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39.話が違うよ!?


「〝竜殺し〟のパメラだ……」


 円卓に座るお歴々の一人がそう呟いた。


 ――竜殺しのパメラ。


 物騒な二つ名が気になるけど、それが女の子の名前らしい。彼女は円卓を軽々飛び越えると、まっすぐこちらに向かってきた。状況はさっぱりだけど、左隣では名指しされたベルファストさんが頭を抱えちゃってる。とにかく不測の事態だってのは間違いなさそうだった。


「オレを差し置いてどういうつもりだ! 説明しやがれ、このクソ会長!!」

「……」


 口汚く罵ったはずみに、切り揃えられた橙色の髪が揺れる。目を奪われるその格好は、胸だけを覆った黒革の鎧に、股下ギリギリのショートパンツ。

 盗賊職の女の人がするような、かなり露出度高めの服装だ。

 おヘソだって丸見えだし、そんな格好をシホルぐらいの歳の子がしてるもんだから、私は姉心を刺激されて思わず心配になった。

 無闇に女の子がおなかとか出すもんじゃないよ。それと、そんな薄着だと風邪も引いちゃう。


「てか、てめぇもてめーだよ! おいっ、聞いてんのか!?」

「……え、私?」


 ベルファストさんが頭を抱えたまま無言を貫いてるせいか、なんか矛先がこっちに向いたっぽい。

 てか、まだ状況が呑みこめないよ。そもそも誰なの、この子……?


「エミカちゃん、この子は王都のギルドに所属する冒険者よ。こんな見た目だけど白銀級(プラチナクラス)の超凄腕だから、気をつけて……」


 困惑してると、アンナさんが耳元でヒソヒソと教えてくれた。

 いや、白銀級(プラチナクラス)って……どう見ても小さな女の子ですよ? あ、でもそういえば会議がはじまる前、お歴々がなんか噂してたっけ。それってもしかして、この子のことだったのかな?


「パメラ、話ならあとにしろ……今はとりあえずこの場から出ていけ!」


 さすがにもう無視できないと思ったのか、ベルファストさんが苦虫を噛み潰したような顔を上げて命じる。

 それでも、パメラっていう女の子は一歩も引かなかった。


「けっ、やなこった。オレが認められる前に、あとからきたこいつを先に認めるなんて許さねー」

「エミカはダンジョン攻略者としての正式な証拠がある。それに比べ、お前の件は完全にイレギュラーだ。調査も含めて審議には時間がかかると散々説明したはずだ」

「あれからどんだけ待ってると思ってんだ。こっちからいくら催促しても現在調査中ですとしか言わねーし! そもそもどうやって調査するつもりなんだ? オレ以外に〝黒き竜のダンジョン〟の最終階層にたどり着ける冒険者なんて王都にいないだろうが!!」

「……そんなことはない。現在、王都以外の冒険者ギルドからも人員を集めている最中だ。調査隊は高ランク冒険者のみで構成された百名規模のパーティーになる。それだけの戦力を集結させるのに時間がかかることぐらい、お前だってわかっているだろう」

「それなら訊くけどよー、今百人中何人集まったんだ? 六十か、七十か?」

「そ、それは、だな……」


 これまで流暢に話してたベルファストさんが初めて言いよどんだ。表情も引き攣ってるし、どうやら痛いところを突かれたっぽい。


「ほらみろ、やっぱ調査する気なんてないだろ。最初からうやむやにするつもりだったんだ」

「パメラ、俺の話を聞け」

「もういい、あんたなんかに頼らない! おい、そこのお前!!」

「え、また私っ!?」


 矛先がまたこっちに向いてきた。


「アリスバレー・ダンジョンの最終階層は何階だった?」

「……な、なんでそんなこと聞くの?」

「いいからさっさと答えろ!!」

「ひっ!」


 ううっ、この子さっきからすごい剣幕だ。お姉ちゃんは怖いよ。


「えっと、九十九階だったと思うけど」

「はん、それっぽっちか! オレは地下百十一階層まで潜ったぞ、オレの勝ちだな!!」

「……」


 うーん、と。

 ベルファストさんとの会話を聞くかぎり、この子もとあるダンジョンの最下層までいって攻略者になったって感じなのかな?

