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8.エミカ・キングモールは勇気を振り絞る。


 夢を見た。

 内容は、もう覚えてない。

 でも、なんだか、悲しい物語だった気がする。


「――あれ? 私、何してたんだっけ?」


 気づくと一人、赤い空間に立っていた。


「あっ、そうだ。なんかピカッて光って、それから……」


 足元にあったはずの黒い箱は消えている。念のため辺りを見渡してみたけど、やっぱどこにもなかった。


「う、痛っ……」


 どこまでも続く、赤い地面と黒い空。

 その光景を見ていると、頭の奥のほうがズキズキと痛んだ。


「……頭、痛い。あとなんか、ぼうっとする……」


 風邪を引いた時みたいだった。

 どこか高熱でふらふらしてる感じ。こりゃ、早く帰らないと。いや、でも、ここどこだろ? どう見ても地下一階じゃないし……。


「うーん……ま、いっか。歩きながら考えよう」


 進む先からは謎の金属の音が、キンキンと響いてきている。

 この先に誰かいるみたいだ。知ってる人のような気がするけど。

 やがてその場所にたどり着くと、私はすべてを思い出した。


「――あっ!?」


 なんで、こんな大事なことを忘れていたんだろう。

 私はこの場所に、戻ってきてはいけなかったのに。


 激戦は、続いていた。


「キギイ”イィー!!」

「ぐっ、この!」


 長槍を振るい、鋭利な爪の一撃をギリギリでかわしつつ、よろけながらに距離を取る。


「はぁ、はぁ……」


 その一連の動作に、先ほどまでの精彩は見られなかった。原因は、コロナさんの身体を見れば一目瞭然だった。彼女の右半身の大部分はすでに、()()()()()()()()

 ブレス攻撃による状態異常効果。おそらく私に気を取られていなければ、こんな状況にはなっていなかったはず。


「また、私のせいで……」


 自責の念に駆られ、思わずコロナさんの姿から目を背けてしまう。だけど、それと同時だった。


「あっ! あれは……!?」


 視線の奥側。遠く先、動く人影に私は気づく。それは膝をついた状態で、なんらかの魔術を発現させているホワンホワンさんの姿だった。よく目を凝らすと、彼女の傍にはさらに横たわる二つの影があった。

 ガスケさんとブライドンさん……そうか! ホワンホワンさんが二人を治療してるんだ!!

 おそらくコロナさんが戦っている最中にホワンホワンさんは意識を取り戻し、二人を離れたあの場所まで運んだのだろう。

 絶望的だった状況に、希望が出てきた。ガスケさんとブライドンさんが復帰すれば、戦況は断然こちらが有利になるはずだ。

 あとちょっと、それまでコロナさんが持ちこたえてくれれば……!

 そんな考えが脳裏を過ぎった、まさにその瞬間だった。コロナさんの身体は死角から飛んできた尾によって横薙ぎにされた。


「ぐわあぁっ――!」


 横腹に強烈な一撃。身体ごと真横に吹き飛ばされ、何度も赤い地面を転がったあとでようやくコロナさんは止まった。


「く……、ぐっ……!」


 なんとか槍を杖代わりにしてよれよれと立ち上がるコロナさん。だけど、もはや満身創痍。その身体ではもうまともに走ることすら厳しそうだった。


「ギイイィー……」


 そんな戦況を理解してか、コカトリスは突如として背を向けるとノソノソと別方向に移動をはじめた。


「え?」


 そ、そっちって、まさか……!?

 そのまさかだった。コカトリスの向かう方角の先には、ホワンホワンさんたちがいた。

 魔力に惹かれたんだ! なんとかしないと!!


「ま、待てっ……!」


 コロナさんもすぐに事態に気づいた。片足を引きずりながら懸命にコカトリスの後を追う。でも、とても間に合いそうにはない。


「だ、誰か――」


 誰か、助けて。

 その言葉が自然とこぼれそうになって、私は慌てて口を噤んだ。

 それを吐き出してしまった瞬間、すべての命運が悪いほうに決まってしまう。

 なぜか、そう思えたから。


「……誰かに、助けを求めてる場合じゃないんだ!」


 ああ、そうか。

 そうだよね。


 これは、()()()()()()()()()()()()――


 その瞬間にはもう、私は背負っていたリュックから商売道具を取り出していた。

 こっちに注意を惹いてやる!

