205.もぐらっ娘、歓迎会を終える。
「こ、これはっ!?」
「なんと巨大な!!」
「どこまで続いているんざますか!?」
地上に出ると、さっき悪態を吐いてた有象無象の三人組が少し先にあるアリスバレー大防壁に驚いてなんか騒いでた。
「ロートシルト殿、もしやこの壁は……」
「ほっほ。まぁ、そういうことですな」
ルシエラパパとロートシルトさんがチラリと振り向いて、同時にこっちを見た。
あ、はい。犯人は私です。ちょっとした出来心で――なんて思わず自白してしまいそうになっちゃうところを堪えて、追及から逃れるため視線を逸らしてごまかす。ついでにこんなときは口笛も吹いておこう。
「フス~、フス~♪」
「……いや、アリスバレーにこのような防壁があるとは伺っておりませんでしたので」
「建てられたはつい最近ですからな。ちなみにアリスバレーの土地の所有範囲、そのほぼ全域を囲っております」
「それはまたとんでもない規模だ……」
「さて、大事なゲストをこのような荒地で長時間佇ませるのはホストとして大変心苦しくあります。一足お先に皆様だけでも街の中へご案内いたしましょう」
地下道から後続の馬車が一台また一台と上がってくる中、私たちは先頭のホマイゴス代表団をエスコート。
そのまま全員、開放された西門からモグラーネ村に足を踏み入れた。
「これはこれはホマイゴスの偉大なる魔術師の皆様方、お待ちしておりました」
何もかも予定どおりだった。広場ではテテス村長を先頭に村人総出でお出迎え。中心に並べられたテーブルの上には冷やした果汁や軽食がずらりと用意されてて、ホマイゴス代表団を歓迎する準備は完璧に整ってた。
「ささ、まずは冷たいお飲み物をどうぞ!」
「サンドイッチ等の間食はいかがですか」
いつもの土と牧草まみれのワイルドな格好と打って変わってだった。フリフリのメイド服をまとった村の若い女の子たちが給仕に当たる。
ちなみに突貫だけど、彼女たちには昨日ウチにてコントーラバさんの指導を受けてもらった。
「お疲れでしたら椅子も用意いたしますので、どうかお気軽にお声かけくださいね」
うんうん。
教えた人がその道の一級ってのもあるんだろうけど、即席にしてはなかなか様になってるね。これなら彼女たちを今後モグラホテルの従業員として採用してもいいかもだった。
「中は至って普通の村だな……」
「ま、まったくですな……! はは、所詮はただのこけおどし!!」
「しかし、このドリンクとパン……どちらもとっても信じられないほどに美味ざます」
「たしかに、それは認めるが……ん? なっ!? あの節くれ立った植物は……ま、まさかっ!?」
広場から少し離れた脇道に置かれた荷台。そこに山積みになったサトウキビを指差しながら突然、三人組の一人であるやせ細った背の高いお爺さんが声を荒らげた。
本来は南方で収穫される植物みたいだし、知ってたら驚くのも無理はないと思う。ただ、ちょっと驚きすぎな気もするけど。
「ほっほ、この地区――モグラーネ村では先日からサトウキビの栽培をはじめまして。アリスバレーによる砂糖大量生産計画の一翼を担ってもらっています」
「そ、それは!? 誠かね、エミカ君……?」
「え?」
いや、なんでわざわざ私に確認するのルシエラパパ。しかも小声でさ。
「ロートシルトさんの言うとおりですよ」
「ならば是非ともその一部をホマイゴスで買い取らせてほしい!」
「そのために生産してるわけだし、問題ないと思いますけど……」
そういうやりとりは私より、商会の代表者であるロートシルトさんと直接やったほうがいいと思う。
ま、私に言えばお友達価格にしてもらえるとか、そういう利点を狙ってなのかもだけど。
「あ、ちなみに一緒に塩の大量生産もはじめてますよ。そっちはあとで私が用意するとして、砂糖のほうは……あ、テテス村長、こっちの備蓄から一壺もらってもいいですか?」
「もちろん構いませんよ。すぐに村の者に取って来させます」
