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61.もぐらっ娘、ただいま。

年末が予想外に忙しくて投稿が遅れました、スンマセン!

そんな体たらくですが、新章開始でございます <(_ _)>



 はい。

 というわけで帰って参りました。

 我が愛しの故郷、アリスバレーに。


「ただいまー!」

「あら、おかえりなさい」


 王都を出発して3日後、故郷に舞い戻った私がまず最初に向かった場所はギルドだった。早朝でほとんど人のいない受付で元気よく声を張ると、幼なじみのユイが机の書類から顔を上げる。

 黒髪と赤い縁のメガネ。

 そして、凛とした声。

 なんか1ヶ月っていう期間以上に、ものすごく久しぶりな感じがした。


「あなた、いつ王都から戻ってきたの?」

「さっき帰ってきたばっかだよ。報告やらなんやらあるし、真っ先にギルドにいったほうがいいと思ってさ」


 1ヶ月以上放置してる我が家が心配だとシホルがいうので、妹たちとは馬車を降りてすぐ別行動になった。

 ちなみにラッセル団長を筆頭に、随伴してくれた王立騎士団のメンバーともその時にさよならをいって別れた。休憩も挟まず、彼らはそのまま王都に引き返してしまうらしい。

 せっかくだし、温泉にでも入ってゆっくりしていったらどうですか? と、引き止めてみたけど、公務なんでそういうわけにもいかないとのこと。責任ある立場ってのはほんとに大変だと改めて思った。


「誤解を解くだけなのに、ずいぶんと時間がかかったわね」

「ついでに観光とかもしてきたからね。すごい大きかったよ、ハインケル城」


 ユイにはリリの出生も黒覇者(レジェンド)受章の件も話せないので、適当にごまかしておく。

 あくまで旅行者の立場。あっちでのんびりしてきた(てい)を貫かなければ。

 だけど、ふと、そこである問題に気づいた。


「あっ――」


 しまった。

 お土産買うの忘れた。

 何かプレゼントになるものを渡さないと怪しまれるかも。

 んー、何かないかな?

 土や岩じゃダメだし……あ、そうだ!


 考えた結果一つ思い当たったので、コブシほどの大きさに加工した上、私はそれを目の前にリリースしてみた。



 ――ゴト、ゴロッ!



「これ、王都のお土産」

「……」


 キラキラと輝く鉱物。

 宝石をもらって嬉しくない人なんていないはずだった。元がゴーレムってのはちょっとアレだけど……ま、黙ってればバレないし?


「えへへ、すごい綺麗でしょー」


 それでも、私の思惑どおりとはならなかった。


「はぁ……」


 七色に光り輝く塊を指先でツンツン突っ突いたあと、ユイは心底呆れたといった感じでため息を吐いた。


「少しは常識ってものを身につけなさい。こんな高価な物、受け取れるわけないでしょうが」

「えー」


 そんなこと別に気にしなくてもいいのに。

 でも、無理強いはできないので、ここは大人しく引き下がることにする。


「というか、何があったら旅行のお土産がこんなバカでかい宝石になるのよ」

「旅行のあいだ色々とあったんだよ。ものすごい長い横穴掘ったり、かわいい家族が増えたり」

「……は? 家族?」

「うん。ちょっと複雑だけど、妹になってもらう予定。ユイにも今度紹介するね」

「あなた、本当に王都で何をしてきたの……?」


 軽い目眩にでも襲われたのか、こめかみを押さえて力なく首を振るユイ。

 大丈夫かな? きっと仕事の疲れが溜まってるんだろうね、可哀想に。


「――あ、ところでアラクネ会長ってもうきてる?」


 ベルファストさんから預かってきた手紙もある。それに会長には、黒覇者(レジェンド)の件がどうなったのかだけは早めに伝えておかなければだった。


「会長ならいないわよ。今日は朝から緊急の有力者会議に出席中なの。たぶん戻ってくるのは夜中ね」

「緊急って何かあったの?」

「それが……少し前の話なんだけど、悪天候の影響でね、この辺一帯の田畑に甚大な被害が出てしまったの。あなたが知らないのも当然だけど、今、街ではかなり大きな問題になっているわ」


 数週間前に相次いで街を襲った嵐が主な原因らしい。すでに市場では、野菜や果物の値段が例年の何倍以上にも高騰してるんだそうだ。


「野菜や果物だけならまだしも、これからはじまる小麦の収穫にも影響は避けられない。だから正確な被害状況の確認も含めて、街のお偉い様が集まって今後の対策を立てようって話になったみたいよ」

