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215.もぐらっ娘、校長先生になる(前半戦)。


「子供たちのために学校を?」

「はい! もう建ててきちゃいました!」

「あ、そう」

「………………」


 校舎と宿舎を建設後、ギルドに戻って事後報告をすると思ってた以上にアラクネ会長からは薄い反応が返ってきた。どうやらアリスバレーの権力者として、教育に関してはさほど関心はないみたい。

 ま、放任主義的なとこあるしね、この人。


「モグラちゃんがきちんと運営するなら反対はしないわ。それに段々と治安も悪くなってきたし、私も手を打とうかと考えていたところなの。だからちょうどよかった」


 そこで聞いて初めて知ったけど、最近アリスバレー大防壁の内沿い付近では浮浪者が無断で住みついて貧民窟と化してるとこもあるとか。やっぱ人の流入は目に見える形でとっくに大きな問題になってたみたい。


「ちなみに会長、手を打つって具体的には何をするつもりだったんですか?」

「あら、付き合いの長い私のモグラちゃんらしからぬ質問ね」


 私が余計なこと訊いたと後悔する間もなくだった。アラクネ会長は黒く濁った眼のまま不吉な笑みを浮かべて答えた。


「腐った果実は放っておくと周囲も腐らせていくわ。腐敗した部位はスパっと取り除かないとね。だから、焼――」

「ごめんなさい。やっぱこの話いいです」


 普通に怖いからもうその先は聞きたくなかった。急いで話題を変えることにする。


「学校を運営するに当たってわからないことだらけです。なんでもいいんで何かアドバイスもらえませんか?」

「私だって学校なんて場所は行ったことないし、そもそも興味がないわ。だけど、()()()()()調()()()()にも人出は必要よね。その辺はどうやり繰りするつもりなの?」


 勉強を教える人。

 教師という人材の問題。

 そこはテレジア先生からも指摘を受けた部分。


「………………」


 いや、てか、その前に調教って……?

 アラクネ会長は子供を野犬か何かとでも思ってるかな?


「モグラちゃん、常識と教養を身につけられなかった人間というものはね、野生の害獣と同類なのよ。むしろ知恵が余計に働く分、それ以上に厄介な存在になり得る」


 私の引き気味の表情で思ってることを察したっぽい。アラクネ会長がいきなりそんな持論を述べた。

 てか、こっちの心情を勝手に読まないでください。

 ま、まだ運営の〝う〟の字もはじまってない段階で、ほんと学校を建ててよかったと私に思わせてくれるのは、考え方によってはありがたいっちゃありがたいのかもだけど……。


「えーと……一応、勉強を教える先生については考えがあります。このあと一人一人スカウトしに行こうかなーと」


 基本的な字の読み書き、簡単な計算なんかは私だって教えられる……と思う。

 だから、問題はより専門的な知識を持った人材の確保。そして、それはさほど難しい話じゃない。なぜなら考えてみれば、私の周りには特化したスキルやその道での豊富な知識と経験を有した仲間がたくさんいるから。

 子供たちにはその人たちから初歩を学んだ上、ゆくゆくはそれぞれ興味を示した分野、あるいは得意と思えた分野を突き詰めて、知識と技術を高めていってもらうって寸法だ。

 うん、自画自賛だけど我ながらいい案だね。


「持つべきものは友ってわけね」

「はい。なので、アラクネ会長も先生として協力してください」

「モグラちゃん……、私は口で言って教えるよりも背中を見せて学ばせるタイプだから教壇に立つには向いていないわ。あと、心底面倒」

「………………」


 こりゃ、最後のみが本心だね。

 ま、下手したら子供たちに躾と称して何をするか、ちょっと怖いというか正直わかったもんじゃないし、これ以上は誘わないでおいたほうが無難かな。


「んじゃ、私は優秀な先生たちをかき集めてきます!」

「いってらっしゃい、モグラちゃん」


 ってなわけで、私はアリスバレー各所で声をかけまくって先生となる人材をスカウト。

 後日ほぼ全員と打ち合わせを重ねて入念に準備を整えた上で、試験的に学校で授業を開催することになった。


「えー、ゴホン、生徒のみなさん、おはようございます! 私がこのモグラ学校を運営するキングモール校長です! 今日はみんなともに楽しく学び、実りある一日にしましょう!!」

「ねえ、エミカお姉ちゃんはなんで口髭を生やしてるの?」

「にゃはは、エミお姉ちゃんは形から入るタイプだからー」

「なんか勉強したらうまいもん食べさせてくれるらしいぜ!?」

「それでも、勉強なんかしたくねーよー!」

「爪のお姉ちゃん、お外で遊びたーい!」


 生徒として集まってくれたのは教会とモグラーネ村の子供たち。ソフィアとノノン筆頭に十歳前後の児童、二十名ほど。

 リリぐらいの齢だとまだ理解できない内容も多そうだったので、今回は年代を絞って参加に協力してもらった。


「はい、みんな静粛にー!」



 ――リンリンリンリン!



