233.足りない一人
今回も短め。
プロットの関係上、しばしプチプチ投稿が続く感じになりそうです。
真っ黒な瞳のお姉さんがいなくなってすぐ、駆け寄ってきたコロナさんと再会を果たした私はその場に座りこんでしまった。
糸が切れたみたいに全身に力が入らない。これが悪夢を見せられた後遺症。今さらになってすさまじい疲労の蓄積がのしかかってきた。
「待ってろ。すぐ祝福をかけてやる。おい、ついでにお前はこれでも使っとけ。ほらよ、治癒のスクロ」
「……済まない。多大な迷惑をかけた」
「けっ、簡単に捕まってんじゃねぇよ。これも含めて何もかも貸しだかんなっ」
「ああ、大きな貸しだ。だが必ず返そう」
補助魔術をかけられて私が平静を取り戻していく中、コロナさんも受け取ったスクロールで自らの傷を癒していく。
パメラは口ではなんかツンツンしてたけど、声の調子からほんとに怒ってるわけじゃなさそうだった。
どっちかと言えば照れ隠し?
いや、そりゃそうだよね。
実のお姉さんが生きてて嬉しくないはずないもの。
「ありがと、パメラ。私ももう大丈夫だから」
「本当か……? あのえぐい天賦技能をくらったんだ。無理すんなよ」
「うん。でも冷静になればさ、シホルが私のお姉ちゃんになるわけないし」
「は? シホルがなんだって?」
「ま、たしかにシホルはさ、料理の腕もプロ級で人当たりがよくてがんばり屋さんでどんなこともそつなくこなすしほんとこんなできた妹がいていいのかってレベルで困っちゃうぐらいにしっかりしてるけど、お姉ちゃん過ぎてもはやお姉ちゃんを超越してるんじゃないかといっても過言じゃない〝超お姉ちゃん〟である私に比べたらねぇ、比べたら……、比べたら? あ、あれ……? 実際のところけっこうリアルに危うい?」
「知らねぇよ。てか、どんな悪夢見せられてたんだ……。念のためもう一発いっとくぞ」
「はわぁ~♪」
直後、大丈夫じゃないと判断されての追い祝福が。さらなる精神力の向上を受けた私はようやく立ち上がれるほどに回復した。
「あ、あの……」
「ん?」
「そろそろ私たち兄弟も輪に加わっても?」
「えっ」
普通にびっくりした。いつの間にか囚人服の男の人が二人、コロナさんの両隣に立ってた。
この人たちいつからいたの? まったく気づかなかったよ。
一人は長身。かけてる眼鏡の印象もあって知的そう。もう一人は小柄。童顔で優しげな顔立ち。
「あっ!」
びびっと直感したのは後者の男の人の面影。
そして、その薄紫の髪からだった。
「済まない。紹介するのが遅れた。話せば長くなるがこの二人は――」
「もしかしてスカーレットのお兄さんたちですか?」
「えっ!?」
「妹の名を、なぜ君が……?」
その名前を出すと、二人は驚きの表情を浮かべた。当たり前だけど想像すらしてなかったみたい。
スカーレットとは友達で、旧都での騒動にお兄さんたちが巻きこまれてないか安否確認を頼まれたことを伝えると、お兄さんたちはさらに目を丸くした。
「まさかスカーレットのお兄さんたちが監獄でコロナさんを助けようとしてくれてたなんて思いもしなかったです。でも、よかった。ほんとによかった。これでみんな無事に帰れ――」
帰れる。
その言葉を言い切ろうとした間際だった。
私はようやく見落としに気づく。
指摘は隣のパメラからもすぐにあった。
「一人、足りねぇな」
「…………」
まだ解決しない。
これで終わりじゃない。
安堵から一転、沸き上がる嫌な予感。
「仰るとおり僕らにはアロンという長兄がいます」
「兄は時間を稼ぐため領主様のもとに向かいました。今も行動を共にしているはずです」
慌ただしく移送を進める様子。囚人棟で見たあの光景を思い出して私は思わずパメラと顔を見合わせた。