表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/368

58.友人として


「先ほどは、すまなかった……」


 私が部屋に入ると同時、コロナさんは深々と頭を下げた。

 純白のマントに、白銀の鎧。全身黒ずくめの格好から、すでに元の白を基調とした装備に戻っている。

 よかった。いつものコロナさんだ。その姿を見て、私は胸を撫で下ろした。


「コロナさん、別に謝る必要なん――」

「言い訳は一切するつもりはない。責任を取り、今ここで腹を括る所存だ」

「えっ……」

「姉上っ、〝介錯〟をお願いします」

「わかりました。望みどおり一撃で楽にしてあげましょう」


 背後のティシャさんが意気揚々、手をチョップの形にして素振りをはじめる。

 ――シュピンッ、シュピンッ、シュピンッ。

 ヤバい、腕が分裂して見える。恐ろしく速い手刀だった。


「最後に言い残すことは?」

「ただ無念……その一言に尽きます」

「……」


 いやいやいやいや、怖い怖い怖い! いきなり何をおっぱじめてんですか、この姉妹は!?


「ちょ、ストップ! ストッープ!!」

「なんでしょう、エミカ様」

「いや、なんでしょう、じゃないですよ! なんですかカイシャクって!? よくわかんないですけど早まっちゃダメです!!」

「前時代的なこのような方法での謝罪は、お好みではありませんでしたか」

「ありませんよ! あるわけないでしょ! 私はただコロナさんと話しをしにきただけで、別に謝ってもらいたいわけでもないですから!!」

「おや、それはそれは。実の妹をこの手にかけるのは気が進みませんでしたので、それならばこちらも非常に助かります。では、エミカ様はこの愚妹と心ゆくまでお話し下さい。私はこれより浴場に向かい、シホル様とリリ様のお世話をして参ります」


 そのまま丁寧にお辞儀をしたあとで、ティシャさんは女中部屋から出ていった。

 てか、気が進まなかったってほんと……? 嬉々とした様子で、シュピンシュピン素振りしてたように見えたけど。

 今まで私の中の『絶対に怒らしちゃいけない人ランキング』の堂々の一位がアラクネ会長で、二位がユイだったんだけど、なんかそのあいだに見事割って入りそうな勢いだ――って、今はそんなことよりも……。


「えっと」

「……」


 背後では依然、コロナさんが私に向かって頭を下げ続けていた。


「あの、コロナさん……私、別に怒ってないですよ? だから、もう顔を上げてください。それと、腹を括るとか物騒なのも絶対なしです」

「しかし、私はとんでもない失態を……」

「ティシャさんから()()()のことは伺いました。コロナさんにはコロナさんの立場があったんだなってのはわかってますから」

「エミカ・キングモール……」


 ようやく下げていた頭を上げると、コロナさんは恐る恐るといった感じで訊いてきた。


「……ミハエル王子を救ったのは、君か?」

「げっ、なんでそれを!?」


 女王様、口止めしてって頼んだのに……。


「その反応はやはりそうか。タイミング的に、君で間違いないと踏んではいたが」

「あっ……」


 どうやら確証はなかったみたい。ドジった。


「結局、私がやろうとしたことは何もかも間違っていたわけだ……。今回の誘拐事件どころか、継承問題すらも君が解決してしまったのだからな。私は、その妨害をしたに過ぎない……。陛下の利益を追求した挙句、事実それとまったく正反対の行いをしていた。自分の愚かさに、今回ばかりは面目次第もない」

「コロナさん……」


 どうしよう。だいぶ落ちこんでる。こういうとき、なんて声をかけるのが正解なんだろう。気にしないで下さい? それとも、元気出して下さい? んー、なんか違う気がする……。

 そもそも年上の人を励ます言葉なんて私は持ち合わせてない。そんな人生経験豊富じゃないし、偉そうに説教できる立場ですらないもん。それに、コロナさんのことだってすべてを知ってるわけじゃない。むしろ悲しいことに、間違いなく知らないことのほうが圧倒的に多い。アリスバレーで私を助けてくれた彼女はキラキラ輝いてて、ものすごく正義感の強い、かっこいい大人の女性に見えた。きっと、なんでもできる人なんだとも。

 でも、コロナさんにはコロナさんの悩みがあって、常に壁にぶつかって苦しんでるのかもしれない。

 少なくとも今、目の前にいる彼女はそう見える。それは、まるで――


「あっ」


 ふと、そこで苦悩するコロナさんの姿が、少し前の私自身と重なった。

 そうか。()()()()()()()()()()()()

 完璧な人間なんて存在しない。そんな当たり前のことに、私はそこでようやく気づいた。


「一人よりも二人ですよ!」


 コロナさんの手を取り、迷惑を覚悟で本能のまま思いついたことを口にする。


「そんでもって、二人よりも三人です!」

「あ、ああっ……?」


 きれいな瞳をぱちくりさせて戸惑うコロナさんに構わず、私はさらに続けた。


「ここでコロナさんを励ましたり、怒ったり、諭したりなんて私にはできません。でも、もし今度大変なことがあったら、そのときは私を頼って下さい! もしかしたら一緒に悩むだけになっちゃうかもしれませんけど……でも、それでも私! 何がなんでもコロナさんの力になりますからっ!!」


 一気に大声で叫ぶように言って、ぜえはあと息を吐く。

 高鳴る心臓の音。なんか頭の奥が、ジーンと熱くなってる。


「……それは、君の慈悲か?」

「違います。そんな大層なものじゃないです。コロナさんは私の恩人だから、私もコロナさんが大変なときはその助けをしたい。ただ、それだけです」

「……」


 そこからはお互い無言のまま、しばらく時間だけが過ぎていった。

 長い長い空白。だけど、やがて静寂を破るように、ふっと息を吐くと、コロナさんは私の爪を握り返した。


「わかった。約束しよう」


 まっすぐ私を見据えるコロナさんは、とても澄んだ瞳をしていた。


「次に困難に直面したとき、私は迷わず君を頼ろう。だが、反対に君が窮地に陥ったときは君が私を頼ってくれ。この王国の外側にいたとしても必ず駆けつける。こんな不甲斐ない恩人では、心許ないかもしれないが……」

「それをいうなら私だって同じです。不甲斐ない者同士、これからはがんばって助け合っていきましょ!」


 許すとか、許さないとかじゃない。

 怨むとか、怨まないとかじゃない。

 何かにつまずいたり、ぶつかったりしたなら、お互い手を差し伸べ合えばそれでいい。

 恩人である前に、憧れである前に、目標である前に、彼女はもう私の大事な友人だった。


「もっと話がしたいです」

「ああ。しかし、何について語ろう」

「それなら、お互いの子供時代の話はどうですか? 私、コロナさんがまだ小さかった頃のこととか、もっともっとたくさん知りたいです!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

html>html>

ke8v85imjkqm5jd6dmbxewosbk6s_42w_5k_8w_9    gd109dru4pq91oc7h2x874y73lq6_1q2_5k_8w_b    le5lmdl0tju10152gyhn77by6h_196l_5k_8w_ad


c76ieh9ifvcs70tieg1jdhb3or_f5l_8w_8w_18l
↑↑↑ 投票(1日1回可能) ↑↑↑
d(>ω<*)☆スペシャルサンクス☆(*>ω<)b
表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