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80.もぐらっ娘、転写術についてお勉強。



「――転写術(トランスクリプション)?」



 つまり、そのスキルのおかげで、魔力の素養がない私でも魔術が使えたってこと?

 え? それじゃ、私でも魔術師になれるじゃん。魔女っ娘エミカちゃん爆誕じゃん。ヤバいじゃん!


「スクロールがいっぱいあれば、私も大魔術師に!?」

「理論上は可能。だが、実現は非常に困難」

「……え、なんで?」

転写術(トランスクリプション)は大量の魔力を必要とする。転写対象の魔術や技能のレベルが高いほど、それはさらに増大していく。現在、私が保有する魔力石もこれが最後」


 ルシエラは重しに使ってた綺麗な宝石を見せながらにいった。どうやらそれがスクロールを作製する際の魔力の供給元になってたみたい。たしかによく見ると、宝石は最初の時よりも一回りほど小さくなってた。


「もしかして、その宝石って高いの?」

「肯定。非常に魔力純度の高い鉱石。市場に出回ることも少ない」

「えー」


 いや、そんな高価な物を消費してまでお礼せんでも。

 絶対パンより高いでしょうに。


「気に悩む必要はない。命を救ってもらった対価としてはまだ乏しい」

「んー。でもなぁ……」


 正直、気が引ける。路銀落としたっていってたし、お金ない人からそんな高価な物は受け取れない。

 だけど、私がそういってもルシエラは納得してくれなさそうだ。何がなんでも恩を返すって感じだし。

 うーん、ならしかたがない。ここは折衷案だね。


「さっきスクロールのことを説明してもらった時もいってたけどさ、〝転写対象の魔術や技能〟ってことは、スキルのスクロールも作れるの?」

「可能。ただし、この世に存在するすべてのスキルを転写できるわけではない。代表例は剣術や体術など。スキルの形態が大分類的なものは転写する側が術者側のイメージを媒体に刻印化できない。魔力源を浪費した上、必ず失敗に終わる」


 ……えっと、つまり黒魔術(ブラックマジック)<Lv.3>とか料理(クッキング)<Lv.4>みたいなスキルは、大きな括りすぎて流用できないってことかな?

 たしかに剣術・体術・黒魔術・料理と一言にいっても、いろんな技があるもんね。目的がはっきりしたさっきの光の球とはちょっと違うか。


「スキルの中で転写できるものは、より用途と効果が明確なものに限られる。〝魔術に近しい技術〟と言い換えれば理解が早いと思う。

 さらに補足すると、あらゆる物質・物体名、個人の能力値や技能値を表示化する〝世界の眼システム〟も完全ではない。術者側が本来持っていないスキル、あるいは表示化されない未知のスキルを、私たち転写術使いが刻印化できた事例も存在する」

「はへー。てか、その口振りだと、他の人の魔術やスキルもスクロールにできるってことかな?」

「肯定。むしろ転写術(トランスクリプション)の本領は第三者の協力を持って発揮されるといっても過言ではない」


 なるほど、他人の魔術やスキルでもおっけーなのか。

 ルシエラの一番レベルの低いスキルでスクロールを作ってもらおうと考えてたけど、これなら私のスキルでもいけるね。

 あ、いや、でもそれだと、スクロール化できそうなのは鉱石鑑定(アナライズ・オーレ)投石(スロー・ストーン)ぐらいか。自分でいうのもなんだけど、完全にゴミだね。



「それで、私を呼んだと……?」

「うっす!」



 悩んだ末、業務中のユイを引っ張ってきた。困った時の幼なじみ戦法は今日も有効だ。

 2人の顔合わせのあいさつもそこそこに、さっそくスクロール作りをはじめる。


「そちらに座り、魔力石に両手をそえてもらいたい」

「こうかしら?」

「そのままスキルの実行を願う」


 床に向き合って座るルシエラとユイ。用紙の重しとなってる宝石の上にユイが手を置くと、さらにルシエラが手を重ねる。

 直後、先ほどと同じように青白い瞬きが起こった。


転写術(トランスクリプション)成功」

「え、もうできたの……?」


 初めて転写を目にしたユイがぽかんとする。


「もっと時間がかかるものだと思っていたわ」

転写術(トランスクリプション)に必要なのは時間ではなく、有能な術者と莫大な魔力」

「褒めてもらえるのはうれしいけど、あなた自身だって相当な術師よね? そもそも転写術使いって、魔術学校の卒業生の中でもなれるのは首席レベルだけって話じゃなかったかしら。ねえ、不躾な質問で申しわけないけど、あなたって何者なの?」

「ただの旅人兼、冒険者。それ以上でもそれ以下でもない」

「……詮索するなってことね。わかったわ」

「理解が早くて助かる」


 ユイは小さくため息を吐くと、「仕事があるから」っといって部屋を出ていった。

 なんだかルシエラに対して興味があったみたいだけど、なんだろ? 転写術(トランスクリプション)についても知ってるようだったし、もしかして友達になりたかったのかな?


