152.もぐらっ娘、集う仲間たち。
いきなりだけど半裸の赤マント集団ってのはすごく目立つ。
「こんにちはー」
「「「押忍!!」」」
いや、肉体言語のメンバーさんたちのことなんだけど、最近よく見かける。
しかも、ウチの近所で。
いつも2~3人のグループで会う日によって顔触れもバラバラ。
でも、会う場所が大体同じだからどうも決まったコースを歩いてるっぽい。
もちろんすれ違ったらお互いに挨拶するし、軽く世間話もするから別に問題があるってわけじゃないんだけど、あまりに出会う頻度が高いからどうもただの偶然ではなさそう。
さらに気になる点として、ここ数日は肉体言語メンバー以外の冒険者っぽい人たちの姿もチラホラと増えてきてる。ダンジョンやギルドがある街の真ん中ならいざ知らず、ウチの近所でこんな大勢の冒険者たちが闊歩してるのはやっぱどう考えても不自然だった。
「もしや、この近くで何か異変が……?」
肉体言語のメンバーさんから直接訊けば手っ取り早いけど、「どうしてウチの近所を半裸でウロウロしてるの?」なんてストレートな質問をぶつけたら相手を嫌な気持ちにさせてしまうかもしれない。
ひとまず自力で情報を得ることにした私はギルドに向かった。
「ねーねー、最近ウチの近所で野良モンスターの討伐依頼とか出てたりしない?」
「……は? 冷やかしなら他所でやりなさいよ」
さっそくユイに相談するも忙しいのかちょっとイライラ気味。しっかり事情を説明してからもう一度訊くと、今度はまともに答えてくれた。
「エミカの家の近くに冒険者が大勢……? うーん、特に思い当たる節はないわね。ただ、強いていえばあなたが出した依頼あるじゃない? こないだあれに3件立て続けに問い合わせがあったのよね」
「依頼って、あの護衛の?」
「ええ。応対したのは私じゃなく、新入りの子だけど」
ユイにいわれ、そこで依頼の件を思い出す。
モグレムを運用してる今となっては不要になった護衛。でも、依頼を取り下げるのをすっかり忘れてた。
「どれもかなり熱心な問い合わせで、新入の子がいろいろ訊かれましたっていっていたけど、条件が合わなかったのでしょうね。結局、申請はないままだし」
「ふむふむ……」
しばし熟考。
もし、その問い合わせの1つが肉体言語の面々からのものだとしたら、私が護衛を求めてるのを彼らは知ったことになる。結論、つまりそれで自発的に見回りをはじめた?
だけど、そこまでしてなんで私の手助けを?
そんな理由どこにもな――
「――いや、ある……。そういえば私、みんなの命の恩人だった……」
すぐに聖杯の儀の件を思い出し、腑に落ちる。
そして結論が完全に出かかったところで、さらに裏づけとなる数日前の出来事が私の脳裏を過ぎった。
『もし我々が力になれることがあればなんでも遠慮なくいってほしい――』
それは数日前、グリフさんたちがお店にやってきた時のこと。
彼らは祠で渡した〝絶対に壊れないシリーズ〟を律儀にも返しにきてくれたんだけど、その際やたらと恩に報いたい的なことをいってた気がする。今思えば、あれは私が護衛を依頼してくるのを待ってたっぽい。
「ってことは、他の冒険者はみんな蒼の光剣の人たちか……」
そういえばなんとなくだけど見覚えのある顔も見た気がする。
てか、そもそもあの人たちはみんな王都の冒険者だ。しかも最大で、最強クラスの。
そんな優秀な人材をウチの近所で巡回なんかさせちゃってていいのかな? いや、別に私がやらせてるわけじゃないけど、なんか知らぬ間に余計な心配をかけちゃってた感じ。ちょっと罪悪感すら覚えるよ。
もうモグレムもいることだし、ここは両パーティーともに不必要だという旨をちゃんと伝えてやめてもらうべきか。
「でも、善意でやってくれてることだしなぁ~、むぅ……」
「さっきから人の前で何ウジウジ悩んでいるのよ?」
結局1人で考えても悩む一方だったので、ユイに相談に乗ってもらうことにした。もちろん詳細はいろいろ伏せた上でだけど。
「特に支障がないのなら、人の厚意はありがたく受け取っておくべきじゃないかしら。恩を返すほうだって今できることを精一杯やっているわけだし、それを理由もなく断るのは相手の存在を初めからないものと考えているのも同然だわ。
それに、人はけっして1人では生きられない。だからこそ助け合える時は助け合わないと。助けるにしても、助けられるにしてもね」
「おー」
なんかとっても大人な意見だ。
深く感心したこともあって、私はそのまま幼なじみの金言を素直に受け取った。
「そっか、だからユイはいつも私を助けてくれるんだね! 私、今後ともがんばってユイに助けられていくよ!」
「あなたが私を助けるって発想は出てこないわけ……?」
なんかひどく評価を下げられた目で見られたけど、きっと何かの気のせいだろう。とにかくこれで謎も解けたし、相手の厚意に甘えるかどうかも考え方1つで変わるって学べた。
「……ん、謎? そういえば、依頼の問い合わせって全部で何件あったんだっけ?」
「3件だけど」
肉体言語と蒼の光剣で2件として、あれ?
