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82.もぐらっ娘、宿命のバトル。


 それから数日間、応募者は途切れず続々とやってきた。

 話を聞く限り、どうやらガスケさんたちが触れ回ってくれたらしい。今度、ちゃんとお礼をいわないとね。


「両手を置き、詠唱願う」

「ちょっと待ってくれ。今ダンジョン帰りで魔力が底をついてる」

「問題ない。魔力消費は魔石が担う。あなたは術を行使するだけでいい」


 最初は興味本位でやってくる冒険者も多かったけど、ルシエラが使える魔術とスキルを的確に精査してくれたおかげで在庫は順調に溜まっていった。

 さらに売れ筋の魔術や珍しいスキルを持つ協力者は、連絡先とともにリストを作成。補充の準備も万全にしとく。

 1週間ぐらいして大方の目処が立ったところで、モグラ屋さんの改築も行った。2階をスクロール売り場にするため、従業員用スペースを新たに作った地下室に移動。着々と販売の準備は進んだ。


「エミカ、手持ちの魔石をすべて使い切った。おかわり願う」

「あいよー」


 問題が起きたのは、目標としてた在庫1000本まであとちょっとのところだった。


「モグラリリース! ん、あれ?」


 ――シ~ン。


 不発。

 何度こぶし大の魔石をイメージしても、欠片の一粒もリリースされなかった。

 スクロールの生産をはじめて1週間。もう爪に保管してた魔石をすべて使い切ってしまったようだ。

 あんなにあったのに。ほんとに転写術(トランスクリプション)って魔力使うんだね……。


「さて、どうしたものか」


 現在、目標在庫まであとわずか。

 ここまできたのなら予定どおり達成した上で販売をはじめたい。それに今後を考えると、魔石はもっと必要になってくる。

 また地下1階層で採掘すればいいかな? いや、でも前回は派手にやってすごい怒られた。掘るにしても1層まるごととはいかない。てか、今度そんなことしたら、ユイからどんなきつい折檻を受けることか。想像しただけでも背筋が冷えた。


「掘るにしても、迷惑にならない程度にしないとだね……」


 あともう1つの懸念。前回掘ってから6~7週間ぐらい経ってるけど、まだ魔石クズが生成されてない可能性もある。もし枯渇状態だったら掘っても意味がないし、今後のスクロール生産にも暗雲が立ちこめそうだ。

 供給が追いつかなくなる事態を避けるためにも、やっぱ地下2階層以下での採掘を考える必要がありそうだった。


「………………」


 限界の壁を越えた先にあるもの。

 それは、ミニゴブリン(奴ら)との決戦を意味した。


「また私の前に立ちはだかるか、奴らめ。フッフッフ、面白い……」


 もう結論は出てた。

 奴らは私にとって、もはや不倶戴天の敵。

 そしてこれが宿命であることも、私は頭で理解するよりも先に直感してた。


「同行を希望」

「いや、ルシエラはここにいて。応募者がきたら出直してもらうよう伝えてもらいたいし」


 心配してかルシエラが護衛役を申し出てくれたけど、魔力源の確保は私の仕事だ。契約上、安易に頼るわけにはいかない。

 それに、奴らは私のこの手で――いや、この爪で倒さなければ意味がなかった。


「幸運を祈る」

「ありがと! 私、必ず勝って帰ってくるよ!」


 とにかく決意は固まった。さっそく出撃の準備に入る。

 大量に作られたスクロールの在庫を漁りながら、私はめぼしい物を抜き出していった。


「これとこれ……あと、これも一応持っていこう。お、これは……!?」


 ふと、とあるスクロールが目に留まった。

 ルシエラに訊くと、そこそこ珍しいスキルな上、協力者が超高レベルだったこともあってたくさん転写しておいたそうだ。


「グッジョブだよ、ルシエラ! これは少し多めにもらってくね!」

「了承。支障なし」


 選んだスクロールを布袋に突っこんで、私はそのまま戦場へ向かった。

 ギルドを出れば目と鼻の先。

 実に久し振りのダンジョン。

 私の心音は高鳴った。


「落ち着け、落ち着け……」


 そう自分に言い聞かせながら一段一段、ゆっくりと階段を下りる。

 大丈夫、問題ない。なんたってこっちには秘密兵器として選りすぐりのスクロールがある。考えた作戦も完璧だし、あとは勇気を持って戦うだけ。


 準備として小脇に何本かスクロールを抱えつつ、いざ地下2階層へ。

 特別な感知機能でも備わってるのか、奴らは私が足を踏みこむと同時、通路の奥からわらわらと姿を現した。


「「「キー、キー!!」」」


 まったく、今回もお早いご登場だね。

 階段まで引き返して仕切り直す手もあったけど、迎え撃つ準備はできてる。即座に小脇に抱えたスクロールを1本つかんで、私は魔術を発動させた。


祝福(ブレス)――!」


 キラキラとした光が私を包みこむ。

 効果は、もろもろのステータスアップ。

 身体の内側から力がみなぎってくるのを感じながら、私は背後に飛んだ。



 ――ボヨヨ~~~ンッ!!



