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90.1:小話4-1

◆ペット


夜。


陸戦艇へと戻ったレインとオーファは、フネアたちに挨拶した後、甲板へと上がった。

スイたちの様子を見るためだ。


すでにスイたちはすっかり元気になっていた。


レインはこれからのスイたちの予定を聞いてみた。

するとこんな答えが返ってきた。


「スイたち、ここに住むの!」

「ここって、陸戦艇ここ?」


レインが足下(甲板)を指しながら聞き返すと、他の妖精たちも声を上げ始めた。


「ここが新しい里なの!」

「もう決めたの!」

「止めても無駄なの!」


寝そべり、甲板にしがみつく妖精たち。


その行動に、イラついたオーファが言った。


「この羽虫、殺す? レイの代わりに、あたしが駆除してあげるわよ?」


ぬらりと剣を抜き。

ぎろりと視線を巡らせる。


びくっと驚く妖精たち。

甲板から跳ね起き、レインの後ろに隠れる。


「ひいい、なの!」

「こ、怖いの!」

「レイン、助けてなの!」


涙目になってガタガタと震えている

余程オーファが怖いようだ。


「オーファ、優しくしてあげてよ」

「レイがそう言うなら……。あんたたち、レイに感謝しなさいよ」


オーファが剣を納めると、妖精たちはほっと安心した。


「た、助かったの!」

「レインに感謝するの!」

「オーファには逆らわないの!」


そこにメイド服のフネアもやってきた。


「ご主人さま、夕食の支度が整いまし――、っ!? そ、そちらの小さな方たちは?」


妖精に驚いて、目を白黒させるフネア。

今まで船内にいたので、甲板にいた妖精に気付いていなかったようだ。


「この子たちは……、妖精です」


端的に説明するレイン。

他に言いようがない。


「なるほど、妖精ですか。どうりで小さいと……、ええっ!? よ、妖精ですかっ!?? ほほ、ほ、本物の!??」


いつも落ち着いた様子のフネアが吃驚仰天したことで、逆に驚くレイン。


「は、はい、本物の妖精です」

「す、すごいです! 私、はじめてみました!」


絵本でしか見たことがない妖精を間近で見ることができて、大興奮のフネア。

だが、


「やかましい人間なの!」


と、スイはそっけない。


「し、辛辣だね、スイ」


思わずレインが言うと、他の妖精たちがそれに答えた。


「妖精は年功序列に厳しいの!」

「10年ちょっとしか生きていない人間なんかに、下手に出るつもりはないの!」

「でもオーファには逆らわないの! 年功序列より、命の方が大事なの!」


妖精の世界も大変らしい。

レインは「そ、そうなんだ」と曖昧に頷いたのだった。


そんなこんなで、スイたち妖精も陸戦艇に住むことになった。

寝床は甲板、食料は自分たちでなんとかするらしい。

オーファが「経済的なペットね」と言っていた。




◆中堅冒険者の雑談


翌朝。

冒険者ギルドの食堂。


久々に王都に戻ってきた中堅冒険者たちが、久々にレインの本命の女の子について話し合っていた。


「結局、レインの本命は誰なんだ?」

「今はオーファちゃんだろ?」

「いや、最近はセシリアちゃんがグイグイ押してて、レインもタジタジらしいぞ」


「ほお」と驚く冒険者たち。


中堅冒険者たちにとって、セシリアは憧れの存在だ。

10年ほど前に冒険者になったころからずっと憧れていた。

昔は、ぼぅっと見惚れる度に、ベテラン冒険者に小突かれていたものだ。

懐かしい。


そんなセシリアの恋路とあらば、是非、応援したい。

だが、オーファのことも応援したい。

どちらかが泣くのは見たくない。

どうなるのが最善の結果なのか。

悩む中堅冒険者たち。


そこにナカルドたち若手冒険者もやってきた。


「レインは2人とも本命だべ」

「だべ、いつも3人で仲良くしてるべ」

「きっと毎晩、酒池肉林だべ」


「ぶふっ」と飲みかけの水を噴き出す中堅冒険者。

ちょっと顔が赤い。


「ほ、ほお、そりゃ、セシリアちゃんとオーファちゃん、上手いことやったな」

「レインをその気にさせて、2人同時になんて、一筋縄ではいかないはずだ」

「だが、流石にあの2人に迫られたらレインも堕ちるだろ。というか、堕ちない男はいないだろ」