あと1件は――?
残された謎が解けたのは、翌日になってからだった。
「――会長ってば、今日はなんの用だろ?」
いつもの如くアラクネ会長から急な呼び出しを食らった私はギルドに到着すると、その瞬間ずらりと並んだ馬車と人に目を奪われた。
「え、何これ……?」
目立つように車体に大きく刻まれた王家の紋章。
さらに馬車の前には隊列を組んだ王立騎士団員様ご一行の姿がある。
そして、私と目が合った直後だった。彼女たちは一斉に動き出すと横並びだった隊列を縦2列に変形。私の目の前からギルドの入口まで〝花道〟を作るようにしてあっという間に並び直した。
「「「エミカ様に敬礼っ!!!」」」
「――っ!?」
え、ほんと何事?
あまりに突然のことに、私は敬礼してる騎士団員さんたちのあいだを恐る恐る進んだ。
そのまま建物に避難するように入ってダッシュで会長室へ。
ほぼノックと同時に室内に駆けこむと、私は応接用のソファーに座って優雅に紅茶を飲んでるアラクネ会長に報告した。
「か、かかか会長っ!!」
「あら、そんなに慌ててどうしたの?」
「なんか外にまた騎士団の人たちがきてるんですけど!?」
「ええ、きてるわね。というか、今日モグラちゃんを呼び出したのはその件よ」
「あーやっぱり!?」
ま、以前にもあったことだし、予想はしてたけど……。
でも、今度はなんだろ? また黒覇者に認定するので王都にきてくださいって話ではないだろうし。
「一体なんの用なんでしょ?」
「その辺の事情はそっちのお客さんから直接訊いて頂戴」
「え? お客さんって……うわっ!?」
「お初にお目にかかります!!」
短く切り揃えられた金髪。着こんだ鎧の肩口にはバラの模様細工が施されている。
会長が指し示した壁のほうに顔を向けると、そこには一際凛々しい女性騎士さんが立ってた。
「自分は王立騎士団〝赤薔薇隊〟隊長! カーラ・ラッセルであります!!」
「あ、えっと初めまして……って、ん? ラッセル?」
「はい! 王立騎士団団長ランドーラ・ラッセルは自分の祖父であります! エミカ様、私事ではありますが先日は祖父の命を救ってくださったこと家族として深く感謝申し上げます!!」
「あ、いや、私は別に何も……てか、ラッセルさんのケガの具合って……?」
「はい! 傷も完全に癒え、すでに職務にも復帰しております! これもすべてエミカ様の尽力のおかげ!! 重ねて感謝申し上げますっ!!」
「あ、ああ、はい……」
なんというか逞しさやまっすぐな性格が伝わってくるというか、この女騎士さん圧がすごい……。
完全に気圧されていつの間にかかなり後ずさりしてた私は、距離を置いたまま肝心の用件を伺った。
「それでカーラさん、今日は一体なんの用でいらっしゃったんですか?」
「はっ、本日は女王様からの勅命を受けて参りました!」
「……勅命?」
私が首を傾げた直後、カーラさんはハキハキと完全にわけのわからないことを宣言した。
「我々王立騎士団〝赤薔薇隊〟総勢――女39名! 本日よりエミカ様のご配下へ入らせていただきます! たとえ火の中水の中!! お役に立てることがございましたら何なりとお申しつけください!!」
「……ふぇ?」
「よかったわねー、モグラちゃん。なんでもやってくれるそうよ」
「はい! なんでもやります!!」
「………………」
えー。











