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84.もぐらっ娘、新装開店。



「――達成。在庫1000本」



 裁縫屋さんから戻ってくると、サムズアップしたルシエラが私たちを出迎えた。どうやら出かけてるあいだにやってきた応募者で4桁の大台に乗ったらしい。

 やったね。

 予定どおり、これで販売に着手できる。


 私たちはさっそく夕方から準備に入った。

 まずはスクロールの入った木箱をモグラ屋さんの2階まで運ぶ。


「キー!」

「え、手伝ってくれるの? 嬉しいけど、無理はしないでいいからね」

「キッ、キキー!」


 身体の大きさ的に無理だと思ったけど、ミニゴブリンたちは木箱を軽々持ち上げた。攻撃力はないのに腕力はある不思議。嬉しい誤算で運搬作業はサクサク進んだ。


「第1フェイズ完了」

「んじゃ、陳列していっちゃおうか」


 2階にはすでに仕切り棚を搬入してある。

 ルシエラと少し話し合った結果、売れ筋は店の真ん中に、高額スクロールはカウンター傍に、それ以外は壁沿いに配置することが決まった。

 大きな分類としては魔術スクロールと技能スクロール。そこからさらに属性や効果ごとに細かくわけて並べていく。

 商品の価格表示については、仕切り棚に小さな板を打ちこんで直接値段を書きこむ方法を採用。高価な物だし、ほんとはスクロール1本1本に値札をつけるべきなんだろうけど、さすがに作業量的に厳しかった。


「大工屋さんで必要な物をそろえてくるね」

「了解。こちらは第2フェイズの遂行を継続」


 在庫が1000本もあると、分別して並べるだけでもかなり時間がかかった。あっという間に夜も深まっていく。終わりはまだ見えない。ぶっとおしの作業でそろそろ空腹も限界だった。


「おねーちゃん!」

「エミ姉、お疲れさま」


 でも、おなかが減って本格的に目が回りはじめた頃だった。ありがたいことにシホルたちが差し入れを持って店にやってきてくれた。

 閉店前、帰りが遅くなるとソフィアに伝言を頼んでおいたんだけど、むしろ心配させてしまったみたいだ。


「2人ともありがとー! あ、パメラもわざわざきてくれてありがとうね」

「バカ、勘違いすんな。シホルとリリ嬢だけでこんな夜遅い時間に出歩かせられないだろ? 護衛だよ、護衛。……てか、さっきからウロチョロしてるそのミニゴブリンどもはなんだ? あ、まさか、そいつらって――!?」


 一度剣を交えた相手だからか、すぐに気づいたみたい。私がスクロールを使ってテイムしたことを伝えると、パメラは呆れたのか、じと~っとした目になった。


「ミニゴブリン仲魔にする奴なんて聞いたことねーぞ。そんなザコモン、なんの役に立つんだ……」

「採掘の護衛してくれたり、開店準備手伝ってくれたり、すごい助かってるよ」

「「キッー!」」


 私の擁護にアカリンとアオリンが歓声を上げた。主人である私に評価されて嬉しかったみたい。うい奴らめ。


「わぁ、へんなかおー!」

「キ?」

「あははー、へんてこり~ん!」

「……キ、キィ?」


 ふと上がった別の歓声に振り向くと、モモリンの顔をじっと覗きこみながら楽しそうに笑うリリの姿があった。

 子供は無邪気だから小動物に何をするかわかったもんじゃない。この先、リリの過剰なスキンシップが攻撃と思われたらまずいね。今のうちモモリンたちには命令を出しておこう。