ルシエラパパの要望もあって急遽、砂糖の品質を確認してもらうことになった。取ってきてもらった陶器の壺の封を開けるとすぐに、そのきめ細やかさと絹のような白さからホマイゴス代表団のどよめきが漏れる。
各自スプーンですくって舌まで運んでもらうとだった。そのどよめきは一瞬で歓声に切り替わった。
「おお、これはっ!?」
「なんという純度の高さだ!!」
「淡白で純粋な甘み! これ以上ないレベルで高品質ざます!!」
有象無象の三人組は、何度も何度も壺の中の砂糖をスプーンですくってはその甘みを舌の上でたしかめてた。その隣ではルシエラパパも無言で頷いてて、文句なしのご様子。
予定にはなかったけど、砂糖の品評はこれ以上ない結果に。てか、普段からいい物を口にしてる富裕層がここまで評価してくれるなら、これから断然自信を持って販売を本格化できるってもんだよね。
「では、そろそろ皆様を街の中央にまでご案内いたしましょう」
後続のホマイゴス代表団も村に入って、ほどよく休憩を挟んでもらったところでだった。私たちは頃合いを見て次のフェーズに移った。
モグラーネ村にある地下道から中央広場に繋がる出口まで、ぞろぞろと大所帯で移動。真ん中に聳えるダンジョンからはじまって、市場、商会と街の重要拠点や各施設を回る中で、後半は冒険者ギルドの建物も案内することに。
アラクネ会長が今日の催しに不参加ってこともあって、そこからは副会長である私が案内人として解説を引き受けることになった。
いやいや、アラクネ会長……なんでこんなときにいないんですか? てか、実質このアリスバレーを仕切ってるのは間違いなく、あの人なんだけどなぁ……。
「ところでエミカ君、建物の裏手から湯気が上がっているが、あれは一体?」
「ああ、温泉ですね。入浴料さえ払えば誰でも入れますよ」
「なっ! アリスバレーの冒険者ギルドには公衆浴場がついているのか!?」
モグラの湯の話を聞くと、ルシエラパパはとても驚いてた。
ま、それもそうだよね。
私だってなんで冒険者ギルドに温泉があるのか理解不明だ。
いやはや、一体誰の仕業でそんなものができてしまったのか。世の中には不思議なこともあるもんダヨネ。
「さてさて皆様方! こここそがアリスバレーで随一の品ぞろえを誇るお店――モグラ屋さんですよー! 生鮮食品から食器などの小物、さらには冒険者向けの装備品まで幅広く取り扱っております! 今後アリスバレーにお越しの際はどうかご贔屓に!!」
冒険者ギルドの案内を終えたあとは、そのままホマイゴス代表団をモグラ屋さんまで流れるように誘導。その時間帯を臨時休業にして事前に貸し切りにしておいたことも功を奏して、店内の細かい商品の宣伝もこれ以上なくしっかりできた。
こないだのコツメと同じで、ルシエラパパからもここまで品数をそろえた商店は今まで見たことがないとお褒めの言葉をいただき、もう大満足。正直、私にとってはこれが今日一の目的でもあったからね。
「ここからはまた地下道での移動になります。途中で道が分かれてるので迷子にならないように、ちゃんと前の人についてきてくださいね」
モグラ屋さん本店を宣伝後は、地下からアリスバレー南東に移動。その勢いでモグラ屋さん二号店も見てもらうことに。
そこでは目玉の新商品である例の新素材――モグラスポンジで作ったマットレスが注目を浴びた。寝心地がすばらしいと好評の嵐で、リーナたちも「これは絶対に買って帰るわよ!」とか、なんかメンバーでわいわい盛り上がってた。
そういえば魂の家のパーティーハウスで使ってたのは回収しちゃってたっけ。
たしかに、あの寝心地は一度味わっちゃったら忘れられないもんね。
なんてお偉いさんたちの相手をしつつ、少し離れたところから魂の家一行の様子をこっそり観察してるとだった。すでにメンバーと合流してたコツメとチサが私の視線に気づいて、二人でそろってこっちにサムズアップしてきた。
