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24.天使降臨


 空から降ってきたのは女の子だった。

 薄手の白いワンピースに、綺麗な金色の髪。うつ伏せになってプカプカと浮いてるので顔は見えないけど、私と同じぐらいの背格好なのでたぶん同年代だと思う。

 でも、一体どこから落ちてきたんだろ? それに、この背中にある翼は……?

 衝撃による波紋が広がる中、立ち去るわけにもいかず私は恐る恐る声をかけた。


「あ、あの、大丈夫ですか……?」


 直後、翼の先端がピクリと動く。

 ――ザパーン!


「ぷはあ!!」

「うわぁっ!?」


 水面から女の子が突如として起き上がってきたので、思わず直立で飛び上がる。ここしばらく穏和な生活を続けてきた分、驚きもひとしおだった。


「あはは! 何これ~楽しいー!!」


 そんなこちらの気を知ってか知らずか、女の子はニコニコと無邪気に笑いはじめた。とてもご満悦の様子だ。

 でも、何がそんなに愉快なのかはさっぱり不明。

 というか、私の存在を無視しないで頂きたい……。


「あの、すみませんお客さん……」

「んー?」

「本日の営業は終了しておりま――」

「あ、人間!? すごいっ、人間だぁ~!!」

「……はい?」


 微塵も想定してなかった反応に私が首を傾げるのにも構わず、女の子はばしゃばしゃと湯船をかきわけながらに近づいてきた。そしてそのままこちらの両手をつかみ上げると、上下にブンブン振ってはしゃぎはじめる。


「すごいすごいっ、まだ滅んでなかったんだ! ん、あれれ? でもちょっと、〝ドラゴン〟の匂いもするような……? ま、いいや! ねえねえ、あれって人間さんが作ったのー?」


 女の子はテンション高く騒ぎ立てると、女湯の北側にある湯柱を指差した。その目はキラキラと輝いて好奇に溢れている。それだけ勢いよく湯が噴き出すこの光景がものめずらしいみたい。


「いや、私が作ったといえば作ったことになるけど……まぁ、不慮の事故で、ちょっと……」


 心の古傷がチクチクと痛む中、私が顔を背けながら認めると、女の子はさらに声を弾ませた。


「あのねあのね、すごく楽しかったよ!! 穴に吸いこまれたかと思ったら、しゅぱーんって水に流されてね! 最後はあそこからドーンって! ほんとアズラエル湖と地上を繋げてあんな楽しい発射装置を作るなんてすごいよー! ねえねえ人間さん、名前はなんていうの~?」

「え? あ、エミカだけど」


 いや、ちょっと待て。今なんて言った、この子……?

 穴に吸いこまれた?

 水に流された?

 ドーン?

 湖と地上を繋ぐ?

 発射装置?


 いやいや待て待て、それってつまり――


「あの、お客さん……つ、つかぬことを伺いますが……」

「オキャクサンじゃないよー? あたしの名前はサリエル!」

「サ、サリエルさん――いや、サリエル」

「うん!」

「あんたさ、どっから入ってきたの……?」


 お願い、脱衣所のほうを指差して!


「だからあそこからだよー?」


 そんな私の希望をあっさり裏切ってだった。サリエルと名乗った女の子は正規の入口とは反対側にある湯柱を指差した。


「………………」


 ははっ、なるほどですな。

 つまりはダンジョン――しかも地下九十九階層から来店したと、そう仰りたいわけですね。


「――あっ! ということはモンスターなの!?」


 人の身体と鳥の翼を持った魔物の話なら聞いたことがある。たしか、〝ハーピー〟とかいう奴だ。

 だけど、私が恐怖で後退りする中、サリエルはその疑惑を眉根を寄せながらきっぱりと否定した。


「あたしはモンスターじゃないよー?」

「嘘だ、騙されないぞ! そうやって油断したところをぱっくりいくつもりだな!?」

「ぱっくりいかないよ~。天使は人を食べたりしないもん」

「……は?」


 おいおい、またなんか変なこと口走ったぞ、この子……。


「て、天使……?」

「うん。あたしは天使だよ~♪」

「……」


 優しい心を持ってるだとか、人を労わる性格の持ち主だとか、どうやらそっちの意味ではなさそう。会話の流れ的にまず間違いなく、宗教上の、神様の使者って意味のほうっぽい。

 どうしよう。

 これ完全に許容範囲オーバーだ。

 正直もうこのまま無言で帰ってしまいたいレベル。

 でも、この自称天使を放置した結果、あとでもっと大変なことになったりしたら……。


「ね、ねえ……サリエルはダンジョンに住んでるの?」


 この場から逃げ出したい気持ちと、第一発見者である責任のあいだで揺れた結果、私は一歩踏みこむ決意をした。


「ダンジョンー? あ、()()のことを人はそう呼ぶんだっけ~? ううん、あたしは煙突の先にある〝天獄〟に住んでるよー」

「テ、テンゴク……」

「うん。大昔、あたしのお父さんとかお母さんが星を渡り歩いてこの世界にたどり着いたとき、まだ地上はとても住める環境じゃなかったからね、暮らせる場所を世界の中心に新しく創ったの。そこが天獄だよー♪」

「えっ……」

「あ、ちなみにエミカたち人がダンジョンって呼んでるあれー、元々はお父さんたちが地上にやってきたときに乗ってた〝船〟だったんだってー。面白いよね、あははー♥」

「………………」


 あははー。


 ――じゃねぇっ!!


 やばいどうしよう! この天使なんか世界の核心に触れるようなこと今さらっと言った! さらっと言ったよ!?

 これ一歩踏みこむどころか、もうとんでもないところまで踏みこんじゃってない!? てか、住んでるとこ訊いただけなんですけど私っ!


「ぐぬぅ……」

「どうしたの、エミカー?」


 頭を抱えて苦悩する私を、サリエルは不思議そうに見る。

 いや、待て待て。落ち着け私。

 まだサリエルが本物の天使だと決まったわけでも、なんか神様的な存在であると決まったわけでもない。

 いやもうこの際、逆に考えるんだ。

 仮に本物だったとしてなんだっていうのさ? 世界の真実がなんであれ、別に私のような小娘の底辺冒険者には関係のない話だよ。動揺する必要なんてまるでなしだ。

 うん、大丈夫。

 よく考えたら大丈夫だった。

 怖いものなんて何もない……!


 ――バサッ、バサッ。

 ――ススッ、スィ~。


「あはは、エミカ見て見てー♪」


 心を落ち着かせて顔を上げると、翼を広げたサリエルが温泉の上をゆるやかに滑空してた。

 白く細い足先が湯面に触れるたび、新しく波紋が描かれては消えていく。満天の星々の下、湯の煙を纏いて舞う姿はとても神秘的で、まるで美しい絵画の光景がそのまま現実に飛び出してきたみたいだった。


「あわわ……」


 あー、ヤバい。

 マジで本物っすな、これ。


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