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78.もぐらっ娘、果物天国。



「――うひゃ~!」



 それから数日後、問題なく果実は生った。

 リンゴ、ナシ、オレンジ、レモン、ブドウ、ピーチ、チェリー、カシス、ザクロ。丸々と実った果物に思わず目を奪われる。

 壮観だった。赤、緑、橙、黄、紫、桃、白、黒。地下農場は美しい自然の色で満ち溢れてた。


「おねーちゃん、たべよたべよ!」


 晩ごはん前だけど、味見程度ならいいか。

 一緒に地下まで下りてきたリリを肩車して木の根元まで進む。種類によって差はあるけど、どの木々も枝に手が届かないほど高いわけじゃない。薄桃色の実が1つもがれるのを待って、私はゆっくりと妹を地面に下ろした。


「わぁー!」


 目を輝かせながら両手で大玉のピーチを掲げると、リリは感嘆の声を上げた。


「そのまま皮ごと食べちゃいな」

「うんー♪」


 ガブッと実にかじりつくリリ。

 次の瞬間、透明な果汁が溢れ出すように滴った。


「んっ! あっまぁ~~い!!」


 実が生ってそれほど時間は経ってないはずだけど、ちゃんと熟してるみたい。これは野菜と一緒だね。

 しかも教会で行った実験では、1・2年草の植物は収穫しない限り枯れずに状態を維持するという結果が出てる。おそらくその法則はここの果樹にも当てはまるはずだ。種を植え直す必要がないぶん、野菜と比べて手間がかからずに済みそうだった。


「リリ、私も一口ちょうだい」

「うん! おねーちゃん、あーんして!」

「あーん」


 口元に持ってきてもらった実をかじると、じゅわっと完熟した果実の甘味が口いっぱいに広がった。

 うん、何これ。

 めちゃくちゃ甘い。


「ヤバいね、これは確実に人をダメにしちゃう甘さだ……」


 美味しすぎて、もう禁断の果物って感じ。これはあまり安価で売り出すと、とんでもないことになってしまうかもだ。


「むー、これはさすがに高級品にしないとかな?」


 とりあえず価格設定は後々考えるとして、パメラとシホルも地下農場に呼んで一家総出で収穫を行った。

 全種類採りつつ、4人で食べる分だけを確保。ただ、シホルが試しに料理に使いたいといったオレンジだけはちょっと多めに収穫した。お手製のマーマレードにするみたい。


「ジャムかー。モグラ農場の小麦で作ったパンにつけて食べたらすごいことになりそうだね」

「それもいいけど、マーマレードはお肉料理にも使えるよ。お肉をやわらかくしてくれるし、料理のコクや風味も増すの」

「ほへー」


 さすがは我が家の料理長様だ。

 色々と考えてるんだね。


「ん?」


 一方で、パメラは別の果物に興味があるみたいだった。


「さっきからブドウの木ばっか見てるけど、好きなの? こっちも多めに収穫しようか?」

「いや、好きというかよ、こんだけあんならワインにできないかと思ってな」

「パメラ? 子供はお酒飲んじゃダメなんだよ?」

「お前、最近マジでオレが自分より年上だってこと忘れてないか……?」


 あ、はい。

 そういえば成人でしたね。

 でも公衆の面前でさ、パメラがワイングラスを傾けてたらみんな驚くんじゃないかな? お姉ちゃんは心配ですよ。


「よし、一旦はこんなもんでいいかな」


 今後、地下農場はこのまま果物専用としよう。野菜は育てる手間を考えたらモグラ屋さんで買ったほうが早いしね。

 食後、さっそくデザートとしてみんなで食べたけど、どれも美味しかった。中でも私のお気に入りはナシ。普通のと違ってシャキシャキとした食感の品種だけど、みずみずしくてスッキリとした甘さに病みつきになった。こんな美味しい果物が世の中にはあるんだね。

 苗木はすでにジャスパーたちにも渡してあるので、順調なら明日にも実るはずだ。さっそく店頭にも並べられる。

 だけど、事態はトントン拍子に運ばなかった。

 翌日、教会に出向くと問題の報告を受けた。


「お前から受け取った苗木、あれからちっとも育たねーぞ」

「……え、ウソ?」


 第3モグラ農場の一画に案内されて現場を確認すると、たしかに苗木は苗木のままちっとも生長してなかった。


「そういえば以前、果物の種から育てようと試みたんですが、その時も一切芽すら出ずに失敗したんですよね」

「えー、なんでだろ……?」


 ヘンリーの報告にも頭を悩ませて、しばらくうーうー唸って考えた。

 家の地下農場と教会のモグラ農場との違い。

 視線をさまよわせ、やがて天井を見上げたところで気づく。


「――あっ、〝高さ〟か!?」


 地下農場の天井は、木を植えることを想定して作ったので8フィーメルほど。それに比べてモグラ農場の天井はずっと低かった。


「十分な空間がないと種や苗木に魔力が供給されない……?」


 その仮説から、新しいモグラ農場を作ることになった。

 モグラウォールで手早く作製。続いて教会の子供たちと一緒にすでに植えてあった苗木を植え直して、保管してあった苗木もすべて植樹した。合計で30本以上。総量ならかなりの収穫量が見こめそうだ。



