211.もぐらっ娘、コツメとチサを送り届ける。
「しーちゃん、ただいまー!」
「おかえり、リリ。湖は楽しかった?」
「うんっ! おさかなさんがね、ぴちぴちって! それでね、こーんないっぱいだった!」
謁見を終えて帰宅すると、ちょうど晩ごはんの支度が整ったところだった。手を洗って着席後、シホルたちが丹精こめて作ってくれた料理をいただく。
コツメのリクエストもあって、本日は魚中心のメニューがずらり。味はいつもどおり、どれもこれも最高に美味しい。
だけど、そんな幸せを堪能してるあいだでさえも私の頭の中ではティシャさんの例の言葉がぐるぐると駆け巡ってた。
どちらも言う必要のないこと。
でも、だからこそ明らかに意味深い言葉。
「……(チラ、チラチラ)」
「あ?」
伝えるべきかどうか。
よし、伝えよう。いや、やっぱ今はやめとこう。そんなふうに私はさっきから隣にいるパメラに何度も視線をやっては逡巡を繰り返してた。
「なんだよ? 食事中に人様の顔をチラチラと見やがって」
「え? あ、えっと、そのぉ……」
「鬱陶しい上に気が散んだよ。話があんならさっさと言え」
「……いや、別になんでもないよ。チラチラ見てたのも、今日もパメラはちっちゃくてかわいいなーって思ってこっそり見てただけだし」
「キモい。はっ倒すぞ、お前」
「………………」
いやいやいやいや、そこは照れて顔を赤くしながら「な、ななな何を言って!?」みたいな反応を期待してたよ?
でも、結果はご覧の有り様。現実は非情なり、私は眉間に皺を寄せたパメラに間髪を容れず凄まれてしまった。
あれぇ~?
ま、これはこれでパメラなりの照れ隠しなんだろ。うん。そう思っておかないと普通に怖いのでそう思っておくことにする。てか、まだ睨んでるし……。
「たくっ、いっつもいっつもくだらねえ冗談ばっか抜かしやがって」
「チッチッチ。浅はかっすよ、ご主人様。女を口説きたいなら言葉よりも物っす、物。所詮、色恋の縁なんてもんはどれだけ金をかけたか次第っすから」
「このろくでなしはろくでなしで、また適当なことを……」
「ねーねー、ちーちゃんちーちゃん。おんなは〝もの〟なんだってー。わかるー?」
「んー、わかんない。大人の言うことはむずかしい」
「クックック! ならばお嬢様方にもわかるよう手とり足とり、世の中の心理というものをご主人様随一のメイドであるこの私奴がご説明し――」
「イオリさん。リリたちの前でそういう下世話な話はやめてください」
「あ、はいっす……」
「「「………………」」」
これからイオリさんによる人生の教え的なものがはじまろうとしたところだった。ピシャリと飛び出したのは、我が家の怒らせてはいけない人物ランキングぶっちぎりトップであられる次女様の苦言。場は一気に静まって、みんな黙々と食事に戻った。
サリエルがまだ用事とやらから帰ってきてないこともあって、今日はリリもめずらしく私たちが陣取る端の席で一緒だったのがイオリさんとしては災いだったね。
ちなみにチサもこっちの席だけど、もう一人のお客様であるコツメはミニゴブリンたちと反対側の端の席に座ってる。
「キー」
「だははっ!」
「キーキー」
「そうかそうかぁ~! いやー、あんたも大変だなぁ~、アカリンの旦那ー!」
遠くから様子を見てるかぎりでも、コツメはアカリンの言葉を完全に理解してるっぽかった。てか、なんかすごく楽しそうに談笑してるね。私にだってミニゴブリンたちの言葉はニュアンスで理解できる程度なのに……。
んー。
やっぱ、コツメって、モンスターなんじゃ?
