表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/368

57.あなたでよかった


 結局、また執務室に場所を変え、女王様と話し合いの続きをした。


「あ、そういえばリリの正確な歳ってわからないんですけど、王様になる順番っていうんですか? それって王子様とリリ、どっちが先になるんです?」

「どちらが年上であったとしても、男児であるミハエルが王位継承順位では一位となります」


 ほっ。

 それを聞いて安心した。これでもう完全に問題はないはず。


「元々の希望どおりリリはウチに連れて帰ります。それでいいですよね?」

「……ええ、もうその申し出を断ることは息子を救われた私にはできません。もちろん了承します。しかし今後、あの子――リリには、出生のことは明かさないおつもりで?」

「あ、えっと、さっきは息巻いて渡しませんっていった手前、すごく言い難いんですけど……実際、私も大事なのはリリの気持ちだって思ってます。どうしたいのか決めるのは親代わりの私じゃなくて、本人の考え方次第だって。ただ、リリはまだ小さいからよくわかんないと思うんです。だからもう少しリリが成長するまで、この件を理解させるのは待ってあげるべきなんじゃないかと……」

「なるほど、わかりました。あなたがそう仰るならリリが成人するまでのあいだ、出生のことは()()()だけの秘密としましょう」


 私とミリーナ女王、シホルにベルファストさんとラッセル団長。そしてファンダイン家の三姉妹。私たちに含まれるのは、その八人ということになりそうだ。


「ただ、やはり王家の――いえ、私の大切な姉さんの子供でもあります。どうか護衛役を派遣することだけは許可してもらえないかしら?」

「護衛ですか……」


 どこからか秘密が漏れる可能性はゼロじゃないだろうし、もし王族の血筋を狙うような輩に襲われたら私一人で対処するのは正直難しい。身を守ってもらえるなら、それに越したことはなかった。


「了解です、アリスバレーに帰る条件として呑みます。でもその代わり、こっちからもあといくつかお願いがあります」


 ①王子様を治した人物が私であること。

 ②黒覇者(レジェンド)受章者が私であること(アリスバレー・ダンジョンと黒き竜のダンジョンの攻略者が私であること)。


 上記二つの事実を伏せてもらうよう、また、すでにその事実を知ってる者には口止めしてもらうよう私は女王様に願い出た。


「あなたがミハエルの件を隠したがっているのは理解していますし、決して詮索するつもりもありません。ですが、黒覇者(レジェンド)の件まで秘匿扱いにして本当にいいのですか……? 冒険者として最高の栄誉だと聞いています。あなたの名声をより高められる機会をふいにしてしまうのでは?」


 今回のことも前回のことも、サリエルの力あってのこと。その上で別に私の積み上げてきたものが無駄になったわけじゃない。逆にズルして得た称号で得をするのは、冒険者としてどうたらこうたらの前にやっぱ普通に人としてやっちゃダメな気がした。


「アリスバレーに帰ったときにあんま騒がれたくないので」


 だけど天使絡みの件を正直に話すわけにもいかない。なので、適当な理由をつけてごまかしておく。それとついでに胸に開いた穴を理由に、着ていく服がないからということで授章式も中止にしてもらった。


「代わりのドレスなら何着でも用意しますよ」

「けっこうです!」


 女王様だろうと、そのご厚意は全力でお断りだ。

 てか、いつものオーバーオールが恋しい。早く元の格好に戻りたかった。


「大体こんなところですかね」

「ええ。秘密事が少し多いですが、この国の女王として誓ってお約束します。恩人であるあなたのために」

「恩人だなんて大袈裟ですよ」


 私は私の目的のため王子様を治しただけだ。


「いえ、ミハエルのことだけではありません。すでにコロナから聞き及んでいます」

「え?」

「リリのことです。四年前、あなたが泣いていたあの子を川の傍で保護したこと、遅ればせながら叔母の立場として感謝を申し上げます。エミカ……エリザ姉さんの子を救ってくれてありがとう。あの子と出会ったのが、あなたで本当によかった」

「あ、はいっ……」


 あれ、おかしいな。

 急に声が上ずって、目頭も熱く――


「………………」


 ほんとに私なんかでよかったのかなって思うところはあったけど、それ以上、どうしたって言葉は出てこなかった。


「う、上の妹が心配してると思うのでそろそろ戻りますね!」

「わかりました。では、続きはまた明日にでも」


 女王様と話を終えて貴賓室に戻ると、ちょうど扉から出てきた人物とぶつかりそうになった。


「あ、ティシャさん」

「エミカ様、今お呼びに行こうかと。リリ様がお目覚めになられました」

「ほんとですか!」


 部屋に入ると、寝ぼけ眼のリリがベッドに座ってて、その背中をシホルが優しくさすってた。


「ほら、エミ姉が戻ってきたよ」

「んにゃ、おねーちゃん……」

「リリ、具合はっ!? どっか苦しかったりしない!?」


 ――ぐぎゅう~。


「え?」

「おねーちゃん、わたしおなかへったぁー」

「……ふふっ、ただいま御夕食の準備をいたしますね」


 リリのお腹の音に思わず笑みをこぼしながら、ティシャさんが貴賓室を出ていく。窓の外を見ると、すっかり夜の帳が下りはじめていた。

 そうか。もうそんな時間か。


「そりゃ、おなかも空くよね」

「うんっ!」


 そのあとティシャさんが運んできてくれた晩ごはんをリリは残さず平らげた。食欲もあるし、どうやらまったく呪いの影響はなさそうだ。

 これも全部サリエルのおかげだね。感謝の気持ちをこめて、料理の乗った大皿をこっそり誰もいない隣の席に置いてみる。少し目を離した隙に皿の上はあっという間に空になってた。いやー、不思議なこともあるもんだ。


「エミカ様、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「いいですよ」


 食事が終わってしばらくしたあと、ティシャさんにそうお願いされたので、私は先にシホルとリリを浴場に向かわせた。


「愚妹がエミカ様に謝罪をしたいそうです」


 二人っきり(厳密には違うけど)になった部屋の中で、ティシャさんは前置きなしで用件を切り出した。

 愚妹。複数形ではなく単数形。


「えっと、コロナさんがですか?」

「はい。城の女中部屋で待たせております。お手数かとは存じますが」

「……わかりました。案内をお願いします」


 このままでは、わだかまりが残ってしまう。女王様以外にも、私にはまだ話し合うべき人がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

html>html>

ke8v85imjkqm5jd6dmbxewosbk6s_42w_5k_8w_9    gd109dru4pq91oc7h2x874y73lq6_1q2_5k_8w_b    le5lmdl0tju10152gyhn77by6h_196l_5k_8w_ad


c76ieh9ifvcs70tieg1jdhb3or_f5l_8w_8w_18l
↑↑↑ 投票(1日1回可能) ↑↑↑
d(>ω<*)☆スペシャルサンクス☆(*>ω<)b
表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