「確かに」と頷く一同。


「でもまあ、俺的にはそれが一番良い結末だな」

「ああ。あの3人がバラバラになるなんて見たくねぇ」

「誰も悲しまない、最善の結果だ」


うんうんと納得の一同。


「まあ、レインはちょっと大変かもしれないな」

「俺たちで支えられるところは支えてやろうぜ」

「当然だ」


話がまとまりかけたころ、1人の冒険者が小声で言った。


「昔から、たまにレインと一緒にいる、黒髪の綺麗な女の子がいただろ?」


言われて、記憶を探る冒険者たち。

すぐに誰のことかわかった。


「ああ、近衛隊長のボーディナさんだろ?」

「あの子もレインに気がありそうな感じだったよな」

「だとしたら残念だったろうな、レインと一緒になれなくて」


しみじみとする一同。

失恋の辛さはよぉぉぉく知っている。

さぞや辛い思いをしているのだろうと同情的な気持ちになる。


だが、


「じ、実は少し前、そのボーディナさんが、レインを高級宿に連れ込んでるところを見ちまったんだ」


騒然となる一同。


「ま、まじかよ!?」

「い、いや、でも、レインはガードが固そうに見えて、なんだかんだで隙だらけだ」

「だな、断るのが苦手だから、グイグイこられると弱い」


しかも相手はかなりの美人。

レインだって男だ。

生物学的に考えて、レインに断ることは不可能。

冒険者たちは、レインがまんまと食べられてしまったのだと悟った。


そのとき、1人の冒険者が言った。


「も、もしかして、セシリアちゃんとオーファちゃんは……、フラれちまったのか?」


しーん、と静寂に包まれる。

一同は黙ったまま、受付へと視線を向けた。


いつものようにセシリアが座っている。

だが、


「レイン君……。うぅ、ぐす」


ぐんにゃりしていて元気がない。


見ているのが辛くて、冒険者たちはテーブルの上に視線を戻した。


「俺のわがままだが、レインには、セシリアちゃんとオーファちゃんを選んでほしい……」

「もう、いっそレインが全員を相手にしてやれれば……」

「ああ……」


冒険者たちもぐんにゃりと元気がなくなった。

また静かになる。


そのとき、今まで黙っていた1人の冒険者が、小声でおずおずと切り出した。


「昨晩、王都に帰ってから、とある情報を入手した。ちょっと言い辛いんだが……」


とそこで言葉を区切る冒険者。


ナカルドたちが興味津々に反応した。


「なんだべ?」

「もったいぶらずに教えて欲しいべ」

「ケチ臭いべ」


口々に先を促す。


「ケチって言うな! ごほん、実はレインのやつ、エルトリア王女と婚約したらしい」


………………。


静寂。

そして、


「「「なにいいいいいいいっ!!?!」」」


驚愕。

からの、


「声がデケェよッ!!!」


一喝。


「す、すまん。そういえば、レインは王女様とも仲が良かったな」

「ああ。王女様、昔から一途に、レインに会うためだけに東区まで来てたぜ」

「そ、それじゃあ、レインはもう、セシリアちゃんとは……」


再び受付に視線を向ける一同。


「うぅ、レイン君、オーファちゃん、なんでぇ……」


ぐんにゃりと落ち込むセシリア。


「こ、このままじゃ、あまりにもセシリアちゃんが不憫だぜ……」

「昔からレインのことを大事に大事に可愛がってたもんなぁ……」

「レインに頼んでなんとか愛人にでもしてもらえねぇのか……」


ぐんにゃりする冒険者。


今日のギルドは皆ぐんにゃりしていた。




◆サンドイッチと引っ越しと天啓


昼頃。

ギルドの受付。


レインとオーファが家を出ていったショックで、ぐんにゃりと元気がないセシリア。

そんな状態でも仕事に来るのだから、無駄に真面目だ。


そんなとき、レインとオーファがギルドにやってきた。


それに気付き、ぱぁっと顔を輝かせるセシリア。


「セシリアちゃん、先にお昼休憩に行ってきていいわよ」


先輩受付嬢の中年女性にそう言われて、大喜びで受付から飛び出していく。


「レインくううううんっ!」

「セシリアさん、お疲れさまです。昨日は説明が中途半端なまま帰っちゃって――、わ!?」


ごめんなさい、と謝る前にセシリアに抱き着かれて驚くレイン。


