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50.黒き竜のダンジョン


 ヒールのついた靴からモグラモドキブーツに履き替え、髪型もいつものポニーテールに戻して地図スコープを装着。

 そして、荷物からあるアイテムを取り出し、それを胸元に隠し入れる。

 ドレスも着替えようか迷ったけど、今は少しでも時間が惜しかった。それに、もし汚してしまっても弁償すればいいだけの話だ。

 準備を終えた私は、リリの救出に向かうため貴賓室の扉を開けた。


「がんばってエミ姉!」

「どうかご武運を」

「うん! 二人とも、いってくるね!」


 シホルとティシャさんと別れて、廊下を走り出す。モグラモドキブーツの効果で足取りは軽快だった。ビョンビョンと進んでいく。

 そのまま、目指す先は――


「待てよ、どこいくつもりだ?」


 突然、通りすぎた場所から遅れて声をかけられた。

 両足で滑りこむようにして急停止。振り向くと、そこにはパメラが立っていた。


「たくっ、水臭ぇな……」


 廊下の壁にもたれかかるようにして腕を組んだ小さな彼女は、私が質問に答える前に正解を言い当ててきた。


「お前、黒き竜のダンジョンにいくつもりだろ?」

「ど、どうしてそれを……?」

「その無骨な格好と、その必死な顔見りゃ一発でわかるっつの」

「……」


 目的地が黒き竜のダンジョンだって知ってるってことは、パメラも混成部隊の一員で情報を共有してるってことか。

 うーん、これはまずいね。今、告げ口されたらダンジョンに到着する前に捕まってしまうかも。私のことはなんとしても黙っててもらわないとだった。


「パメラ! お願い、見逃して!!」

「あー、いいぜ。ただし条件がある。オレも一緒に連れてけ」

「……え? あ、いやでも、私の身勝手にパメラを巻きこむわけには……」

「何言ってやがんだ。今回のことはもうお前だけの問題じゃないだろ。あの化け物が黒き竜のダンジョンのラスボスっつうなら、あいつは最初からオレの獲物って話だ。新参のお前になんか横取りされて堪るかよ」

「別に横取りするつもりは、私はただ……」

「てか、こんなとこで言い争ってる暇もねーだろ。とにかくお前が断ろうが、オレは意地でもついてくからな。覚悟しとけ」

「パメラ……」


 何を言ってもあきらめてはくれなさそうだ。

 いや、正直心強いけど、何が起こるかわからない。申しわけない気持ちのほうがずっと上だった。


「わかったよ。でも、危ないと思ったらパメラは一人でも逃げてね」

「バカ、それはこっちのセリフだっつの。てか、お前はオレの心配より自分の心配をしてろ」

「んじゃ、私も危ないと思ったら逃げるからパメラもそうして。約束してくれないなら、私もここを動かない」

「……ちっ、わーったよ。ヤバかったらさっさと逃げる。おら、これでいいんだろ? さっさといこうぜ、相棒」

「うん!」


 お互いの折り合いがついたところで、私はまた回れ右をして走り出す。すぐにパメラが隣に追いついてきて、城門とは反対側だと注意してくれたけど、方向は間違ってなかった。


「なるほど、地下か」


 やがて、今朝連れてこられた例の牢獄に到着すると、パメラも私の魂胆を察したようだった。


「おっけー、誰もいないね」


 朝も私以外に幽閉されてる人はいなかった。そもそもお城にある牢屋だ。そう滅多に使われる場所じゃないのかも。見張り役の衛兵さんもいないので楽に侵入できた。

 ――キュイ~ン、キュイ~ン!

 すぐに作業に取りかかる。地図スコープの本体をスライドさせて現在位置を表示。方角を確認した上で、人が通れるサイズの通路を牢屋の北側の壁に作っていく。


「モグラクロー!」


 高さ一フィーメル×横幅一フィーメル×奥行き百二十五フィーメルのイメージで二発。上下に繋げて横穴を掘った。これで通路の行き止まりまで進めば地上相当で約五百フィーメル分、計算上では北に移動できたことになる。

 以降、地図スコープの情報圏外となったので、パメラにダンジョンまでの大よその距離を聞いて穴を伸ばしていった。


「いいぞ、エミカ。どんぴしゃだ」


 通路を六回ほど延長したところで、試しに地上に顔を出してみると、広がる荒野の先にそびえる赤黒い塔が見えた。

 外観はアリスバレーのとも、試練で入ったダンジョンのとも同じなので確証はない。それでも方向に狂いはないので、あれが黒き竜のダンジョンで間違いはなさそうだ。


「パメラ、いこう」

「いや、ちょっと待て……」


 穴から出ようとするとドレスを引っ張られて止められた。


「あれ見ろ」


 もうだいぶ日が西に傾いてるので、その顔までははっきりと見えない。それでもパメラが指差す方向に注目すると、ダンジョンの正面入口らしき場所に十名ほどの人影が確認できた。