「ってことはパンとかも値上がりするわけ?」

「少なくとも、今年は例年通りというわけにはいかないでしょうね」

「うげっ、マジかぁ……」


 シホルが聞いたら悲鳴を上げるかも。てか、農作物の不作は生活に直結する問題なので他人事じゃない。王都はずっと天気がよかったし、まさか帰ってきてそんな状況になってるとは思ってもいなかった。

 かなり心配だ。

 ま、私が心配してどうにかなる問題じゃないけど。


「むー。とにかく、ここで待っててもしかたない」

「帰るの?」

「いや、ちょっとモグラの湯の様子でも見てくるよ。代われるなら、今日から番台の仕事に戻ってもいいしね」


 報告はまた次の機会にして、そのまま回れ右で歩き出す。


「待って、エミカ」


 だけど、即座にユイが私の背中を呼び止めた。


「会長から後日話があると思うけど、せっかくだし先に伝えておくわ」

「ん?」


 現場にいって説明したほうが早いというので、ユイと一緒にギルドの裏手に回った。すぐに温泉の受付である番台が見えてくる。そこには小さな女の子が接客してる姿があった。


「あれ? あんな小さい子、ギルドの職員にいたっけ?」

「それが、あなたがいないあいだ1週間ぐらいはギルドの職員で仕事を回していたのだけど、今は――」

「こんにちはー♪」


 女の子は私たちに気づくと、愛想よく笑顔で挨拶をしてくれた。

 シホルほどの年齢の女の子だ。その顔には見覚えがある。たしか教会に住んでる子だ。教会の庭先でリリと一緒に遊んでくれてる彼女の姿を、私は何度か見かけたことがあった。


「追加のミルクとタオル、持ってきたよー」

「それじゃ補充お願い」

「はーい」


 番台の子以外にも、脱衣所に荷物を運ぼうとしてる男の子と女の子の姿がある。そちらの2人のあどけない顔にも私は見覚えがあった。


「あの子たちも、教会の子だよね?」

「ええ、見てのとおり、モグラの湯の仕事は教会の子たちにやってもらっているわ。さっき話した不作の影響で、教会も大変らしくて……」


 教会の運営は少ない寄付金が頼りだ。そのため教会に住む子供たちは畑を耕して、自分たちの食料の大半を自給自足で補ってる。だから農作物に被害が出てる今の状況は、これ以上ないほどに最悪だった。


「会長もあなたが王都から戻ってきたら、温泉の仕事と取り分の件でもう一度話し合いたいっていってたわ」

「そっかぁ……」


 教会に住む子供たちはみんな孤児だ。普段は教会の手伝いをしたり、大きな子は小さな子に勉強を教えたりなんかして日々を過ごしてる。嵐の影響で農作業ができなくなったことで、きっと自主的に仕事を探してたんだろう。


 うーん。

 会長との話し合いはまだだけど、しばらく番台娘は休業になりそうな予感がひしひし……。

 いや、でも、こればっかりはしかたないか。

 今だって教会には、妹たちの勉強を見てもらったりしてて、かなりお世話になってる。恩を仇で返すわけにはいかない。それに、自分より苦しい立場の子たちから仕事を奪うなんてマネもしたくはなかった。


「番台娘もけっこう気に入ってたんだけどね。でも、そういう理由ならしかたない。私は別の仕事を探すよ」

「ずいぶん潔いわね。あなたのことだから、てっきり〝無職はヤダー!〟って泣き喚くかとばかり」

「人とは成長する生き物さ。ま、大人の余裕ってやつだね(キリッ)」

「あ、そう……。あなたが納得しているならそれに越したことはないし、別にいいけど……」


 黒覇者(レジェンド)受章者となったのは公然でなくとも、事実は事実。今の私ならダンジョン深層でモンスターを狩ることも、採掘することも思うがまま。

 なんなら、高ランクの依頼を受けたっていいし、ボスからレアドロップを狙ったっていい。

 最早、職探しなんかで困窮する私ではないのだった。


「がはは! んじゃ、ぱぱっとダンジョンで稼いできちゃいますかね!」

「……」


 ユイが何かいいたげそうにこっちを見てたけど、結局、彼女はそれ以上何もいわず、意気揚々とダンジョンに向かう私を見送った。

 その眼差しがどこか悲しげに見えたのは、きっと何かの気のせいに違いない。


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