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79.もぐらっ娘、魔女を助ける。



「――モグラのお姉ちゃん!」



 厳しい夏の暑さも一段落。過ごしやすくなってきた今日この頃、午前中はギルドの副会長として、午後はモグラ屋さんのオーナーとして、それぞれ仕事をするのが私の日課となってた。


「大変なのー!」

「早く早く!」

「急いで!」


 昼時なのでぼちぼちお店に移動しようとしてた時だった。近所の子供たちが副会長室にやってくるなり私の腕を引っ張った。みんなこないだ川遊びをしてなかよくなった子たちだ。

 私がここに出入りしてるのを誰かから聞いたらしく、最近ではちょくちょく遊びにくるようになってた。


「ちょっとちょっと、みんな血相変えてどうしたの?」

「「「いいからきてー!」」」

「えー」


 子供たちに連れられる形でギルド裏の雑木林までくると、子供たちが焦ってる理由がわかった。


「ほら、あそこー!」

(ニャ~……)


 かなり高い場所にある、木の枝の根元だった。

 そこに震える子猫の姿があった。


「あの子、下りられなくなっちゃったみたいなの!」

「お姉ちゃん、助けられる……!?」


 んー。

 たぶん難しくはないけど、子猫がパニックになったら大変だ。

 子供たちに絶対騒がないことを約束させてから、私は自分の足元の地面をモグラウォールで隆起させた。そのままニョキニョキと私ごと地面を迫り上がらせて、ゆっくりと子猫がいる枝の根元まで接近していく。


「うわ、高っ……」


 下を見ると、あまりの高さにブルッと背中が震えた。

 身も心も土属性の私にとっては余計にしんどい。

 ほんと子猫がよくこんな場所まで登ったもんだよ。


「ニャ~ン!」

「おっと――」


 驚いて逃げられたらどうしようかと思ったけど、子猫はこっちが両腕を伸ばす前に飛びついてきた。どうやら私が善良な人間だとすぐに察したみたい。ま、事実善良だしね。

 胸元でキャッチした真っ白な子猫を抱えたまま、今度はモグラクローで足元の迫り上がった土を少しずつ取りこんでいった。

 やがて元通り、木の根元に着地。

 足場を水平に維持するのに少し神経を使ったけど、なんとかなったね。


「モグラのお姉ちゃん、すごーい!」

「今のどうやったの!?」

「もう1回やってやってー!!」


 救出した子猫を渡すと、それまで約束を守って両手で口を塞いでた子供たちは一斉に騒ぎ出した。

 別にそんなすごいことをしたわけじゃない。

 ただ土を出して、土を掘っただけなのに。

 でも、子供たちの目には魔術というよりも()()に見えたみたいだった。


「「「モグラのお姉ちゃん、ありがとー!」」」


 子供たちにお礼をいわれて、一日一善のノルマも達成。

 午後からは店のオーナーとしての仕事をこなした。


 そして、翌日――



「モグラのお姉ちゃん!」

「大変なのー!」

「早く早く!」


「あー、はいはい」



 2日連続の繰り返しに、また子猫かと察しながら子供たちについていったけど、今度は猫じゃなかった。

 ギルドから少し離れた裏道のド真ん中。

 そこに倒れていたのは1人の女の子。

 うつ伏せのまま、ピクリとも動かない。


「ちょっ、大丈夫――!?」


 黒ローブに、黒いとんがり帽子。服装を見る限り魔術師っぽいし、たぶん冒険者だね。

 どこか具合が悪いらしく、朦朧とした様子で何かブツブツと呟いてる。

 とりあえず何を訴えてるのか聞き取ろうと、彼女の口元に耳を近づけてみた。


(おなか、空いた……)

