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42.試練③


 ――ベチャッ。

 見蕩れちゃうぐらいに、攻撃を受けたパメラの対応は迅速だった。

 彼女はすぐさま右腕をぶんっと振り下ろし、力業でまとわりついたスライムを壁に払い飛ばすと、流れるような動きで太もものダガーを左手で抜く。


 ヒュン――

    ――グサッ!


 次の瞬間、投じられた刃の先端がスライムに突き刺さったかと思えば、茶色の粘液がジュワッと音を立てて蒸発をはじめる。どうやらその一投が、スライムの心臓部であるコアを撃ち抜いたみたい。

 瞬く間に粘液がすべて煙に変わると、壁には突き刺さったダガーだけが残った。


「お、お見事……」

「お見事じゃねー! 何勝手なことしてやがる!!」

「ひっ!? ご、ごめんなさい!!」


 ご立腹だった。パメラは壁に刺さったダガーを乱暴に引き抜くと、まだ怒りが収まらないのかこちらをジッと睨んでくる。


「ちっ……!」


 しかも、舌打ちつきで。ううっ、助けてもらってなんだけど、ここのモンスターよりずっと恐いよ……。

 でも、スライム相手になんでそこまで怒るのかな? てか、そもそもさっきのスライム、なんで私が攻撃する前に攻撃してきたんだ? モグラシュートで砕け散った岩の破片は当たってなかったはず。うーん、謎だ。


「ん?」


 そこで伏し目がちだった視線を上げると、パメラの様子がちょっとだけおかしいことに気づく。

 なんか、妙に右腕をだらっとさせてるような……? あ、そういえばさっき、壁からダガーを抜くのに左手を使ってた。利き腕は右のはずだ。もしかして、さっきの攻撃で……!?


「パメラ、腕見せて!」

「あ、おいバカ!」

「え?」


 スライムの酸で火傷したんだと思ったけど、違った。どこを見ても熱傷の痕はない。その代わりパメラの前腕には、ミミズがのたくったような不気味な文字がびっしりと書きこまれていた。


「ど、どうしたのこれ!?」

「ちっ、うるせーな。ただの〝呪術印〟だよ。これしきで騒ぐんじゃねーよ」

「呪術印……?」

「呪いを発動させる魔術印だ。そんでさっきお前がちょっかい出したモンスター、あれは〝ブラウンカース〟っていうスライムの亜種だ。対象の身体に密着することで呪術印を植えつけてくる上、普通のスライムと違って積極的に人間を襲う。場合によってはこのダンジョンで一番厄介な相手なんだ。大した知識もないくせに無闇に近づいてんじゃねーよ、このバカ」


 スライムの亜種で、しかも呪いをかけてくる? まさか、あれがそんなヤバい敵だったなんて知らなかった……。

 パメラに体当たりされてなかったら、きっと今頃は頭に呪いを受けてたはず。それを考えると心底ぞっとした。


「パメラ、ほんとごめん……私を助けたせいで!」

「もういいから放せって」

「ねえ、その呪い大丈夫なの……?」

「別に問題ねーよ。しばらく右手が使えないだけだ」

「しばらくってどのぐらい?」

「おそらく半日程度だな。まー、王都に帰れば呪解の当てもあるし」

「なら急いで地上に戻ろ! 私、転送石二つ持ってきたし!」

「いや、ここは転送石使えないぞ」

「え、マジ……?」

「ある意味ここは最古のダンジョンだからな。時空間魔術――いや魔法か……の転送装置も未実装なんだよ。まーダンジョンを創った〝神〟がどういうつもりでそうしたのか理由は誰も知らねーけどな」

「なら、私が穴を掘って地上までの出口を作るから!」

「は? 何言ってんだ、お前? てか、そもそもまだ戻らねーし。試練の途中だろ?」

「でも、その腕じゃ……」

「はっ、笑わすな。こんなんハンデにもならねーし、余裕だ。おら、さっさといくぞ」

「あ、ちょっと待っててば!」


 私の制止を聞かず、パメラはひょうひょうと歩き出す。

 いや、いくら強いからって利き腕が使えない状態で進むとか無謀だよ。危険すぎる。ここは年長者の立場としても絶対に止めなきゃだ!