 わいわいとザワつく教室の中、教壇に立つ私は手持ちのベルを高らかに鳴らして記念すべき最初の授業のはじまりを告げた。

 あらかじめ決めといた授業編成。

 頭の一限目は、読み書きと計算の基本学習。誰でも教えられるであろう基本中の基本だけあって、今日は省いてもよかったかもしれないけど、やっぱ基本の授業だからこそ子供たちにどうやって教えていくかはとても大事。

 その点も考慮して、基本学習を教える先生役はそれぞれちゃんとした教育機関で学んだ経験のあるこの二人にお願いした。


「ユイ先生とパメラ先生です。さあ、みんなでご挨拶。おはようございまーす!」

「「「おはようございまーす!!」」」

「初めまして。皆さん、今日はよろしくお願いします」

「うっす。よろしくな、チビども」

「パメラお姉ちゃんだー!」

「わぁー、剣だしてー!」

「お前だってチビだろー!」

「隣のメガネのお姉さんは誰ー?」

「エミカお姉ちゃんの友達らしいよー」


 また一気にドッと騒がしくなる教室。パメラは普段から教会でみんなの面倒を見てるだけあって、いきなり子供たちの人気が爆発してた。


「そんじゃ、さっさと授業はじめんぞー」

「ひぎゃー!」


 お前呼ばわりしてた男の子の席まですばやく詰め寄って、その頭をこぶしでぐりぐりしてたパメラがやがて授業の進行を宣言。


「一番後ろの人まで回してね」


 続いて、ユイが基本的な読み書きと簡単な計算の問題が記載された紙を全員に配布。まずは平均的な学習レベルを調査した上で、それに応じてユイとパメラが授業を進めていく流れだ。


「はい、エミカの分の問題用紙」

「え? 私もやるの?」

「お前もやっとけよ。どうせ暇だろ」


 一応、校長先生なんだけどな……ま、いっか。十歳ぐらいの子でも解ける問題なら余裕だし。


「――以上の三名は全問正解でした。よくできました。皆さん、拍手」

「「「わぁー!」」」


 ――パチパチパチパチ!


「あれ? パメラ、私は? さすがに校長先生はできて当然だから除外?」

「いや……お前、三問くらい間違えてたぞ」

「え?」

「どうやらキングモール校長にも私たちの授業を受けてもらったほうがよさそうね」

「同感だな。おら、そんなとこで偉そうに立ってないでお前もチビどもと一緒に座れ」

「………………」


 普段は犬猿の仲っぽいのに、こういうときだけなんで意気投合しちゃうかな。いや、別に子供目線で授業を聞くのも大事だからいいけど……。

 と、そんなこんなで私も子供たちに交じって授業を受けることに。


「お前ら、字は一文字一文字きれいに書けー。うろ覚えで殴り書きで書いてたらいつまでも正しく覚えられないぞー」

「数字の足し引きも慣れないうちは指で数えてもいいけど、何度も繰り返し練習してすばやく暗算で答えを出せるようになりましょうね」


 まずは文字や計算の問題が書かれた大きなロール紙を教壇背後の壁に貼り出して、ユイとパメラが間違いの多かった箇所を丁寧に説明してくれた。

 いやー、なるほど。

 理解してたつもりでも間違って覚えてたとこってけっこうあるもんだね。正直、私ですら普通に勉強になる授業だった。


「以上、本日はここまでです。皆さん、お疲れ様でした」

「チビども、今日の授業でまだわかんねーとこあったら、あとでオレのとこまでちゃんと訊きに来いよなー」

「それじゃ、みんな二人の先生にお礼をー。ありがとうございましたー!」

「「「ありがとうございましたー!」」」


 そのあと次の授業がはじまるまでのわずかな休憩時間。私たちは廊下で授業の反省点と今後の改善方法を手早く話し合った。


「デカい紙を貼り出す方法も悪かねーけど、やっぱ書いて消せるボードがあったほうが便利だな」

「子供たちの基本的な知識に明確な差があるのも課題ね。教会の子たちは大部分が勉強について来れていたけど、モグラーネ村の子たちはよく理解できてない子も多かったように思う。今後は学習レベルに合わせてクラスをわけたほうがいいかもしれないわ」

「なるほど、ボードとクラスわけね……おっけー、わかった! 学校運営の改善点として参考にするね。二人とも、今日はほんとにありがとー!」


 試験的授業としての収穫もあったところで小休止も終わり。

 そのままユイとパメラと別れて教室に戻ると、私は次の二限目のベルをまた高らかに鳴らした。


 ちょっと長くなったので前後半でわけます(なので、次の投稿はいつもより早くなるかと)。

 そんでもって次話で今回ののんびり編本編部分は終了。ただ、いつものように番外編を何本かやる予定です。


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表紙絵
― 新着の感想 ―
[一言] いま、小中学生のテストやったらいくつか間違えるかもしれない大人はエミカのことを笑えないのです。
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