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32.禁魔法<Lv.2>


 初日の夜は広めの浴場で身を清めたあと、豪勢な宮廷料理を食べて就寝となった。

 浴場はアリスバレーの温泉に比べれば小さかったし、料理は一品一品の量が少なくてあまり食べた気がしなかったけど、やっぱ大事な客人として見られてるみたい。総じて至れり尽くせりの待遇だった。

 ただ、認定会議前だから先送りになってるみたいで、初日に王族の人と会う機会はなかった。会議が終わって黒覇者(レジェンド)として認められれば、正式に拝謁の機会が用意されるそうなんだけど、私のような庶民が何を話せばいいのやら。その状況を想像しただけでも胃がやられ、緊張でガチガチになっちゃう。

 それでも、いつまで経ってもアリスバレーに帰れないのも困る。モグラの湯だってアラクネ会長に頼んで任せっ放しだし、できるだけ早く帰らなきゃだった。

 そんなわけで次の日の早朝、一晩かけて腹を括った私は出発の準備を整えていた。


「おねーちゃん、どこいくの……?」


 不思議そうに首を傾げるリリに訊かれ、外出するから今日も別行動になることを伝えると、わたしもついていくと駄々をこねられてしまった。シホルがあいだに入って取り成してくれたのでなんとかなったけど、これは先が思いやられるかも。リリが拗ねないよう一緒にいられる時間は最大限一緒にいてあげないとだ。


「んじゃ、行ってくるね」


 二人の妹に見送られる形で貴賓室を出ると、メイドのティシャさんが通路で待っていてくれた。昨日の晩「どこかに広い空き地はないですか?」と私が訊くと、彼女は近くに大きな公園があることを教えてくれた上で案内までする約束をしてくれた。


「おはようございます。エミカ様」

「ティシャさん、おはよーです」


 挨拶を返すと、ラッセル団長からはすでに外出の許可をもらってるとのことだったので、そのまま私たちは城を出て目的地に向かった。

 案内された公園は昨日足を運んだギルドからも近く、木々が生い茂る自然豊かな場所だった。早朝のためか人影はほとんどない。耳を澄まして聞こえてくるのは鳥のさえずり。息を吸えば、さわやかな空気を感じる。


「んー、一番目立たない場所は……」

「それならば、あの辺りがよろしいのではないでしょうか」


 ティシャさんが助言してくれたので勧められたとおり、公園の隅にある日陰へ向かう。たしかに群生した木々で死角になってる上、広さも十分だった。ここなら大きな穴を掘っても問題はなさそう。


「さて、やりますか」


 まず今日一にやることは、モグラの爪の再調査。昨日ギルドの受付で色々と調べてもらった結果、一点だけとても気になる変化があったのだ。

 禁魔法(ドグラ・モグラ)<Lv.2>――

 例の、謎のスキルのレベルが上がってた。最初にユイに調べてもらった時は、たしかに<Lv.1>だったはず。上昇した理由は不明だけど……あ、もしかして、あの黒鎧の巨人を倒したから? いや、でも倒したの私じゃないし。

 ま、わからないことは考えてもしかたがない。割り切って、ささっと調査をはじめることにする。


「えいっ」


 久し振りにモグラの爪で穴を掘る。

 発動するモグラクロー。ボコッ、という音とともに地面に四角い窪みができると、ティシャさんが息を呑むように小さく驚きの声をあげた。


「っ!? い、今のは……土の魔術で穴を開けたのですか?」

「え? あ~……、まーそんなところです!」


 モグラの爪のことを説明するのは難しいので――というか、そもそも説明できないので適当に話を合わせておいた。


「んじゃ、ちょっくら地下まで行ってきますね」


 私はそう告げて、階段掘りで地下に続く穴を掘っていく。地図スコープのライトで照らしながらモグラクロー三発分の深さまで下りたところで、深さは十分と判断。とりあえず掘る能力に変化がないかを見極めるため、細い通路を掘り進めていく。