なんて失礼なことは思うだけにもちろんとどめて、そのまま晩ごはんもきれいに完食。
そのあと、ちびっ子コンビとお風呂に入って、疲れもあったのですぐに泥のように就寝。
そして、一夜明けて翌朝。予定通りコツメとチサをホマイゴスまで送り届けることになった。
「ちーちゃん、ほんとにかえっちゃうの……?」
「うん。あんまりながいしちゃだめって、キャスくんたちにも言われてるから……ごめんね」
「う、うぅ~!」
「泣かないで、リリちゃん。またすぐ会えるよ」
「ほ、ほんと……?」
「うん。本当だよ。そのうち、毎日だって会えるようになる!」
チサの言うとおり、その言葉に偽りはなかった。
アリスバレーとホマイゴスが正式な姉妹都市となった今、近いうちに地下道も開放されることはもう決定事項。現状、馬車という移動手段だけでは多少の時間はかかるけど、私たちはもういつだって会いに行けるほどに、その距離は近づいていた。
「世話になったなぁ~、皆の衆ー!」
「おせわになりましたー」
「ちーちゃん、ぜったいに! またね!!」
「うん、ぜったいに! またね!!」
「こつめもばいばい!」
「おう、エミスケ妹! なんなら今度はそっちから遊びに来いや。俺様たちはいつだって歓迎するぜぇ~」
家の前でリリたちと別れを済ませたコツメとチサを連れて、私はそのままモグラーネ村西の地下道へ移動。
赤薔薇隊に馬車を出してもらうことも考えたけど、昨日に続いて二日連続ってのはさすがに気が引けるので今回は自力でなんとかすることにした。
「おいおい、エミスケー。このクソ長いトンネルを徒歩で行くわけじゃねーだろうなぁ~?」
「まさか。ちゃんと移動手段を用意するよ」
まずは乗り物となる馬車の幌部分――というか、荷車をクリエイト。モグラピッタンコで繋ぎ合わせつつ、車輪部分を合体させればあっという間に完成。
魔力列車の部品とかもそうだけど、一度構造さえ理解しちゃえば、かなり複雑な物でもパパッと作れちゃうってのは自分の大いなる成長の証というべきか。それともこれも暗黒土竜の力、様様というべきか。ま、そんなのどっちでもいいんだけどさ。
「さ、二人とも乗って。あとはモグレムに全力で引っ張っていってもらうから」
「はーい」
「昨日の〝汽車モドキ〟と打って変わって、こりゃまた原始的な乗りもんだなぁ~」
コツメはそう言ったけど、いざ出発するとほとんど揺れない乗り心地とそのスピードについてはとても満足してた。
途中、今後の運用のため緊急避難用のスペースなんかも設置させてもらいつつ、薄暗い地下道を直進。結果、寄り道はしたけど、モグレムのがんばりもあって余裕でお昼前にはホマイゴスまで二人を送り届けることができた。
「おー、もう元に戻ってる」
壊したくて壊したわけじゃないけど、私が壊したホマイゴスを覆う例のバリアもすでに復活してた。壁の外から見る分にではあるけど、都市の復興もかなり進んでるみたい。何よりだった。
「送ってくれてあんがとなぁ~、エミスケよー。てか、ここまで来たんだし、またウチに寄って茶でも飲んでけやぁ~」
「あ、うん。お誘いはうれしいんだけどね……」
ホマイゴスの入場門を抜けた先の検問所。今、私の前には私を拒む、あの憎き大きな水晶玉――魔力測定器があった。
「おねえちゃん、またねー!」
「じゃなー、エミスケ~。気をつけて帰れよー」
「うん。二人もパーティーハウスまで気をつけて帰ってね」
すでにホマイゴスは友好都市。また穴を掘ってまで無断で侵入するわけにもいかなかった。二人と検問所で別れたあと、私は行きで召喚したモグレムたちとともに地下道に戻る。そのまま普通に帰ろうと思ったけど、リリが悲しんでた姿を思い出して途中で気が変わった。
「ついでだし、今日のうちやっとくか」
さらにモグレムを数チーム召喚。すでにある地下道から少し離れた場所に、魔力列車専用の地下道と線路を設置しながらアリスバレーまで戻ることにした。
「ま、とは言っても、ここもほとんどモグレム任せだけど」
モグレムに必要な物を保有させた上で指示さえ出しちゃえば、あとは荷車に乗って踏ん反り返ってればそれで万事おっけーだった。
「んじゃ、私は昼寝してるからー。あとはみんな寸分の狂いなくお願いねー」
ってなわけで、そのままアリスバレーに帰還すると同時、ホマイゴス間で二本目となる地下道も完成。そのあとさらについでとして、王都のほうまで足を延ばして同じく魔力列車専用の穴をパパッと開通しといた。あ、もちろんモグレムがね。
「うん、計画は順調順調っと」
進捗に満足したところで、本日の穴掘りはここまで。
私と魂の家のみんながそうだったように、このままいけばリリとチサが再会する機会も思った以上に早く訪れそうだ。











