83.もぐらっ娘、仲魔と共に。
※昨日から副題を少しだけ変更しております。
圧勝劇のあと、無事に採掘も終えてダンジョンを出た。
「ふっふふ~ん♪」
実に気分がいい。そのまま鼻歌交じりでギルドに戻ると、私は受付にいたユイに武勇伝を語った。
「――えっ、これだと依頼達成にならないの?」
「依頼書を見なさいよ。ほら、ここに〝討伐〟って書いてあるじゃない」
「でも、ちゃんと脅威は取り除いたよ?」
「いや、というかその前の話、あなた正式に依頼を受けていないじゃないの」
「そこは事後報告でもいいかなーと思って」
「そんなのダメに決まっているでしょう。あなた副会長なんだから、ギルドの運営ルールぐらい把握しておきなさいよ」
「うぅー、少しぐらい融通してくれてもいいじゃん。お堅いなー」
「ルールはルール。不正は許されないわ」
ミニゴブリンに対してギルドから依頼が出てたのを思い出して、こうして受付に寄ってみたけど、ユイのお役所対応は頑なだった。
ちなみに特に報酬がほしいわけじゃなく、狙いは冒険者ランクの上昇だったりする。さすがにギルドのナンバー2がいつまでも最低ランクじゃ示しがつかないもんね。ま、私は背中で語るタイプだから能動的に模範になるつもりはないけど。
「いやー、ユイの黒髪は今日も綺麗だねぇ~」
「……」
「んで、さっきの話なんだけどさ、なんとかなりません?」
「な・り・ま・せ・ん!」
ダメか。
この受付嬢、私の巧みな話術にも引っかからない。
業務に忠実だね。きっと仕事が恋人なんだ。
「やれやれ、そんなんじゃ結婚できないよ? 私はユイの将来が心配だなー」
「……エミカ、あんまりしつこいとアラクネ会長に報告するわよ? 立場を利用して不正を持ちかけられたって」
「ごめんなさい私が悪うございました」
頭を下げて調子に乗ったことを高速で謝る。そんな私を一睨みしたあとで、ユイは小さく首を横に振った。
「……それで、その後ろのやつはどうするつもりなのよ?」
ユイが顎で私の背後を示す。
振り向くと、そこには6体のミニゴブリンが立ってた。
全員、ピンッと綺麗に背筋を伸ばして横一列に並んでる。
試しにその場で「休め!」と号令を出すと、一斉に後ろに手を組んで姿勢を崩した。
うん、みんなお利口さんだね。
「まさか討伐対象のミニゴブリンを〝魔物飼い〟で連れてくるなんて、こっちとしては想定外よ……」
「なんか殺すのも違うなって思ってね」
あと、最初に魔物飼いの文字が目に留まった時、普通に倒すよりも楽に思えたってのもある。ただ、実際は6体懐柔するまでに、失敗が続いて持ってきたスクロールもだいぶ消費しちゃったけど。
ちなみにスキルが成功したかどうかは全部「お手!」で確認した。最初に檻越しから命令が決まった時、改めてスクロールの実用性の高さを実感。あまりの便利さにちょっと感動もした。
「とりあえず処分はせずに、飼うつもりでいるわけね?」
「うん、なんか運命的なものを感じるからね」
「わかったわ。それじゃあ、使い魔として登録をしましょう」
テイムしたモンスターはギルドでの登録が必要らしい。世界のあっちこっちで魔物の野生化が問題になってるので、その対策の一環なんだそうだ。
ミニゴブリンたちを1体ずつ魔物解析でチェック後、ユイは〝登録に問題なし〟の評価をくれた。
「主人への忠誠度は98%以上。しかもこのミニゴブリンたち、基本能力値も尋常じゃないわね……」
そういえばパメラも以前、相当レベルアップしてるとかいってたね。ま、王都から帰ってきたばかりの私と激闘を繰り広げたあとも、凄腕の冒険者たちを返り討ちにしてたみたいだし、そりゃ強くもなるよ。
「これから毎日、餌は欠かさずに与えなさいよ」
「あげないとどうなるの?」
「野生化するわ。最悪それで被害が出た場合、飼い主であるあなたが責任を負うことになるから注意しなさいよ」