「レイン君、寂しかったよぅ」

「セ、セシリアさん、僕には、その、婚約者がいるので、あの、こういうことは」


言いつつ、そっと引きはがそうとする。

だがセシリアはイヤイヤと首を振って、離れてくれない。


「……レイン君からも抱きしめてくれないと、もしかしたら、また苦しくなっちゃうかもしれないわ」


また『苦しいよー病』が再発してしまうかもしれない。

セシリアの危機に、焦るレイン。


だがしかし、こんな人の多い場所でセシリアを抱きしめるわけにはいかない。

今日のギルドはいつもより人が多い。

久々に中堅冒険者たちが帰ってきているようだ。

気のせいかこっちを見ているような気がする。

これは不味い。

こんな場所で抱き合っていると、セシリアの名誉にも傷が付くかもしれない。

早く離れなければ。


「セシリアさん、一度離れてくだ――」

「嫌よ、絶対に離れないわ!」


頑ななセシリア。


困ったレインはオーファに視線で助けを求めてみた。

すると、


「あたしも離れないわ!」


オーファも後ろから抱き着いてきた。

サンドイッチ状態だ。

前後から挟まれるのはすごく気持ちが良い。

なんてことを、のん気に考えている場合ではない。

こんなことをしちゃダメだ。

自分にはエルトリアがいるのだ。

それにここには大勢おおぜいの人が――。


そう思って、周囲に視線を向けるレイン。

するとナカルドたちの声が聞こえた。


「レインがサンドイッチの具になってるべ!」

「極上美人姉妹にあんなに激しく挟まれるなんて、妬ましいべ!」

「なんて羨ましいサンドイッチなんだべ!」


やいのやいのと騒いでいる。


そのとき中堅冒険者の数名がレインに近付いてきた。


「レイン、面談室の使用許可を取ってきたぞ!」

「そこでセシリアちゃんたちと3人で仲良くするといい!」

「俺たちが外で人を近付けないように見張っているから安心しろ!」


あれよあれよと面談室に誘導されてしまうレイン。

なすがままだ。


小さな個室に入り、3人一緒に椅子に座る。


まずオーファが椅子の背中側に座った。

次にレインがオーファの足の間にお尻を置き、オーファにもたれかかるように座らされた。

最後にセシリアがレインのひざの上に跨って、再びサンドイッチの完成だ。


「レイ、もっともたれかかってきて?」

「レイン君、寂しくならないように、もっと抱きしめて?」


オーファが後ろから右耳に。

セシリアが前から左耳に。

それぞれそっと囁きかけてくる。


全身を包み込まれるような温かさと柔らかさ。

耳元をくすぐる優しい吐息。

頭がどうにかなってしまいそうだ。


「ねえレイン君、家に帰って来て? また3人で一緒にくらしましょ? ね?」

「レイ、せっかく引っ越したんだから、頷いちゃダメよ?」

「ね? レイン君」

「ダメよ、レイ」


熱くて甘い吐息。

耳がとろけてしまいそうだ。


そのとき面談室の外が騒がしくなってきた。

中堅冒険者の声が聞こえてくる。


「エ、エルトリア王女様!?」

「え、レ、レインがどこにいるか、ですか!?」

「あ、そ、それは、ですね、えーと」


どうやらエルトリアが来たようだ。

ふむふむ、なるほど。

なんてこったい!!?

焦るレイン。

常識的に考えて、婚約者の前で他の女性2人とサンドイッチなんてダメに決まってる。

つい流されるままにサンドされてしまった。

こんな状態をエルトリアに見られるわけにはいかない。

レインがそう思っていると、2人の抱擁がさらに強まった。

これではサンドイッチから抜け出せない。


――コンコン。


ノックの音。

そして扉の外からエルトリアの声が聞こえてきた。


「レイ君、いますか? わたくし、エルトリアです」


当然、無視するわけにはいかないので、レインは緊張しながら答える。


「は、はい、エルトリア様。ここにいます」

「入ってもよろしいでしょうか?」

「そ、それは、その、えーと」


あんまりよろしくない。

でも、「入るな」とも言えない。


しどろもどろレインが困っていると、エルトリアは言葉の先を変えた。


「オーファさん、いますか?」

「いるけど?」

「入ってもよろしいでしょうか?」

「いいわよ?」


普通に許可しちゃうの!?