「あ、そうだ。先に動作確認しておこう」


 横穴を掘る中、スコープ本体をスライドさせる。地下道を進むあいだ、視界の中の地図も、右から左へゆっくりと流れた。


「よし、地下でも動くね」


 使用に問題がないことを確認してからスコープを上げる。そのあと十フィーメルほどまで横穴を伸ばしたところで、私は一旦地上に戻った。


「むー……」


 ちょっと掘ってみたけど、特に今までと変わった点はなかった。

 もしかしてこのスキル、レベルが上がっても意味ないとか?


「ん、あれ?」


 調査の結果に渋い顔をしてると、そこでティシャさんの姿がどこにも見当たらないことに気づく。しばし周囲を見渡しながら掘ってきた方向に戻ると、木々が生い茂った先にようやくティシャさんの姿を見つけた。

 それにしても、なんでこんな場所に?

 と、一瞬疑問に思うも、すぐに地上に穴を掘ると距離が短縮される例の法則を思い出した。

 たしか、モグラ屋の時は地上だと百歩でいけるところが、地下だと五十歩ぐらいになったんだっけ?

 でも、今歩いてきた距離、明らかに掘った距離の倍以上はあった気がする。気になったので再び穴に入り、行きで地下の距離を、帰りで地上の距離を、それぞれ歩数で計測。比べると、四倍ほどの差が生じていた。

 地上で百歩の距離が、地下だと約二十五歩でいけてしまう計算になる。十中八九レベルが上がった影響だと思うけど、確証はない。ただ、これは今度の計画にとってかなりの好材料だ。とりあえず今は手放しで喜んでおくことにしよう。


「よーし!」


 幸先よく能力の変化に気づけたことでやる気もアップ。意気揚々さらなる検証を進めようと、新しい穴を掘りにかかる。


「あの、エミカ様」


 だけど、そこで突然ティシャさんに声をかけられ、私は振り下ろそうとしてた爪を止めた。


「こちらの穴は、このままにしておくのですか?」

「あっ」


 指摘を受けて、そこで初めてモグラの爪の重大な欠点に気づく。

 掘った穴を塞ぐ手段が、ない……。


「………………」


 思わず無言になる。本格的な計画の前段階に必要だとしても、公園を穴だらけにするのはさすがにまずい気がした。

 うー、これは困ったぞ。

 スコップで掘ったなら掘った土を戻せばいいだけの話だけど、モグラの爪で掘ると土は綺麗さっぱり消えてしまう。

 ただ、掘った瞬間、モグラの爪が吸収(?)してるような妙な感覚もあったりする。それを考えると、食べた物を吐き出すように吸収した土を放出することもできたりして……?

 今まで考えたこともなかったけど、思いついたのでダメ元だった。試しに片手を前に突き出しつつ、「掘った土よ、出ろぉ~!」と強く念じてみる。

 すると――


「あ、できた!?」


 不意に爪の先に〝巨大な四角い塊〟が現れたかと思えば、それは形を保ったまま、ひゅんっと地面に落ちていった。

 ――ベッシャーン!

 直後、土のブロックは落下の衝撃で崩れ、足元で土の山と化した。


「おー、すごい!」


 こんなこともできたんだ。いや、それともレベルが上がったからできるようになったのかな?

 さらに調査を続行。先ほど掘った地下道に再び入って、今度はそっと足元に置くイメージで土のブロックを出してみる。

 すると、今度は落下して崩れることなく、完全に形を保ったままで床面に出現した。

 試しにモグラモドキブーツの爪先で蹴ってみたけど、ビクともしない。どうやらモグラの爪で掘ったときと同様、表面の時間が止まってるっぽいね。一段多く間違って掘り下げちゃったりしたときとかは、これで簡単に修正できそうだ。

 それにしても、吸収した物を放出する力か……。

 よし、この能力は〝モグラリリース〟と名づけよう!


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