 ちなみに、これで教会の農場は――


 第1モグラ農場(基本の野菜用)

 第2モグラ農場(小麦用)

 第3モグラ農場(珍しい野菜と花用)

 第4モグラ農場(果物用)※天井が高い特別製


 となった。



「――エミカ、お前の推測バッチリ当たってたぜ!」



 3日後、店にジャスパーがやってきて実が生ったと報告を受けたので、さっそく翌日から販売をはじめることにした。

 種類ごとに綺麗に陳列する。1種類ごとの出荷量がそれほど多くないこともあって、野菜よりは高値に金額を設定。チェリーやカシスなど小粒な物は個数単位ではなく重さで価格を決めた。

 これで売り物は、野菜と果物と花。

 3本柱が確立してからお客さんも増えて、売り上げはさらに増加。その中で前々から計画してたことも実行に移せた。


「――ただいま試食サービスを実施しておりまーす!」


 トウモロコシを焼いた例の鉄板を教会から持ってきて、店先で調理。初めての試みで不安だったので、今回ばかりはシホルの力を存分に借りた。


「外だと簡単なものしか作れないよ?」


 むしろお手軽なもののほうがいいと説明すると、シホルは二つ返事で引き受けてくれた。

 こちらが食材を指定すると、ぱぱっとレシピを考案。お客さんが増える昼頃から試食販売を開始。

 アスパラガスのベーコン巻きに、ニンニクとアンチョビのカリフラワー炒め。

 香ばしい匂いにお客さんはさらに集まって、普段動きの鈍い野菜があっという間に売り切れた。調理法もシホルが丁寧に説明してくれたので、今後の売り上げも期待できそうだ。


「晩ごはんの準備もあるし、私は先に帰るね」

「うん、今日はありがと! 助かったよ!」


 鉄板や調理器具の後片づけまでしてくれたシホルを見送ったあと、少し時間があったので、またソフィアと閉店後の反省会をした。

 最近は副会長就任の件もあって、私がずっと店にいることも少なくなってきてる。問題が出てきてないか心配だった。


「にゃはは、大丈夫だよ。わたし以外にもモグラ屋さんを手伝いたいっていう子も増えてきたし」


 さらに最近だとモグラの湯で番台をやってる子たちも、暇な時間は手伝いにきてくれてるそうだ。


「あと商会の職員さんもいるし、平気だよー」


 よかった。それなら一安心だ。

 懸念が払拭されたところで、議題は今後の目標に移った。


「まだ売り場に余裕もあるし、もっと品数を増やしたいんだよね」

「野菜だけじゃなくて、お花とか果物の種類も増やすの?」

「うーん、それもいいんだけど……」


 もし新しい種や苗木を大量に入手できたとしても、これ以上モグラ農場を増やすわけにはいかない。果物の収穫という新たな仕事が増えた今となっては、さすがにジャスパーたちの負担がものすごいことになりそうだった。


「だから収穫した野菜と果物の一部を調理して販売するのはどうかと思って。たとえば、いろんな種類のジャムとかさ」


 シホルにレシピだけ考えてもらってこっちで作るって流れだ。ジャムを保存する瓶なら構造的に簡単だし、モグラクリエイトでも作れるからね。製造する場合の価格も安く抑えられるはずだ。


「それなら、今日シホお姉ちゃんが作った料理とかも売れそうだねー」


 たしかにシホルの料理なら普通に売れるね。料理のレパートリーも多いし、もしジャム以外にも商品の数が増えるようなら従業員用スペースは地下に移して、2階をそのまんま専用の売り場にしちゃってもいいかもだ。ま、その場合は先に地下室を作る必要があるけど。


「ただ一番の問題は、誰がジャムとか料理を作るかなんだよね……」


 いくらレシピがあっても、料理(クッキング)<Lv.1>の私では不可能だ。

 やっぱ小麦の製粉と同じで、業者さんに依頼するのが一番かな?

 ブドウでパメラがいってたようにワインも造れるだろうけど、お酒なんて専門的な知識がないとまず製造は無理だもんね……。うん、この辺は今度ロートシルト代表に相談してみよう。大モグラ農場の小麦で作ったパンなんかも売り物として販売していいか訊いときたいし。


「お酒にパン! すごい、どんどん商品が増えてくね!」

「もっと大きくして、最終的にはなんでもそろうお店にしちゃおっか?」


 八百万(やおよろず)の品ぞろえ。

 妄言こみでなんとなくいってみたけど、いい目標かもしれない。

 夢は大きければ大きいほどいいっていうもんね。


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