と驚くレイン。


ガチャっと扉を開けてエルトリアが入ってきた。

エルトリアの背後には、身振り手振りで謝っている中堅冒険者たちが見えた。

土下座しそうなほどの勢いだ。

だがエルトリアが部屋に入り、バタリと扉が閉まると、それも見えなくなった。


「レイ君……」


悲しそうなエルトリアの声。

レインは罪悪感で、まともにエルトリアの顔を見ることができない。


オーファが言った。


「エル、レイに用があったんじゃないの?」


レインは思った。

この状況でなんでそんなに普通なの!? と。


「そうでした! レイ君、わたくしもお引っ越しの許可をいただいてきました!」

「え、お引っ越しですか?」

「そうです! 正式に結婚する前に、城下の暮らしに慣れておきたいと説得しました! お父様も賛成してくれましたので、後はレイ君さえ許可してくだされば……。わたしくしも、オーファさんみたいに、一緒に暮らしてもいいですか?」


サンドイッチ状態のレインは思った。

こんな状態で「ダメだ」なんて言えるわけない!! と。


「も、もちろんです、エルトリア様」

「ありがとうございます、レイ君。わたしく嬉しいです!」


花が咲いたように笑うエルトリア。


「それにしても、よく許可がいただけましたね?」

「はい。最初は難しい顔をしていましたが、レイ君の『スキル共有』とスキル数の話をしたら、あっさり許可してくれました。あと『絶対に婚約破棄されないようにしなさい、これは父としてではない、国王としての命令だ』と言われました」

「な、なるほど?」

「あと、明日でいいから会いに来てほしいと言っていました」

「わかりました」

「父がご迷惑をかけてごめんなさい……」

「い、いえ、迷惑だなんてとんでもないです!」


そんなこんなで、レインの明日の予定が決まった。


その会話を聞いていたオーファは、わずか1日にしてレインとの2人暮らし――オーファはそう思っている――が終わったことを悟った。

ぐぬぬ悔しい。

まだなにもしていないのに。

でもどうにもできない。

はぁと溜息をついたオーファは、仕方なくセシリアに言った。


「お姉ちゃん」

「ぐす、なぁに、オーファちゃん?」


セシリアはエルトリアまでも引っ越しすることを聞いて涙目だ。

自分だけ仲間はずれ。

そのことが悲しくて仕方ない。


「お姉ちゃんも引っ越せばいいんじゃない?」

「っ!? オーファちゃんは天才ね!」


天啓を得たとばかりのセシリア。


こうしてセシリアとエルトリアの移住も決まった。

だが、2人とも実際に引っ越すのは少し先になるらしい。


再びセシリアと暮らすことが決まり、レインは思った。

『自立』とはなんだったのだろうか、と。


その後、セシリアがレインの元へと引っ越すことを知った中堅冒険者たちが喝采をあげ、ギルドは大いに賑わったのだった。

◆あとがき


割とどうでもいい設定。

お姫様2人の名前、


エルトリア・アパライ・ストファ・・・・・リンセス・ヴァーニング

アイシア・セカン・・・・リンセス・ヴァーニング


このストファとかセカンとかっていうのは、ファーストとかセカンドって言葉をもじって付けています。

意味はそのまんま第一王女と第二王女って意味です。


で、王様の名前、


ジェルハード・リッター・サハド・・・・カイン・ヴァーニング


このサハドというのはサードをもじっています。

お察しの通り、ジェルハード様はもともと長男ではなく、なるべくしてなった王様ではありません(そのせいで心情はちょっと複雑です)。


元々ジェルハード様には兄が2人いました。

ですが、なんやかんや(主に後継者争いとか)あって2人とも死んでしまったので、なんだかよくわからない内に王位が回ってきた感じです。


仲が良かった兄たちが争って死んでしまうところを見ていたジェルハード様は、自分の子供たちにまで骨肉の争いをしてほしくありません。

なのでエルトリア様が城の外に出ることには、実はいろんな意味で大賛成だったりします。



ちなみに女性でも王位を継げるのかってところは、微妙なところです。

人権が認められているなら平等権もあるはずで、男女平等に扱われて然るべきでは?

と考える人もいるかと思いますが、王侯貴族は義務は多いんですけど、持っている人権は平民以下です(日本でも天皇家の方々や公務員は、一部の人権に制約がかかりますよね? そんな感じです)。


貴族というだけでは政治に関われない世界なので、貴族の義務としてはまず『戦うこと』が注目されます。

戦うことに関してはスキルを考慮しなければ男性が有利なので、トップが男性でなければ、どれだけ実力があろうと舐められる可能性があったりします。


そんな感じの面倒くさい貴族社会のなんやかんやがあるので、イヴ先輩はいろいろ考えたあげく嫡子の座を産まれたばかりの弟に譲る決意をしたわけです。

産まれてからずっと嫡女として辛いことにも耐えて生きてきたのに、その意味が全部失われるとか可哀想(・ω・`)


でもその辺の話をどれくらい掘り下げるのかは未定という^q^;←

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