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64.もぐらっ娘、穴を掘って怒られる。


 先日、温泉の件でアラクネ会長と話し合った結果、以下のことが決まった。


 ①今後、番台の仕事は教会の子供たちに委任する。

 ②それでも従来どおり、売り上げの半分は私の借金返済に充てられる。

 ③私とその家族の入浴料は生涯無料。


 新しい仕事が見つかるまでこれまでどおり取り分の1割も支払ってあげるよ、と満面の笑顔でいわれたけど、会長相手に貸しを作るのは怖いので丁重に断った。


『それならその分、教会の子供たちの手取りを多くしてあげてください』

『モグラちゃんってば、見通しの甘いこといっちゃって。あとで仕事が見つからず泣くハメになっても知らないわよ?』

『その点はご心配なく。もう昨日すでに泣いてますんで、私……』

『あら、前途多難ねぇ』


 とりあえずそんなこんなで職を失うのが確定したので、今後のことを考え、私は現在の資産をざっと計算してみた。

 まず現金としては、モグラ屋さんで荒稼ぎしてた時の若干の残りと、モグラの湯での貯蓄。あと、王都へ出かける際にもらった餞別の余りがちょっとだけ。

 現金以外では、売る気はないけど建物と100年分の土地の所有権。プラスして地下の居間でシャンデリアになってる例の宝石なんかも財産と呼べるのかな。あとどのぐらい爪の中にあるかはしらんけど。


「うーん。とりあえず、しばらくは飢え死にしないで済みそうだね」


 とかいって、油断してたらあっという間に危機に陥りそうだ。とにかく早めに次の職を見つけなければ。

 でも、今さら弱音を吐いてもしかたないけどさ、冒険者として活動範囲がダンジョン地下1階限定って、すでに詰んでる気がするよ。ほんと、どうしたらいいんだ。


「ま、どうしたらいいかなんてもう決まってるんだけどね……」


 結局、私が知ってるまっとうな稼ぎ方なんて一つだった。

 それはいわずもがな、穴掘り。

 というわけで、今日は久々に〝魔石クズ〟集めをがんばってみることにした。


 んで、ダンジョン到着後、採掘をはじめて1アワが経過――



「――モグラリリース!」



 魔石クズをイメージして爪の先から出てきた物は、薄っすらと青色に輝くブロックだった。


「うわ、でっか! そして綺麗っ!!」


 大きさは縦・横・高さがそれぞれ1フィーメルほど。おそらくモグラリリースで一度に出せる限界量。

 ん、限界量?

 ということは……?


「モグラリリース! モグラリリース! モグラリリース!」


 同じ物が3ブロック並んだあと、4つ目で半分ほどの大きさの塊が出た。採掘した魔石クズはそれで全部みたい。すごい量だ。てか、最早この塊たちを魔石クズと呼んでいいのだろうか。いや、呼べない。


「クズも集まれば、こんな綺麗な物に生まれ変わるんだね……」


 なんか勇気をもらった気がした。

 ちょっぴり感動。目元を拭いながらモグラクローで巨大な魔石ブロックを再び爪の中に戻す。

 と、そこで不意に背後から聞き覚えのある声が響いた。


「エミカ、やっぱりあなたの仕業ね――!!」

「ふぇ?」


 振り向くとユイの姿。そして彼女の同僚であるギルドの職員さんたちも数人。みんな私を見て眉根を寄せてる。

 あれ、気のせいかな?

 なんかみんな、ものすごく怒ってらっしゃるような。

 てか、そもそもなんでユイたち受付嬢さんがダンジョンに……?


「あなた自分が何しているかわかってるの!?」

「……何って、穴掘りだけど?」

()()()どこが穴掘りなのよっ!!」


 両手を広げるユイに促されて、そこで私も辺りを見渡す。


「………………」


 うん、すっからかん。

 見事に何もないね。

 私は円形に広がる巨大空間の真っ只中にいた。

 ぐるりを囲む赤黒いダンジョンの外層が遠くに見えるだけで、それ以外に目立つ物はない。不思議なことに、採掘をはじめた頃にはいた他の冒険者の姿もなくなってた。


「地下1階層で異常が発生してるって、みんな押しかけてきてもうギルドは大騒ぎよ!」

「あらま……」

「穴掘りで階層丸ごと掘り尽くす冒険者がどこにいるのよ! しかも階段までなくなってるし、下りてくるの大変だったんだから!!」


 掘るのに夢中になってて気づかなかった。朝の早い時間とはいえ同業の姿がない理由はそれか。

 ちなみにユイたちは、地上からロープを使って下りてきたそうだ。


「あ、あのぉ、これは……?」


 んで、受付嬢の皆様方は今、そのロープの余りで私の身体をぐるぐる巻きにしてらっしゃる。

 完全に身柄を拘束された私。

 問答無用の対応だった。



「「「容疑者を確保!」」」



「……」

「エミカ、詳しいことはギルドで訊くわ」

「え?」

「私たちの業務を妨害した罪は重いわよ、覚悟なさい!」

「えええええぇぇーー!?」


 結局、そのままギルドに連行された私はユイにこってりと油をしぼられた。反省文も書かされた挙句、その文言を復唱させられたりもした。


「ダンジョンはみんなのものよ。他の人の迷惑も考えて今後は自重すること。もしまた同じような騒ぎを起こしたら、次はこの程度じゃ済まないわよ?」

「ふぁい……」


 一切反論せず、謝罪一辺倒。

 反省してますアピールを全面に押し出した結果、なんとか昼を過ぎた頃には釈放された。


「うぅ、ひどい目に遭った……」


 ほとぼりが冷めるまで穴掘りはやめておこう。それにどっちにしろ今回の採掘で取り尽くしたから、しばらく魔石クズは生成されないだろうし。


「ただいまー」


 とりあえずやることもなくなったので、帰宅。

 シホルとリリは本日も教会で授業を受けてる。そんでもって今日はパメラも朝から2人についていった。護衛として普段の妹たちの生活を把握しておきたいらしい。なのでこの時間、家には誰もいなかった。


「おなか減った。余り物でサンドイッチでも作るかな」


 そのまま台所に移動。

 パンや肉類はあったけど、食料棚には葉物野菜がなかった。

 なら庭のハーブでもいいか。そう思い、家の裏口から出て小さな家庭菜園へ向かう。


「あっ……」


 だけど、菜園の植物はどれもシワシワに枯れてしまっていた。


「そうだった。全滅しちゃってたんだ」


 数週間前に猛威を振るった嵐の影響は、我が家の菜園にも及んでた。王都から帰ってきた初日、菜園で色んな植物を育ててたシホルがひどく落胆してたのを思い出す。


「よし。暇だし手入れしとくか」


 まず枯れた草花を引っこ抜いて庭の隅へ。次にパサパサの土をモグラクローで取り除き、さっきダンジョンで掘った新鮮(?)な土と入れ替える。

 ついでに庭園の囲いとして岩でレンガを作り、綺麗に並べておいた。


「あとは種を蒔いてっと――」


 台所の食料棚に保管してあったハーブや野菜なんかの種と、あと種芋なんかもあったので植えておく。

 最後に水をあげて作業は完了だった。

 季節的に育つかどうかはわからんけど。


「ま、あとはシホルに任せればいいよね」


 そのまま台所に戻って、野菜なしのサンドイッチを作って食べた。

 不味くもなく、そこまで美味しくもない。

 我ながら普通の出来。




 そして、翌朝――



「エミ姉、起きて!」



 地下の自室で寝てた私は、ひどく慌てた様子のシホルに起こされた。


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