がんばれって意味だと受け取って、私もグッと親指を立ててそれに応じる。
「これで採算が取れるはずがなかろう!」
「まったくですな!」
「他に客がいないことをいいことに値段を偽っているざますね!?」
「いえ、先ほどから何度も申し上げているとおりです。そのような事実はありません。適正価格ですし、むしろセール期間中であれば現在の表示価格から値下げする商品もございます」
それはルシエラパパたちのグループと店内を一通り回ったあとのことだった。会計所の近くで二号店の責任者であるスーザフさんと例の三人組含むホマイゴス代表団が何やら喧々と揉めてた。
「何かトラブル?」
「ご主人様、それが……」
話を訊くと、あまりに値段が安すぎるってことで嘘の値札をつけてるんじゃないかと疑われてるとか。
たしかに、アリスバレーの外で同じレベルの家具を買おうとしたら倍はしなくてもかなり割高になっちゃうだろうし、そんな疑念を持つのも無理はないんだろうね。
「エミカ君、それについては私も先ほどから気になっていた。彼らが主張するようにわざわざ価格を偽造しているとまでは疑わない。しかし、ここまで格安で販売できるには何かしらの秘密がなければおかしい……」
いや、別に秘密にしてることなんてないんですけど。
ってことで、口で説明するよりも実際にその目で見てもらったほうが早い。そう思ってスーザフさんの説明を聞いても納得しない人たちを連れて、生産拠点のある北方施設まで足を運ぶことになった。
でも、地上からではさすがに遠いので、二号店地下にある運搬ルートを使って北方施設の在庫倉庫まで移動。そのまま地下植林場や職人さんたちが働いてる各工房内を巡った。
二号店で「嘘だ嘘だ」と騒いでた人たちも納得したのか見学中は終始、口をあんぐりと開けたまま私の解説を大人しく聞いててくれた。
「なるほど……広大な地下の敷地で木々を栽培し、レベルの高い職人たちを大勢そろえた上、尚且つ製造から運搬までの工程を細分化して効率化を図る。これならば、たしかにあの値段で販売できても疑問はない……」
「いや~、家具に限らず最初はもっと安くしようと思ってたんですけどね。だけど、そうすると困る人が大勢出てきて商売どころじゃなくなるぞって話だったのでー」
「決して他人事ではない話だ……。エミカ君、君の店の発展拡大に関し、我々は都市全体で協力していくことを約束しよう。ただ、それと引き替えにというのものなんだか、今後ホマイゴスで発生するであろう雇用等の問題については耳を傾けてほしい」
「あー、もちろんいいですよ。こっちも人手不足だし、協力できるとこは絶対に協力したほうがいいですもんね。ちなみにこないだから地下の植林場を利用してメイプルシロップを作れないか実験したりもしてるんですけど、ホマイゴスで製造の知識がある人を紹介してくれると助かります」
「君はすでに樹液の利用すら考えているのか……」
「ん? 私、何か変なこと言いました?」
「いや、我々は本当にとんでもない相手と盟友になろうとしているのだな……と思ってね」
そう口にするルシエラパパは、どこか深刻そうだった。
でも、たしかに樹液まで利用してケーキ屋さんを開こうとしてる私はとんでもなく欲深い女なのかもしれない。ま、それだけ甘い食べ物は人を狂わせるって話だよね。
「ちなみにここで栽培してるブドウは、ローディスで造られてるモグラワインの原料にもなってるんですよ」
同行したホマイゴス代表団の一部には、ついでに地上にある製紙工場や先日建てた砂糖と塩の生産工場、地上に広がる大モグラ農場なんかも見学してもらった。
「なっ!? ということは、王都で購入したあのワインの生産者は……」
モグラワインって銘柄を聞いた瞬間、ルシエラパパは急に頭を抱えてしまった。そういえばサドクレゲを倒したあとの祝勝会で誇らしげに勧めてきたっけ。