 私はなんの躊躇もなく振りかぶると、その場でコカトリスに向かって力いっぱいつるはしを投げた。


「おりゃあああぁぁ――!」


 ――ビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュン。


 ん?

 あれ、なんだろ?

 今なんか、妙な違和感があったような?

 気のせいかな、私、手が――


 ――ビュンビュンビュンビュンビュンビュン。

 ――ビュンビュンビュンビュンビュン。

 ――ビュンビュンビュンビュン。

 ――ビュンビュンビュン。

 ――ビュンビュン。

 ――ビュン。



 ――グサッ!



「キギイ”イ”イ”イィィィィィィィィ~~~!?」


 あ、当たった。

 しかも目ん玉のとこ。

 まさか、あんな見事に刺さるなんて。

 てか、すごい飛距離出た気がする。

 私ってば、投擲の才能があるのかな?

 いや、今はそんなのんきなこと考えてる場合じゃないって。

 あ、やば。ものすごい怒ってらっしゃる。うわ、こっち見た! うわうわ、こっちきた! いや、狙いどおりだけどさ!! このあとのことなんてなんも考えてないよ!? あわわ、どうしようどうしょう!?


「え、えっと、あはは……こ、こんにちは……」

「キイィ~? キギイイイィィィッ……!」


 訳:なあ、今やったん、お前か? 怒らんから言うてみぃ……!

 たぶん、そんなこと言ってるっぽかった。

 なんか意思疎通できそうだったんで、「チガウヨー、ワタシジャナイヨー」とか言ってみたけど、まったく意味はなかった。

 こちらを射程圏に収め、その嘴で攻撃するためだろう。コカトリスはさらに、一歩、二歩と近づいてきた。


「に、逃げろ……エミカ・キングモール!」


 そんな絶体絶命の場面でふと聞こえたのは、かすれたコロナさん声。

 自分だってボロボロなのに、最後までこんな足手まといの私を心配してくれるなんて。やっぱりその優しさは本物だ。絶対に、彼女は〝偽善者(ニセモノ)〟なんかじゃない。

 ありがとう、コロナさん。

 でも、もうこの場から逃げるなんてとてもじゃないけど無理っぽいです。

 巨大な狂鳥と相対した今し方、私は自らの運命を悟っていた。

 ――自分は、ここで死ぬと。


「キギイイイィィー!!」

「………………」


 なんて殺意の圧力だろう。顔を上げると、本当に大きい嘴がそこにあった。数瞬先、あれに串刺しにされている自分がもう容易に想像できちゃう。

 それでも、ただ大人しく殺されてやるつもりはなかった。

 さっきは片目を潰せたんだ。なら、今度は無事なほうの目ん玉も潰して、さらにもう一矢報いてやる!

 この状況で、なんでそんな強気でいられているのか自分でも不思議だった。きっと逃げるという選択肢がなくなって、頭のネジがどっかに飛んでいってしまったんだと思う。その証拠に私は死が差し迫ったこの状況においても、恐怖らしい恐怖を一切感じてなかった。

 あるのはただ、100%の蛮勇のみ。

 おら、早くかかってこい!

 このチキン野郎!!


「キギイイイィィィーーー!!」


 奴が動いた。


「おらあああぁぁーーー!!」


 そして私も動く。


 勝負は、一瞬で決した。

 迫りくる巨大な嘴。私はそれを、全力で打ち返してやった。



 ()()()()()()――



 え?

 モグラ……?



 ――ベッチ”ーーーーーーーーーーーーンッッッ!!!



 なんかものすごい音がしてるなーと思ってこぶしの先を見上げると、コカトリスのぐちゃぐちゃになった頭部が首ごと千切れて吹き飛んでた。


「うわ、グロい!?」


 はは。

 なんだこれ。

 まるで悪い夢でも見てるみたいだった。


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