番外編:緊急会合
ワクチンやら副反応やら歯医者やらで立て込んで遅れました。
次はもうちょい早く投稿したいところ……。
アリスバレー、某所――
整然と机と椅子が並ぶ大部屋。
従者たちによる日頃の奉仕の賜物か。掃除はしっかり行き届いており埃一つ積もっておらず、広い室内は雨上がりの朝のような澄んだ空気で満ちていた。
「全員そろったな。では、はじめるとしよう」
「「「………………」」」
しかし、そんな清潔に保たれた部屋の一画に集まった者たちの顔色は皆一様に冴えず、深刻の色を濃くしていた。
その理由は、一つ――
「諸君。まずは多忙の中、招集に応じてくれたこと感謝する」
予定の時刻になり未来への不穏を孕んだ空気が一気に高まる中、リーダー格とも呼べるその男が緊急会合の開幕を告げた。
今回の議題はもちろんのこと、その理由。彼らの存在意義を奪い兼ねない脅威についてである。
「内容が内容だ。奴らの耳にも届く可能性を考慮したい。例のアレは厳守で頼む」
「了解したよ、ブラッド。それで?」
「こうしてわざわざ全員を集めたんだ。もちろん秘策あってのことなんだよなぁ?」
「奴ら、最近ますます幅を利かせてきてるしー。もちろん元々の幅もあるけどね、うぷぷっ!」
「まったく笑えぬぞ、レモン」
「えー、心外ー。てか、レイブンのつまんないブラックジョークより百万倍マシだしー」
「みんな勝手に喋らないの。ブラッドの話をきちんと聞きましょう」
メンバーがざわつく中、紅一点のフェミニンが注意を促す。そんな彼女の助け船もあって、会合を仕切るブラッドはいくらかの間を置くことができた。
全員の顔を静かに見渡し完全に場が静まったのを確認すると、やがて彼は肝心の本題を切り出した。
「こうして諸君に集まってもらったのは当然、今そこにある危機についてだ。我々が奴らに打ち勝つにはどうすべきか。今日こそは是非とも全員で確かな回答を導きたい」
「導くも何も……現状、自分らにやれることなんて限られてるよ。だからこそ前回も前々回も結局ああいう答えで落ち着いたんじゃないか」
「スカイの言うとおりだ。これ以上、進展のない話し合いなんてまっぴらごめんだぜ。今回もリピート上演なら俺はもう席を外させてもらうが、構わないよな? リーダー気取りのブラッドさんよー」
「あー、ズルい! リーフが参加しないなら僕も僕もー! 二ぃ~抜けたー!」
「お主ら。少し落ち着かぬか」
「そうよ、まだ話し合いすらはじまっていないうちに……二人とも、席に戻りなさい!」
「チッ……」
「ちぇー……」
早々に席を立とうとするメンバーを制して、会合はなんとか続行が決まったものの場の雰囲気は過去最悪といえるほどに重かった。
それもそうである。
現状、その脅威に対する解決法など存在しないのだ。
それは皆が皆、頭の中では理解していた。
だからこそ、この会合もまた無意味。話し合うだけ時間の無駄。自分たちは所詮いつかは捨てられ、お払い箱になる身。すでにそんな諦めムードすら漂う中、打開策など出るはずもなく。
「なんであろうと今、我々にできることは君主様に報いる以外にない」
「また同じ答えに至ったね」
「だから言ったろ! 俺たちがいくら考えたって無駄なんだっつーの!」
「ふわぁ~。僕、眠くなってきちゃったよ」
「結局のところ、ここらが拙者たちの限界なのかもしれん……」
「私、悔しいわ。君主様に先に出会ったのは、私たちなのに……」
古株である自分たちよりも遥かに活躍している新参たち。その実力もあり、最近では君主様も奴らに全幅の信頼を置いている。
偉大なる君主様の膝元。
ほんの少し前までは、その場所は自分たちだけのものだった。
「「「………………」」」
――ガタッ。
メンバーの誰もが口を噤む中だった。そこでリーダー格のブラッドは何を思ったのかおもむろに席を立った。
そのまま彼は、大部屋にあるもう一つの出口に向かい歩き出す。
「……ブラッド?」
「おい、どこ行きやがる! これはお前がやるっつった会合だろ!?」
「済まない。諸君にはまだ伝えていなかった。実は今回の会合、スペシャルなゲストを呼んでおいたのだ」
「スペシャルな?」
「ゲストー?」
「ああ。ちょうど今、いらっしゃったようだ」
もう一つの出口に近づき、手を伸ばすブラッド。
次の瞬間、スライド式の扉の向こうから姿を現したのは純然たる魂の持ち主だった。
「ふむ。どうやら予定の時刻より少し遅れてしまったようだな」
「「「あ、あなたはっ――!?」」」
「我も多忙の身でな、謝罪する」
「いいえ。お越しいただき感謝申し上げます、マーブリング卿」