実際の生産者はスカーレットというかローズファリド家だけど、販売者って話だと私も関わってくる。モグラワインの製造関係者とは知らなかったにしろ、今さらになって自分の行為が恥ずかしくなってしまったみたい。
思い出し笑いならぬ、思い出し羞恥。
うん。どんまいだよ、ルシエラパパ。
「みなさーん、もう日も暮れてきましたし、そろそろ戻りますよー!」
北方施設の各所に散って興味津々といった様子で見学してたホマイゴス代表団。時間も時間だったので、その人たちをかき集めて再び地下の運搬ルートから二号店に戻ると、私はそのまま全員をモグラホテルまで案内。
事前にこっちで決めさせてもらった部屋割りどおり、夕食の時間までモグラホテルの各一室で休んでもらうことになった。
「僕たちの部屋がないね」
「私たちは五紋章家のお偉いさんではなく一冒険者ですからね。そんな扱いでもしかたないですよ」
「あー? おいおいエミスケー、俺様たちに野宿させるつもりかぁ~?」
「いやいや、まさか。みんなは私の家にご招待するつもりだったからね。最初から部屋の予約からは外してもらったんだ」
やっぱ一宿一飯の恩は直接しっかり返さないとね。ま、ディナーはこれから別棟のレストランで食べてもらうことになるんだけど。
「今回の歓迎会の料理人として、ウチの妹やメイドさんたちも参加してるんだ。私が太鼓判を押すから晩ごはんは期待してていいよ」
「あら、エミカって妹いたの?」
「おねえちゃんの妹!?」
「ちなみに三人いるよ。一番下の子はチサと同い年ぐらいだからあとでウチにきたら仲良くしてあげてね」
「うん! チサ、おねえちゃんの妹ちゃんとともだちになる!」
モグラホテルのロビーでしばらく談笑後、完全に日も沈んだところで本日のメインである歓迎会の開始時刻になった。
アリスバレー&ホマイゴス代表団ともにぞろぞろとレストランへ移動。用意された席に全員が着席後、料理が振る舞われる前より先に友好都市条約の調印式が行われることになった。
代表団が到着したときにルシエラが懸念してた例の話もあって、最後の最後に何かしらの妨害やら野次やらが飛び出すんじゃないかとちょっとドキドキしたけど、それはいらない心配に終わった。
書面に両者の代表者であるルシエラパパとロートシルトさんがサイン。
あっさりと調印式は終了して、これでアリスバレーとホマイゴスは正式に姉妹都市として結びつきを強めていくことが決まった。
「すばらしき同盟関係に!!」
「まったくですな! 偉大なる両都市の繁栄と絆を祝って!!」
「このような歴史的な場に立ち会えて本当に光栄ざます!!」
「「「乾杯っ――!!」」」
「………………」
調印式が行われたホール中央の近くの円卓には例の有象無象三人組がいたけど、なんか当初の発言とガラッと変わってアリスバレーを称賛してた。
一体どんな心境の変化があったんだろうね。ま、ほんとにわかりやすい人たちで何よりだけど。
「こちら冬野菜と塩漬け肉の前菜になります」
その後、正装したカーラさんたち赤薔薇隊が随時、料理を配膳してくれた。モグラホテルの従業員がまだいないこともあって、今回は彼女たちに給仕を務めてもらうことになった。
女王様の私設兵をこんな形で使うのはやっぱ気が引けたけど、赤薔薇隊は由緒正しきお嬢様集団らしく、貴族社会のマナーにも精通してるってことで今回ばかりは渡りに船ってことで協力してもらった。
そんな赤薔薇隊の統率された一切無駄のない給仕に、大量の料理も最後のイチゴのケーキまで混乱なく運ばれて、お客様である代表団の胃袋に余すことなくすべて収まった。
ちなみに控えめに言っても料理はどれも最高だった。
いやー、さすがはシホルが厨房に立っただけあるね。なんて姉バカな発言をしつつ、歓迎会も宴もたけなわを迎えて大成功も大成功。とりあえずお店の宣伝も大々的にできたことだし、今日は自分にも文句なしの百点満点をあげておこう。











