、いえ、しかし」

「レイン君が真面目なことは美徳であると思う。だが、この国のためにどうか頼む……。ああ、そうだ、話は変わるがこれを渡しておこう」


渡されたのはまたしても分厚い封筒。

また100万マナくらい入っていそうだ。


「あ、あの、この封筒は?」

「うむ、エルトリアが陸戦艇に住まわせてもらうから、その家賃と食費だ。遠慮なく受け取ってくれ。それに、わたしが金を持っていても使う機会が無いからな。あとこれも」


と言いながら、ジェルハードは執務室に置いてある金庫を開けた。

そこから大金を抜き出し、封筒に入れてレインに手渡す。


今度はさっきの倍、おおよそ200万マナくらいある。


「あ、あの、これは?」

「エルトリアと関係を持ってもらう礼と、無理を言ってしまうことへの詫びだ。レイン君には会う度に無茶を言ってしまい、本当に申し訳ないと思っている。だが、どうか第一王女であるエルトリアと関関係を持ってほしい。これは国王としての頼み……、いや、命令だ」

「め、命令ですか!?」


国王ジェルハードからの命令。


深まるレインの混乱。

理解が追いつかない。

何がどうなったら、エルトリアと関係を持つことを許されて、その上200万マナまでもらえることになるのだろうか。

普通は自分から大金を払っても、お姫様と関係を持つことなどできないのだ。

それが大金をもらった上に、お姫様まで――。

全然意味がわからない。

でも国王様に命令されたら、レインには断れない。

受け取った封筒を突き返すこともできない。

対価をもらった以上、やることはやらなければならないような気がする。


「わたしを軽蔑する気持ちはわかる。だが、国王として、わたしはこの国の安定と平和のことを考えねばならんのだ。納得はしなくていい。だが、理解はしてくれ」

「は、はい」


頷くレイン。

正直、納得どころか理解もできていない。


だがレインが頷いたことで、ジェルハードはほっと安心したような表情になった。


「さっき『なるべく早く』と言ったが、別に急ぐ必要はない。すまんな、わたしも焦っていたようだ。……ところで、今、城に帝国の姫が来ていることは知っているか?」

「帝国の要人を迎えたと、イヴ先ぱ――、ボーディナ近衛騎士隊長様から伺っております」

「うむ、そのことだ。よいか、なるべくその姫には近付かんようにな? もし婚姻を迫られても断るようにな? レイン君にはエルトリアがいるのだからな? わかったな?」

「え? は、はい、わかりました」


レインが頷いたことを確認すると、ジェルハードも満足気に頷いたのだった。




◆お花畑なの!


セシリアが陸戦艇を訪ねてきた。

引っ越しの下見に来たらしい。


レイン、セシリア、フネアの3人で陸戦艇の中を見学していく。

食堂、キッチン、浴場。

内部の見学を終え、次に甲板に移った。


そこでレインは自分の目を疑った。

なんと甲板の一角にお花畑ができていたのだ。


昨日まではなかったのに。

自分の頭がおかしくなったのだろうか。

そんな心配をするレイン。


セシリアは綺麗なお花畑に喜んでいるようだ。

どこにでも咲いているような小さな白い花を、微笑みながら撫でている。


可憐だ、と思わず見惚れてしまうレイン。


そこに妖精たちが集まってきた。


レインがスイに問いかける。


「このお花畑はスイたちが?」

「そうなの! スイたち頑張ったの!」


どうやらスイたちがお花畑を作ったらしい。

妖精たち全員が誇らしげに胸を張っている。


でも、お花畑なんて作って、甲板は痛まないのだろうか。

心配になったレインは、こっそりとフネアに聞いてみた。

するとこんな答えが返ってきた。


「問題ありません。陸戦艇は戦地での要塞としての機能を期待されています。戦場の場所によっては、食料を自給する必要があります。ですので、甲板での作物の栽培なども可能な設計になっているのです。そういうわけですので、お花畑くらいならまったく問題ありません」