マーブリング卿が席に着くと、全員に身の竦むような緊張が走った。彼もまたブラッドたちに比べれば新参側。しかし、その君主に対する熱い想い、揺るぎない忠誠心には誰もが感服する以外なかった。
一度、マーブリング卿がその信仰を説けば、耳を、心を奪われない者などいないだろう。
彼は最古参であるブラッドたちからでさえも一目置かれている、そんな存在だった。
「――というわけでして、お恥ずかしながら自信を失っております。果たして我々は君主様のためにも、このままでいいのかどうか……」
「そうか。貴殿らもあの方にお仕えする中で大変な思いをしているのだな」
ブラッドが今回の会合に呼んだ事情を説明すると、マーブリング卿はしばし天井を仰ぎ見た。考えを巡らせるそのつぶらな瞳には、清廉なる者だけに宿る光が満ちている。
「貴殿らよ」
やがて彼は意を決し、その情念を力強く言霊として解き放った。
「否、ここにいる同志たちよ!」
「「「………………」」」
「我から助言できることはただ一つ! 汝ら揺らぐことなかれっ!!」
「「「……っ!?」」」
「同志らの信念は生まれ出し頃より曲がらず腐らず消えず、今もなお燦然と輝き続けている! まさしく同志たちこそあの方の筆頭臣下である! 我が断言しよう、その美しく気高い忠義は何があろうと永久に失われることはないと!!」
「しかし、マーブリング卿……我々は奴らのように有能ではないのです!」
「力も劣ってるし、君主様が自分たちを見限るのだって無理もないよねって、実のところ納得もしてるんだ……」
「無能で無力か。なるほど、同志らが自らをそう評価しているならばそれは正しい評価なのかもしれぬ。だが、それがどうした!?」
「「なっ!?」」
「能力があろうがなかろうが、同志らのあの方への想いと忠義は何一つとして変わらぬ!」
「そんなもんはただの精神論だぜ、マーブリング卿……。実際、今の俺たちが君主様のなんの役に立つってんだ? 使えない駒は存在しないのも一緒なんだよ!」
「使えない駒であろうと結構! ならば捨て駒となれっ!!」
「ぼ、僕だって……君主様の役に立てないのは正直つらいし……。でも、しかたないじゃないか。これも時代の流れなんだ!」
「流れる時代など勝手に流しておけ! 同志らが生きているのは今という今日! 明日という未来のことなど考えるなっ!!」
「拙者らは一体、何を信じれば……」
「言うまでもないことだ。だが、あえて言おう! あの方を信じろ! 最後の最後、己さえも信じられなくなったとしてもあの方だけを信じ続けろ!! さすれば光はいつもここにあり続けるっ!!」
「私たちは、君主様の……あの人の傍に居てもいいの? 牙を剥いた私たちでさえも温かく受け入れてくれた、優しいあの人の傍に……」
「当然だ! あの方が最初に同志らを選んだのだ! その絆に綻びが生じることなど未来永劫として訪れない! 断じて許可など不要! すべては己が意思のままに!! そしてそれもまた、あの方の意思となるのだ!!」
「「「――っ!!」」」
マーブリング卿の魂の訴えは、集った同志たち全員の心を打った。
気づけばブラッドをはじめ、会合の開催に否定的だったリーフさえもその頬を涙で濡らしていた。目尻から堰き止められていた激情が流れ出ていく。何を不安に思い、何を疑う必要があったのか。我々が忠誠を誓うは、あの君主様である。
「う、ううっ……」
「ぐっ!」
「うわぁーん!」
やがて涙とともに迷いが晴れるとだった。揺らぎかけていた信念が、また彼らの心を強く突き動かしはじめていた。
☆本日の忠誠度
98%⇒99%(前日より1%UP)
アリスバレー、某所――
もといキングモール家、従者専用談話室。
「キー!」
「キキー!」
「ぴぐぅ~!」
ちょうど休暇日だった双子のメイドが扉を開けて室内に入るとだった。彼女たちは珍妙な光景を目にした。
「あらあら、ミニゴブさんたちとブタさんが何かお話ししているわよ、トロン」
「あらあら、みんな仲良しさんね、トラン」
白熱していた議論の最中でも彼らの言葉が理解できない双子にとって、その光景はとても愛らしいものに見えたという。
ちなみに、以下バレバレですが各自のコードネームです。
アカリン=ブラッド
アオリン=スカイ
ミドリン=リーフ
キーリン=レモン
クロリン=レイブン
モモリン=フェミニン
しもふりピンクさん=マーブリング卿
(※尊敬と畏敬の念を込めてミニゴブさんたちからはそう呼ばれてるだけなのでこっちは敬称。ちなみに大理石っぽいから英語ではしもふりお肉のことをそう呼ぶとか呼ばないとか)











