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234.帰港


 スカーレットのお兄さんたちから事情を聞いてすぐに私たちは監獄のある六角形の棟に戻った。

 だけど、そこはすでにもぬけの殻。

 あれだけいた囚人の姿はどこにもない。まるでメッセージのように残された巨大な魔法陣が残酷にも手遅れだってことを告げてた。


「私たち、選択を間違えたのかな……」

「バカ言うな。これ以上の最善なんてなかった。オレたちはやれることをやったんだ。だからこそ、こうしてまだ諦めないでいられるんだろ」

「え?」

「私もパメラと同じ意見だ。移送先がわかっているのなら追えば済むこと。諦めるにはまだ早過ぎる。だからここからは私もともに戦わせてくれ、エミカ」

「二人とも……」


 悠長に落ちこんでる暇なんてなかった。

 そうだよ。

 パメラとコロナさんの言うとおりだ。

 スカーレットの一番上のお兄さんが奴らに連れて行かれたのなら取り戻せばいいだけの話。これで終わらなかったけど、もちろんこれで終わりにもできない。私たちにやれることはまだある。


「よし、急ごう!」


 私たち五人は地下から監獄を脱出すると、島の南側で約束したとおり待機してくれてた船に戻った。


「お姉ちゃんたち、おかえり!」

「何やら行きよりだいぶ増えておるな」

「ギクッ! い、いや、これはその……」

「まあ、気のせいということにしておく。それよりも無事に戻って来て何よりだ、娘っ子たちよ」

「……お爺ちゃんたちこそ、待っててくれてありがと。あの、でも私たち……これからまた急いで旧都に戻らないといけなくて」

「ああ、もう皆まで言わんでいい。なんであれ孫の命の恩人の願いを聞かんわけにもいかんしな。ごほん、全乗員に告ぐ。これより直ちに帰港するぞい! 面舵一杯、全速前進!」

「「「了解(ヨーソロー)っ!!」」」


 そもそも私たちのちゃんとした正体すら話してない。気になることだらけというか気になることしかなかったと思う。

 それでも、漁師のお爺ちゃんは何一つ疑問を投げかけることなく号令を出してくれた。


「やれやれ、まさかこんな日が来るとは。いつだって人生とはわからないものですね。しかし、兄は無事でしょうか」

「奴らに逆らわないかぎりはな。だが、戦闘に巻きこまれた時点で命の保証はなくなる」

「そ、そんな、それじゃ兄さんはっ!?」

「慌てんなよ。そうなる前に助けりゃいいんだ。だからそのために今のうちある程度のプランは練っておきたい」


 船が出発して旧都に戻るまでのあいだ、移動時間を活用して私たちはパメラを中心にこの先のことを話し合った。


「まずあんたら兄弟は安全な場所で待機な。これは譲れない。せっかく助けた兄貴二人を連れ回した結果、死なせちまったってことになりでもしたらスカーレットに会わせる顏がなくなる」

「ふむ、大の男としてレディーにすべてを委ねるのは情けないかぎりですが、確かに我々がついて行っても足手纏いにしかなり得ませんね。私自身、恥ずかしながら先ほどもずっと腰を抜かしているだけでしたしね。臆病者と罵られようと異論はありません」

「そっちのスカーレット似の兄ちゃんのほうはどうだ?」

「僕は……、できることがあるなら力になりたい。でも正直、できることはないと思う。本当に悔しいけど、このあとのことはすべて皆さんに……どうか、うちの兄をよろしくお願いします!」

「よし、これでメンバーは決まりだな。次はルートに関してだが、エミカ、地下から旧都の城内に侵入できるか?」

「んー、できなくはないけど水に囲まれてるから慎重に掘らないとだよ。あとあの城、広いからどこに何があるかわかったものじゃないし、地上や地下の空間に出た途端クマぐるみたちに出くわしたりしないかがちょっと心配かな」

「なら、まずは先に唯一の入口である橋を確認後、正面突破も視野に入れて臨機応変にってのがベストか。最悪のケースとも言えるが、もしかすると到着した頃にはすでに道が開けてる可能性すらあるしな……」

「パメラ、私からも一ついいか。敵について知り得るかぎりすべての情報の共有を頼みたい」

「あー、もうプリンとジギーに話したからお前にも伝えたもんだとばかり……。それもやんなきゃだな。ま、船が港に戻るまで時間はある。じっくりやろうぜ」


 それから連中のことや、今後の想定し得る事態に備えていろいろ話してるとあっという間に時間は過ぎていった。

 島のほうではやんでた雨も南下するにつれてまたぱらぱらと小雨が降り出して、陸が見えてくる頃にはまた天候も悪化。そんな中でも乗組員さんたちは巧みに船を操って、私たちを全員無事に港まで送り届けてくれた。


「あれ、なんか人が……」

「なんの騒ぎだ?」

「どれ、訊いて来よう」


 だけど港に戻ると、ほぼ無人だった出発前と違ってたくさんの人が集まってた。

 しとしと降る雨の中、みんな深刻な面持ちで不安そうに肩を寄せ合ってる。顏の利く漁師のお爺ちゃんが事情を聞いてくれたおかげでその理由はすぐにわかった。


「今、街の中には近づかんほうがいいそうだ。クマ人形どもが()()()()()()()()()と戦ってるらしい」

「それって……」

「やっぱり、もう来てんだな……」

「二人とも急ごう。このままでは本当に手遅れになってしまう」


 もう残された時間は少ない。船の上で決めたとおりに私たちはさっそく行動をはじめた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何か途轍もないもの 手遅れの原因 導火線を走る火 死神の足音 色々言い方はあるけど… それ、味方ですw もうアニキ問題が片付けば、パープルさんが超覚醒して出てこない限り逆転の目が無さす…
[一言] 手遅れ(味方側最強戦力による殲滅) なかなかこんな心配することないですよ
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