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77.もぐらっ娘、一日一善。


「妙な小屋が建っていると思えば、やっぱり……」


 来訪者はユイだった。

 機嫌が悪そうに眉間にシワを寄せる幼なじみ。私が扉を開けて招き入れると、彼女は部屋の中を眺めたあとでいった。


「またこんなものを作って」

「うぅ、怒らないでよ。ちゃんとアラクネ会長に許可はもらってるし」

「別に怒ってないわよ」


 嘘だ、絶対怒ってる。

 つき合いが長いからすぐわかるよ。きっとモグラ屋さん(旧)のことを思い出してるんだ。あの時は無断で作って、ギルドに多大な迷惑をかけちゃったからね。


「今日からここがあなたの巣になるわけね」

「巣って……」


 野生動物扱いはやめていただきたい。手とか足とかモグラっぽくて、穴を掘るのも得意だけどモグラじゃないよ。正真正銘の人間だよ。


「さっき会長から職員全員に通達があったわ。まさかエミカがギルドの副会長だなんてね。今年に入って3番目ぐらいの衝撃よ」

「私だってびっくりだよ。てか、任命しといて非常時以外は仕事ないっていうし、正直、会長が何を考えてるかわかんないんだけど……」

「深く考えすぎよ。別に会長はあなたの統率力に期待しているわけじゃないだろうし、役職はあくまで形式的なものでしょう」

「……ん? それって、私が〝お飾り〟だってこと?」

「端的にいえばそうだけど、会長としては名実ともに自分の支配下に入れておきたかったのでしょうよ。あなたに変な虫が寄ってこないようにね」

「変な虫?」


 え、私って狙われてるの?

 は? 誰に……?

 いや、その前にアラクネ会長はこの街の実力者だ。実質の支配者といっても過言ではないぐらいの。そんな人が私の身の安全を図るためにわざわざ役職を用意するとかないよ。


「はは、ユイもおかしなこというね。いくらなんでもそれはないでしょ。大体、私を囲って会長になんの得があるのさ」

「呆れた。自覚がないのね」

「へ?」

「エミカ、あなた自分がこの街でどれだけ有名になっているか、少しは考えたことある?」

「……ないけど? いや、てか有名って何? 私そんな大層なことしてな――」

「ダンジョンを破壊した挙句、ギルドの裏に温泉場を建設」

「……」

「王立騎士団にダンジョン攻略者として認定され、王都に招聘」

「……」

「大凶荒の中どこからともなく新鮮な野菜を大量に仕入れ、安価で売りさばく」

「……」

「これでも大層なことはしていないって言い張るつもり?」

「いや、でも招聘の件とかは間違いだったわけだし……」

「あなたがいくらそう主張しようが、周りは簡単に納得はしないわよ。少なくともこの街の名立たる冒険者パーティーはすべて、あなたに近づけないか虎視眈々とチャンスを狙っているでしょうね」

「は? だったら、なんでその人たちは私に声をかけてこないの? 私、パーティーに誘われたことなんて、ただの一度だってないよ……?」

「そりゃそうでしょうよ。絶大な権力をもったギルドのトップが、この娘には絶対にちょっかいを出すなって圧力をかけているのだから。この街でその威光に逆らえる輩なんて存在しないわ」

「……」


 えっと、それってつまり、私に妙なお誘いがこないよう、すでに手が回されてるってこと?


「アラクネ会長が、私のために……?」

「そういうこと。あなたはとっくの昔からあの人の庇護下にあるの。それでも、あなたがまったく自重する気配がないから、いい加減ここらで明確に宣言しておく必要があると考えたのでしょうね」

「ねえ、ユイ」

「何よ?」

「私って、もしかしてさ……」



 この街で、ものすごい〝悪目立ち〟してる?



 恐る恐る尋ねると、ユイは間髪容れずに答えてくれた。



「エミカ、あなたはやりすぎたのよ」

「……」



 その回答がすべてを物語ってた。


「知らなかった。私って、そんな要注意人物みたいな扱いを……」

「私からいわせてもらえれば、何を今さらだけど。ま、今後は己の行動に最大限責任を持つことね。あなたを庇護する会長の面子だってあるんだから」

「うい……」


 私の日常を会長が守ってくれるのは正直ありがたい。

 ありがたいけど、やっぱ副会長というポストを与えられたからには、せめて給料分は働かなきゃだよね。お飾りや形式的に任命されたってんなら、なおさらにそんな重圧を感じてしまう……。


「私がきっちり仕事をすることで、会長に対するお礼にもなるよね? 少なくともゴロゴロしてるよりはマシのはずだし」

「あなたにしては大変いい心がけね」

「でもさ、副会長って何をすればいいの? ギルドの一員として他の冒険者を助ければいいのかな?」

「会長の立場から考えて、冒険者だけに範囲を止める必要はないんじゃない? 会長はこの街の権力者であって、何か問題が発生すれば当事者がギルド関係者でなくても動くわけだし」