「爆ぜろ!」


 だけど、そんな私の決意すらも打ち砕くように、パメラは二十階層以降も変わらぬ暴れっぷりでモンスターを殲滅していった。


「ほらな、余裕だったろ?」

「……」


 そして今、私たちの眼前には地下三十三階層へ続く階段がある。

 そこに至ってようやく、私が心配する必要なんて微塵もなかったんだと思い知らされた。痩せ我慢でも、意地になってたのでもなく、パメラは正確な見立てで最終階層まで踏破できると確信していたのだ。

 なるほど。これが竜殺しの二つ名を持つ、超上級冒険者の力ですか……。

 うん、もうなんも言えないね。


「おい、何ボケっとしてんだ」

「別にボケっとはしてないよ……。ただ、自分の弱さを再認識してただけで、ぐすっ……」

「なんだよそれ? あ、もしかして呪いのことまだ気にしてんのか? こうして問題なく着いたんだからもういいだろ。まー、なんだ……さっきはオレもちょっと言い過ぎたところはあったかもだしよ……もうそんな気にすんなよ、な?」

「パ、パメラ……」


 おお、なんか励ましてくれてる。足を引っ張ったのは私で、完全に非はこっちにあるのに。てか、口は悪いけど、ちゃんと気遣いできる優しい子なんだね。ヤバい、なんだろ。そのギャップがマジでかわいい。


「よしよし~♪」

「……おい、これは一体なんのマネだ?」

「あ、ごめん。同じぐらいの妹がいるから、つい。えへへ」

「えへへ、じゃねー!」


 無性に愛らしくなってその小さな頭をなでなでしてたら、思いっきりバチンッと手を払われてしまった。

 橙色の綺麗な髪はツヤツヤで触り心地は最高だったけど、パメラは子ども扱いされたことがお気に召さなかったみたい。残念。


「てか、妹って、やっぱお前もオレのこと年下に……」

「ん、何?」

「いや、やっぱいい……。とにかく今は試練を終わらせるのが先だ。いくぞ」


 そして、いよいよ最終階層へ。

 先を進むパメラの後ろについていく形で階段を下りる。その先は通路になっていて、一本道の終わりには大きな鉄の扉があった。


 ――ギギ、ギギギッ。


 私たちが近づくと、分厚い鉄扉は錆びついた音を立てて開いた。入場の許可をもらえたと判断してそのまま進む。

 扉の先には半球状の空間が広がってた。


「うわー、広いね」

「……」


 かなりのスペースだった。こないだ造った地下道路の中心部ぐらいはあるかも。あと今までの迷宮構造が嘘のように天井もすごい高さだった。


「あれがゴールだな」


 パメラが指差す方向には入口と同じ鉄扉があった。どうやらあそこを潜った先が青き竜のダンジョンの最奥みたい。


「覇者の証が保管されている祭壇もそこにある」


 そう言って先行するパメラの後ろについて歩いてると、背後からまたギギギッと錆びついた音が鳴る。

 振り返ると、ちょうど入口の扉が閉まるところだった。

 うっ、なんか嫌な予感がする……。

 そういう直感ほどよく当たるものらしい。次の瞬間、最奥に続く扉の前の地面が赤く光ったと思えば、そこに大きな魔法陣が浮かび上がった。


「パメラ、あれって……」

「大方、試練用にギルドがしかけたんだろ。オレが片づける。お前は後ろに下がっとけ」


 ――ボコ、ボコボコ!

 陣の中心ではもう土が隆起しはじめていた。

 やがてそれは私の身長の倍ほどの塊になると、腕を伸ばし、足を生やし、人型を形成していく。そして、最後に頭ができた直後だった。乾いた粘土のように表面の土がすべて剥がれ落ちると、内部からは七色に輝く魅惑的な光が溢れ出した。


「うわぁ……」


 思わず、その煌めきに息を呑む。魔法陣の中心に現れたのは、全身から光彩を放つモンスターだった。


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