「おそらく混成部隊の先陣だ。避けたほうがいい。裏に回るぞ」


 少し遠回りしながらダンジョンに近づく。元々人気がない場所なのかもしれない。裏口では冒険者の姿は見当たらない。

 そのまま私たちは塔の内部に進んだ。


「おし、ここまでくればあとはひたすら最終階層を目指すだけだ」

「パメラ、訊いていいかな? このダンジョンは地下百十一階層まであるんだよね?」

「ああ、試練で使った東の〝青き竜のダンジョン〟が地下三十三階層まで。南の〝赤き竜のダンジョン〟が地下六十六階層まで。西の〝白き竜のダンジョン〟が地下九十九階層まで。ここは王都四迷宮の中でも一番攻略難易度が高いダンジョンだ」

「最終階層まで下りるのに最低でもどのぐらいかかるの?」

「オレだけが知ってる秘密の転送部屋が数ヵ所ある。そこを使って休みなしでいけば、大体半日ってところだな」

「半日……」


 やっぱ正攻法では時間がかかりすぎてしまう。


「あんだよ、その不満げな顔は? もっと他にいい方法があるってのか? そんなもんあるわけ――あっ、まさかお前! その爪で深層まで穴掘るつもりか!?」

「いや、それは前に痛い目に遭ったから……」


 ダンジョンの外層を破壊して中に入る方法は、安全が100%保障されない限りやるつもりはない。パメラの力に頼って進むのも、暗黒土竜の力に頼って進むのも、今回はなし。なので、もう取るべき手段は一つだった。

 私はパメラの肩を両爪でがっちりつかむと、そのつぶらな瞳を見て言った。


「ねえパメラ、秘密にできる?」

「あ? いきなりなんだよ? お前が試練のときに吐いたことならまだ誰にも言ってないぞ」

「いや、そうじゃなくて! あ、いや……もちろんそれも秘密にしてほしいけど……」


 ゴホンと咳払いを一つ挟んでから、私は続けた。


「パメラには試練のときも、今朝捕まったときも助けてもらった。それに、さっきはシホルも……」

「気にすんなよ。ただ目の前に救える奴がいたから救っただけだ」

「でも、パメラのおかげだよ。感謝し切れないほど感謝してる。だからこそ、これ以上迷惑をかけたくないって気持ちもあって……。もしかしたらこの秘密を知っちゃったら、面倒なことになるかもしれなくて……」

「要領得ねーな。一つ訊くけどよ、お前がダンジョン攻略者になれた理由も、その秘密が関わってたりすんのか?」

「うん、まぁ……」

「そうか。なら、気にせずちゃっちゃとやれよ。もちろん、たとえそれがどんなことであっても墓場まで持ってってやっからよ」

「ほんとにいいの?」

「それがリリを助けるベストな手段なんだろ。この状況で迷う理由はねーよ」

「……」


 大丈夫。この目は信じられる。パメラの瞳には、力強い意志が感じられた。

 彼女を巻きこむ覚悟を決めて、私は胸元に忍ばせておいた物を取り出す。

 と、不意に第三者の声が響いたのは、そのときだった。


「2人とも、そこまでだ」


 振り返るとダンジョンの入口に、槍を構えた人生の恩人が立っていた。


「コ、コロナさん、どうしてここに!? それに、その格好……」

「ちっ、〝魔装〟と〝魔槍〟かよ……」


 漆黒の鎧に、漆黒の槍。

 コロナさんの全身は黒一色に包まれていて、さっき王座の間で話したときのいつもの神々しい様相からは明らかに雰囲気が異なっていた。


「これは陛下のご意思だ。二人とも直ちに城に戻れ。さもなくば力尽くで止めることになる」

「てめぇ、オレたちのあとをつけてきたのか!? けっ、相変わらずかくれんぼがお上手だな! おい、エミカ……」


 そこで急に声のトーンを落とすと、パメラはひそひそと私の耳元で言った。


「こいつの相手はオレがする。だから先にいけ」

「え、でも……」

「でもじゃねーだろ……いいか? オレが前に出たら、お前はダンジョンの奥まで一気に突っ走れ。そんでそのままさっき言ってた秘密とやらで最終階層を目指せ。オレもこいつを片づけたら、あとを追うからよ」


 直後、パメラは輝く光の大剣を出現させると、意表を突く形でコロナさんに飛びかかった。


「エミカ、私の話を――」

「よそ見してんじゃねー! お前の相手はオレだ!!」

「くっ、この馬鹿妹が! 毎度毎度、なぜ私の邪魔を!!」

「うるせー! 自分で考えもしねーで……何もかも人任せにしてるような奴にとやかく言われたくねーんだよ!!」

「パ、パメラ!? コロナさん!?」


 ぶつかり合う白い大剣と黒い槍。そのたびに、すさまじい爆音が轟く。

 これが対人戦。初めて見る、人と人の本気の争い。

 突如はじまった戦闘に、私は思わず足が竦んだ。


「あっ……」


 こんなの、一歩間違えたら――


「おい、こらエミカ! リリを助けんだろ!? ぼーっとしてねーでさっさといけっ! ぶん殴んぞ、てめぇー!!」

「――はっ!?」


 そうだ。

 そうだった。

 リリを、助けなきゃ……!


「ありがとう、パメラ!!」


 怒声に背中を押されて、私はそこでようやく走り出せた。そのまま、ダンジョンの奥へ奥へと突き進む。


「はぁはぁ……お願い、きて――サリエル!!」


 やがて地下へ続く階段の前にたどり着くと、私は握り締めていた羽根を放りながら、その天使の名を叫んだ。


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