「リリはまだ小さいから、何かあったら守ってあげてね」

「「「キキッー」」」


 私の言葉に一斉に返事をする仲魔たち。

 理解が早いね。やっぱかなり頭がいいみたいだ。


「エミ姉、晩ごはん食べてないでしょ。バスケットと飲み物ここに置いとくね」

「ありがとー。実は何も食べてなくてさ、ものすごいおなか減ってたんだ」

「そうだと思ってたくさん作ってきたよ。あ、そちらのお店の方もいかがですか?」

「感謝。頂く」


 差し入れはサンドイッチだった。

 ハムとレタス、タマゴとチーズ、フィッシュフライ。

 それとデザート用にフルーツサンドまで入ってて、軽食とは思えないほどに豪華だった。


「超絶美味。幸福……」

「お口に合ってよかったです」


 ルシエラも満足したみたい。ま、シホルの料理だし当然か。

 私もさっそく果物とクリームがたっぷり詰まったフルーツサンドに手を伸ばす。一口食べただけでふらふらだった頭が瞬時に癒えていくのを感じた。


「んまぁ~~!」


 やっぱ疲れた時は甘い物が一番だね。


「あ、そうだ。シホル、この子たちにもパンあげていい?」

「へ? 別にいいけど、モンスターがサンドイッチなんて食べるの……?」


 岩石でクリエイトした小皿の上にわけて、試しに与えてみると、ミニゴブリンたちは行儀よく食べはじめた。しあわせそうに口をモグモグしてる姿を見る限り、どうやらちゃんと味もわかってるみたいだ。


「美味しい?」

「「「キキッー!」」」

「みんな美味しいってさ、シホル」

「あはは……」


 肉に魚に野菜に果物。好き嫌いなく、基本なんでもいけるっぽい。

 新鮮な魔物の肉しか食べないとかだったらどうしようかと思ったけど、一安心だった。


「――ルシエラが店員として働くなら、今後は応募者にもお店にきてもらったほうがいいよね。カウンターの隣に転写用の受付も作っちゃおうか?」

「賛成。非常に合理的な意見」


 シホルたちが帰ったあとで商品の陳列を終えて、さらに内装の変更も行った。


「全フェイズ完了」

「うわ、もう夜明けが近いね……」


 すでに深夜を大きく回ってたので、その日は地下の従業員スペースに泊まった。


 そして、翌日。

 ついにモグラ屋さん新装開店。

 店内は大盛況。冒険者の横の繋がりであっという間に噂は広がり、スクロールは飛ぶように売れていった。

 一度にまとめ買いする人も多くて、中央に配置した売れ筋商品はかなり早い時間帯で完売した。


「本日の2階での営業は終了でーす! ありがとうございましたー!!」


 売れ筋商品の在庫率をもっと高くするとか反省点もあったけど、初日にしては及第点の商い。てか、売り子の仕事を教えたらあっさりできちゃうし、販売が上手くいったのはミニゴブリンたちの働きが大きかった。


「キキッ」

「え、ここ計算間違ってる?」

「キー」

「あ、ほんとだ」


 閉店後、在庫チェックも兼ねて逆算して売り上げを確認してるとミドリンから指摘を受けた。


「……君たち、主人である私よりも頭よかったりしないよね?」

「キィ?」


 そんな危機感を持ちつつも、今後知性の高いミニゴブリンたちにはスクロール販売をはじめ、色々と手伝ってもらうことになりそうだ。6体もいるから家にお店に教会にと、戦力を分散することもできるしね。

 私からはその労働の対価として、毎日の美味しいごはん。それと専用の部屋を用意してあげようかな。


「計算完了、差異なし。本日の業務終了」

「お疲れ! ルシエラ、帰りにモグラの湯でひとっ風呂浴びてかない? ソフィアたちも誘ってさ」

「裸の付き合いは親睦を深めるのに有効。異議なし」


 これで、1階は野菜に花に果物。

 2階は魔術スクロールに技能スクロールという品ぞろえ。

 商品も頼れるナカマも増えて嬉しい限りだね。よし、今後ともこの調子でどんどんお店を大きくしていこう。






 次話は温泉回――! ではなく、他キャラ視点の番外編を何人か短めにやっていこうかと考えています。【のんびり編】の時間軸内のお話になりますが、それぞれ時系列は前後する形になりそうです。文字数もばらつきそうなので、通常の更新よりもやや時間がかかったり、かからなかったりするかもしれません。どちらにせよしばしお待ちをー。


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