「エミカ、これを」

「ありがとー」


 ルシエラから完成したスクロールを受け取り、さっそく紐を解いて使ってみた。

 ちなみにユイに使用してもらったスキルは技能解析(スキルオープン)

 生物解析(アナライズ)と迷ったけど、より初歩の技術を選んだ。

 スクロールに魔力を流しこんでスキルを発動させたあと、自分の左爪を右爪で握る。

 次の瞬間、頭の中に文字と数値が浮かび上がった。




―――――――――――――――――――――――――

※保有スキル


 ・穴掘り(ディッグ)<Lv.∞>

 ・鉱石鑑定(アナライズ・オーレ)<Lv.2>

 ・投石(スロー・ストーン)<Lv.1>

 ・料理(クッキング)<Lv.1>

 ・禁魔法(ドグラ・モグラ)<Lv.4>


―――――――――――――――――――――――――




 ふむふむ、なるほどね。

 ユイはいつもこんな感じで私の能力を見てたわけだ。

 あ、てか、禁魔法(ドグラ・モグラ)のレベルが1つ上がってるし。一度に掘れる量と出せる量、距離の短縮やらモグラクリエイトの加工技術とかも含めて、これはまた近いうちに調査したほうがよいね。


技能解析(スキルオープン)以外にも、まだスクロールの作製は可能。リクエストがあれば遠慮なくいってほしい」

「いや、お礼はもう十分だよ。それより、転写術(トランスクリプション)についてもっと詳しく教えてほしいな」

「承知。私に答えられることならば」


 ユイも転写術使い自体が珍しいみたいなこといってたし、私も興味がわいてきた。この際だ、いろいろ訊いてみることにする。


転写術(トランスクリプション)の主な用途として、〝魔術スクロール〟の作製があげられる。しかし先ほど試みたように、条件次第では〝技能スクロール〟の作製も可能。また些か難易度は上がるが、紙以外にも鉄材やガラス材などを媒体として転写することもできる。

 例としては、刀身に透明化の魔術を組みこんだ〝不可視の剣〟。ガラスケースに冷気の魔術を組みこんだ〝低温保存容器〟。ただし、それらは長期の使用を前提としているため、魔力が常時供給されるよう媒体となる本体にも特殊な加工や設計が必要となってくる」


 ん? ってことは、家にある加圧式術釜(オートクレーブ)とか、モグラの湯に置いてある保冷器なんかも、転写術(トランスクリプション)で作られた道具なのか。

 すでに知らないうちにその恩恵を受けてたんだね、私は。


「スクロールにしても、それ以外のアイテムにしても、所有者は自らの魔力をほとんど消費せず使用が可能。魔術の発動にかかる詠唱時間も必要としない」

「いいことばっかだね」

「だが、作製と効果の継続には莫大な魔力が必要となる。最初にいったように術や技能が高度になればなるほどに」


 やっぱそこがネックなわけか。

 もしルシエラが協力してくれるなら、スクロール含めて魔術印が施された武器や道具をモグラ屋さんに置けないかなってさっきからちょこっと考えてたんだけど、そんなに甘くないか。ルシエラが持ってるような魔力石が売ってればいいんだけど、さっきの話じゃ王都にでもいかないと手に入らなそうだし……。

 あ、いや、でも待てよ。

 モグラの爪から出した土は魔力を多量に含んでる。

 それを利用することはできないかな?


「人類種が一度土に含まれた魔力を効率よく抽出することは、事実上難しいと考える。理由は属性による障害。特に私たちのようなノーマルに土の適性者が出現した事例は聞いたことがない」


 私の疑問にルシエラはそう答えた。

 なるほど、適性のあるなしの問題なのか。そういえばティシャさんも、土の属性を得意にする種族は稀だっていってたもんね。


「ダメかー。いい方法だと思ったんだけどなぁ……」

「火や光からなら私にも魔力の抽出は可能。魔力石についてはいってしまえば石の輝きから魔力を得ている」

「つまりピカピカ光る石ならいいわけね」

「肯定」


 ……ん?

 ピカピカ光る石?



「あっ――!」



 そこで私は大量に採掘した魔石クズのことを思い出した。

 魔石も魔力を含んでるし、光ってる。

 もしかして使えるんじゃ?


 ――ドンッ!


 思い立つと同時、私はモグラリリースで巨大な魔石ブロックを目の前に出現させた。


「ねえ、これって魔力源に使える?」

「んなっ……!」


 いきなり現れた光り輝く塊を見て、これまでずっと無表情だったルシエラの顔が歪んだ。


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