「……」


 どうやら、行き倒れみたい。


「ほら、立って! 今ごはん食べさせてあげるから!」


 モグラ屋さんかギルドの酒場で迷ったけど、より場所が近い後者を選んだ。子供たちにも手伝ってもらって、なんとか酒場の座席に座らせる。


「ウエートレスさん! パンでもなんでもいいんですぐに持ってこれるやつください! あと水も! 大至急っ!!」


 すぐに山のような白パンと木のジョッキに入った水が運ばれてきた。

 虚ろな目をしてる行き倒れの女の子の口元までパンを持っていってあげると、彼女は力なくそれを含んだ。そして、もぐもぐとゆっくり口を動かす。


「美味しい……」

「まだまだいっぱいあるよ」


 最初は私に食べさせられながら一口ずつだったけど、やがて女の子は自ら両手にパンを持ち、貪るように食べはじめた。


 もぐ、もぐもぐ。

 もぐ、もぐもぐもぐ。

 もぐ、もぐもぐもぐもぐ。


 あっという間にパンがなくなったあと、女の子は最後にジョッキの水を一気に飲み干した。


「ふー」

「すごい食べっぷりだね。そんなにおなか減ってたの?」

「……肯定。かれこれ丸5日、水以外は何も口にしていなかった」


 ジョッキをテーブルに置くと、魔女っぽい女の子は眠たげな眼差しをこっちに向けた。


「どなたかは知らないが、危ないところ命を救っていただき感謝する」

「はは、命を救うとか大袈裟だよ。あ、私はエミカね。エミカ・キングモール。エミカでいいよ」

「……エミカ、私はルシエラ・ルルシュアーノ。旅人兼、冒険者」

「やっぱ冒険者だったんだね。でも、旅もしてるんだ? どっからきたの?」

「ここから遥か西の〝魔術都市〟から」


 続いて歳を訊くと、「18」と短く答えが返ってきた。童顔で背も私と同じぐらいなので同世代かと思ったけど、けっこう年上だね。

 旅の途中で路銀を落とし、アリスバレーに到着してすぐギルドで依頼を受けようとするもそこで力尽きたと、彼女は行き倒れの理由を話してくれた。


「よって今は鼻血も出ない。パンの代金はしばらく貸しにしてほしい」

「別に返さないでいいよ。私も仕事でやったようなもんだから」

「仕事?」

「うん、これも一日一善だね」


 ギルドの副会長として義務を果たしただけ。

 そう説明すると、ルシエラはテーブルにとんがり帽子のツバがつくぐらい深々と頭を下げてきた。


「そこまで地位の高い人物とは知らず」


 うぅ、そんな改まらないでほしいなぁ。

 ただのお飾りだし……。


「てか、ルシエラまだおなか減ってるんじゃない? 何か注文する?」

「否、先ほどのパンで十分。間違いなく今まで食べた物の中で一番の美味だった。重ねて感謝を」

「あー、空腹は最高の調味料っていうもんね」

「エミカ、それより馳走とあれば別の形で礼を。少し時間をいただきたい」

「え、今から? 別にいいけど、お礼とかもいらないよ?」

「私の故郷では受けた恩義は必ず礼で返す慣例がある。どうか頼みたい」

「んー。ま、そういうことなら……」

「礼はできれば人気の少ないところが望ましい」


 というわけで話の続きは別の場所ですることになった。


「私はこのお姉さんと用事ができたから、みんなはここに残ってね。あ、ウエートレスさん、こっち追加注文お願いします」


 ルシエラを運ぶのを手伝ってくれた子供たちを席に座らせ、人助けのご褒美としてパンケーキとミルクセーキを人数分注文したあとで、私はルシエラと一緒に副会長室に移動した。


「それで、お礼って何をしてくれるの?」

「私の得意スキルで、エミカが必要とする〝スクロール〟を作り贈呈する」

「スクロール?」

「広義では、魔術やスキルを内包した紙媒体――特に巻物状の魔道具を指す」

「はへー。よくわかんないけど、すごそうだね」

「……百聞は一見にしかず。まずは簡単な物を1つ」


 背中の布袋から古びた用紙と手のひらサイズの光る宝石を取り出すと、ルシエラは床にそれらを重ねて置いた。宝石が紙の重しになる形だ。そのまま両膝をついて目を瞑ると、彼女は詠唱をはじめた。


「灯火よ、宿れ――」


 直後、床の宝石が瞬いたかと思えば、敷かれた用紙に魔術印のようなものが浮き上がった。


「こ、これって……」


 青白い瞬きが消えると、ルシエラは古びた用紙をくるくると小さく丸めたあと、筒の表面に羽根ペンで〝光〟と文字を書きこんだ。


「作業完了」


 最後に真ん中を赤い紐で結ぶと、彼女はそれを私に手渡しながら使用方法を説明した。


「紐を解き、スクロールを開いたら魔力を流しこむ」

「……えっと、こうかな?」


 なんとなくいわれたとおりにやってみると、手のひらにわずかな熱を感じた。



 ――ピカッ。



「うわ、まぶしっ!」


 次の瞬間、跡形もなくスクロールが消失したかと思えば、白い球体が浮かび上がる。

 ものすごい明るさだった。

 爛々と、室内を照らしてる。


光球(シャイニング)。初歩の魔術。基本的に暗所での光源として利用。野営時、害獣を追い払う時などにも使える」

「え、これって魔術なの……?」

「肯定。私が発現した魔術を古紙に宿した。〝転写術(トランスクリプション)〟――これが私の得意スキル」


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