 でも、何か問題があってもめてると。そういう解釈ならこの状況も腑に落ちるね。私には関係ない話だけどさ。


「いい加減にしろ、パメラ。それ以上審査の妨害をするなら強制的に排除するぞ!」

「けっ、やれるもんならやってみろよ! 黒覇者(レジェンド)と認められるまでオレは絶対この場を動かないからな!!」


 ベルファストさんとパメラ。睨み合う両者。周囲は急速に、剣呑な空気で満ちていく。


「手加減はできんぞ……」

「はっ、ご託はいいっての。さっさとかかってこいよ、クソ会長」


 あ、なんかほんとにヤバそう。

 この二人がどれだけ強いのかは知らないけど、本能がこの場にいたら危険だと警鐘を鳴らしてるよ。円卓では、なんか大多数のお歴々も早々に席を立って避難しはじめてるし。まずい、私も早くここから離脱しないと逃げ遅れちゃう……!

 焦りの中、そう思い席を立った瞬間だった。


「――皆の者、どうか騒がずに。少し落ち着いてくれんか」


 円卓の反対側の席にいた、ゆで卵みたいな頭をした小さなおじいちゃんが、おもむろに立ち上がった。


「神聖なる会議場での暴力沙汰はご遠慮願いたい」


 彼は場を静めると、睨み合う二人に向かって呼びかけた。


「キリル大臣……これはとんだ無礼を」

「あ、てめぇ逃げんのか!? この腰抜け野郎っ!」


 大人しく身を引いて着席するベルファストさん。パメラが再度挑発するけど、ベルファストさんはもうこれ以上相手にしないと決めたようだ。完全にそっぽを向いてる。


「お嬢ちゃん、あなたもどうか落ち着いてくれんか」

「ちっ……!」


 態度は直さなかったけど、パメラもパメラで矛先を向ける相手を失って静かになった。

 てか、場の治まり方を見るかぎりこのキリルっていう小柄なおじいちゃん、かなりの発言権を持ってそうだ。円卓に座るお歴々の中でも一番年齢が上みたいだし、ベルファストさんに大臣とも呼ばれてた。どうやら相当偉い立場にある人っぽい。


「聞いてくれ、皆の者」


 キリル大臣は注目を集める最中、続ける。


「わしから提案がある。今回はそこのキングモール氏の認定について是非を問う会議ではあったが、実力を証明するという点では些か問題があったようにも思う」

「キリル大臣、しかしそれは……」

「ベルファスト会長、この老いぼれの提案をどうか最後まで聞いてほしい。わしもキングモール氏の認定に反対という立場ではない。だが、やはり冒険者の実力はダンジョンに関わることで証明するのが一つの筋だと考える。この点を補うため、キングモール氏には()()を受けてもらおうと思うのじゃが、いかがだろう」


 試練? え、ってことは私まだ帰れないの?

 そんな……話が違うよ!?


「そして、次にそっちのお嬢ちゃんの件だが、黒覇者(レジェンド)として相応しい実力を持っているのは、王都の人間であるならば誰もが知るところだろう。不運にも、最終階層でボスには()()()()()()()そうだが」

「出会えなかったんじゃない! どこにもいなかったんだっての!!」

「ほっほっほ、そうだったの。訂正しよう」


 飛び跳ねて憤慨するパメラに、キリル大臣は優しくほほ笑みかける。

 なるほど、最終階層にたどり着いても、あの鎧の巨人みたいな守護者(ガーディアン)がいなかったってことか。

 これでもめてる原因がわかったね。ま、今大事なのは、絶対にそこじゃないけど……。


「これはわし個人の考えではあるが、認定は両者共に認める方向で良いのではないかな。皆も同意してくれるのならば、その旨わしから女王陛下に進言しよう。ただキングモール氏にも、そちらのお嬢さんにも満場一致には届かない不足の理由がある。よってそれを補うため、二人には試練を乗り越えてもらう。何、心配せんでもそんな難しいものではない。あくまで形式的なものだ」


 そのままキリル大臣は大仰に両手を広げると、高らかに宣言した。


「場所は〝青き竜のダンジョン〟――初代国王ハインケルが人類最初の攻略者となった冒険者の聖地にて執り行う」


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