なるほど、たしかにそれは大変だ。
ちゃんと飼い主として面倒を見なければ。
「あ、でもミニゴブリンって何食べるの? 生肉とか?」
「……どうなのかしら?」
「ユイも知らないの?」
「だって、ミニゴブリンを飼っているテイマーなんて聞いたことがないもの……。まあ、心配なら定期的に忠誠度チェックを受けるのをお勧めするわ。ルシエラが協力してくれるなら、暇な時間に私のスキルをスクロール化してもいいしね」
わざわざ受付にいくよりはそっちのほうが楽そうだ。ここはユイのお言葉に甘えるとしよう。
「お礼に、またウチで晩ごはんをごちそうするよ」
「あら、それは楽しみ。期待しておくわ」
そういえば未だにユイにはパメラを紹介できてなかった。ちょうどいい機会になりそうだ。
「最後にこれに署名して」
「あいよ」
書類上の登録も済んで、私は6体のミニゴブリンとともにギルドを出た。そのままルシエラが待つ副会長室に移動する。
「ただいまー」
「首尾は?」
単刀直入に訊いてくるルシエラに、私はサムズアップしながら万事上手くいったことを報告した。
「これが宿敵?」
「そうだよ。今は仲魔だけどね」
「かわいい……」
ミニゴブリンたちの顔をじっと観察したあとで、ルシエラがぽつりと呟いた。
野生の時はすさまじい形相で私に襲いかかってきてたけど、いわれてみればたしかに、今はほんわかとした緩い表情に変わってる。元々小さいし、これなら愛らしいマスコットにも見えなくはないね。
「魔石の補充、この子たちにも手伝ってもらったんだ」
テイムしたあと軽く採掘もしてきたけど、モンスターが近寄ってきたらみんなで追い払ってくれた。私が命令したわけじゃないので、飼い主の利益を考えて行動したんだと思う。
自分たちで判断できるとか、知性もかなり高いんだろうね。
「あ、もしかしたら、教えたら店とか農場の手伝いも……?」
モグラ屋さんでスクロールを販売する初日は大混雑が予想される。いくら1階にソフィアたちがいるとしても、私と売り子の経験のないルシエラだけじゃ不安だ。もし借りれるならミニゴブリンの手だって借りたい。
「頭の良いモンスターは魔術すらも行使する。実現は十分に可能」
「それならスクロール売るの、この子たちにも手伝ってもらおう。みんな、いいかな?」
「「「キー!」」」
よし。そうと決まれば、まずは名前――あ、いや、その前に見た目で区別できるようにするのが先か。野生のモンスターと間違われて他の冒険者に攻撃されても困るしね。
というわけでまたルシエラに留守番を頼んで、私はミニゴブリンたちと買い出しに出かけた。
街で一番大きな裁縫屋さんで、まずは小さい子供用の服を6着購入。それと、ちょうど色別で売られてた毛糸の帽子があったので、ミニゴブリンたちに1枚ずつ被せてみた。
「お、似合ってるね」
ぱぱっとコーディネート完了。
これで野生のモンスターと間違われる心配もなさそうだ。
ついでに名前も帽子の〝色〟にちなんでつけてみた。
悩まずに直感で、アカリン・アオリン・ミドリン・キーリン・クロリン・モモリンと決定。
一番優しそうな顔をしてる個体(おそらく唯一のメス)に桃色を被せてあげたけど、残りは特徴らしい特徴もなかったのでランダムで名前が決まった。
「アカリン!」
「キー!」
「アオリン!」
「キー!」
「ミドリン!」
「キー!」
「キーリン!」
「キー!」
「クロリン!」
「キー!」
「モモリン!」
「キー!」
順番に指して名前を呼ぶと、みんな嬉しそうに鳴いて返事をした。
どうやら私のネーミングセンスにみんな満足してくれたみたい。名づけ親として嬉しい限りだ。
「んじゃ、みんな帰るよー」
「「「キー、キー!」」」
カルガモの親子のように一列に並んで、私たちはそのまま仲良く副会長室に戻った。