 補助魔術のおかげでいつになく、モグラモドキブーツの弾力がすさまじかった。あっという間に迫ってきてたミニゴブリンの群れから距離を取る。


 うおぉー、バックステップでこの速度!?

 速い、速すぎる!!


 祝福(ブレス)の持続時間は1ミニット程度。さっき在庫を漁ってる時、ルシエラがそう教えてくれた。上昇値が高い分、すぐに効果が切れちゃうらしい。

 でも、私はあえてこの魔術スクロールを選択した。なぜなら、はなっから長期戦にするつもりなんてなかったから。


「来い! お前らなんて60セカードもあれば十分だ!」

「「「キー、キー!!」」」

「モグラウォール――!」


 より道幅の狭い通路まで誘いこんだところで、私は次に壁に触れて自前の技を発動した。


 ――ズズッ、ズシャーーー!

 ――ズシャシャシャシャシャーーー!!


 壁から勢いよく飛び出す、無数の土の(トゲ)

 バックステップを踏みながら通路を障害物で埋め尽くし、6体のミニゴブリンの接近を阻む。

 ここで肝心なのは進入できるスペースをあえて残すこと。通路は完全には塞がず、私は奴らを死地へと案内した。


「モグラウォール――!」


 仕上げとして地面を隆起させて、通路の下半分を壁で塞ぐ。奴らから見れば、完全に前方の視界が遮られた状態だ。無我夢中で追ってきてる今なら、考えなしに壁を飛び越えてくるはず。


 ――しゅるん。


 罠を完成させるため小脇に抱えてたスクロールを解き、私は迫り出した壁の手前に向けて魔術を放った。



麻痺空間(パラライズフィールド)――!!」



 スクロールが効果を発現したのと、壁を登ってきたミニゴブリンたちが床に飛び降りたのは、ほぼ同時だった。



「「「――ギッ!? ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィ"ィ"ィ"ィッッ~~~!!」」」



 バチバチと青い火花が散る中、ミニゴブリンたちは全身をガクガク震わせながらに白目を剥く。

 その光景を見て、私は勝利を確信した。



「モグラプリズン――!!」



 それでも、最後まで手は抜かない。

 魔術の効果が切れてもなお動けないでいる宿敵に向かって、私は容赦なく新技を放った。

 5体のミニゴブリンを取り囲むようにして、地面から細い格子状の柱が次々に伸びる。

 そのまま天井まで一直線。



         ズゥン!

      ズゥン!  ズゥン!

   ズゥン!        ズゥン!

  ズゥン!   (奴ら)   ズゥン!

   ズゥン!        ズゥン!

      ズゥン!  ズゥン!

         ズゥン!



 あっという間に、監獄のできあがり。


「勝った……」


 完膚なきまでの勝利。

 でも、さっきから何かが胸につっかえてる気がする。

 なんだろ、この違和感。

 とても大事なことを見落としてるような。


「あ、5体……!?」


 檻の中を確認しようと顔を上げた、まさにその時だった。


「キー!!」

「うげっ!?」


 どこに潜んでたのか、すさまじい速さで襲いかかってくる影。

 生き残りの、6体目だ――


 ダメだ。祝福(ブレス)の効果はもう切れてる。

 このスピード、到底かわせない。


 一瞬のうちに判断して、私は小脇に抱えてた最後のスクロールの紐を乱暴に千切った。


「キキィッ~~!!」



 ――シュパッ!



 直後、ミニゴブリンの手刀によって私の首が刎ねられた。

 鮮血が噴き出し、辺り一面がザクロのように真っ赤に染まる……かと思えば、そんなことはなかった。


「残念、ハズレだよ」

「キッ!?」


 切り離された頭も残された身体も、たちまち煙のように消えていく。

 使ったのは分身(アバター)っていうスキル。万一の時、囮として使えるかもと保険として持ってきたんだけど、それが役に立った。

 ま、ミニゴブリンの攻撃力自体は低いし、一発ぐらい食らってもまったく問題はなかっただろうけど。


「はい、モグラプリズン」

「キキッ~!?」


 戸惑ってた最後の1体も隙を突いて収監する。

 これでほんとに無傷の勝利達成。


「さてと……」


 歴史的大勝の余韻に浸りたいところではあったけど、これからやることを考えるとあんまりのんびりはしてられない。さっさと幕引きに入ることにする。


「フッフッフ、ついにきた! この積年の恨みを晴らす時が!!」

「キ、キキッ!? キキィ~~!!」

「ふぁははは、今さら命乞いしても無駄無駄っ! 往生せいやぁぁ!!」


 背負ってた布袋から大量に持ってきたスクロールを取り出すと、私は暴君のごとく残酷な高笑いを響かせながらにスキルを発動させた。


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