 たしかに食糧危機の件も、ギルドの枠を飛び越えた問題だった。

 んじゃ、私は冒険者にかかわらず、この街のために何かすればいいわけか。


「この街のため……。うー、全然ダメだ。漠然的すぎて、川のゴミ拾いぐらいしか思いつかないよ……」

「あら、いいじゃない。街を綺麗にするのも立派な仕事よ」

「うえぇー」

「ほら、有言実行。渋い顔していないでさっさといってきなさい」


 あからさまに嫌な顔をしたけど、ユイにお尻を叩かれてほんとにやる流れになった。軽はずみに口に出すんじゃなかったと、ちょっぴり後悔。トボトボと重い気持ちで川に向かう。


「川のゴミ拾いとか、マジで楽しくなさそう……」


 正直な胸の内を吐露しつつ河川敷に到着。

 すぐに小さな子供たちのはしゃぐ姿が目に入ってきた。

 みんな薄着で楽しそうに水をかけ合ってる。


「いいなぁ~」


 浅い川なので、夏は子供たちの絶好の遊び場だ。私も懐かしさに堪らず、モグラモドキブーツを脱いで澄んだ水に足を浸けてみた。

 うん、冷たくて気持ちがいいね。

 やっぱ夏は川遊びが最高だよ。



「――おりゃあああぁー!」


「「「きゃー!」」」

「「「きゃははっ!!」」」



 小さな子供たちの集団に乱入して、しばらく〝鬼〟として孤軍奮闘。

 だけど、さすがに多勢に無勢だった。やがてチビッ子たちの反撃に遭い、ずぶ濡れになった私は白旗を揚げて降参した。


「おねーちゃん、バイバイ!」

「また遊ぼうねー!」


 子供たちに手を振り返しながら川から上がる。

 いやー、楽しかった。

 やっぱ童心に戻るのって大切だね。

 ん、あれ?

 そういえば、なんか大事なことを忘れてるような?


「あっ、ゴミ拾い……」


 本来の目的を思い出して、下流から上流に向かって川のほとりを歩く。

 注意深く目を光らせながら進むも、瓶やガラス片がたまに落ちてる程度で、それ以外のゴミはほとんど落ちてなかった。


「なんだ、掃除するまでもなく綺麗じゃん」


 でも、しばらくすると大きな木材の破片が目立つようになった。何事かと拾い集めながらさらに上流に向かう。

 と、そこで妙な違和感に気づいた。


「あれ、この辺に橋なかったっけ……?」


 河川敷から石段を上がって歩道に戻ると、木製の橋がかかってた痕跡を見つけた。

 おそらく、2ヶ月近く前の嵐で壊れてしまったんだと思う。風で吹き飛ばされたのか、水で流されたのかまではわからないけど、そう考えれば大きな木材の破片がたくさん落ちてるのも納得だった。


「お、そうだ。きっとこれも街のためになるよね」


 拾い集めた木材の破片を河川敷深く埋めたあと、私は橋がかかってた場所に戻ってきた。

 そのまま地面に爪をつけて、モグラウォールで水平に道を伸ばしていく。

 向こう岸まで25フィーメルほど。

 十分射程距離圏内だ。


 ――ズズ、ズズズッ!


 這うように地面が伸びていって反対側に接着。

 あっという間に新たな橋がかかった。


「よし」


 強度に問題がないかモグラパンチで叩きながら1往復したあと、せっかくなので馬車が通れるほどの大きさに道幅を広げることにした。さらに石のタイルを敷き詰めた上、転落防止用の欄干なんかもつけてより橋っぽい形に仕上げていく。


「大体こんなもんでいいか」


 ほんとならアーチ状にしたり、もっとデザインにもこだわってみたかったけど、これで完成としておこう。あんまり凝っても意味ないし、ぱぱっと作っちゃうのが一番だもんね。


「あ、橋が直ってるぞ!?」

「渡れるー!」

「こっちからいこうぜ!」


 これからどこかに遊びにいくんだろう、3人組の男の子たちが歓声を上げながら私を追い抜いて、橋を渡っていった。


「さて、そろそろ引き揚げますか」


 とりあえず今日の副会長としての活動はここまで。

 あんまり根を詰めてやっても疲れちゃうし、これから〝一日一善〟ぐらいを目標にがんばっていこう。


 そのあとモグラ屋さんにも顔を出して店を手伝った。

 ちなみに昨日から夕方を目安に特売(タイムセール)を行ってたりする。本日の目玉は特大レタス1個50マネン。お1人様2個まで。早い者勝ち。

 奥様方の激しい争奪戦になったけど、なんとか問題なく売り切ってその日は店じまい。

 帰宅後、昨日植えた苗木の様子を見にいったら、私と同じぐらいの背丈にまで生長してた。

 この調子なら完全に育つまであと2日ぐらいかな。

 どの木にもまだ実は生ってないけど、今からほんと楽しみだ。


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