「なるほど」


頷くレイン。

甲板で作物を作ることができるなんて驚きだ。

土の管理が大変そうだが、その辺は魔術でなんとかするのだろう。


「ご主人さま、折角ですので、妖精さんたちにお願いして、何か作物を育ててもらいましょうか?」


実はレインは植物を育てるのが好きだ。

昔からセシリアの家庭菜園を手伝っていろいろと育てていた。

なので、


「それは面白そうですね」


とノリ気だ。


「ではさっそくお願いしてみますね」


と、妖精たちにお願いするフネア。

だが、


「話は大体わかったの!」

「でも、年下の言うことを素直に聞くのはシャクなの!」

「そうなの! 妖精は年功序列にうるさいの!」


妖精たちは辛辣だ。


そのときセシリアが言った。


「わぁ、私、妖精を見るの久しぶりだわ」


妖精たちの視線が、初めて見る人間セシリアに集まる。

妖精たちの目には、いろんなものが見えている。

魂の輝き、魔力、年齢などなど。

だからこそ、セシリアを見て、ぎょっと驚く。

そしてコロッと態度を一転させた。


「わかったの! 作物を作るの!」

「年上には逆らわないの!」

「そうなの! 妖精は年功序列にうる――、むぐぅ!?」


セシリアが1匹の妖精をガシっと捕まえた。


「うふふ、レイン君の前で、年齢の話はやめてね?」


ふふふ、と笑うセシリア。

目が笑ってない。


「わ、わかったの!」

「もう年齢の話はしないの!」

「言われた通りにするの!」


セシリアにペコペコ頭を下げる妖精たち。


スイがこそっとレインに問いかけた。


「あ、あの人間は何者なの?」

「セシリアさん? オーファのお姉さんだよ?」


オーファ。

その名が出た途端、妖精たちが震え出した。


「ひいぃ!? オーファのお姉さんなの!?」

「おそろしいの! 絶対に逆らわないの!」

「なんでも言うことを聞くの! 服従なの!」


余程オーファが怖いらしい。


こうして陸戦艇の甲板に、お花畑と作物畑ができたのだった。




◆混乱の王立学院


レインは退学になっても、なんやかんやで割かし平然と生活している。

だが、実は世間の方が平然としていなかった。


『英雄が不当に退学させられた』


このことはすでに知れ渡っており、国民は王立学院に対して憤慨している。

多くの苦情が王立学院へと寄せられた。


だが学院理事たちは憲兵に身柄を拘束されており、その対処ができない。

特に副理事長は余罪も多く、入念に取り調べがされている。

自由になれるのは数十年後だろう。


他の理事たちも、軽く見積もって数年は檻の中だ。

自分たちの名声や名誉を守ることだけが生き甲斐で、人生を賭けてきた。

だがその全てが無駄になってしまった。

今までの人生の意味が、全て失われる。

哀れなものだ。

とはいえ他人の人生を滅茶苦茶にしようとしたのだから、当然と言えば当然の結末だろう。


だが、事態はそれだけでは終わらなかった。

指導教員たちが、レインがイジメの受け皿にされていたことを告発したのだ。


『英雄が不当に虐げられてきた』


そのことを知った国民の怒りはさらに加速し、王立学院内部の混乱も加速した。


その混乱は、ブラードたち高等部男子の卒業試験にも影響した。


本来、王立学院では、所持しているスキルなどを加味して、それぞれ個別に卒業試験の内容が決められる。

だが混乱中の今は、とてもではないが個別に卒業試験を割り振るなんてできない。


そんなこんなで、男子たちの卒業試験はまとめて一緒に行われることになった。


試験内容は『トロワの街の警備手伝い』。

出発は数週間後に決まった。

◆あとがき


出発は数週間後に決まった。

決まったって割にはフワっとしてるなぁ←



トロワの街っていうのは一章に出てきた、遠征訓練の途中で立ち寄った街です。

王都から北へ向かい、3つ目にある大きな街だからトロワって名前です。



Q:王都に名前はないの?

A:あります。


三章にもちょっと書きましたけど、王都から東へ遠ざかるほど『ウノ(1)の街』『ドゥーエ(2)の街』『トーレ(3)の街』『クワティエロ(4)の街』と数字が大きくなっていきます。


そんな命名規則なので、王都の名前は『レイ(0)の街』です。


王都から東はイタリア語由来。

北はフランス語由来。


ではレイを含む漢字由来はどの方向なのかというと、王都から真下、地下方向です(ぇ


王都中央区の地下方向に、上から順に、『零(0)の街』『壱(1)の層』『弐(2)の層』となってる感じでした(過去形

現在ではそんなことを知っている人も、覚えている人もいません。


Q:1章のとき下水道に入っていたけど、地下には下水以外なにもなかったやん?

A:オーファちゃんとレイン君が入ったのは東区の下水で、東区は王都の人口増加に伴い新しく作られた地区なので、地下に変なものはないのじゃよ。



で、当時の人たちが地下で何をしていたのかというと、魔石を採ってました(あえて採掘とは言わない)。

そのときの名残で、現在の王国の通貨単位は『マナ(魔力的なものを指す言葉)』なのです。



Q:その話しって本編に関係あるん?

A:ぶっちゃけレイン君の名前の由来も含めて、本編内で回収するべきかどうか迷ってる


もし回収するにしてもかなり先なので、しばらく関係ないと思っておいてもらってもいいんじゃないかなぁ(適当

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